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少子化対策をするのはいいが、財源が問題だ……という話は、前に述べた。
→ 異次元の少子化対策 .1: Open ブログ
→ 少子化対策は金ではない: Open ブログ
→ 少子化対策のペテン: Open ブログ
このあと最近になって、財源として、「社会保険料への上乗せ額を、国民1人あたり月500円」という案が出た。
「異次元の少子化対策」をめぐり、政府が財源確保のために検討する社会保険料への上乗せ額について、国民1人あたり月500円程度と試算していることがわかった。
財源の1兆円程度は社会保険料に上乗せする「支援金制度」を創設して賄う考えだ。具体的には医療保険の活用を検討。会社員らが入る健康保険組合や協会けんぽ、自営業の人らの国民健康保険、75歳以上の後期高齢者医療などを含め全世代に負担を求める。
試算によると、支援金として1兆円規模を確保するには、国民1人あたりの平均負担額は月500円程度。会社員の場合、医療保険料は事業主と折半し、企業も1人あたり500円程度の負担増となる。
( → 社会保険料、月500円上乗せ 少子化対策の財源 政府試算:朝日新聞 )
これを受けて、島根県知事が批判した。
「(財源が報道ベースで)社会保険、具体的には医療保険だと思うが、個人で月500円上乗せをする。人頭税みたいですよね。サッチャーが目指した人頭税。著しく逆進性が強い負担・やり方で適当でないと思います」
「若い人も500円、私は高い報酬をいただいていますが、私も500円。何かおかしいでしょ」
( → 「経団連の会長の言っていることを聞いていたら日本は滅びる」「世も末」 島根県・丸山知事 少子化対策の財源「社会保険料上乗せ」「消費税」議論を批判 | BSSニュース | BSS山陰放送 )
これを見て、はてなブックマークでは、「正論だ」「よく言った」と大歓迎の嵐だ。
→ はてなブックマーク
はてなブックマークには誤読ばかりがあふれている、ということが、ここでもよくわかる。
島根県の言い分は正しくない。なぜなら、それはただの誤読だからだ。
「社会保険料のアップが月 500円の定額」
ということは、まったく成立しない。記事にはこうある。
国民1人あたりの平均負担額は月500円程度
平均額が 月500円なのであって、一律に 500円なのではない。では、具体的にはどのくらいの額か? それは、前に示したグラフを見ればわかる。

出典:Twitter
年収 1000万円ぐらいまでは、ほぼ定率(ただし逆進性をいくらか含む)である。大雑把に言えば、「ほぼ所得に比例」である。いくらかは「定額」の傾向もあるが、大雑把に言えば、「ほぼ所得に比例」と言っていいのだ。「一律に 500円」というのとは大きく隔たっている。
とはいえ、これは、「政府の方針は最悪ではない」というぐらいの意味でしかない。「社会保険料の値上げ」という方針自体は、逆進性をいくらか含むので、好ましくない。この件は、先に述べたとおり。
→ 異次元の少子化対策 .1: Open ブログ
では、かわりにどうすればいいのか?
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ここで、別案が出た。
「高校生にも児童手当を出すが、扶養控除を廃止する」
という案だ。
→ 扶養控除見直し案浮上 18歳まで児童手当拡充の場合 少子化対策 | 毎日新聞
原案によると、1兆2千億円を児童手当の拡充にあてる。新たに支給対象とする高校生には、中学生と同じ月1万円を支給する方針だ。ただ、高校生がいる世帯を対象とした扶養控除の見直しを検討するとしている。
( → 児童手当、高校生に月1万円・所得制限は撤廃 少子化対策の原案判明 [岸田政権]:朝日新聞 )
この案のモデル計算によると、「年収 850万以下の子育て世帯は得をして、年収 850万以上の子育て世帯は損をする」というふうになるそうだ。
児童手当をもらっても、実質マイナス、つまり負担増となるのは、年収850万円あたりだ。
( → 児童手当拡充の一方、扶養控除廃止の可能性も 年収いくらだと実質マイナスになるのか? )
これをどう評価するべきか?
単純に見ると、850万円で若干の損だが、それ以下の年収では得になるので、全体としては低所得者が得になる。だから、やった方がよさそうに見える。
だが、「高所得者が損をする」というのが、子育て世帯だけに限られるという点は、よろしくない。どうせならば、子育て世代意外にも、負担を強いるべきだ。そうすれば、子育て中の家庭ばかりが負担増になる、ということはないので、子育て中の家庭の負担増は緩和される。
具体的には、たとえばこうだ。
・ もっと一般的な増税(累進課税)をする
・ 児童手当の給付額をもっと増やす
こうすると、かなりの高所得者でも、子育て家庭では得をする。一方、子育てをしていない家庭は、損をする。
では、そのような方式は、具体的にはどうするべきか? 特に、
「もっと一般的な増税(累進課税)をする」
というのは、何をするべきか?
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ここで、新たに提案しよう。消費税の増税だ。具体的には、こうだ。
「食品の軽減税率を廃止する。8%から 10%にアップする」
こうすれば、持ち帰りかどうかで税額が変わるというような、面倒臭いことがなくなる。イートインが廃止された、という問題もなくなる。
もちろん、その分、食品の税額は上がるが、月額で1人2.5万円だとしても、その2% は 500円だ。この値は、政府の言う「社会保険料の値上げ」(月 500円)と同程度だ。
社会保険料の値上げだと、低所得者にとっては、ただの「所得比例」よりも不利になる。だが、食品の消費税アップなら、低所得者にとっては、ただの「所得比例」とあまり変わらない。
だから、社会保険料の値上げよりは、食品の消費税アップの方が、好ましいのだ。さらには、変に面倒な区分もなくなるので、楽になる。
- ※ 社会保険料や消費税の、所得との関係は、上のグラフで確認できる。年収 800万円までの 消費税負担(黄色) と 社会保険料負担(オレンジ色)を比較すればいい。
※ 「高所得者も低所得者も、食費はあまり変わらない」という説は、イギリスやドイツのような粗食の国では成立するだろうが、日本のような美食の国では成立しない。日本では低所得者は粗食だが、高所得者は美食を満喫するので、寿司や和牛など、高額な美食に多額の金を支払う。その分、多額の消費税を払ってもらえばいいのだ。
※ ちなみに、寿司の出前は、現状では軽減税率が適用されている。金持ちに軽減税率。
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さらに、付随して、次のことを併用するといい。
「超高所得者の所得税を増税する」
具体的には、税率アップよりも、分離課税の廃止がいい。これだと、年収1億円以上の超高所得者ばかりが税優遇を受ける、という不公平がなくなる。
そして、そのことで、高所得者以外に回す金が増える。たとえば、社会保険料を(値上げどころか)値下げできる。
政府は、少子化対策の財源として、「社会保険料を値上げする」という方針を出した。だが、私の案ならば、「社会保険料を値下げする」という方針を出せるのだ。
※ ただし、食品の消費税は上がるので、得するばかりではないが。
※ それでも、子育て世帯では、かなりの得をすることになる。(中高所得者も)
[ 補足 ]
「法人税のアップ」という手もある。特に、「中小企業の法人税のアップ」だ。
現状では、中小企業への優遇がある。だが、これは、やめた方がいい。これのせいで、中小企業の経営者は極端に優遇されるようになった。
日本は、生産性の低い中小企業を優遇しすぎるから、生産性の低い企業の比率が高まって、日本全体の生産性を下げている。中小企業をたくさんつぶして、大企業に衣替えさせることで、労働者を中小企業勤務から大企業勤務へ移行させるべきだ。そのために、増税を有効利用するといい。
[ 付記1 ]
食品の値上げだと、「自炊しないで、外食ばかり」という独身者には、影響しない。その分、貧しくて時間のない非正規雇用の若者には、有利だと言える。彼らにとって有利な分、結婚しやすくなって、少子化解決の効果が少しはありそうだ。少しぐらいは。
※ 根本的には、企業の非正規虐待を廃止する必要があるが。
→ 少子化の対策 .2(企業責任): Open ブログ
→ 少子化の対策 .3(企業改革): Open ブログ
[ 付記2 ]
消費税の軽減税率は、公明党が必死になって導入した制度。これを廃止するとなると、公明党が大反対しそうだ。
しかし、今は公明党と自民党が大喧嘩しているから、これを廃止するチャンスである。ただの廃止だと、国民の不評が寄せるが、社会保険料の値上げとの相殺なら、不評を免れるだろう。