1円スマホの販売で、会社が損して困るから、政府が規制してくれ、と大手キャリアが泣きついているそうだ。
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朝日新聞が報じている。( 2023-05-09 朝刊)
携帯電話の新たな値引き規制を大手4社が総務省側に提案している。企業は本来なら自由な競争を求めるはずだが、規制の抜け穴を突く「1円スマホ」など過度な値引き合戦を自ら止められないと、行政に泣きついたかたちだ。
法改正とは、通信料金と端末代金の「完全分離」をうたい19年10月に施行されたものだ。回線契約とセットで端末を買う場合に通信料金を高額なキャッシュバックなどで値引きすることを禁止。さらに、セット販売での端末そのものの値引き上限を税込み2万2千円とした。
ただし、回線契約を伴わない端末の販売は規制の対象外とした。「1円スマホ」がなくならない理由がここにある。
例えば、スマホの代金が10万円の場合、回線契約の有無にかかわらず、7万7999円を値引きしておけば、端末の代金は2万2001円となる。そのうえで、回線契約とセットで購入する人に対して、値引き上限の2万2千円を適用すれば、合法的に「1円」で売ることができる。
これを防ぐため、携帯大手はドコモ以外の3社も含めて、端末そのものを対象とした新たな規制を求めているのだ。
( → 携帯値引き「穴ふさぐ」新たな規制、大手が異例の提案 懐疑的な声も:朝日新聞 )
ちょっとわかりにくいが、こうだ。
セット販売では値引き上限が、税別 2万円(税込み 2.2万円)と決まった。ただし端末単体は、制限がない。そこで、端末単体であらかじめ 8万円の値引きをしておけば、10万の品が 2万円になる。これに値引き 2万円を組み合わせると、0円になる。あとは適当に名目上の1円を足せば、1円スマホが販売できる。しかしこれでは、客寄せはできるが、会社は儲からない。そこで、端末の単体での過剰な値引きを禁じるように政府が規制してくれ、と頼んでいるわけだ。「過当競争の禁止」を法律で規制してくれ、というわけだ。

さて。これをどう評価するか?
大手会社の言っていることは、もっともなようにも思えるが、根本的におかしい。それで儲からないのなら、自発的にやめればいいだけのことだ。なのに、現実には、利益率が 20% ほどにもなる暴利を得ている。赤字どころかボロ儲けだ。
→ 2023年3月期 決算
なのに、ここで政府が、会社の利益アップのために競争制限を導入するというのは、道理が通らない。馬鹿げている。
「これでは大赤字になるので、値下げを規制してください」
と頼んでいるのだが、口ではそう言っても、現実には大幅黒字で暴利を得ているのだ。呆れる。
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ただ、この問題(1円スマホ)がどうして起こるかというと、次のことがある。
「2年縛りがあるせいで、2年間の高値の月額料金で赤字を回収できる」
つまり、最初に8万円の値引きをしても、2年間で8万円以上の暴利を得れば、最初の8万円の値引きを回収できる、というわけだ。(分割払いのようなものだ。)
こういうことが起こるのは「2年縛り」があるせいだ。そこで、「2年縛りをなくしてしまえばいい」という政府方針が出て、2021年10月から実施された。「いつでも解約できますよ。解約金は 1000円だけです」というふうに。
→ ドコモが解約金と解約金留保を廃止!auやソフトバンクも
これによって馬鹿げた値引きはなくなるはずだ……と思えたのだが、現実にはそうならなかった。なぜか馬鹿げた値引きは継続されるようになった。
しかし、そうなると、「通信会社と契約しないで、端末だけを8万円引きで購入して、あとはその端末を市場で売却する」という転売屋がのさばることになるはずだ。……そう思って確認したところ、まさしく転売屋がのさばっているそうだ。
→ 転売ヤーも横行、スマホ大幅値引きが起こしている諸問題の根本原因は何か - PHILE WEB
これでは転売屋がのさばるばかりだ。あまりにも馬鹿げている状況だ。
では、こういうふうに馬鹿げた状況が横行するのは、なぜか? それは、大手キャリアがシェアアップのために、支援金(リベート)を支給しているからだ。店は、大幅値引きで赤字販売になるとしても、大手キャリアから支援金をたっぷり支給してもらえるので、かろうじて黒字になれるようだ。
→ 「転売ヤーへの“値引き分”のために数百万円の借金をしました」KDDIの“非情なノルマ”に苦しめられたauショップ店長の告白
とはいえ、単体販売では大幅赤字で、支援金をもらってかろうじて黒字になるというのでは、経営状況としては滅茶苦茶である。いったいどうして、こういう馬鹿げたことが起こるのか? また、こういう馬鹿げた状況を改善するには、どうすればいいのか?
まったく、わけがわからない。困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。きちんと解説しよう。
この問題を理解するには、前項の話を理解するといい。「固定費と変動費」という話だ。ここから、物事の原理がわかる。
実は、スマホの通信会社というのは、かなり特殊な構造を持つ。そのことは、固定費と変動費を見るといい。
通常の会社ならば、固定費は少なめで、変動費が多めだ。たとえば、自動車であれ、電器製品であれ、食品であれ、文房具であれ、そこには「原価」(材料費・労務費・経費)というものがある。この原価が変動費にあたる。原価(変動費)の比率がかなり大きい。固定費の占める率は小さい。
一方、スマホの通信会社では、変動費はきわめて小さい。通信料が大幅に増えると、電力消費はいくらか増えるが、そのくらいでしかない。むしろ、全国各地に張り巡らした装置の固定費が圧倒的に大きい。これが経費の大部分を占める。
スマホの通信会社では、変動費はきわめて小さくて、固定費がとても大きい。すると、どうなるか? 「利益率を上げるには、なるべく稼働率を上げる(売上高を増やす)」という経営方針が成立する。
通常の商品なら、1万円のものを1000円で売っては儲けが出ない。しかしスマホの通信会社では、1万円のものを1000円で売っても儲けが出るのだ。変動費の分がすごく少ないからだ。
スマホの通信会社では、稼働率を上げることが、何よりも大きな目的となる。だから、支援金を多額に投入して、過剰な競争を強いて、少しでも売上高を増やそうとするわけだ。(どうせ原価はほとんどゼロだからだ。ここが他の商品とは違うところだ。他の商品ならば、高額の支援金を出したら、赤字になってしまう。)
とはいえ、そこには明らかに歪みがある。こういうことは、局部的には成立しても、全体では成立しないからだ。仮に「1万円のものを1000円で売る」ということが、市場の全体に広がったら、会社は大損してしまう。つまり、今の販売方針は、ビジネスモデルとしてはまともに成立していない。局所戦略として成立しているだけであって、みんながみんなそうしたら(大勢の人が 10万円の端末を2万円で購入したら)、会社は一挙に破綻してしまうのだ。
ここでは、「部分最適化を狙ったせいで、全体最適化に失敗している」というふうになっている。みんながみんなそうしたら、会社が破綻するのだから、原理的には破局の寸前である。いつかは破綻しそうだ。だから、それを恐れて、大手キャリアは政府に泣きついているわけだ。

では、このあと、政府はどうすればいいか? 大手キャリアの言うことを聞いて、新たな規制を導入するべきか?
それには、私なりに、こう答えよう。
「政府は何もしないでいい。現状の方針で困るのは、大手キャリアと販売店だけだ。一般消費者は困らない。むしろ、激安でスマホを買えるので、かえってありがたい。馬鹿な大手会社のことは放置していい。馬鹿は馬鹿でほったらかしていい。たとえそれで大赤字になろうと、破綻しようと、おのれの愚かさが招いたものだ。自業自得というものだ。ざまあ、と言って、せせら笑ってやればいい」
この方針の下で、消費者には次のように勧告しよう。
「今すぐでもいいし、1円スマホがなるなる寸前でもいいが、ともあれ、販売店に行こう。そこで最新機種を激安で購入しよう。10万円の品が2万円で買えるのだ。(あと1円プラスが必要だが。) 特に、古い機種を持っている人は、新型機種に乗り換えよう。8万円分の、ボロ儲けができる」
なお、「最新機種なんか必要ない」と思う人は、買ってから転売すればいい。あなた自身が転売屋になるわけだ。これで1台あたり8万円の転売利益を得ることができる。ボロ儲けだ。
こういう風潮が普及すれば、やがては大手キャリアは耐えきれなくなって、1円スマホをやめるだろう。こうして問題はいつかは解消する。だから、そのときまでに、さっさと激安購入をしておこう。
※ 素朴に買おうとすると、「品切れです」と言って、ないフリをされる可能性がある。そこで、最初は「普通に契約して買います」という顔をして、「この機種の品物はありますか?」と確認する。そうして確認したあとで、現物を受け取ってから、契約のハンコを押す寸前に、「気が変わったので、現物だけを購入します。通信の契約はやめます」と言って、現物だけを買えばいい。10万円の品を2万円で。
※ なお、店が売るのを渋ったら、「売らないと法律違反ですよ。政府に通報しますよ」と告知しよう。そうすれば、否応なしに、売らざるを得なくなる。
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しかし、これを聞くと、大手会社は文句を言うだろう。
「困ったときの Openブログと言ったくせに、われわれを助けてくれないのか? それじゃ、われわれは困ったままだ。 困ったときの Openブログというのは、看板に偽りありだ! 嘘つきめ!」
いやいや。嘘つきじゃない。大手会社が助かる方法は、すでに示しているも同然だ。つまり、こうだ。
「きみたちが支援金なんかを払っているのが、問題の根源だ。だから、それをやめればいい」
そもそも、支援金に頼ってシェアを拡大するという方針が、変動費だけを見て固定費を見ないという、馬鹿げた経営方針に従っている。「局所的な最適策にはなるが、全体には適用できない」という方針を取っている。つまり、いびつな経営方針を取っている。
だから、そういう馬鹿げた方針を捨てればいい。支援金に頼らずに、普通の販売方式を取ればいい。
では、普通の販売方式とは? こうだ。
「販売の単価を、ほぼ一定にする。販売量が2倍や3倍になっても、単価を極端に上げ下げしないで販売する」
これは、たいていの商品で成立する。販売量が2倍や3倍になると、単価を1〜2%ぐらい引き下げることはあっても、極端に上げ下げすることはない。普通はそうなる。
一方、現状のスマホ販売では違う。支援金のせいで、増加した分には極端な安値で納入したのと同じことになる。そこで下がった納入価格の分だけ、異常な値引きの原資に回されるわけだ。つまり、支援金が正常な価格形成を阻んでいる。
だから、支援金をやめて、ほぼ一定の単価を設定すればいい。そうすれば、異常な値引きはなくなる。また、「部分最適化が全体最適化を阻む」という愚行もなくなる。
なのに、現実には、愚行がなくならない。そのわけは、会社の経営者が、物事の原理を理解できないからである。つまり、「固定費と変動費」という概念を理解できないからである。そのせいで、「部分最適化を狙って、全体最適化を狙わない」という結果になる。部分的なシェアアップばかりを狙って、会社全体を破綻の危険に追い込む。
比喩的に言えば、それぞれが自動車で崖の縁に近づこうとするチキンレースをやっているようなものだ。そのすえに「死にそうだから、規制してくれ」と政府に頼む。「自分でやめればいい」と理解できない。
( ※ 「利益の最大化」を狙って、少しでも利益を増やそうとして、ギリギリまで無理をする。そのせいで、破滅の危機に瀕する。「やめたい、やめたい」と口では言うが、決してやめようとしない。)

結局、前項の話を理解できないから、大手会社は1円スマホという愚行を、自らの意思でやめることができない。馬鹿は自分の馬鹿さを認識できない。だから政府に頼んで、「私の馬鹿を直してください」とお願いする。
しかし、彼らがなすべきことは、政府にお願いすることじゃない。正しい経営をすることだ。そのためには、経営の原理を理解することが大切だ。
それがつまり、「前項の話を理解する」ということだ。
[ 補足 ]
消費者はどうするといいか?
2021年10月以降の加入者ならば、1000円を払うことで解約できる。あるいは、満期になれば無料で解約できる。こうして解約した上で、新規契約をすることで、10万円の機種を2万円で購入することができる。(店の希望通りに。)
以後、会社としては月額料金の継続で値引き分の回収を狙うのだろう。だが、消費者としては、翌月にさっさと解約してしまえばいい。1カ月間だけ高額の料金を払って、翌月には 1000円を払って解約する。これで高額の機種を安価に購入できる。
「高額の契約をして、翌月に解約する」という方法がお薦めだ。
※ 高価格品が高性能なのは iPhone なので、この方法は iPhone に有効だ。Android だと、低価格品でも高性能なので、高価格品に乗り換えるメリットは少ない。Android ならば、自分で使わず、転売してしまうのがいいだろう。
[ 付記1 ]
政府が何かをやるとしたら、大手会社の頼みに従うのではなく、逆のことをすればいい。つまり、端末価格にも値引き制限を導入するのではなく、すでにある(セット価格の)値引き制限を解除すればいい。2万円までという値引き制限を解除することで、いくらでも値引きできるようにすればいい。そうすれば、スマホ料金は2万円でなく1円にまで下がる。このとき、普通の消費者はスマホを単体で1円で購入できるようになるので、ケチな貧民が大挙して販売店に押しよせる。そのことで「1円スマホ」というビジネスモデルは、たちまちにして破綻する。愚行が破綻して、愚行は消える。こうして問題は一挙に解決する。
[ 付記2 ]
「2万円までという値引き制限を解除する」と上に述べたが、もう一つ、別案もある。それは、次のことだ。
「店頭における(裏でやる)値引き販売を禁止する。販売価格はあらかじめ表示したとおりの価格にして、そこから一切の値引きをしない」
これはつまり「明朗会計」のことだ。ボッタクリバーでは、メニューの価格とは違う裏メニューの価格(高い価格)を押しつけてくることがあるが、スマホの店では、表の価格とは違う裏の価格(値引きした安い価格)で売ることがある。方向性は逆だが、表と裏とで違うという点は共通する。そこで、こういう「裏の価格」を禁止すればいい。
すると、「端末価格が大幅値引き」という裏情報が表に出る。「 10万円の iPhone が 8万円と2万円の値引きの合計額で、 10万円引きの ゼロ円で買える」というふうになる。(ただし名目上は1円だけ払うが。)
こういう裏情報が表に出れば、それをこっそりやるというわけにも行かなくなる。なぜなら、大勢の人が大挙して押しよせて、iPhoneだけを次々とかっさらってしまうからだ。(通信契約は無しで。または、1カ月間だけの契約で。)
だから、「裏の価格を表に出す」という明朗会計の義務づけは、問題の解決には役立つのだ。
( ※ 逆に言えば、明朗会計がないせいで、こっそりやっているから、不自然な販売方法がまかり通る。)
[ 付記3 ]
以上のことから、問題の核心はわかる。
・ 自由競争を促すべし (値引き制限を撤廃すべし。)
・ 明朗会計を促すべし (価格を表に出すことで、市場における情報不足をなくすべし)
この二点は、「市場原理の徹底」を意味する。逆に言えば、本来の市場原理がまともに働いていないから、おかしな状況が発生する。それゆえ、おかしな状況を発生させないためには、「市場原理の徹底」を実施すればいいのだ。
そして、その方法が、上の二点である。(自由競争・明朗会計)
また、その二点の具体策が、[ 付記1 ]と[ 付記2 ]だ。
逆に言えば、それができていないから、現状ではおかしなことになっている。それというのも、ユーザーをだまして金を巻き上げようとしているから、そのせいで自分自身が転売屋などに だまされる結果になってしまうのだ。(策士、策に溺れる、というか。「詐欺師を食う詐欺師」というクロサギがいる、というか。)