2023年05月04日

◆ 敵基地攻撃能力と憲法

 朝日新聞が「敵基地攻撃能力は憲法違反だ」と強調しているが。……

 ──

 憲法記念日の特集ということで、朝日新聞が「敵基地攻撃能力は憲法違反だ」と強調している。
 岸田政権が敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有にあたり、憲法9条との関係を議論すべきなのにしていないとの異議が相次いでいる。 論議の不在で、憲法を形骸化させかねない動きを2回にわたって検証する。

 政府が憲法議論をしないのは、そもそも敵基地攻撃は必ずしも違憲でないという立場を取るためだ。
 国会で野党が説明を求めても、岸田首相は「憲法の範囲内」と繰り返すだけだ。政府関係者によると、こうした認識で問題ないのかという議論も、有識者会議では行われなかった。
 憲法改正や防衛力強化への賛否とは別に、国家権力を縛るための憲法が議論もなく、有名無実化されようとしている。
( → (憲法を考える:上)議論なき9条 敵基地攻撃、政府「決着」 歯止め、形骸化の危機:朝日新聞

 政府は敵基地攻撃能力として中国や北朝鮮に届くミサイルを持つと決めたが、「自衛のための必要最小限」とする「専守防衛」に収まると言えるのかどうか。具体的な議論が欠かせない。
 憲法論議が必要との問題意識を持つのは野党だけではない。3月30日の衆院憲法審査会で、自民党の石破茂・元幹事長は「反撃能力と専守防衛はどういう関係に立つか。徹底した議論を期待したが、残念ながら国民の理解を得るには至らなかった」と語った。
 政府は「憲法の範囲内」「専守防衛」と言い続けて合憲の外縁をあいまいにし、国会も論戦によるチェックができないままだ。
( → (憲法を考える:上)首相がぼかす「専守防衛」 「憲法ないがしろ」自民内にも異論:朝日新聞

 朝日は、敵基地攻撃能力が憲法に合致するかについて、「議論が必要だ」と主張する。このことは、次の二点で解釈できる。
  ・ 憲法に合致しないなら、敵基地攻撃能力の整備をやめるべきか?
  ・ 憲法に合致するなら、そのための論拠を明示するべきか? 

 以下では順に論じよう。

 敵基地攻撃能力の整備


 「憲法に合致しないなら、敵基地攻撃能力の整備をやめるべきか?」
 という問題がある。
 一方で、同じ日の世論調査報道では、敵基地攻撃能力について、「賛成」という国民が多数を占めた。
相手の領域内のミサイル発射拠点などを直接攻撃する「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有に賛成ですか。反対ですか。

   賛成52 / 反対40

( → 憲法・安保へ、思いは 朝日新聞社世論調査:朝日新聞

 国民は「敵基地攻撃能力」の保有について、「賛成」が多数だ。これに従うのが民主主義だろう。
 一方、朝日の主張に従えば、「敵基地攻撃能力は違憲だ」(違憲の可能性が高い)ということになる。
 とすれば、「敵基地攻撃能力」をもつためには、「改憲」が必要だ、ということになる。これは論理的な必然だ。
 つまり、朝日が「憲法違反だ」と唱えれば唱えるほど、その主張は「改憲すべきだ」という結論にたどり着く。
 しかし、「改憲すべきだ」という結論は、(護憲主義の)朝日の望むところではあるまい。狙いとは逆の結果になる。

 朝日としては、「護憲」という前提の上に立って、「敵基地攻撃能力は違憲だから、敵基地攻撃能力を保有するべきでない」というふうに議論を築きたかったのだろう。
 しかし現実には、「敵基地攻撃能力の保有に賛成だ」という国民が多い。とすれば、国民の意見に従うという民主主義の前提の上に立つ限り、「改憲」というのが結論となる。

 朝日新聞は、「護憲」を金科玉条のように考えているようだが、「護憲」は金科玉条なんかではない。憲法はいくらでも改憲していいのだ。一方、民主主義は、金科玉条のように考えていい。
    護憲 < 民主主義

 という不等式が成立する。後者の方がずっと優先される。
 したがって、民意に従う限り、朝日の思惑とは違って、結論は「改憲」にしかならないのだ。朝日は憲法記念日に「憲法を守れ! 敵基地攻撃能力を排除せよ!」と唱えたがるが、現実には、「民主主義を守れ! そのためには、憲法を改正せよ!」という結論になる。ヤブヘビだね。

 論拠の明示


 「憲法に合致するなら、そのための論拠を明示するべきか?」
 という問題がある。これはこれで成立する。
 具体的に言えば、こうだ。
 「敵基地攻撃能力が合憲であるというのなら、その論拠は何か?」
 これに答えることは、有益である。(法的議論として。)

 これを扱うときには、注意するべきことがある。次のことだ。
 「専守防衛と正当防衛を混同するな」


 専守防衛は、内閣が長く取ってきた方針だが、ただの政治方針である。守る必要はさらさらない。国際情勢が変化すれば、あっさり捨ててしまって構わない。(金科玉条でもない。)
 正当防衛は、憲法9条の論拠となる。これは守るべき必要がある。

 以上の違いに基づいて、次のように結論される。
 「敵基地攻撃能力は、専守防衛には反するが、正当防衛には反しない」
 「敵基地攻撃能力は、歴代の内閣の取ってきた方針(専守防衛)には反するが、憲法9条の規定(正当防衛)には反しない」

 この点については、前に詳しく論じた。そちらを参照。
  → 反撃能力(敵基地攻撃能力).1: Open ブログ
  → 反撃能力(敵基地攻撃能力) .2: Open ブログ

 なお、次の項目もある。
  → 巡航ミサイルは無効: Open ブログ
 この項目の最後の [ 付記 ] では、「イージスよりは敵基地攻撃能力の方がコスト的にずっと有利である」という趣旨の話がある。



 【 補説 】
 朝日記事の難点は、法律談義ばかりしていることだ。いわば机上の空論である。(よほど暇なのか、お気楽なのか。あるいは、連休ボケか。)

 一方、普通の国民が考えていることは、現実の戦争だ。それはウクライナ戦争で顕著になった。ロシアが攻撃してくるというのは、もはや決して夢想ではないのだ。さらには、より強大な戦力として、中国もある。さらには、北朝鮮の核ミサイルもある。……こういう現実の軍事力に対して、人々は「どうしたら自国を守れるか?」と心配している。





 そこへ朝日がしゃしゃり出てきて、机上の空論みたいな法律談義をする。……これを見たら、人々は「何て脳天気なんだ」と呆れはてるだろう。

 そこで、脳天気な朝日新聞のために、おせっかいをすることにした。
 下記に質問シートがある。この質問シートに、朝日新聞記者は答えるといいだろう。答えるうちに、自分の思考が明晰化されるはずだ。 
 
《 質問シート 》

 (1) ウクライナは軍事力を保有して、ロシアと戦っています。このことに賛成しますか? それとも軍事力を持たずに侵略される方がマシだという理由で、反対しますか?
 
     賛成 / 反対

 (2)  日本は軍事力を保有して、中国・ロシア・北朝鮮と戦うことができます。このことに賛成しますか? それとも軍事力を保有せずに侵略される方がマシだという理由で、反対しますか?
 
     賛成 / 反対

 (3) 陸上イージスや海上イージスを設置すると、兆円規模の巨額の費用がかかる上に、敵から飽和攻撃を受けるとまったく無効になります。このような無駄な兵器を配備することに、賛成しますか?
 
     賛成 / 反対

 (4) 陸上イージスや海上イージスを設置するかわりに、敵基地攻撃能力を備えると、敵のミサイルがこちらのミサイルに吸い寄せられるので、敵のミサイルを無効化することができます。陸上イージスや海上イージスよりも、ずっと効果が高い上に、費用はずっと少なくて済みます。敵基地攻撃能力を、陸上イージスや海上イージスよりも優先することに、賛成しますか?
 
     賛成 / 反対

 (5) 敵ミサイルに対抗する能力となるのは、陸上イージスや海上イージスのほかには、敵基地攻撃能力しかありません。このように敵ミサイルに対抗する能力をもつことに、賛成しますか? それとも、敵ミサイルには無防備のまま多大な死者を出しても構わない(人命無視)という立場で、反対しますか?
 
     賛成 / 反対

 (6) 敵基地攻撃能力の目的は敵基地を破壊する能力をもつことで、敵ミサイルの攻撃目標になることです。つまり、自己犠牲となることであり、オトリとなることです。敵基地を破壊すること自体ではありません。だから、実際に発射しては意味がない。発射しないまま、敵ミサイルを引きつけるのが目的です。このことを理解できましたか?

    はい / いいえ



posted by 管理人 at 23:20 | Comment(0) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
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