──
朝日新聞の記事がある。
(電力の)使用量より発電量が多くなるときに受け入れを止めるのが「出力制御」だ。休日で大量の電気を使う工場が稼働せず、晴れて太陽光発電が多くなる日が想定される。冷暖房需要が減る春や秋が特に多い。
国のルールでは、まず二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、出力を上げ下げしやすい火力の発電量を限度まで減らし、余った電気を他の地域に送る。次にバイオマス、太陽光・風力の順で再エネを抑える。出力を簡単に調整できない原発は順番としては最後となる。
出力制御は、太陽光の導入が早かった九州が、本土では2018年に初めて実施。再エネの急増で、22年春以降に他の地域にも広がった。
再生可能エネルギーを使い切れずにムダにしているのに等しく、普及に向けた課題となっている。
国や大手電力は2050年までに最大7兆円を投じて送電網を強化する方針だが、整備までには時間がかかる。蓄電も電池のコストが課題だ。
出力制御を「オンライン化」することで、制御量を減らす対策もある。オンラインなら、大手電力の作業だけで発電を止められるため、電気の使用量に応じた制御ができる。
(だが、)オンライン化のための機器は発電事業者が設置しなければならず、その費用もネックだ。
( → 太陽光が急に増えて…電気を「捨てる」出力制御、全国の大手電で拡大:朝日新聞 )
太陽光発電は、夏の正午ごろに発電量が最大となる。このとき、電力需要も同じように増えればいいのだが、そうはならない。夏の電力需要のピークは午後1〜4時である。そこで、正午ごろには、電力が過剰になる(余る)ことがある。
つまり、供給のピークと需要のピークとが、時間的にズレがあるせいで、供給が需要を上回る(供給過剰になる)ことがある。
そういうことは、すでに九州では発生していた。
→ 九電管内は既に電力供給過剰 再エネ増え過ぎ出力制御 発電量調整不能な太陽光や風力
→ 九州で原発4基分がムダに なぜ再エネ電力は捨てられるのか? | 毎日新聞
→ 太陽光で電力供給過剰が問題に、九電が急ぐ火力制御の次の一手|日刊工業新聞社
→ 再エネがもったいない!広がる太陽光発電の停止・出力制御 NHK
こういうことは、九州では前から起こっていたが、最近では九州以外でも起こるようになった。さらには、関電や東電のような大手電力の管内でも起こりそうだ。(記事による。)
そこで、この「供給過剰」という状況を防ぐために、「出力制御」という方法が取られた。つまり、大元の太陽光パネルの側で、発電量を意図的に絞るのだ。そのための制御装置を、「パワーコンディショナー」(PCS)という。かなり高価な機械である。この件は以前、下記項目のコメント欄で詳述した。
→ 水素社会を推進するべきか? .1: Open ブログ
とはいえ、この方法は「電気を捨てる」というのと同じであり、とても無駄が多い方式だ。記事中にも、こうある。
再生可能エネルギーを使い切れずにムダにしているのに等しく……
そこで、記事では「オンライン制御」という方式が推奨されているが、これは、出力制御を人手でなく機械でやる、というだけのことだ。それで節約できるのは、人手の手間だけである。「使われずに消えてしまう電力エネルギー」という大量の無駄がある問題は、解決されないままだ。
そこで政府が考えたのが、「地域間送電」という方式だ。しかしこれはコストが莫大にかかる。上の記事中にも、「送電線に 7兆円」という巨費が示されている。これは、発電所の新設よりも、はるかに巨額である。あまりにも馬鹿げている。
特に地域別に考えると、(九州の)関門連系線は問題が少ないが、(北海道の)北本連系線は途方もない無駄である。詳細は、下記項目で示した。
→ 地域間送電線の計画: Open ブログ
というわけで、オンライン制御もダメだし、送電線もダメだ。あれもこれダメだ。困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。というか、前に何度か示したことがある。こうだ。
「 EV の蓄電池に蓄電する。現在の日本では、EV の普及率が低いので、EV のバッテリー総量も少ない。しかし、EV が普及すれば、大量のバッテリーが家庭に置かれるのも同然となる。そのバッテリーに、過剰な電力を蓄電すればいいのだ」
この方式で十分に足りることは、計算上、わかっている。電力の供給過剰の量よりも、EV に蓄電できる量の方が、かなり大きいので、余剰の電力を吸収できるのだ。
※ その計算は、下記で示されている。電力の変動の数十倍の充電能力が、EV のバッテリーにある。(ただし EV 普及率が高いことが条件だが。)
→ EV 蓄電の問題(太陽光発電で): Open ブログ
──
原理的な話は、上のことで済む。「余剰な電力を EV のバッテリーに蓄電すればいい」と。
とはいえ、これを実現するためには、大きな問題がある。それは、技術的な問題ではない。制度的な問題だ。
つまり、やるべきことはわかっているのだが、やるための制度改革ができていない。政府の頭が古すぎて、時代の流れに追いつけない。そのせいで、まともな対処ができないでいる。
それは何か? こうだ。
「電力が余っているときに、余っている電力を EV に蓄電するように仕向けるための制度ができていない」
具体的には、こうだ。
「余っている電力を EV に蓄電するように仕向けるには、余っている電力の価格を下げればいい。なのに、価格を下げようとしない」
つまり、電力が余っているときに、電力の価格を下げないから、電力の需要が増えない。そのせいで、供給過剰になるのだ。
そもそも、市場原理では、「供給が過剰になれば価格が下がる」という需給曲線の原理が働く。すると、価格調整を通じて、供給と需要が一致する。

ところが、今の電力制度では、電力の価格は一定である。時間ごとに電力価格が変動することがない。(深夜電力という制度はあるが、それは限定的なものだし、利用している人も少ない。)
だが、本来ならば、「電力が過剰になる日の、電力が過剰になる時間帯」に限って、特別に低価格になるように、価格を割り引くべきなのだ。そうすれば、その時間帯にだけ、電力需要が増える( EV に蓄電する)ようになる。このことで、供給過剰という問題が解消する。
このように「時間ごとに電力の価格を変える」ということは、昔ならば難しかった。しかし今ならば、スマートメーターというものが普及している。これを使えば、「時間ごとに電力の価格を変える」ということが可能である。
だから、スマートメーターを使って、電力価格を可変的にすることで、「電力の供給過剰」という問題は、一挙に解決するのだ。……この方法のためには、7兆円もの巨額の金は必要ないのだ。( 7兆円の送電線を新設するのとは違う。)
上に、解決策を示した。ただし、現実には、それが実現していない。なぜか? 政府や電力会社の頭が悪いからだ。それは、三菱重工が MRJ で失敗したのと同様だろう。頭が悪いせいで、失敗するに決まっている道を、あえて進むのである。「これこそ正しい」と盲信しながら。
愚か者というのは、そういうものだ。だからこそ、日本は世界的にも、あまりにもひどい EV 後進国となってしまったのだ。(トヨタが代表例だ。)
──
なお、電力価格を一時的に下げるというのは、賢明な方式だ。なぜなら、そのための費用がほぼゼロで済むからだ。
「でも、価格を下げると、その分、電力会社の収入が減ってしまうぞ」
という反論もありそうだが、大丈夫。次の二点が理由だ。
・ 電力会社が損しても、消費者が得をするので、国全体では損得なしだ。
・ 一時的に価格を下げたら、その分、他の時間帯の価格を上げてもいい。
(この場合には、電力会社は損得なしだ。)
[ 付記1 ]
本項の話は、前項の話と関連する。
前項では、「支援金が過剰であるので、(価格が低すぎて ) 市場原理が歪む」という話をした。
本項では逆に、「価格が硬直しているので、(価格が高すぎて ) 市場原理が歪む」というふうになる。経済学用語で言えば、「価格の硬直性」のせいで、需給の不均衡が発生するのだ。
その解決策は、「価格の硬直性」を排除して、柔軟な価格変動を許容することだ。
[ 付記2 ]
電力で供給不足になると、まともに電力を供給できないせいで、電圧低下が起こったすえに、地域の一帯がすべて停電になることがある。これを「ブラックアウト」という。苫小牧の地震のときに起こったことがある。
一方、太陽光発電が供給過剰のせいで、電圧上昇が起こったすえに、地域の一帯がすべて停電になることがある。これは「ホワイトアウト」と言えそうだ。まあ、停電という意味では、ブラックアウトと言うべきなのかもしれないが。
【 関連項目 】
→ 余剰な太陽光電力をどうする?: Open ブログ
→ EV 蓄電の問題(太陽光発電で): Open ブログ
→ 全量買い取りの問題(太陽光発電): Open ブログ
わかりやすく言えば、「あなたが一日に運転する時間は何時間ですか?」と問えばいい。毎日通勤に使っている人でさえ、朝晩 30分程度でしょう。それに休日の1時間が追加される程度。残りのほとんどの時間帯は、休止中です。
したがって、すべての自動車(自家用車)の 8〜9割は、停止中だと見込めます。
※ 業務用は別。
ただし、充電できる量には限度があるので、23時間ずっと充電し続けるわけには行かない。充電する時間帯を指定する必要がある。
通常は夜間電力が安いので、夜間に充電します。しかし昼間の発電ピーク時に電力が安くなれば、そのピーク時に充電するようになります。
ただしそのためには、時間帯を指定するタイマーが必要となる。制度が整えば、時間帯指定のタイマー付きの充電器が標準化されるだろう。
実は、タイマーで充電の有無を指定するのではなく、電力会社からの「充電してくれ」という信号を受け取ったときにのみ、充電するようにすればいい。
スマートメーターには、電力料金の変化を受信する装置が付いているはずなので、スマートメーターと自動車充電装置を連動する仕組みを用意すれば足りる。
電力会社の要請にレスポンスして、必要なときだけ(電力が安いときだけ)充電するようにすれば足りる。
> 晴れていて全開発電できていても雲で陰るといきなり発電量が激減します
個別の太陽光発電ではそうですが、雲が移動すると、個別の発電量は変動しても、地域全体の発電量は変化しません。休む発電機(パネル)が、
A → B → C → D → E → ……
というふうに変化する(移動する)だけです。地域全体の発電量は変化しません。
●○○○○○○
○●○○○○○
○○●○○○○
○○○●○○○
○○○○●○○
○○○○○●○
この件、下記のコメント欄でも、答えています。
http://openblog.seesaa.net/article/456507110.html
http://openblog.seesaa.net/article/452365852.html
出力制御をする機器ではありません。
> ”直流電気”を”交流電気”に変換する
それ単独ならば、「インバーター」と呼びます。
https://www.youtube.com/watch?v=nMWmFvH7SLQ&t
聞いた話ではカリフォルニアで通勤EVにタダで充電させようとしているらしいです。自宅での充電もなくせますから。
> バッテリーパックそのもののコストは$200/kWhになります。パワーエレクトロニクスと、使用期間の15〜20年を考慮に入れるとコストは大まかに言って$300/kWhになります。
https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/tesla-powerwall-megapack-costs/
採算性は下記。
> 市場における価格差が大きければ、高い利益が得られることになるが、それでも、5000回の充放電で市場価格差が5セントくらいであれば、1キロワット時当たり200ドル以下にする必要があるだろう。
https://www.technologyreview.jp/s/278252/can-grid-storage-batteries-save-japans-power-supply-crisis/
なので、現状では難しい。
しかし CATL の LFP電池はその半額のコストを達成する。
> リン酸鉄リチウム電池(LFP)を100 ドル/kWh 以下のコストに抑える事ができている(CATL発表)
https://hasimoto-soken.com/archives/1958
将来的には、採算性に乗りそうだ。
とはいえ、本項で述べたように、 EV を使えば、コストゼロで充電できる。これには勝てそうにないね。
一般の戸建て用である、小規模なパワーコンディショナーには、出力制御の機構が備わっていません。
朝日の記事中でも「オンライン化のための機器は発電事業者」うんぬんと記してあるが、出力制御は、発電事業者が扱うような、大規模な装置に限られます。