──
地球温暖化対策で、航空燃料をエコ化することを義務づける方針が出た。
経済産業省は26日、日本の空港で航空機に給油する燃料の少なくとも1割を、2030年から「持続可能な航空燃料(SAF)」とするよう石油元売り会社に義務づける方針を示した。
世界的な脱炭素化の流れを受けて、国際民間航空機関(ICAO)は先進国などの航空会社を対象に、24年から国際線の二酸化炭素(CO2)排出量を19年比で15%減らすことを義務づける。
ただ、国産化の課題となるのが原料調達だ。主な原料は飲食店で天ぷらなどを揚げた際に出る廃食油。世界的なSAFの需要の高まりで供給量が不足し、価格が高騰している。
( → 航空エコ燃料、義務化 給油の1割、30年から SAF:朝日新聞 )
エコ化を推進するのはいいが、そのための原料が不足している。
「廃食油を使えばいい」と思って、その方針を取ったのだろうが、廃食油の量は限られていて、もはや奪い合いだ。現状ですら、そうなのだから、この先、比率を増やせば、量の絶対的な不足にぶつかる。「義務化すればいい」というものではないのだ。
そこで、「ユーグレナを使えばいい」という案がある。だが、これは何十年も前から努力しているが、いまだにコストは石油の 100倍だ。「コストを大幅に下げます」と標榜してはいるが、100倍が一挙に 100分の1になるわけがない。そもそも、精製コストが莫大なので、どうしようもない。精製不要の微生物を使っても、大同小異である。タンク不要で大量の土地面積を使える農産物には勝てそうにない。
→ ユーグレナもどき: Open ブログ
一方、別案として、「都市ゴミから油を作る」という技術が開発された。
→ 古着やゴミをジェット燃料に変換: Open ブログ
しかし、これは将来的には何とかなりそうだが、現段階では、普通の石油由来の燃料よりも、かなり高コストになる。かろうじて2倍にはならない、という程度なので、将来的には何とかなる水準だが、現時点では競争力がない。
結局、あれもこれも、コスト的に困難だ。困った。どうする?
──
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「プラスチックの油化という技術を使って、廃プラスチック(都市ゴミで分別されたプラスチック)を油化すればいい。これによって、石油(ガソリン・軽油・灯油)を、大量に低コストで作れる」
※ ちなみに、航空燃料は、灯油にほぼ等しい。
この方法(油化)は、技術的には簡単だ。基本的には、廃プラスチックを加熱するだけで済む。
→ 油化装置について | 廃プラスチック・油化装置の企画・開発・販売|マイクロエンジニア株式会社
→ 廃プラスチック油化装置(HiCOP方式)[製品情報] | 環境エネルギー株式会社
これで問題はあっさりと片付く。めでたし、めでたし……と言える。
──
さて。ここで問題だ。こういううまい方法があるのに、なぜそれが実現していないのか? それは、欧州人の思い込みによる。
「廃食油などは、植物由来なので、地下資源(石油)を消費しない。再生可能なエネルギーであり、地球温暖化をもたらすことがない。一方、プラスチックは、地下資源(石油)を消費する。ゆえに、再生可能なエネルギーではなく、地球温暖化をもたらす」
こういう発想(一種の純血主義)を取るので、プラスチックの使用を許容しないのだ。
しかし、私はこれを否定する。
「プラスチックの使用を地球全体で禁止するという方針を併用するのならともかく、プラスチック製造における石油消費を野放しにしておいて、燃料としての石油消費だけを禁止しても、意味がない。右の穴をふさいでも、左の穴を開けっぱなしでは、何の意味もない。
だったら、プラスチック使用であぶれた廃プラスチックを油化することは、特に悪くはないのだ。どうせ規制するなら、廃プラスチックを油化することを禁止するよりは、廃プラスチックを出すこと(プラスチックを製造すること)を禁止するべきだ。禁止する方法を間違えるな」
なお、プラスチックの製造を野放しにしておいて、廃プラスチックを油化することを禁止すると、海洋に廃プラスチックがあふれて、海洋にマイクロプラスチックが漂うことになる。こちらこそ大変だ。
地球温暖化の心配ばかりをして、海洋のマイクロプラスチックを野放しにするという欧州の方針は、ちっともエコではないのだ。
──
結論。
航空燃料にエコな油を使うことを義務づけるなら、廃食油よりも、廃プラスチックからリサイクルされた油を使うべきだ。
地球温暖化阻止のために「再生可能エネルギー」ということにこだわるべきではない。燃料としての石油使用ばかりを禁止して、プラスチックとしての石油使用を野放しにするのでは、ザル規制も同様だ。頭隠して尻隠さず。
大量に野積みされている廃プラスチックを利用して、石油に戻すことは、環境にとってはいいことだ。
環境対策とは、温暖化ガスの減少だけが重要なのではない。海洋汚染の防止も重要だ。
参考。
温暖化ガスの減少の本命は、太陽光発電と風力発電だ。ここでエネルギーを生み出すことで、石油や石炭のかわりとすればいい。
一方、植物由来の廃食油を使うことは、できる範囲でやればいい。なのに、できる範囲を超えて強制しようとすると、歪みが生じる。教条的にエコ主義を強制すればいいというものではないのだ。
【 追記 】
欧州は「廃プラスチックを油化すること」を「エコではない」と否定するが、一方で、「廃プラスチックをプラスチックにすること」(ケミカルリサイクル)を「エコである」と推奨する。
だが、「廃プラスチックをプラスチックにすること」(ケミカルリサイクル)は、精製のために多大なエネルギーを食うので、元の廃プラスチックから最終的に得られるプラスチックの量が少ない。回収率は 10%台の前半に留まっているようだ。この値は、サーマルリサイクルの熱回収率( 20%台の後半)よりも、はるかに低い。それだけ、エコではない。なのに、欧州はケミカルリサイクルにこだわる。
彼らが科学的な発想でなく教条的な発想でエコを唱えている、ということの証左だ。あまりにも非科学的。
この件、前にも何度か言及した。
→ プラごみのケミカルリサイクルで環境汚染: Open ブログ
→ 熱回収はリサイクルでない? : Open ブログ
→ 日欧のリサイクル率の違い: Open ブログ
ジェットエンジンは開放系で燃料を燃やすのでカスが出やすい低品質油でも使えるのが長所です。廃食用油を使うというアイデアはそこから来ているのでしょうね。戦争中日本がジェット戦闘機に注目した理由はスピードではなく、低品質油の利用だったと聞きましたが。
自動車は EV で電気力で動かせるが、航空機は電気飛行機は開発できていない。だからどうしても石油燃料が必要だ。
それをどこからもってくるか? 石油を使うか? いや、それはまずい。となると、多少は効率が悪くても、廃プラスチックを使うしかない。
筆者はどうも、「エネルギー収支」と「カーボン収支」を完全に等価のものと考えて論を展開されているようです。そのことが如実にあらわれているのが、この【追記】の内容です……といいたいところですが、この【追記】では、さらに、まるで違うもの(量)をごっちゃにしています。
> だが、「廃プラスチックをプラスチックにすること」(ケミカルリサイクル)は、精製のために多大なエネルギーを食うので、元の廃プラスチックから最終的に得られるプラスチックの量が少ない。回収率は 10%台の前半に留まっているようだ。この値は、サーマルリサイクルの熱回収率( 20%台の後半)よりも、はるかに低い。それだけ、エコではない。なのに、欧州はケミカルリサイクルにこだわる。
ここで、単位は同じパーセントでも(同じ無次元量でも)、プラスチック(いわばカーボン)の回収率のパーセントと、熱(エネルギー)回収率のパーセントとでは、意味合いがまったく異なります。
※ 前者はkg/kgで、後者はJ/J。
それはわかっておられるかもしれませんが(前者を変換して、後者と同じエネルギーでの回収率にそろえたのがその値なんだよと反論されるかもしれませんが)、その「10%代前半」と「20%台後半」という数字を比較するにおいても、
(プラスチック1kgをリサイクルで作るのに必要なエネルギー)=(プラスチック1kgを燃やして取り出せるエネルギー)
という等式が成立していないと、これらの数字を、「回収率」という次元で比較することには、最初から意味がありません。
私は、筆者のいう「ケミカルリサイクルというやり方は、エネルギー収支的にみれば、サーマルリサイクルのそれよりも収率(回収率)がぐんと少ない」という趣旨自体には、「たぶんそうだろうな」という気がしています。しかし、やはり、主張のプロセスがおかしい気がします。
それと、前の記事にコメントした内容と同じく、欧州各国は、「カーボンニュートラル的にはケミカルリサイクルには意味がある」と思っているから、それにこだわっている≠フではないですか? 少なくとも、「教条的な発想でエコを唱えている」と決めつけるのに十分な材料は本項中には提示されていないように思われますし、ましてや、「10%代前半≠ニ20%台後半≠フ大小を認識できないほど非科学的だ」とは信じられません。
燃料としてのプラスチックの量(kg)
が等価ではない、というご指摘ですね? それは別にいちいち区別する必要はありません。それぞれを作るときの石油使用量を比較すればいい。
そして、その石油使用量の削減効果は、単に比率だけで見ればいいので、石油から最終品(プラスチック製品・燃料)への変換効率の違いを考慮する必要はありません。つまり、
> (プラスチック1kgをリサイクルで作るのに必要なエネルギー)=(プラスチック1kgを燃やして取り出せるエネルギー)
は、必要ありません。どっちにしても、2割減ならば2割減の効果があるので、変換効率の違いは無視して構いません。
そもそも、削減効果を言うなら、燃やすときにだけ排出するのであり、単にプラスチック製品を作るだけでは(製造過程のエネルギー消費を除けば)炭酸ガスは排出されません。海洋が汚染されるだけです。
──
製品として廃棄されるプラスチックによる汚染
燃料として燃やされるプラスチックによる炭酸ガスの排出
この二つは別次元のことですが、どちらも削減する必要があるので、どちらにしても、2割減というような削減効果は大切です。
別次元の話ではあるが、削減の比率だけは同次元で比較ができます。