2023年06月06日

◆ 児童手当よりも短時間勤務

 少子化対策としては、児童手当を増額するよりも、民間の職場で短時間勤務を推進する方がいい。

 ──

 少子化対策として、児童手当を増額する……というのが、政府の方針だ。
 しかし、児童手当を月に1〜2万円ぐらい増額しても、あまりにも小額すぎて、ほとんど「焼け石に水」である。ろくに効果がないと言える。
 現実には、女性が出産すると、退職に追い込まれたり、出産後に職場復帰するとポストを奪われていたり……という不利な待遇に追い込まれることがある。だから、次のような感想が出ることもある。
 子供産まなくてよかったです、マジで

私は心の底から「子供いなくてよかった…!」と思う。「産めばよかった」と思ったことがミリもない。
もうほんとに、女は職を、経済力を手放してはいけない。本当に。
( → はてな匿名ダイアリー

 これを換言すれば、「子供ができると、女は職を、経済力を手放しがちだ」という現状がある。欧米ではそんなことはないのに、日本ではそういう傾向にある。だから、子持ち女性の就業率は、日本では際立って低い。(韓国が最悪だが、韓国は先進国ではないので無視していい。)


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 このグラフは、「子持ちか否か」で区別してはいないが、年齢別で区別している。すると、子育て世代のあたる年齢では、女性の就業率が低下していることがわかる。いわゆる「M字カーブ」と呼ばれるグラフだ。
 このことから、「育児中には退職して、再就職後にはパートで低賃金労働をする」というライフスタイルが見て取れる。そして、そういう生き方を選ばざるを得ないことから、「子供産まなくてよかったです、マジで」という感想が出てくることになる。
 逆に言えば、そういう感想が出てくるほど、少子化を促進しているのが、今の日本の社会システムなのだ。女性に対して、「子供を産めば、キャリアを失って、大幅に収入が下がりますよ」というふうに強いている。
 とすれば、こういう社会システムを放置した上で、いくら児童手当を増額しても、「400万円を奪ったあとで、10万円を上げます」というようなものだから、「焼け石に水」ぐらいの効果しかないわけだ。

 ──

 以上のことからして、正しい対策もわかる。それは、児童手当を増額することではなく、子育て中の女性の職を守ることだ。特に、次の3点が大事だ。
  ・ 妊娠中の女性を退職させない
  ・ 新生児を育てている育休中の女性を退職させない
  ・ 育休から復帰した女性の職を守る


 このうち、1番目と2番目は、当然のことだし、今ではかなり実現しているようだ。(もし会社がやれば違法行為として摘発されかねない。)
 ただし、3番目は実現していない。育休から復帰したあとで、保育園に預けた子供が熱を出したりすると、母親は職場から早退することを強いられがちだ。本来ならば、男女平等に負担するべきだが現実には、母親という女性の側ばかりが負担を強いられがちだ。このことから、女性が職を奪われやすい理由となる。
 「きみはちょいちょい、3時ぐらいで早退するね。これでは会社の業務に穴があくので困る。きみは退職した方がいいんじゃないのかね。その方がお子さんも喜ぶよ」
 などと述べて、退職に追い込む。退職でなくとも、降格や左遷の対象となる。(閑職への移動など。)
 こういう現実があるのだ。

 ──

 これではまずい。困った。どうする?
 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「少子化対策には、育児をしても解雇されない(待遇が悪化しない)ことが保証されていることが必要だ。そのためには、女性だけが育児をするという現状を改めて、幼児期の育児を男女半々で分かちあうべきだ。女性ばかりが育児を負担するのでなく、男性もまた育児を負担するべきだ。男女半々で早退が頻発すれば、会社側はもはや女性差別ができなくなるからだ」

 では、そのためには、どうすればいいか? そのことを会社に強制させればいい。逆に言えば、差別をする会社を懲らしめればいい。といっても、法律で罰則を加えたくても、会社を懲役刑にするわけには行かない。会社を牢屋に入れるわけには行かない。そこで、かわりに、会社に罰金を科する。次のように。
 「育児中の男性および女性を指定したあとで、それぞれの早退率を男女で平等になることを義務づける。女性の早退率ばかりが高い会社は、女性差別をしていると見なして、課徴金を課する。( or 法人税率を高くする。)」

 「早退率」というのは、「短時間勤務をする率」のことだ。たとえば、「1日8時間勤務が週5日」の会社で、「週に2回、2時間の早退け」があったなら、40時間中で4時間の時間短縮があったので、10% の早退率があったことになる。
 この値を男女別に計測する。すると、たとえば、「女性では 10%だが、男性では2%」というような結果が得られる。この場合、男女格差が8%あったことになる。そこで、それに相当する分、高額の課徴金をかける。たとえば、法人税率を 0.8% だけアップする。(利益額が 100億円の企業では、 0.8% に相当する 8000万円を徴収する。)
 なお、男性の早退率の方が高かった場合には、課徴金をかけるかわりに、逆に、補助金を出せばいい。たとえば、8000万円を徴収するかわりに、8000万円を下付する。

 ともあれ、このようにして「(育児中の)男性の短時間勤務」を推進していけば、女性差別はなくなるだろう。「夫婦で共同育児」という体制が普及するだろう。そのことで、「子育てなんかしたくない」という親が減るので、少子化は解消するだろう。

 ──

 なお、現実には、短時間勤務が進むかわりに、企業は「保育所を充実させる」という方針を選ぶだろう。つまり、こうだ。
 「社員がいちいち早退されては、仕事にならないので困る。そこで、子供が熱を出しても社員が早退しなくて済むように、子供が熱を出したときにもきちんと対応できるように、医療システム付きの保育所を用意する。そういう保育所と契約して、そこに社員の子供を入所させることで、社員の早退を減らす」
 この場合、男女とも、早退率は0% に近くなる。それならそれで、課徴金は取られないことになる。めでたし、めでたし。

 《 加筆 》
 ※ 結果責任を取らせるように制度化することで、あとは企業が自動的に最適の道を選ぶ。政府が「医療システム付きの保育所を整備しよう」と思わなくても、企業が自らの努力で、それを普及させる。
 ※ 最適の手段を政府が手取り足取りで教える必要はないのだ。結果責任だけを取らせることで、手段の方は企業が自分で最適化するわけだ。……ここがポイントだ。



 [ 付記1 ]
 政府も無為無策というわけではなく、一定の方向性は出している。
 厚生労働省は、3歳以上の未就学児を育てる働き手が、短時間勤務や在宅勤務を選んだり、残業の免除を受けたりできるようにする検討に入った。現在こうした仕事と育児の両立支援の対象は3歳未満の子を持つ親が中心だが、拡充する。同省が30日に開いた研究会の報告書案に盛り込んだ。
 報告書案では、3歳から小学校に入るまでの子を持つ働き手については、短時間勤務や在宅勤務、フレックスタイム制度など、柔軟な働き方ができる制度を複数設けることを企業に義務づけるべきだとした。働き手はキャリア形成の希望に合わせて、その中から一つを選べるようにする。
( → 短時間や在宅勤務選べる制度、未就学児がいる働き手対象 厚労省検討:朝日新聞

 選べるというが、選んだ女性には、昇進などで冷遇することになるだろう。これでは「その権利を行使するまい」という動機が働くので、有名無実になりがちだ。
 本項で述べたように、企業に対して、「男女の格差の解消」を結果責任で求めないと、どのような対策も「絵に描いた餅」になりかねない。
 政府は「女性優遇策を出す」ことばかりを考えているが、女性優遇策を出せば出すほど、「女性を昇進させまい」「女性を重要なポジションに付けさせまい」という動機を企業に与えることになる。「この部署は重要な部署だから、時短勤務ばかりしている女性はリーダーにしない方がいいな」というふうに。
 そこを改善する措置を取らないと、せっかくの対処策も有名無実となるのだ。

 [ 付記2 ]
 「短時間勤務(時短勤務)を促進するために、取得した人に給付金を出す」という制度が検討されている。
 家事や育児への男性の参加を広げる狙いで、2歳未満の子どもを持つ親が時短勤務をした場合、男女ともに手取りが減らない給付金制度の創設を検討。
( → 女性役員の比率目標「30年までに3割」 政府案、プライム企業対象:朝日新聞

 これは「権利の行使者を優遇しよう」というものだ。この権利を行使した人にとっては好都合だろう。だが、これは筋悪だ。
 これだと、「権利を行使した人は、タダで金をもらえる」ことになるので、特に必要のない人まで、やたらと権利を行使しがちになる。本来ならば「子供が熱を出して保育園を早退したから」というような理由で権利を行使するべきなのに、「どうせタダでもらえる金なら、金をもらって、親子そろってディズニーランドで遊ぼう」というような目的のために金を出すことになる。しかも、その金は、国民一般の金だ。国民の金を、こんな「無駄遊び」のために出すなんて、不正に近い。ほとんど泥棒である。「本来必要性の高い人のための措置」を「必要もない人まで行使する」ことで、権利の濫用状態になる。
 だいたい、育休を取れば、働く時間が減るのだから、その分、給料が減るのが当然だ。その減収分を他人に補填してもらおうというのが間違っている。また、給与所得者だけがそれをもらって、他の勤務形態の人(無職や自営業など)がそれをもらえない、というのも不公平だ。
 では、どうする? 簡単だ。単純に、児童手当を出すだけでいい。それなら金額は一律なので、不公平感がない。
 現状の児童手当では、3歳未満への増額は、 5000円増となっているだけだ。ただし第1,2子のみの増額だ。第3子への増額はない。(もともとの増額があるので、追加の増額がない。)
 この児童手当の増額を大幅に増やすといいだろう。現状は 5000円増の 15000円だが、これを2万円増の 3万円ぐらいにするといいだろう。それならば、時短勤務があった場合の減収をいくらか補える。時給 3000円ならば 10時間分。時給 1500円ならば 20時間分。それだけの給付があるのと同じことだ。しかも、全員がもらえるので、公平だ。
 一方、時短勤務への給付金だと、いっぱい時短勤務をした人ばかりが、集中的に多額の給付金をもらうことになる。毎日2時間、月 25日だと、月に 50時間。その分の賃金に相当する金を、遊んでもらえることになる。不公平も甚だしい。
 本当に政府は、馬鹿げた金の使い方ばかりを考えるね。「金をもらえる」という労働者の視線しかない。「金を払う」という納税者の視線がない。これでは「経済観念がない」と言われても仕方ない。
 まずは、「どんな制度も、その制度を悪用する人がいる」ということをわきまえて、制度設計するべきだろう。

 ※ そもそも、そんなに休んでばかりいる社員がいたら、企業としてはたまったものではない。企業ばかりに多大な犠牲を強いると、結局は、女性社員を昇進させまい(雇用するまい)という動機が働いてしまう。

 [ 付記3 ]
 すぐ前では、「児童手当を増額せよ」(給付金を出すよりも)と述べた。
 一方、本文中では「児童手当を出すな」(むしろ民間の女性差別をなくせ)と述べた。
 これでは、話が矛盾しているように見える。いったい、児童手当を出すべきなのか違うのか? 

 論理的には、別に矛盾はない。次のように解釈できる。
   給付金 < 児童手当 < 女性差別の解消

 児童手当の良し悪しは、比較対象によって異なる。「給付金」よりは優れているが、「女性差別の解消」よりは劣っている。これで特に矛盾はない。

 ただ、政策としては、次の方針を推奨する。
 「0〜3歳未満の親は、特に金銭状況が厳しい若手が多いので、児童手当を 1.5万円から3万円に増額するべきだ。一方、高校生の親は、高所得の中高年が多いので、児童手当は出さなくていい。高校生への児童手当支給という政府方針は、不要だ」

 ※ 高校の授業料の無償化という制度が実現したので、それで代替できる。さらに優遇策を追加する必要度は低い。どうせなら、小学校の給食費や修学旅行費を無償化する方がいい。あるいは、国立大学の授業料を下げる方がいい。(現状は高すぎる。だから少子化が進む。)

 [ 付記4 ]
 別途、「半育休」という制度もある。これは「正社員が時短勤務をする」というのとは対照的で、「無職の人が臨時就職する」というものだ。「新たに短時間勤務で就職する」というものであり、「バイトをする」というようなものだ。話の方向性が逆である。
 これはこれで、意味があるかもしれないが、本項の話のテーマとは異なるので、特に言及しないでおく。軽く紹介するに留める。



 【 追記 】
 「短時間勤務の義務化」は、「育休の義務化」といっしょに、同時実施するとよさそうだ。
 「短時間勤務の取得率」と「育休の取得率」を、それぞれ計算する。「年間労働時間 × 社員数」という総数に対して、短時間勤務や育休の「取得時間数の総数」(全社員の分)を計算して、取得率を得る。これについて、一定の比率を義務づける。(統計的に平均値を見出して、平均値を義務づける。)
  ・ 平均値を上回った企業には減税
  ・ 平均値を下回った企業には増税

 というふうに「アメとムチ」の方針を取る。この場合、増税額と減税額の相殺で、企業全体としては損得がないようにする。平均よりは良い企業は得して、平均よりは悪い企業は損する。それだけだ。
 こうすれば、短時間勤務や育休の取得率が自然に向上する。結果責任で。
  ※ 特に男女差の区別をしなくてもいい。


posted by 管理人 at 22:51 | Comment(4) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年06月07日 11:25
 [ 付記1 ]の直前に、《 加筆 》 を挿入しました。
Posted by 管理人 at 2023年06月07日 12:22
長文で読み切れていませんが、次の文章に賛成です。「そんなに休んでばかりいる社員がいたら、企業としてはたまったものではない。企業ばかりに多大な犠牲を強いると、結局は、女性社員を昇進させまい(雇用するまい)という動機が働いてしまう。」
 いままでの女性雇用促進策は、女性の仕事は重要でなく、だれでも代わりができると言う前提に立っていました。だから育児手当や休業日さえ手当すればよいという考えです。これが女性雇用を抑え、重要な職には就かせないという動機になっています。大企業や官公庁に育児室を設置することが進んでいますが、まだ不十分です。
 ITやAIをどんどん取り入れて就業時間が短くできるようになって今が、時間短縮のちょうどよい機会だと思います。
 それでも少子化は進むと思います。受け入れて対策を考えましょう。
Posted by よく見ています at 2023年06月07日 15:04
>国立大学の授業料を下げる方がいい。

これを実現するためには、運営費交付金の増額が必要ですが、ご承知のとおり、ケチな財務省及び財務省に物申せない文科省のせいで年々減額され、旧帝大はともかくとして、地方の国立大学は青息吐息の状態です。

3年ほど前、一部の国立大学の授業料値上げ?のニュースが出たくらいですから、各国立大学は自己収入を少しでも増やそうと必死です。


『東工大や千葉大などが表明…国立大「授業料値上げ」それぞれの事情』(ニュースイッチ)
https://newswitch.jp/p/21549


私も国立大学授業料減額には賛成です。財源はFラン大学をつぶした際の私学助成金を充てれば良いでしょうし。

大学の授業料を削減するだけで、子供の数は増えると思いますよ。ひとりっ子世帯が減るかもしれません。


Posted by 反財務省 at 2023年06月07日 16:55
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