2023年05月03日

◆ ドイツとイギリスのメシはまずい

 ドイツとイギリスのメシはまずいと評判だ。そのわけは……

 ──

 そのわけは、前項(のリンク先)の話を読めば、わかる。つまり、こうだ。
 「プロテスタンティズムの国では、人々が勤勉と倹約にいそしむ。生活や食事は質素になる。だから必然的に、食事で楽しもうという気持ちがなくなり、料理も簡素になる。作る手間も減らすし、食べる人も美食を楽しまない。(楽しむことが罪ですらある。)」

 前項(のリンク先)から部分的に引用しよう。
 将来的には果実と富を得るとしても、それは何年も先のことだ。それまではひたすら努力を続ける必要がある。そのためには、自己規律や自己犠牲が必要となる。倫理や忍耐も必要だ。(これらは快楽主義者[エピキュリアン]の発想とは逆だ。)

 プロテスタンティズムは違う。大事なのは教会への献金ではなく、自分自身の信仰だ。つまり、神を大切にして、日々に正しい行いをすることだ。ここでは、信仰心を強めることで、自己規律も達成される。また、日々の勤勉さを重視することで、労働も遂行される。さらには、教育や人生計画も重要視される。

 プロテスタンティズムは、その宗教性によって、人々に(自己規律・自己犠牲・倫理・忍耐といった)克己心を植え付けようとした。
( → プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神( 核心 ):  nando ブログ

 こういうふうにして、人々は美食よりも簡素な食事をめざすようになった。

 ──

 以上のことは理屈だが、これは頭の中だけで考えられた理屈ではない。現実をそっくりそのまま示している。
 たとえば、上記の説とはまったく関係のないところで、単に美食と宗教の関係を論じた記事がある。
プロテスタントは飯まず カトリックは飯うま

カトリック…
バチカン、イタリア、サンマリノ、フランス、モナコ、スペイン、アンドラ、ポルトガル、マルタ、ベルギー、ドイツ南部、リヒテンシュタイン、オーストリア、スイス、アイルランド、スロベニア、クロアチア、ポーランド、リトアニア、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ルクセンブルク…

プロテスタント…
イギリス、ドイツ北部、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、ラトビア、フィンランド、アイスランド、エストニア
( → プロテスタントとカトリック / はてな匿名

 この記事は、ドイツの北部と南部で区別されているが、まあ、そんなものだろう。
Q ドイツ料理がまずいというのは本当ですか?

A  この質問の答えは半分正しく、半分間違いです。
 ドイツといっても旧西ドイツと東側、そして北部と南部でかなり違います。私の答えは、ドイツ北部は総じていけてないですが、ミュンヘンを中心とした南ドイツは美味しいことが多いです。
 これは人々の気質や暮らしぶり、及びキリスト教の宗派が関連しているからではないか、と推察しています。
 ドイツはキリスト教国ですが半分カトリック、半分プロテスタントの国です。北はプロテスタントが多く、南は神聖ローマ帝国の名残りでカトリックが多いです。
 すなわちプロテスタントは質素倹約を重んじ、北欧やオランダなど他のプロテスタント国と共通であまり食事にこだわりがありません。
 一方、カトリックの影響が強い南はフランスやイタリア、オーストリア同様に美味しい店が多いと思います。
( → (1) ドイツ料理がまずいというのは本当ですか? - Quora

 以上の話を聞いて、「プロテスタントの国は飯マズで、ダメだな」と思う人もいるかもしれない。だが、さにあらず。前項(のリンク先)では、ウェーバーの説の紹介で、 (プロテスタントについて)こう記している。
勤勉に労働する。また、倹約して、せっせと貯蓄する。その貯蓄が資本主義の原資となる。金は銀行を経て、投資に回り、工場などで生かされる。こうして投資による経済成長が果たされる。かくて資本主義経済が拡大して、社会が発展する。

 つまり、質素な生活をするドイツやイギリスでは、その勤勉さゆえに、経済が発展する。一方、フランスやイタリアでは、食事がおいしいが、経済は発展しない。
 さらに、経済だけでなく戦争になると、いっそう顕著になる。勤勉で質素な国民性のドイツやイギリスは戦争に強くて、享楽的なフランスやイタリアは戦争に弱い。どっちがいいかと言われて、「戦争に弱い国の方がいい」と思う人は少ないだろう。

 ──

 なお、話の眼目は、「プロテスタントとカトリックのどちらがいいか?」という比較論ではない。国民性や宗教性と、生活態度との、関連性を述べている。それはまた歴史にも影響する。
 ここで考えるべきことは、社会学的な分析だ。つまり、ただの食事もまた、社会学の考察対象となるのだ。



 【 関連サイト 】

 → 温かい食事は一日一回?ドイツの食文化の特徴10│トラベルホリック〜旅と仕事と人生と〜

  ※ ドイツの食事を紹介する。昼食が豪華で温かい料理になるが、朝食と夕食は冷たい質素な料理となる。料理は肉料理が主体で、肉の加工法にはさまざまな工夫がなされる。だからソーセージにも多様な種類がある。とはいえ、中華料理やフランス料理のように、手の込んだ調理をすることはない。基本的には、「肉とジャガイモ」だ。緑の野菜が使われることは少ない。(そもそも緑の野菜はろくに存在しない。ドイツで「野菜」という言葉が意味するのは、ジャガイモ・人参・玉ねぎのことだ。特に、ジャガイモだ。)


german-food.jpg
出典:Wikimedia


 別に、まずくはなさそうだが、毎日毎日、こういうもの(肉とジャガイモのセット)ばかりだと、さすがに飽きそうだ。
 


 【 関連書籍 】



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posted by 管理人 at 22:40 | Comment(1) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
仰せの通りですが、食事量のことが書かれていません。特にドイツは量が半端ではありません。以前ドイツ中部の町(確かドレスデン)のレストランで会食をすると豚の足の丸焼きが一人1本ずつ出てきました。直径10p、長さ15pくらいです。日本人で食べられた人はいなかったのですが、ドイツ人は女性も含めて完食でした。それ以後ドイツ人を招くときはレストランで2食分頼んでいます。それでも少ないようです。
Posted by よく見ています at 2023年05月04日 09:30
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