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まともな法的知識を知らないと、強欲な反社的な相手に脅されて、莫大な金を支払うハメになることになる。そういう実例があった。自治体が 1900万円を脅し取られたそうだ。
茨城県神栖市の沿岸部を通る通称「シーサイド道路」。銚子方面から鹿島臨海工業地帯に向かう通勤ルートともなっていたおよそ20キロの道路です。この道路の一部が私有地だったため、通行料4万円を請求されるなど、周辺の住民の生活に大きな影響を及ぼしてきましたが、最近、事態が急展開しました。
市は私有地と認定された道路の買い取り交渉をしてきましたが、難航。過去には数億円を要求されたこともあるといいます。
今年に入って事態は動きました。 神栖市は地権者の男性に対して、和解金1900万円を支払うことで合意しました。
( → 15年以上トラブル…“通行料4万円”道路に急展開 “和解金1900万円”神栖市の所有に )
イヤガラセをして通行止めにする、という反社的な行為だ。あげく、ごね得を許す。まったく、ひどい話だ。税金の無駄遣い、というだけでなく、反社に金を与えるということ自体が、悪への加担だ。(こんなことをやる人間は、たいていは暴力団みたいな連中である。)
とはいえ、いくら悪党であるからといって、相手の財産を勝手に奪い取るわけにも行かない。日本では私有財産は憲法で保障されており、国家が勝手に没収するわけには行かない。
あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「そこは法律知識に頼ればいい。弁護士に頼め」
すると、どうなるか? 弁護士はこう答える。
「それは法律によって守られています。権利の濫用を禁じる、というものです」
では、権利の濫用を禁じるとは、どういうことか? それは、次の記事が参考になる。
宇奈月温泉は……黒部川上流の黒薙温泉から引湯管(木管)で湯を運んでいた。しかし、木管がかすめる約2坪の土地について、利用の承諾を得ていなかったという。
このことを知った人物が土地を購入し、温泉を運営する黒部鉄道(現在の富山地方鉄道)に対し、木管を撤去するか、隣接する土地を含めて高額で買い取るよう要求。
黒部鉄道が断ると、木管の撤去と立ち入り禁止を求める訴えを起こした。最高裁の前身である大審院は35年、双方の利益を比べ、土地所有者が権利を行使する目的を踏まえて「権利の濫用」として訴えを退けた。
大審院が「権利の濫用」を明示した初の事件で、その後の民法改正で、民法1条3項の「権利濫用の禁止」が規定されるきっかけになったという。「権利の行使は常に正しいわけではないことを示し、濫用を認めないことを周知した価値のある出来事だった」と話す。
( → 民法の「聖地」、お守りでPR 富山・宇奈月温泉、「権利ノ濫用除」:朝日新聞 )
この事例とほとんど同じなのが、冒頭の事例だと言えるだろう。いや、道路の通行の公共性からして、いっそう強く「権利の濫用」であると判定できるだろう。
したがって、今回の件は、弁護士に依頼すれば、簡単に解決が付いたはずだ。つまり、裁判を経ることで、適切な金額に減額されることになる。通常、長い裁判にはならず、裁判所の勧告で和解になるだろう。その場合、妥当な額で決まるはずだ。だから、ど田舎の狭い土地に 1900万円も払う必要はない。弁護士手数料を込みにしても、大幅に低い額になったはずだ。
これにて解決。
[ 付記 ]
ちなみに、民間の住居でも、私道の通行権というものが認められている。道路から離れた民家と、道路とが、私道で結ばれている場合、その私道を勝手にふさぐことは許されない。民家の生活権を保護するためだ。(ただし通行は適度に有料。)
→ 私道通行権とは?私道の通行トラブルの解決方法を弁護士が徹底解説
【 追記1 】
コメント欄に指摘が来た。
前提が間違っているのではないかと思い、誰も指摘しないので書き込みします。
1900万は和解金で、それとは”別に”
土地の買収費用で1150万、建物移転保守が950万では?合計すると4000万。
なるほど。ごもっとも。
【 追記2 】
さらに、別の指摘が来た。すぐ前の話を全否定する。
「和解金"1,900万円"で市が購入」との小見出しがあります。
ですから、この場合は、土地の買い取り代金も、建物の移転費用も、(あれば)その他の損害賠償金や慰謝料も全て含んで1,900万円だとの解釈が妥当だと思います。
なるほど。ごもっとも。こっちの方が正しそうですね。
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※ 結局、二転三転してしまったが、いずれにしても、数字が異なるだけなので、本項の趣旨には変更がありません。
これにて解決。
⇒ 約1,900万円?の内訳は、下の記事によると、
・問題の私有地の買収費用が、約1,150万円。
・この(権利の濫用をしていた)男性所有の建物などの移転補償ぶんが、約950万円。
※これだと合計で約2,100万円なので、それぞれ少し値切ったのでしょうか。
https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=16777594866152
それで、問題の私有地の面積が重要だと思うのですが、下の記事によると約1,000坪(道路部分を含む全体の面積)だそうです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/993fd0b4e522f650737d62ccad49ec6e9cb1e515?page=2
過去にも、土地の権利確定に関して男性と自治体との間で裁判沙汰(二審で男性勝訴)があり、話がこじれているので、厳密に道路にかかっているぶんだけを買い取ることは無理だったのでしょうね。
いずれにせよ、約1,000坪で約1,150万円の買い取り額なら、1坪あたり1万円ちょっとですから、いかに「田舎」の「街はずれ」だとしても、これが相場かもしれません。
それと、今回相手側と和解が成立したのは、上のひとつ目の記事によると、この問題の男性(71歳)の父親(実際の地権者)が亡くなって、この男性が土地を相続したことがきっかけのようですね。たぶん、地権者の父親(90歳以上?)ではなく、この男性自身が通行止めや通行料の徴収をしていたようですから、男性の心境がどのように変わったのかはわかりませんが、この機を逃さずに和解交渉を進めた市側は、まあまあの仕事ぶりではないでしょうか。たぶん、間に弁護士は入れていたでしょうし。
約1,000坪は保有している面積であって、売却した面積ではないのでは? 売却した面積はもっとずっと少ないはず。引っかかるのは 80メートル分だけだし。
土地にこだわりがあるなら、そのままずっと保有していそうだし。
道路沿いの土地は、高い利用価値があるので、売却したとは思えない。安く売却したら、大損だ。ケチな人がそんなことをするはずがない。(他人に売る方がずっと高く売れる。)
そうでないとしても、抱き合わせで売却するというのでは、権利の濫用は免れない。
この場所は、動画やマップで観る限り、ほぼ砂浜の中を道路が通っているようなところで、道路沿いに民家などの建物もほとんどなく、「高い利用価値がある」という感じではありません。ちょっと、どこの記事だかはわからなくなってしまいましたが、坪1万円くらいが相場だと書いてありました。
そういう場所の、わずか数十坪とかを、1,000万円くらいで売りつけたんだ、権利の濫用だ、ということでもないでしょう。
200〜300坪に坪1万円なら、200〜300万円。なのに実際に払った金額は 1900万円。6〜10倍もの金を払っている。
道路以外の土地をくっつけたり、必要もなさそうな移転補償をくっつけたりして、余分な名目で金を払っているようだ。
本来ならば、250万円に迷惑料 100万円で、合計 350万円が妥当だろう。余計な土地は購入しないし、移転補償は無関係。
そもそも、プレミアムが倍以上にならないと、こういう強欲な人は納得しないと思う。
あと、4万円を徴収したり、通行止めにしたりするのは、明白に「権利の濫用」です。
金額そのものは、「権利の濫用」ではなく、「不当利得」というものでしょう。
p.s.
そもそも、道路ができたことで、この地主は滅茶苦茶に得をしているんだよね。ただの過疎地が、道路のある土地になったんだから。
坪単価は数倍〜数十倍に上がったはずだ。道路開通前の単価で計算すれば、坪 1000円ぐらいかも。
1900万は和解金で、それとは”別に”
土地の買収費用で1150万、建物移転保守が950万では?合計すると4000万。
かわっこだっこ氏のリンク記事を見ても、その他の記事を見てもこのようにしか読めません。
>同市が地権者に和解金(解決金)1900万円を支払うことで両者が合意した。
>私有地の買収と長男所有の建物などの移転補償に着手する。想定する費用は、約1150万円と約950万円。
最後に 【 追記 】 を加筆して、そこで言及しました。
地権者は旧波崎町を相手取り、土地の境界線をめぐって裁判を起こした。1審は敗訴したが、控訴審で逆転勝訴し道路部分を含む約1000坪が私有地として認められた。地権者は買収交渉に応じなかった、理由として8年に及ぶ裁判で全財産を使い果たした。
じんさんのご指摘についてですが、下の記事(テレ朝News)では、「和解金"1,900万円"で市が購入」との小見出しがあります。また、この1,900万円は、市が補正予算を計上してそこから支出するようですが、じんさんが言われるように総額で4,000万円を市が支払うとしたら、その4,000万円を計上したと書かないと変です。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000298999.html
なお、一般に和解金または示談金の意味は、どちらも、「私法上の紛争について当事者間で合意した金額」のことです。和解金や示談金は、当該紛争に関する「全般的な解決金」ですので、通常、損害賠償金や慰謝料などの全ての金額が含まれます。ですから、この場合は、土地の買い取り代金も、建物の移転費用も、(あれば)その他の損害賠償金や慰謝料も全て含んで1,900万円だとの解釈が妥当だと思います。
なるほど。それも、ごもっとも。最後に書き足しておきました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/fecbab799431c63f51458671f117e04220b071b4
地権者には和解金として1900万円、土地代と地権者が建てた監視小屋の撤去費用として2100万円の合計約4000万円を支払った。
>権利の濫用にあたると思いますが、なぜ裁判で認められなかったのでしょうか。
権利の濫用ではないからですよ。
所有者は少なくても土地取得時は背信的悪意もなく、正当に土地を取得していて
登記簿も所有者であることを認めています。
道路を通れない弊害も数分遠回りするだけ。
市が後出しジャンケンで「記録はないけど市の土地だから無料で引き渡して出てけ」と言っても通るわけがありません。