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朝日新聞が報じていることを読むと判明する。簡単に言えば、理由は「利権」だ。
・ 発送電の分離をしないことで、電力会社は多大な利益を得る。
・ その分け前を自民党が得る。
・ こうして電力会社と自民党が利権を食い物にする。
・ 結果的に、国民は損するが、国民の損得など、どうでもいい。
こういう事情が判明した。(上記の4点は、私が核心をわかりやすくまとめて解説したもの。そのままの字句で、記事にこう書いてあるわけではない。)
朝日の記事は、こうだ。
・ 発送電の分離は、現状は法的分離だ。(これは名目的な分離。)
・ 資本における所有権分離もある。(こちらが実質的な分離。)
・ 所有権分離は、電力会社が大反対する。
・ 岸田首相も、乗り気でない。
・ だから経産省も、乗り気でない。
・ しかし河野太郎・消費者相は、乗り気である。
・ 河野太郎を見せカードにして、経産省は大手電力会社を操る。

記事を抜粋しよう。
所有権分離とは、大手電力の送配電部門を資本ごと切り離すことだ。原発事故をきっかけに加速した電力システム改革で一時浮上したが、大手電力は会社の一部を失うことから強く抵抗。お蔵入りになった「劇薬」だった。
経産省は本気で所有権分離に着手するつもりはなかった。手をこまねいていれば、「所有権分離に手を突っ込まれる事態になりかねない」(幹部)との危機感……(略)。
その相手は、河野太郎消費者相だった。
その河野氏は、一連の電力会社の不祥事について、電気料金への影響をふまえて「消費者庁の存在意義が問われる」と公言。追及の構えを見せていた。
大手電力と経産省の首脳は、河野氏が主導権を握ることは避けたかった。
経産省の予感は当たった。3月に入ると、河野氏に近い有識者でつくる内閣府のチームが提言を発表。「所有権分離を含む構造改革」を訴えた。
経産省が内々に電事連側に求めたのは大手電力の小売り部門と送配電子会社が共有するシステムを遮断する「物理分割」だった。所有権分離を避けるためだ。
( → (フロントライン 経済)大手3社以外初の会長 相次ぐ電力不祥事…異例続投の電事連、正念場:朝日新聞 )
こういう攻防のあとで、「電力料金の値上げ」は、値上げ幅を圧縮されたそうだ。
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さて。裏事情はわかった。それとは別に、次の論点がある。
「発送電の分離はなぜ必要なのか?」
その理由は、簡単に言えばこうだ。
「発送電の分離がなされていないと、電力供給が不安定になればなるほど、電力会社はボロ儲けできるので、電力供給が不安定化する」
実際、過去において「電力の市場価格が暴騰して、新電力が軒並み倒産した」という事例があった。このとき、発電会社は電力供給を絞っていた(古い火力発電所を稼働させなかった)が、そのおかげで、電力価格高騰による暴利を得ていた。
仮に、発送電が分離されていれば、電力価格が高騰したとき、儲かるのは送電会社(電力の小売り部門)だけであって、発電会社はその恩恵にあずかれない。だから、「電力供給を不安定化させる」という動機が生じない。
一方、現状では、「電力不足になればなるほど、大手電力会社はボロ儲けする」ということから、「電力供給を不安定化させる」という動機が生じる。
このとき、「電力不足によるブラックアウト」という問題が起こることで、国民全体には莫大な損失が発生する可能性があるが、その負担は、国民が負担するのであって、電力会社は負担しない。
つまり、こうだ。
・ 電力不足(市場価格高騰)による数百億円の利益は、電力会社が得る。
・ 電力不足(ブラックアウト)による数兆円の損失は、国民全体が負う。
こうして、「利益は自分が得て、損失は国民にツケ回しする」という構造が成立する。だから、電力会社は、「電力供給を不安定化させる」というふうにしたがる。そして、それでボロ儲けをする機会を狙う。……だから、発送電の分離に反対しているのだ。
しかも、現実には、「電力供給を不安定化させる」というになるのに、「電力会社が儲かれば、経営が安定するので、電力供給は安定化します」と標榜する。これは嘘だ。「電力会社が儲かれば、利益は株主と経営者が得るのであって、国民には還元されない。電力の安定化のためにも役立たない。
むしろ、「もっと儲けよう」という狙いから、「ますます電力は不安定化する」というふうになる。
こういうふうに、電力会社は、黒を白と言いくるめて、国民をだますわけだ。
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なお、以上のからくりについては、前にも詳しく論じたことがある。そちらを参照。
→ 電力安定供給には発送電分離: Open ブログ
→ 電力の不足への対策 .2: Open ブログ
→ テキサスの停電: Open ブログ
→ 送電線の利用率: Open ブログ
[ 付記1 ]
太陽光発電の余剰電力は、EV のバッテリーに充電するべきだが、それが進まない。その理由も、「発送電の分離がなされないから」と説明される。
仮に「発送電の分離」があれば、太陽光発電の余剰電力があったとき、それを激安で仕入れることで、送電会社は電力を安値で販売できる。そうして EV に多大な電力を蓄電できる。(スマートメーターを通じて、電力の価格変動制が実現できるから。)
しかしその場合、電力の市場価格は大幅に低下するから、発電会社は、火力発電の売価が原価割れになって、大損する。つまり、消費者と送電会社は得をするが、発電会社は大損をする。だから、発電会社としての大手電力会社は、「太陽光発電の余剰電力を激安で販売すること」を容認できない。電力の価格変動制を容認できない。……かくて、「電力の価格変動制を通じて、太陽光発電の余剰電力を、EV のバッテリーに充電すること」が実現できない。
結局、「太陽光発電の余剰電力を、EV のバッテリーに充電すること」が実現できない理由は、「発送電の分離がなされないこと」なのだ。その目的は、大手電力会社の利益狙い(火力発電の販売価格を上げること)である。
そもそも、発電会社と送電会社は、電力の「売り手」と「買い手」という関係にあるので、利益が相反する。なのに、その双方を大手電力会社が兼ねれば、電力における市場価格の形成は歪んでしまう。市場独占の弊害が出る。独禁法違反と同様だ。……こういう本質があるのだ。
だからこそ、「正常な市場原理による価格形成」を実現するために、市場を健全化する必要があり、そのために、電力の「売り手」と「買い手」を分離する必要があるのだ。これがつまり、「発送電の分離」が必要な理由である。
[ 付記2 ]
そもそも、需要と供給の不一致を解消するには、価格を変動させることが必要だ。これは経済学の需給曲線の原理である。

供給曲線が右シフトしたとき、需給が均衡するには、均衡点が右下に移動するべきだが、そのためには、価格が低下する必要がある。価格の低下が阻害されていれば(価格が固定価格制になっていれば)、均衡点を移動できないので、不均衡(電力の余剰)が発生する。
逆に言えば、電力の余剰が発生するのは、価格が変動しないからなのだ。
※ この件は、前にも同じことを述べた。
→ 太陽光発電の供給過剰: Open ブログ
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大手電力会社の送配電部門を資本ごと切り離す「所有権分離」について、政府が近くまとめる「規制改革実施計画」で、「必要性や妥当性」を検討する方針が盛り込まれる見通しとなった。所有権分離は内閣府の有識者会議が求めていたが、計画では「短所」も含めて検討することから、実現は困難とみられる。
一方、大手電力と経済産業省は、各社の販売部門と送配電子会社が共有しているシステムを遮断する「物理分割」を提案した。
所有権分離は送配電子会社と販売部門の利害関係が無くなるため、物理分割より防止効果が大きいとされる。しかし、資産が切り離されるため「財産権の侵害」との指摘がある。また、大手電力は「電力の安定供給に支障が生じる」と主張しており、経産省も同調していた。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15660415.html
> 大手電力は「電力の安定供給に支障が生じる」と主張しており、経産省も同調していた。
とのことだが、事実を正反対にとらえているのは、経産省が馬鹿なのか、東電にだまされているのか。…… Openブログを読めば、わかるのに。