2023年06月02日

◆ 同性婚の違憲判決は誤報

 同性婚を認めない現行制度に、違憲判決が下った。ただし、報道には誤りがある。今回の判決は、同性婚を認めないことを違憲だとは断じていない。(条件を付けて)限定的に違憲だと言っているだけだ。

 ──

 同性婚を認めない現行制度に、違憲判決が下った。これを見て、リベラル派のマスコミが、鬼の首でも取ったかのように「勝利!」と喜んで、はしゃいでいる。だが、その報道には誤りがある。判決を誤認しているのだ。
 今回の判決では、「同性婚を認めないこと」が違憲になったわけではない。「同性婚を認めないで放置していること」(現行制度)が違憲になった。では、その違いは?
 簡単に言えば、「同性婚を認めないこと」は、違憲だとは見なされていない。それどころか、「違憲ではない(認めなくてもいい)」と明言している。
 その一方で、「認めないのなら代替措置を出せ」(同性婚は認めなくてもいいが、代わりのものを出せ)と言っている。
 つまり、「 100を出せ」という原告の主張をすべて認める必要はないが、「ゼロ回答ではダメだ」(せめて 70ぐらいの回答を出せ)と言っている。
 その具体的な策は、判決では明示していない。だが、そこで念頭に置かれているものは、「同性家族制度」(後述)のことだろう。
 つまり、次の差がある。
  ・ マスコミ報道 …… 「同性婚を認めないのは違憲だ!」
  ・ 裁判所の判決 …… 「同性婚の代替措置すら認めないのは違憲だ」


 裁判所の判決は後者であるのに、マスコミの報道は前者である。ゆえに、マスコミの報道は誤報である。

 ※ マスコミというのは、すべてのマスコミではない。本項ではとりあえず、朝日新聞をその一例として取り上げる。

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 話の趣旨は、上記ですべて述べた。以下では、マスコミの報道から実証していこう。

 (1) 朝日新聞の要旨

 下記の要旨(骨子)がある。
 ・社会情勢の変化を考慮しても、憲法が同性婚を求めるに至ったとはいえず、同24条1項に反しない
 ・重大な人格的利益を享受する法律婚から同性カップルを排除していることは疑問だ。放置することは合理性を欠き、憲法24条2項に違反する
 ・現状は、自ら選べない性的指向を理由として婚姻に制約を課しており、憲法14条1項に違反する
 ・伝統的な家族観は失われておらず、国会が正当な理由なく立法措置を怠ったとは言えない
( → 同性婚認めぬは違憲、2例目 「個人の尊厳」でも認定 国の賠償は認めず 名古屋地裁判決:朝日新聞

 これはただの要旨(骨子)なので、国語力の問題だ。ChatGPT でも可能なことだ。ここには、間違いはない……と思えたが、よく読むと、違う。間違った要旨を書いている。ChatGPT よりもひどい、とすら言える。
 1番目では、現行制度が合憲だと言っている。つまり、同性婚を認めないことは合憲である。「違憲だ」というマスコミとは正反対のことを言っている。(これは正しい要旨だ。)
 2番目では、「放置することは違憲だ」と言っている。何もしない無為無策が違憲なのであって、放置しないで何らかの措置(少なくとも代替策)を取るべきだと言っている。(これは正しい要旨だ。)
 3番目では、「現状は違憲だ」と言っているね。(これは正しい要旨ではない。)

 つまり、1番目と2番目は判決を正しく伝えているが、3番目ではそうではない。これは記者の誤認だ。

 朝日新聞には、別記事で、もう少し長い要旨もある。こちらはいっそう、ひどい状況になっている。3番目の箇所を見よう。
 14条1項は、法の下の平等を定めている。
 性的指向が向き合う者同士の婚姻をもって初めて本質を伴った婚姻といえる。同性愛者にとって同性との婚姻が認められないのは、婚姻が認められないのと同義で、性的指向による別異取り扱いに他ならない。国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ず、14条1項にも違反する。
( → 同性婚訴訟の判決(要旨):朝日新聞

 ここでははっきりと「違憲だ」と言っている。「14条1項にも違反する」という言葉で。

 こうして、朝日新聞の要旨がすべて不正確であることを指摘した。では、正確には何と書いてあったか? それは、(要約する前の)もっと長い文章を見ればわかる。下記だ。
3 憲法14条1項に違反するかについて

(1) 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定が、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきである。

憲法24条は、立法府の裁量の限界を画したものであり、婚姻及び家族に関する事項についての区別取扱いについては、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、区別に合理的な根拠が認められない場合に、当該区別が、憲法14条1項に違反するものと判断すべきである。

(2) 本件諸規定は、異性愛者であっても同性愛者であっても異性と婚姻することができるという意味で別異取扱いはなされていないが、性的指向が向き合う者同士の婚姻をもって初めて本質を伴った婚姻といえるのであるから、同性愛者にとって同性との婚姻が認められないということは、婚姻が認められないのと同義であって、性的指向により別異取扱いがなされていることに他ならない。 その別異取扱いは、性的指向という自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として、婚姻に対する直接的な制約を課すことになっているのであり、こうした事柄の性質を考慮する必要がある。

(3) このような性質を踏まえれば、既に検討したとおり、本件諸規定が、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないから、その限度で、憲法24条2項に違反すると同時に、憲法14条1項にも違反する。
( → 【判決要旨全文】 | ハフポスト NEWS

 最後には、「その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組み」とある。それは、具体的には、同性婚の代替措置のことだ。そのような代替措置すら与えていないという点で、「国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ない」わけだ。つまり、その限りで、「憲法24条2項に違反すると同時に、憲法14条1項にも違反する」というわけだ。
     ※ この「〜枠組み」は、同性婚そのもののことではない。そのことは、続く言葉に「すら」とあることからわかる。「〜枠組みすら与えない」ということは、この「〜枠組み」が、同性婚自体ではなくて、同性婚よりも弱いもの(完全回答ではなく不完全回答であること)を意味する。


 まとめると、どう言えるか? 「違憲だ」ということか? いや、「限定違憲だ」ということだ。同性婚を認めないということは、「完全に違憲だ」というわけではなく、「代替措置がない場合に限って違憲だ」ということだ。
 以上のことを、判決ははっきりと述べている。

 そしてまた、「代替措置がない場合に限って違憲だ」ということは、換言すれば、「代替措置があれば合憲だ」ということでもある。
  ・ 代替措置がない場合に限って違憲だ
  ・ 代替措置があれば合憲だ

 この二つは、論理的には同じことである。だから、マスコミは、そういうふうに報じるべきだった。まともな読解力があれば、そう報じたはずだ。
 なのに、マスコミには、まともな読解力がなかった。そのせいで、
 「代替措置がない場合に限って違憲だ」
 という判決を読んで、
 「(同性婚は)あらゆる場合に違憲だ」
 というふうに曲解した。拡大解釈した。そのせいで、本来の判決とは大きく隔たるものとなった。

 誤報。……それが今回のマスコミの報道だ。


 ※ 朝日新聞に限ったことではない。多くのマスコミが同様だ。まともに判決を読めないようだ。NHK、読売、毎日、日経、産経も、同様の誤報をしている。

 ※ 社説を見ると、大手では毎日だけが論じている。朝日、読売は、社説にはない。地方新聞では、いくつかの社説が論じている。……その趣旨はいずれも、「違憲判決が出たから、同性婚を法制化せよ」というものだ。いずれも、誤報の上に立脚して、論を立てている。


lesbians4.jpg
Stable Diffusion による画像





 【 関連項目 】

 上で「代替措置」というのが何を意味するかが問題だ。通常は「同性パートナーシップ」と呼ばれる措置があるが、これは法的権利が曖昧すぎる。というか、法的権利は何もないに等しい。
 そこで、法的権利を家族と同様にした「同性家族制度」を先に提案した。夫婦ではないが、家族ぐらいの権利は持てる、という制度だ。詳しくは下記項目で説明している。
  → 同性婚を否定せよ (逆説的に): Open ブログ

 ──

 なお、今回の判決は名古屋地裁だが、前に東京地裁でも判決が出た。そのときの話もある。下記項目だ。
  → 同性婚・同性家族制度: Open ブログ

posted by 管理人 at 23:16 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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