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富士通のバグがひどいのは、品質管理ができていないからだ。
一方、「日本企業は優れている」とかつて言われたが、それは日本企業が品質管理(QC)をやっていたからだ。それを教えたのは、デミングである。

日本企業が優れていたのは、日本人の独創性があったからではなく、独創的な米国人の教えに従うという素直さがあったからだ。
そして、日本企業の成功を見た米国企業が、日本企業の真似をして、デミングの教えを請うようになると、日本企業の優位性も消えた。
特に最近では、デミングの教えをすっかり忘れている企業が多い。そのせいで、品質管理がまったくできていない。
・ 三菱自動車の不正
・ 三菱電機の不正
・ ダイハツの不正
こういう不正がはびこっていた。さらに、不正ではなくとも、品質の低下がもろに出たのが、富士通のバグ(前項)だった。
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ここで、デミングの業績を紹介しよう。Wikipedia による。
その日本への影響でよく知られている。彼は1950年から日本の企業経営者に、設計/製品品質/製品検査/販売などを強化する方法を伝授していった。彼が伝授した方法は、分散分析や仮説検定といった統計学的手法の応用などである。デミングは、製造業やビジネスに最も影響を与えた外国人であったため、日本では以前から英雄的な捉え方をされていたが、アメリカでの認知は彼の死の直前にやっと広まり始めたところであった。日本での工業製品の成功がデミングに負うところが大きいと知ったアメリカ工業界は、今さらながら教えを請おうとした。
日本の製造業者はデミングの技法を広く適用し、コスト削減により、日本製品が世界を席捲することの要因の一つになった。
( → W・エドワーズ・デミング - Wikipedia )
Wikipedia には、彼の教えが 14のポイントにまとめられている。
- 競争力を保つため、製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る。最高経営者がその責任者を決める。
- 新しい哲学を採用する。我々は新たな経済時代にいる。遅延、間違い、材料の欠陥、作業の欠陥などの一般常識となっている水準には満足できない。
- 全品検査への依存を止める。品質は統計的手法で向上させる(完成後に欠陥を見つけるのではなく、欠陥を防止せよ)。
- 価格だけに基づいて業者を選定することを止める。価格と品質によって選定する。統計的手法に基づく品質保証のできない業者は排除していく。
- 問題を見逃さない。全体(設計、受け入れ材料、製造、保守、改良、トレーニング、監視、再教育)を継続的に向上させるのがマネジメントの役割である。
- OJT の手法を導入する。
- 職場のリーダーは単に数値ではなく品質で評価せよ。それによって自動的に生産性も向上する。マネジメントは、職場のリーダーから様々な障害(固有の欠陥、保守不足の機械、貧弱なツール、あいまいな作業定義など)について報告を受けたら、迅速に対応できるよう準備しておかなければならない。
- 社員全員が会社のために効果的に作業できるよう、不安を取り除く。
- 部門間の障壁を取り除く。研究、設計、製造、販売の各部門の人々は様々な問題に一丸となって対応しなければならない。
- 数値目標を排除する。新たな手法も提供せずに生産性の向上だけをノルマとしない。
- 数値割り当てを規定する作業標準を排除する。
- 時間給作業員から技量のプライドを奪わない。とりわけ年次・長所によって評価することや目標による管理は廃止する。
- 強健な教育プログラムを実施する。
- 最高経営陣の中で、上記13ポイントを徹底させる構造を構築する。
このようなことをきちんと学んでいたら、富士通で起こったバグは回避できただろう。
まあ、それができないから、不治痛なんだが。
[ 補足 ]
富士通がやったことは、1993年に始まった「能力主義」だった。これは、経営者が経営の責任を取るかわりに、労働者に責任を負わせるものだった。
「きみたちには権限を与えることはないが、責任だけは取ってもらう」
というふうにした。つまり、業績の悪化を、賃下げの形で、社員に負わせた。
こうなると、社員は意欲的なことをする気をなくして、ひたすら「失敗を避けよう」と思うだけになって、無気力が蔓延した。
以上のことは、上記の 14の方針とは正反対だ、とわかる。デミングと正反対のことをやれば、業績が大幅に悪化する、ということを、富士通は見事に体現したわけだ。
[ 付記 ]
デミングの方針をさらに突き進めたのが、QC の発展形である TQC だ。
また、別の形で突き進めたのが、トヨタの カイゼン だ。これは圧倒的な効果をもたらして、トヨタを世界一の自動車会社にのし上げた。そこで、これをもって「トヨタの経営は世界一だ」とヨイショする人もいる。だが、トヨタが優れていたのは、経営が優れていたからではない。カイゼンをする労働者が頑張ったからだ。労働者の努力が優れていたからだ。ここを勘違いしてはならない。
※ ただし、その成果を労働者にろくに分配しないで、自分で独り占めしたのが、トヨタという会社だ。労働者の金を奪うのがうまかっただけ、とも言える。(まともに配分しなかったおかげで、多額の利益を上げることができた。)