──
これは本日の朝日新聞・夕刊1面の特集記事。
エネルギーの地産地消を目的に全国で増えている「地域新電力」。地域主体の電気の小売り事業がいま、農業や漁業とはちがうU・Iターンの若者の新たな「雇用の受け皿」となっている。
愛知県豊田市の山間地域……。豊田市の7割は山間地域で、過疎高齢化が深刻な課題になっている。
再エネ電源の開発と電気の売り先の開拓だ。
( → 地域新電力+若き新戦力=明日の活力 U・Iターン受け皿に 住民とともに課題解決:朝日新聞 )
上の引用を読んでも、要領を得ないと感じる人が多いだろう。しかしそれは私のせいではない。元々の記事が「何を言っているのかわけがわからない」といった感じの、要領を得ない記事だからだ。何を発電しているのかも、どこで発電しているのかも、よくわからない。販売先が地元の地域だ、ということだけがわかる。
それでもとにかく、「再生エネの推進と、地域の振興。二つが同時にできて、一石二鳥で、素晴らしい」という趣旨になっている。いかにもエコ重視のリベラリスト、という感じで、現実に足が付いていない夢物語ふうの記事となっている。
──
そこで私が現実の話をしよう。
新電力を推進するかどうかは、方針の問題ではない。それを可能とする状況が整備されているか否かだ。現実には、そうなっていない。だから、先に電力市場で価格が高騰したときには、新電力が続々と倒産した。朝日はそのことをすっかり忘れてしまったようだ。
そこで、本サイトの過去記事を紹介しておこう。
→ 電力の不足への対策 .2: Open ブログ
ここには、当時の状況が記してある。
電力新市場で、電力の市場価格が高騰したせいで、新電力の会社が次々と倒産・撤退しているそうだ。
電力の安定を狙って、電力新市場を創設したが、ウクライナ戦争による原油価格高騰の影響などもあって、市場の電力価格が高騰した。そのせいで、新電力の会社は赤字に耐えきれず、次々と撤退していく。
このとき、新電力が倒産しただけではない。電力価格の異常な高騰があったので、新電力と契約したユーザーも莫大な損失を出した。阿鼻叫喚の地獄といったありさまだった。
では、なぜこうなったか? 電力市場が逼迫した(供給不足になった)からだ。そのまた理由は、こうだ。
大手電力が、運転にコストがかかる古い火力発電所を、相次ぎ休廃止していることも要因だ。経産省によると、この5年で廃止された石油火力は原発10基分(約1千万キロワット)になる。
大手電力会社が供給を絞ったことで、供給不足が生じて、電力価格が高騰して、新電力は(電力市場から購入する分の価格が高騰したせいで)大赤字を出して、次々と倒産していった。( なお、理由の説明は、上記項目で。)
また、ユーザーも大幅値上げに悲鳴を上げていた。
→ SNSには「電気料金10万円いくかも」と悲鳴も…寒波で思わぬ影響、「新電力」 | アベマ
→ 電気代1700万円アップで「やばい 大ピンチです」ある遊園地の悲鳴 - ねとらぼ
そして、そうなった状況が変わっていない以上、今後もまた、「電力市場の異常な高騰によって、新電力が赤字で破綻する」ということは、十分にあり得るのだ。
こういう構造的なもんだを是正しないで、やたらと新電力を振興すれば、同じことが起こりかねない。二の舞だ。この危険性に着目するべきだ。
──
ではなぜ、この危険性が放置されているか? それは、大手電力会社の利権のためである。新電力が赤字で大損を出したとき、そのときに払った巨額の金を吸い上げたのは、大手電力会社だった。つまり、電力価格が高騰すると、
金
新電力の会社 ──→ 大手電力会社
というふうに、金が大量に移動する。新電力の会社は大赤字を出して破綻し、大手電力会社はその莫大な金を吸い上げる。
これはつまり、「電力の供給を不安定にすることで、大手電力会社がボロ儲けする」という構造があることになる。
とすれば、大手電力会社としては、このようにボロ儲けできる構造を、何としても維持したがるわけだ。同時に、国民は電力の不安定供給という危険に瀕するわけだ。
※ 電力会社のやっていることは、「火事で利益を出す」という方針なので、ほとんど放火魔に近い。自分で火を付けるわけではないが、あえて火事が起こしやすくして、なかなか消火できないようにして、「火事が起これば大儲け」という体制を維持するわけだ。
──
では、このような困った制度を、何と呼ぶか? 「発送電の一体化」と呼ぶ。発電会社と送電会社が同じ会社であることだ。(現実には親会社と子会社という形で、形式的には分離しているが、実質的には同じ会社だ。いわばトヨタとダイハツの関係だ。)
「発送電の一体化」があると、発電会社と送電会社が示し合わせて、電力の供給を不安定化させることができる。そうやって、電力市場を操作して、不当利益を上げることができる。……これは、独禁法違反の不当行為だ。(市場操作に相当する。)
そこで、このような不当行為を排するのが、「発送電の一体化」の否定である。つまり、「発送電の分離」だ。
発送電の分離があれば、電力価格が高騰したとき、発電会社は大儲けするが、送電会社は大損する。だから、送電会社は、電力価格の高騰が起こらないように、システムを構築する。それには「需給調整契約」を整備して、(供給源に応じて)需要を自動的に減らせばいい。こうして、「発送電の分離」の下では、「需給調整契約」を通じて、電力の安定供給が可能となる。
結局、電力の安定化のためには、「発送電の分離」がぜひとも必要なのだ。そして、それができたとき、電力市場が安定的になるので、新電力が市場に参入することのリスクがなくなる。(大手電力会社の横暴によって強引に破綻させられる、という危険がなくなる。)
これが真相だ。だから、この真相を明かすことが大事だ。本サイトでは、すでにそのことを指摘した。(上記記事で。)
《 加筆 》
電力の安定供給のためには、供給を増やせばいいのではない。(それはコストガかかるので、利口なやり方ではない。)……むしろ、需要を減らせばいいのだ。年に数日の特定の日だけ、需要が過大になる。そのときだけ需要を一時的に減らすには、「需給調整契約」によって需要を減らせばいいのだ。そして、その役割を果たすのは、送電会社である。
ところが大手電力会社は、「電力の安定供給のためには、供給を増やせばいい」とだけ主張して、「需要を減らせばいい」という面にはほおかむりする。あろうことか、「需給調整契約」を結ぶのをサボる。そのことで、電力の不安定供給をもたらして、電力の市場価格を暴騰させて、ボロ儲けする。
※ ここでは、売り手と買い手の「利益相反」がある。前出項目で記したとおり。
──────
その後、さらに、「発送電の分離」が現実には進まない理由も明らかになった。政府の良識派が「発送電の分離」をしようとしたが、大手電力会社が大反対する。そこで、自民党が大手電力会社の意を受けて、「発送電の分離」を断固阻止しようとするのだ。大手電力会社と癒着しているからだ。
→ 発送電の分離が進まないわけ: Open ブログ

さらに続報がある。その項目のコメント欄で紹介したが、「発送電の分離」が進まないのは、経産省の影響もあるそうだ。
大手電力は「電力の安定供給に支障が生じる」と主張しており、経産省も同調していた。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15660415.html
( → 発送電の分離が進まないわけ: Open ブログ の「コメント欄」)
大手電力は「発送電の分離があると、電力の安定供給に支障が生じる」と主張する。経産省もそれに同調する。
呆れる。「発送電の分離があると、電力の安定供給に支障が生じる」というのは、事実とは逆の正反対の話(嘘八百)だ。そんな嘘八百をまともに信じる経産省は、どうかしている。
そもそも、発送電の分離がないから、昨年には電力の安定供給ができなくなったのだ。このとき、電力不足になって、電力価格が高騰したのだ。……そのすべての責任は、(発送電の分離をしないせいで)電力の供給不足を起こした大手電力会社にある。なのに、その犯人の自己弁明の嘘を、まるきり信じて、どうする。

「おまえはダイヤの指輪を、猫ババしたな? ちゃんと証拠は上がっているぞ。素直に自白しろ」
「いや。おれはダイヤの指輪を、猫ババしていません。何も悪いことをしていません」
「そうか。おまえがそう言うなら、おまえを信じよう。証拠は上がっているが、たぶん警察の間違いなのだろう。ならば証拠は捨ててしまおう。これでおまえは、無罪放免だ」
かくて、悪人の嘘が通って、悪人は犯罪を見逃される。悪は やり放題となる。……これが経産省の方針だ。頭おかしい。
需給調整契約で需要減少、という話。