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東芝自身が経営していたころには、たいして成長力がなかった。なのに、中国企業に買収されてからは、きわめて好調だ。経営体制が変わっただけで、大きく変貌を遂げている。
これは、日本人の経営はダメだが、中国人の経営は優れている、ということを示唆している。では、どこがどう変わったのか?
朝日新聞が理由を探っている。
東芝が2018年に中国家電大手の海信(ハイセンス)グループに売却したテレビ事業が、22年度の日本国内の販売シェアでトップに躍り出た。同じく、東芝が16年に手放した白物家電事業も中国の美的集団の傘下ですぐに黒字化し、順調に売り上げを伸ばしている。
( → レグザ、初のTVシェア1位 東芝を離れ4年、赤字続きから「変身」:朝日新聞 )
こういうふうに紹介したあとで、理由を探る。日本人のトップにインタビューした。
赤字続きだった両事業が「変身」した背景には何があるのか。
美的傘下に入って変わったのは、やはり意思決定のスピードと投資の規模だという。「経営はとても欧米的。権限が与えられるが、その代わり責任を取る。東芝時代には家電は一事業という感じだったが、会社として自立して全てやるようになった」
東芝時代には、白物家電の優先順位は低く、設備や人への投資は絞られていたという。今は200以上の国・地域にまたがる美的の販売網も生かせる。18年12月期に黒字化し、4千億円規模の売上高の半分ほどを海外が占める。22年のエアコンの販売数は、16年比で8倍になった。
この話から、理由は推察できる。「権限委譲」だ。これが大事だ。
実は、これが大事だということは、本サイトでは前に指摘した。
日本家電企業が総崩れだ。
その理由としては……
・ 権限委譲がない
( → IT企業を発展させるには?: Open ブログ 2012年03月20日 )
東芝が液晶テレビ生産から撤退するのも、やむを得ないだろう。
ま、経営が悪かったというしかない。権限委譲などがうまく行かなくて、硬直した体制だったため、まともな開発ができなかったのだろう。
( → 東芝がテレビ自社生産から撤退: Open ブログ )
原則としては、権限委譲すべきだった。これは、次のことを意味する。
「 IT産業では、変化の速度が非常に早くて、経営の決断が迅速であることが求められる。その際、旧態依然のゆっくりした経営では間に合わない。また、高齢の経営者は時代遅れになりがちなので、若手の決断が重要となる。そのいずれにおいても、権限委譲で対処するべきだった」
具体的には……
( → 電機産業の没落: Open ブログ )
このように、権限委譲の必要性を、これまで何度も述べてきた。最初の記事は、2012年03月20日だ。このころに、経営を革新して、権限委譲をする体制にしていれば、何とかなっただろう。なのに、結局は、どうもしなかった。だから、事業を売却するハメになった。
レグザを売却したのは 2017〜2018年。白物家電を売却したのは 2016年。いずれも、2012年の4〜6年後に売却する結果となった。その間に、何とかできていればよかったが、何もできなかったのだ。
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さて。東芝や家電産業はダメだったが、権限委譲をまともにやっている産業もある。自動車産業がそうだ。主管というリーダーに権限を集約する形で、権限を大幅に委譲する体制ができている。(新車開発の詳細を、いちいち重役会議にかける必要がない。)……これについても、前に指摘したことがある。
日本の大企業はダメな企業が多いが、ただし、たまに例外はある。
(1) 略
(2)
もう一つは、自動車産業の「主管」という方式だ。主管が新車開発の全権を担って、重役たちの口出しを許さない。……こういう形があったからこそ、自動車産業は、電気系の産業と違って、国際的な競争力を保った。
( → 日本企業が成長するには )
権限委譲がまともにできている会社は日本では数少ない。
成功例の代表は、自動車会社。主管というリーダーが全権を把握するほどにも、権限委譲が進んでいる。
( → 半導体産業の育成: Open ブログ )
家電産業は、権限委譲ができないまま、衰退していった。
自動車産業は、権限委譲ができたので、衰退しなかった。……と思いきや、近年は違う。トヨタは、豊田章男が「EVに注力しない」という方針を立てて、独裁的に決断を下した。そのせいで、EV を開発する下部のリーダー(EV の部門長)というものが育たなかった。独裁者が権力を握りすぎたので、会社全体が正しい方針に進むことができなかった。「 EV を」と唱えた人は踏みにじられ、かわりに豊田章男に迎合して「水素自動車」なんて馬鹿げた部門の技術開発をしていた人が次期社長になった。
その間に、ギガプレスの開発でもしていればよかったのに、「ギガプレスは不可能」なんていう馬鹿げた結論を下していた。
トヨタのコスト計算では「ギガプレスは採算が取れない」との結論になったと筆者は聞いている。
工場を完全に一新する場合は、たとえばスウェーデンのボルボ・カーズが発表しているように1カ所の工場で済む場合には、9000トン級のギガプレスマシンを導入しても採算は取れるだろう。
しかし、トヨタの場合、海外生産拠点のすべてに導入するわけにはゆかず(そうする必要もない)、たとえばいくつかの国の工場に導入し、ほかの国の工場へは輸出で対応するとなると、輸送コストや部品関税が上乗せになってしまう。
( → トヨタが電動車戦略を見直しか? ロイター通信が報じた内容を読み解く | Motor-Fan[モーターファン] )
「輸送コストや部品関税が上乗せになってしまう」ので、コスト高になるから、ギガプレスを実施しない……という判断をしたようだ。
これはいかにも三河商人の考えそうなことだ。つまり、目先の小さな損得にこだわるばかりで、大きな流れを見失う。なるほど、「輸送コストや部品関税が上乗せになってしまう」ということで、2〜3割ぐらいのコスト高になることが見込まれるだろう。しかしギガプレスそのものが、3〜5割ぐらいのコストダウンをもたらすのだ。とすれば、いったん大幅にコストダウンされたあとでは、2〜3割ぐらいのコスト高になっても、全体としてはかえって安上がりになるのだ。
また、輸出分には「輸送コストや部品関税が上乗せになってしまう」としても、国内分にはそういうことはないから、国内分と輸出分との総和では、やはり大幅なコストダウンになる。
例示的に示そう。コストを数字で書くと:
《 従来方式 》
・ 国内分 …… 100
・ 輸出分 …… 100
《 ギガプレス 》
・ 国内分 …… 70
・ 輸出分 …… 70 × 1.3 = 91
従来方式では、100 と 100 で、200 のコストがかかる。
ギガプレスでは、70 と 91 で、161 のコストがかかる。
両者を比べれば、ギガプレスの方がずっとコスト安である。ただしトヨタは、その計算ができない。
「ギガプレスにすると、輸送コストや部品関税が上乗せになるので、3割にあたる 21 のコストが余計にかかる。21 も余計にコストがかかるのだから、コストがかかりすぎて、損をする」
こういうふうに、馬鹿げた判断をする。右手で 21 の損失が発生して、左手で 60 の利益が発生したときに、右手の 21 という損失ばかりに着目するせいで、両手を合わせて考えることができない。
愚か者というのは、そういうものだ。
[ 付記 ]
トヨタの馬鹿経営もひどいが、東芝の馬鹿経営には負ける。東芝が原子力事業を買収したあとで売却したが、その顛末はこうだ。
東芝は14日、2016年4─12月期に米原発事業関連の減損損失7125億円を計上すると発表した。
( → 東芝が米原発で減損7125億円、債務超過に メモリー事業売却も | ロイター )
巨額の金をかけて買収した会社を、タダ同然で売却したので、7125億円の損失が発生したわけだ。
では、タダ同然で売却したあと、その会社はどうなったか?
1ドルで売られた米原発会社は
昨年10月、カナダのウラン生産会社カメコなどは、米原発大手のウェスチングハウス(WH)を78億ドル(当時のレートで約1兆1600億円)で買収すると発表した。東芝が18年、たった「1ドル」で売った会社だ。
( → レグザ、初のTVシェア1位 東芝を離れ4年、赤字続きから「変身」:朝日新聞 )
7千億円で買ったものを、タダ同然で売却したが、それはあとで、1兆1600億円の価値があるものとして取引された。だったら、タダ同然で売却しなければよかったのに。
ここまで愚かな経営をするのを見ると、もはや、呆れるのを越えて、絶句するしかないね。
本日の言葉:
「トーシバ の経営は トーシロ だった」


※ どうしてこうなったか? 東芝の賃金は、もともと業界で最安クラスだったからだ。松下やシャープなどの関西系よりも安く、関東系の日立と比べても安かった。ソニーに比べればはるかに低かった。こういう低賃金の会社に、まともな人材が来るわけがない。とすれば、そのなかで出世した社長クラスもまた、同様だ。愚民の集団からは、愚民の経営者しか生まれない。それが低賃金集団のなれの果てだ。(高給を払う自動車業界とは、人材のレベルが違う、というわけだ。)
ギガプレスはぶつけてしまうと修理が出来ないと聞きます。凹んで傷ついた車体のまま走らされるのはイヤです。本当のところはどうなんでしょう?
だが、製造コストの低下があまりにも大きいので、確率的には保険代でカバーできる。新車価格が 100万円安で、保険代が 10万円高で、差し引き 90万円安……とか。
確率と期待値で計算すればわかる。額は大きくとも、事故の確率が低ければ、期待値は低い。
なお、フレームがひどく歪むほどの大事故ならば、どっちみち、廃棄するしかない。
別案として、小規模の事故ならば、元通りにはしないで、追加の補強材で強化する、という手もある。新車同然には戻らず、重量がかなり増えてしまうが、修理代は安上がりで済む。
大きなフレームの一部だけを切り取って、そこの部分だけを小さな部材で交換する(補強材付きで)という手もある。大きなフレームをあえて分割して、修理材として用意しておく必要があるが。これも、元通りにはしないで、修理車(事故車)として使うことになる。
まあ、知恵はいろいろとある。対策は可能だ。
という批判もあるが、大丈夫。廃車になると、車がすべてゴミになるわけではない。解体されて、中古部品はリユースされる。アルミ構造材や銅線は、溶解されてリサイクルされる。内装材のプラスチックも、リサイクルされそうだ。シートやエアコンなどは(他の中古車に転用されて)再利用されそうだ。
事故で廃車になる数は、あまり多くない。廃車の部品が取り外して使われることで、無駄はあまり出ないだろう。
多く走る人ならばともかく、あまり走らない人なら、車両保険には入らない方が、経済的にお得かも。(対物や対人の保険は、他車と同じだから、必要だが。)