2023年06月21日

◆ 片道の旅行は可能か?

 片道だけの旅行は可能か? 「復路だけあって、往路なし」という旅行は可能か? (何を馬鹿な、と言われそうだが。……)

 ──

 「そんな馬鹿なことを考える必要はない」
 と思われそうだが、「復路だけあって、往路なし」という旅行を前提として、制度設計をしているのが、日本政府(国交省)だ。その馬鹿げた皮算用を紹介しよう。

 東京湾横断道路(アクアライン)が混雑しているそうだ。そこで、復路だけ混雑しているので、復路だけ値上げしよう、という方針が出た。
 千葉県木更津市と川崎市を結ぶ東京湾アクアライン(15.1キロ)の渋滞を緩和するため、国土交通省と千葉県などは20日、通行料金を時間帯に応じて変動させる仕組みを試験導入することを決めた。
 現行の通行料金は、ETC搭載の普通車で800円。新たな仕組みでは川崎方面の上り線で、土日祝日の午後1〜8時は400円上乗せして1200円に、午後8時〜翌午前0時は200円割り引いて600円にする。7月22日〜来年3月末の予定で、渋滞緩和の効果や観光への影響を調べる。
 東京湾を横断するアクアラインは1997年に開通。当初は普通車で4千円だったが、2009年には国と県の補助金でETC搭載車の通行料金を800円に値下げした。通行量の増加傾向が続き、08年度に約2万台だった1日あたりの通行台数は、22年度に初めて5万台を突破した。特に、休日午後の神奈川方向は、房総半島から首都圏に帰るレジャー客で混雑が著しく、課題となっていた。

aqualine2.gif

( → アクアラインが変動料金を試験導入へ 渋滞緩和対策としては全国初:朝日新聞

 神奈川から千葉へ行くときには、土曜と日曜に分散されるが、千葉から神奈川に戻るときには、日曜の午後に集中する。だから、日曜の午後には混雑する。そこで、日曜の午後だけ値上げすることで、混雑を緩和しよう……という狙いだ。

 ──

 なるほど。「料金を可変的にして、(需要過剰のときに)需給を均衡させる」という方針は、市場原理に従っており、好ましいことだ……と思える。原則としては、その通りだ。政府の方針は何も間違っていない。
 問題は、その規模だ。800円から 1200円に5割アップする……ということだが、そのくらいの額で足りるのか?
 「もちろん足りる。5割も値上げすれば、需要は十分に減少する」
 と国交省は思っているのだろう。
 だが、それは、次のことが前提だ。
 「旅行は復路だけでやることも可能だ。往路なしで、復路だけ、旅行することもできる」
 これが暗黙裏の前提だ。
 だが、現実には、そんなことは成立しない。復路があるからには、必ず、往路もある。とすれば、料金はこうなる。
 (誤) 800円から 1200円に 50%アップする (復路だけ)
 (正)1600円から 2000円に 25%アップする (往復で)

 こうして真実がわかった。料金は 1600円から 2000円に 25%アップするだけだ。この程度の値上げは、昨今の「何でもかんでも値上げ」という風潮の中では、さして目立たない。旅行先のレストランの料金も 1〜2割の値上げがあるだろうから、道路料金が 25%アップしても、さして気にならないのである。
 実際、私だって、この程度の値上げなんか、ほとんど気にしないだろう。魚や肉ならば、このくらいの値上げでも気になるが、たまに行く旅行ぐらいなら、ほとんど気にならない。ざっと見て、予算を2万円ぐらい見込んでいるなら、そのなかで 400円の値上げなんて、ほとんど気にならない。「400円も値上げしたのか。それじゃ大変だから、旅行をやめよう」なんて、思わない。
 つまり、政府の値上げの方針は、意味がない。政府の金銭感覚は狂っている。というより、政府は「旅行は片道だけでもやれる」と思っているのだろう。だから、「400円の値上げで、需要が大幅減」という皮算用を立てているのだ。呆れる。



 [ 付記1 ]
 今回は実験ということだが、だったら、料金の値上げ幅は多様に設定するべきだろう。値上げ幅は 400円だけでなく、700円や 1000円や 1500円なども設定するべきだ。そうしてこそ、「実験」の意義がある。「実験」というのは、そういうものだ。

 「料金を上げるのは困る。1000円も上がったら、すごく損する」
 と思う人もいそうだ。だが、少なくとも日曜日の午後の渋滞時ならば、混雑解消というメリットが出るので、損はしない。むしろ、渋滞がなくなって、時間を節約できる分、得をする。
 日曜日の午後には、渋滞のせいで、所要時間が 11分から 45分に延びる。34分間の損だ。
  → 渋滞予測|ATIS−日本エンタープライズ株式会社
 34分間の損を解消できるのなら、1000円の支出はちっとも損ではない。特に、家族連れなら、数人の乗車だから、頭割りでは安くなる。3人なら 333円。4人なら 250円。その金で、34分間を買える。損するどころか、格安だろう。
(仮に時給 1000円なら、30分が 4人で 2000円になるから、1000円ならば半額で済む。)  

 [ 付記2 ]
 そもそもアクアラインは、4000円から 800円に、大幅値下げされている。(冒頭記事。)
 また、この値下げは、2022年3月31日までの予定だったが、その期限が来たら、「期限を延長します」と言って、値下げを継続した。
 国土交通省、千葉県、NEXCO東日本は、2022年3月31日が期限となっているETC車を対象とした東京湾アクアラインの通行料金の割引を、2025年3月31日まで継続すると発表した。
( → アクアライン料金800円継続。25年3月まで割引 - Impress Watch

 この調子だと、以後も同様になり、永続的に値下げが続きそうだ。(今回の値上げだって、単なる値上げでなく、600円への値下げと組み合わせている。)
 本来ならば利用者が自己負担で払うべきなのだが、自動車利用者に対しては、やたらと大盤振る舞いする。国全体への科学用の予算はごく限られているし、研究者は貧乏でピーピー言っているのに、アクアラインには大盤振る舞いだ。道路公団が事業費として 1兆4409億円を投入して、それで償還できない分の赤字を、国や県の公費で埋めている。

 まあ、当初はアクアラインがガラガラだったから、値下げして通行量を増やす、という政策を取ったことも理解できる。とはいえ、今では混雑して渋滞を起こすほどだ。そうなったら、もはや過度に値下げする必要はあるまい。
 400円というような実効性の稀薄な値上げをするよりも、もっと大規模で広範な値上げをするべきだろう。それで赤字を少しでも埋めるべきだ。その分、科学用の予算を増やすべきだ。
 というか、過去の値下げで赤字を出した分、今後は黒字で埋めるべきだろう。全体的に言えば、料金を倍増してもいい。平日で片道 800円を 1500円に。土日は 800円を 2000〜2500円に。……そうしても、当初の予定の 4000円よりは、ずっと安い。このくらいに値上げして、混雑を緩和し、さらに、黒字を出して、金を国と県に戻すべきだ。

( ※ 役所は補助金を出して血税を浪費することばかり考えるな、ということ。また、国民は、自分の尻ぐらいは自分で拭け、ということ。)

posted by 管理人 at 23:23 | Comment(5) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
2018年夏に行われた高速道路割引の社会実験を思い出しました。

お盆の渋滞分散を目的に休日割引(30%)の適用日を平日に2日ずらしたのですが、当時の私は以下の様に思いました。

 お盆で車で出かければ100%渋滞に巻き込まれる。
 誰しも渋滞は嫌なはず。平日にずらせば回避できる事は判っている。
 つまりお盆に車で出かける人は、平日にずらすという選択肢(裁量)の無い人。
 そんな人達がたかだか数千円の高速代の為に予定をずらすはずが無い。(ずらせるはずが無い)

 夏休みの旅行で数千円なんて誤差でしか無く、渋滞回避の方が1000倍重要なハズ。
 "渋滞回避の為では予定はずらさないけど数千円の為なら出来る" ってあり得ないから、この施策に何の意味も無い!


ところが実際には多くの人が平日に繰り出し渋滞発生。休み直前の物流・業務車両に予想外の支障を及ぼしました。
結局、行動を決める心理って全くロジカルでは無く、"気分" が一番大事という事です。


具体的な額はたいして重要では無い。
『安くなる』/『高くなる』という定性的なメッセージが行動をコントロールします。
2018年の例を考えれば案外思惑通りなるのではないでしょうか?


Posted by てくてく at 2023年06月22日 23:44
> 休日割引(30%)の適用日を平日に2日ずらした

 それだと、休日は 30% アップして、平日は 30% ダウンするので、合計して 60% も差が付く。
 一方、本項のやり方だと、25% の差にしかならない。

 なお、本項でも、「額を上げれば効果が出るだろう」という趣旨です。25%( 400円)でなく、60% ( 960円 )のアップなら、かなり効果が出るでしょう。
 本文の記述も、その趣旨です。

 p.s.
 正確には 13÷7= 1.86 なので、 86% のアップです。
 それに従えば、 1600円から 3000円へ、1400円の値上げにするべきです。
 これだけ上げれば、効果は出るでしょう。

 ──

 さらに言うと、高速道路の場合は、単に値下げされるだけでなく、「休日から平日に変更すると、料金が大幅に下がるだけでなく、渋滞からも逃れられる」と見込まれていました。金だけの問題じゃないんです。時間と金の、双方を得られるはずだった。一挙両得ふう。
Posted by 管理人 at 2023年06月23日 00:16
貴殿の主張は、
『額が少ないので効果が無い。額を上げれば効果が出る』

私の意見、
『額の多寡は大した問題では無い。"値上げ(下げ)した" とのメッセージ(印象)で人は動く』と申しています。


> それだと、休日は 30% アップして、平日は 30% ダウンするので、合計して 60% も差が付く。

付きません。
実行可能な選択肢はA又はBなのですから。

A:例年通り行動(世間の休日に出かける)。
  規定の高速代。

B:例年より1〜2日早く出かける(夏休みを1〜2日前倒で取得)。
  30%引の高速代。

Posted by てくてく at 2023年06月23日 00:50
> 渋滞からも逃れられる」と見込まれていました。金だけの問題じゃないんです

なるほど。
割引が背中を押したとという事ですね。
それは充分に考えられますね。
Posted by てくてく at 2023年06月23日 00:56
 確かに実際には 30% の差しか付かない。
 しかし心理的には、30% の値上げと、30% の値下げを比較するので、両方で 60% の差があると錯覚する。
 この錯覚のせいで、大差があるという心理的な動機が生じる。……これこそが、大規模な行動変化に至った理由だろう。
 実験なんだから、多様なケースを設定しておけば良かったのにね。
Posted by 管理人 at 2023年06月23日 11:02
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