長野の散弾銃発射事件では、警官2名が殉職した。それはなぜか? 対策はどうするべきか?
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状況がいくらかわかってきた。
パトカーが駆けつけたが、詳しい現場がわからない様子だったので、手を振って誘導した。パトカーは、畑の近くにある倉庫前に停車した。
止まったのとほぼ同時に、青木容疑者が近づき、パトカーの運転席側に立った。銃口を窓ガラスにつけるようにして、猟銃を構えた。
( → 容疑者「殺したいから殺した」 男性の目前、女性を背後から刺したか:朝日新聞 )
パトカーが駆けつけると、再び男が猟銃のようなものを持って現れ、パトカーの運転席の窓ガラスに銃口をあてて2発、撃ったということです。
( → 【詳報】長野 中野市 立てこもり容疑者「悪口言われたと思い殺した」 | NHK | 事件 )
防弾ガラスでなかったので、1発目で窓ガラスを割り、2発目は内部に銃身を突っ込んで発射したのだろう。
ならば防弾ガラスにすればよかった……と思えそうだが、現実的ではないそうだ。
今回の事件では、「男がサバイバルナイフで女性を刺した」との110番通報を受け、池内巡査部長と玉井警部補がパトカーで現場に急行し、到着したところで銃で撃たれたとみられる。2人は耐刃防護衣を着用していたが、銃撃に備えた防弾衣は着けていなかった。小山本部長は会見でその理由を問われ、「『ナイフで女性が刺された』という通報を受けていた」と説明した。
警察幹部は「銃に関する情報が全くない中での臨場だったとすれば、襲撃の状況からみて被害を防ぐのは難しかったと思う」と話す。全国で地域警察官が使用する多数のパトカーの窓を防弾ガラスにするのは、技術的にも困難だという。
( → 繰り返す地域警察官への襲撃事件 防弾ガラス導入「技術的に難しい」:朝日新聞 )
では、どうすればよかったのか?
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私がこれで思ったのは、テレビドラマの「教場0」だ。キムタク演じる教官の前で、新人警官(遠野)が奮闘する。彼は犯人を追いかけて、建物に入ったが、犯人を見失ったので、戻って、「見失いました」と教官(風間)に報告する。そのとき……
遠野は雑居ビルの入り口で黒づくめの怪しい人物を見つける。手にナイフを持っていると思った遠野は、風間の制止を振りきり、謎の人物を追いかけてビルに入って行く。しかし、「すみません! 見失いました」とすぐ戻って来た遠野は、外に出るため傘を開いた。
その瞬間、傘に鮮血が飛び散った。傘が落ちると、謎の人物が遠野の首や背中を滅多刺しにしていた。
( → 【風間公親−教場0−】ついにやって来た「雨の惨劇」 | ENCOUNT )
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新人警官は犯人を追いかけて、逆襲されて、殺されかけた。これは、今回の長野の事件に酷似する。
では、その共通点は何か?
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答えよう。その共通点は、こうだ。
「犯人は逃げるものだと思い込んでいて、逃げる犯人を追いかけようとしていた。しかし正気の犯人は、逮捕を免れるために逃げるが、狂気の犯人は、もともと死ぬ気なので、逃げようとはしない。逆に、襲いかかってくる。犯人の方が襲いかかってくるというのは、想定外のことなので、想定外のことには、対処できない」
つまり、「どうすればよかったか?」という質問には、「どうしようもない」と答えるしかない。警察においては、「防刃チョッキでなく防弾チョッキを用いるべきだった」「防弾ガラスを用いるべきだった」というような装備上の対策を考慮しているようだが、これは装備の問題ではないのだ。どんな装備をしようと無駄である。装備の穴をかいくぐって、相手は急襲してくるだろう。こっそりと隠れながら。
では、なすすべべはないのか? 何もできないと、まずい。困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「警察官の職務は、犯人の逮捕だ。だが、犯人を逮捕しようとするな。むしろ、犯人から逃げようとしろ。ここは戦場だと思え。最優先のことは、敵から自分の命を守ることだ。人質の命を守ることではない。人質を犠牲にしてでも、自分の命を守ることを最優先せよ。それが戦場における原理だ」
この原理を取れば、「現場に不用意に近づく」というようなことは、しなかったはずだ。どこから敵が現れるかわからない状況では、安易に近づけば、こっそり急襲されるからだ。そういう細心の注意をもつべきだ。それを原理とするべきだ。
ところが、現実には、そうしなかった。「敵は逃げる。敵を追いかければいい」と思い込んでいた。しかし、そういうふうに思い込むから、敵の急襲を受けるのだ。 教場0、しかり。長野の事件、しかり。
狂気の凶悪犯を相手にするときには、普通の犯罪状況(正気の犯人を相手にした状況)とは、まったく違った原理を取る必要がある。犯人を逮捕することよりも、犯人から逃げることの方が優先されるのだ。いわば、本末転倒ふうに。……この基本原理をわきまえておかないと、今後も次々と警察官の犠牲は生じるだろう。
※ 三十六計逃げるに如かず、という言葉もある。
※ 「逃げることを優先する」というのは、つまり、「敵からの攻撃(急襲)を想定しろ」ということだ。この点が、普通の状況とは違う。普通ならば、そんなことはありえないが。
※ 犯人がすでに殺傷行為をしている場合には、相手はもはや普通ではない。「窮鼠猫を噛む」の状況だと言える。「犯人が人を刺した」という報告を受けた時点で、それを想定するべきだった。「犯人がナイフを持っている」(だけ)という状況とは、雲泥の差だ。
※ 「教場0」では、新人警官が犯人を追おうとしたとき、教官は「待て」と制止したのだが、それを聞かずに、新人警官は建物に入ってしまった。教官の制止が間に合わなかったわけだ。教官の判断はいちおう正しかったが、それを告げるのが遅すぎた。彼の判断の遅れが、新人警官の被害につながった。悔やんでも悔やみ切れまい。
※ 今回の事例で言えば、「警官が愚かだった」というよりは、「警察組織における基本原則が不整備だった」と言える。簡単に言えば、「気違いテロリストへの対策ができていなかった」ということだ。「地下鉄サリンのオウムへの対策ができていなかった」という例に似ている。組織の問題であり、個人の問題ではない。
【 追記 】
被害のパトカーの画像が公開された。
→ 「ずっと孤独」一方的恨みか 親の説得に話す 長野立てこもり:朝日新聞
パトカーの運転席の窓ガラスが全面的に割られている。穴があいただけかと思ったら、窓ガラスの全面が破壊されたわけだ。
散弾銃をガラスに接触させて撃ったのかと思ったが、離れたところから撃ったようだ。いかにも散弾銃。それも、かなり強力なタイプだね。
こんなに大きな穴があくと、もはや逃げようがない。その前に、散弾銃の相手に近づいた時点で、負けになる。
※ 「かなり強力なタイプ」とは何か?
スラグは熊などの大型の獲物、バックショットは鹿などの中型の獲物、バードショットは鳥撃ちに使用されます。
( → バックショット )
今回は小粒のバードショットでなく、中粒のバックショットが使われたのだと思える。
今回の被害は痛ましく言葉もありませんが、
警察官が逃げてしまっては刃物を持った犯人から更に被害が出てしまう可能性があり、撤退という選択肢は無いかと思います。
刃物を持っている=他にも銃器などを持っているかも、と想定するしかないかも知れませんが...
> ※ 「逃げることを優先する」というのは、つまり、「敵からの攻撃(急襲)を想定しろ」ということだ。
と記してある通り。
ライオンを遠巻きにするハイエナに似ている。いつでも身をすばやく引く用意ができている。かといって撤退するわけではない。じっと見守っている。(ライオンが去ったら、残り物にあずかるためだ。)
⇒「死亡の警察官2人、拳銃装備せず 現場急行を優先か」と、今頃こんな後出し情報が出てきましたね。
https://news.yahoo.co.jp/articles/16394c2fff6a44af61133567dc068d0bfd61c9b2?fbclid=IwAR0MJQWFxB5DCTZwFYSzzDi3o3vp_heeakdY1mz-h0q5uJyk5DkAgiW90q8
こういうやり方が横行しているとしたら、本項の趣旨はどのように変わるのでしょうか。
「殺されないこと」を最優先にしていないと、重装備すればするほど、事件の状況はいっそう悪化します。下手をすれば、拳銃2丁を奪って立てこもって、警察と銃撃戦もあった。
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拳銃を装備していなかったことは、もともと考慮済みです。なので、本項の趣旨は変わりません。「装備の問題ではない」と記したとおり。
→ 長野立てこもり、助手席の警官に刺し傷 被害者4人全員が失血死:中日新聞Web
https://www.chunichi.co.jp/article/699284
銃を持っていたら、ほぼ確実に奪われていただろう。
仮に、小口径のハイスピードライフル弾だと、小さい着弾孔だけが開くのかもしれませんが、普通の散弾だと、一箇所の衝撃が全面に伝播して木っ端微塵になると思います。
つまり、ガラスの特性でそうなるのであって、強力なスラッグ弾だからではありません。
先のコメントは中径のバックショットだったのだろう、という推定だったが、これは外れた。大径のスラッグ弾だと判明した。予想はハズレ。