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少子化対策の金は何を財源とするべきか、という議論がある。「社会保険料か税か」という議論だ。これについては、本サイトでも前に述べた。
→ 異次元の少子化対策 .1: Open ブログ
ここでは、「社会保険料でまかなうという政府方針はダメだ」という趣旨で述べた。
一方で、朝日新聞の社説(2023-04-22)が、同じような趣旨で論じている。ここでは、「巨額の金をまかなうには、社会保険料ではダメだ」という点では本サイトと同様だが、「だから税でまかなう」という趣旨になっている。
岸田首相をトップとする「こども未来戦略会議」が始動し、国会でも、子ども・子育て政策の強化に向けた財源論議が焦点になってきた。
政府は先月末に、子ども・子育て政策の強化に向けた試案をまとめた。全て実現するには兆円単位の財源が必要だ。
これをどう賄うのか。
社会保険料は負担が現役世代に偏りがちで、高所得層に比べて中低所得層の負担感が大きいとの指摘もある。増税が難しいから社会保険料で、とみられるようでは理解は得られない。
税の議論も頭から排除すべきではない。物価高の現状で消費増税の議論が難しいという事情もあるだろうが、所得再分配の観点では資産所得課税や相続税なども検討課題とすべきだ。
( → (社説)子ども政策 幅広い財源の議論を:朝日新聞 )
最後の結論は、何かを示すのではなく、「議論を加速させてほしい」ということだけだ。つまり、「問題を放り出す」という形だ。何とも無責任な方針だ。具体的な金の提案をしないのであれば、「ただの観客は黙っていろ。すっとこどっこい」と言ってやりたくなる。
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では、どうすればいいか?
第1に、社会保険料のアップではダメだ。(前にも示した通り。)しかも、さらに、「これは逆効果だ」とすら言える。若い低所得の独身者が、金がなくて結婚できない、というのが現状だ。ここで、若い低所得の独身者を集中的に狙って、社会保険料のアップをしたら、ますます結婚できなくなる。そうなれば、ますます少子化が進む。「少子化を防ごうとして、子持ちの夫婦に金を出す」というふうにしたら、「まずしい独身者が結婚できなくなって、ますます少子化が進む」というふうになるわけだ。まさしく逆効果。政府の方針に従えば従うほど、どんどん少子化が進むわけだ。倒錯的と言える。
第2に、正解はすでに判明している。若い低所得の独身者の所得を増やすことだ。そのためには、非正規雇用を減らしたり、女性差別を減らしたりすることが大切だ。そうしてこそ、若い低所得の独身者が結婚できるようになる。この件は、前に述べた通り。
→ 少子化の対策 .2(企業責任): Open ブログ
→ 少子化の対策 .3(企業改革): Open ブログ
なのに、政府の方針には、そういう対策が記していない。「非正規雇用を減らしたり、女性差別を減らしたりする」という対策が抜けている。単に「莫大な金をばらまく」ということばかりを考えている。そこで「金を集めるにはどうするべきか」という財源対策を考える。だが、それは見当違いだ。
大切なのは、国が金を出すことではない。多額の給付金をばらまくことではない。多額の給付金をばらまいても、その金は打ち出の小槌から出てくるわけじゃない。単に他の国民からむしり取っているだけだ。そして、むしり取られるのは、若い低所得の独身者なのだ。
では、どうすればいいか? 国は金を1円も出す必要はない。かわりに、企業の雇用制度を変えるべきなのだ。「非正規雇用や女性労働者を虐待する(搾取する)」という方針で儲けてきた企業に対して、「非正規雇用や女性労働者には正当な賃金を払う」というふうにすればいいのだ。つまり、国際的な労働協約を守って、正しい法制度に従えばいいのだ。ところが、日本はそれができていない。
111条 雇用及び職業についての差別待遇に関する条約。…… 日本未批准
( → 8つの重要な ILO条約 日本が二つ未批准なワケ )
ILO 条約上で100号以外に「同一価値労働同一賃金」原則が確立されているのは,パートタイム労働者のみである(パートタイム労働条約,175号)ことを付記したい。パート労働者も圧倒的に女性が多いので,もちろん同条約もジェンダー平等を推進する重要な条約といえる。日本は,同条約を批准していない。
( → ILO条約と女性差別撤廃条約における同一価値労働同一賃金原則 )
どうしても、非正規労働者や女性労働者に対する差別状態を、解消したくないらしい。そのせいで、日本は少子化が進むのだが、それをほっぽり出して、「月に1万円程度の給付金を出せば解決する」と思い込んでいる。そんなことぐらいで、大規模な少子化が解消するわけがないのだが。
日本に必要なのは、「年に 50〜 100万円ぐらい」という大規模な金額で、若い低所得の労働者の所得を上げることだ。非正規労働者や女性労働者の所得は、そのくらい大規模に上げる必要がある。しかも、そのためには、国の財源は1円も必要としない。搾取する企業が金を払えばいいのだ。
[ 付記1 ]
女性の賃金格差のデータ。(グラフ)

出典:日経

出典:リクルート
これは、雇用中の賃金のデータだけだ。
現実には、さらに次の差別が追加される。
「出産にともなって、実質的に退職に追い込まれて、そのあとは復職できない」
このせいで巨額の賃金格差が発生する。これこそが少子化の最大の原因だと言えるだろう。
これに対して、「出産後に月1〜2万円ぐらいの給付金を出す」としても、それでは「焼け石に水」というぐらいの効果にしかならない。そんな少子化対策など、効果があるわけがないのだ。少子化対策で大切なのは、(国の出す)金ではない。企業の制度改革こそが大事だ。
※ そのためにはどうすればいいか? 女性差別などをする企業に多額の懲罰的罰金を科すればいい。その前提として、ILO 条約を批准する必要がある。ところが政府は、その気がない。やる気が全然ない。(かわりに貧しい国民から金をむしり取ることばかり考えている。マスコミもその尻馬に乗って、財源対策なんかを考えている。アホばかり。)
なお、懲罰的罰金の話は下記。
→ 少子化の対策 .3(企業改革): Open ブログ
[ 付記2 ]
女性に対する(男の)差別的な意識が少子化をもたらす、という面もある。前に言及した。
→ 韓国の出生率が低すぎる「本当の理由」─女性たちが男性としたくない「4つのこと」
→ はてなブックマーク
※ 女性差別がひどい韓国では、日本以上に少子化がひどい。出生率は何と 0.78 だ。これほどにも少子化がひどいのだから、もはや亡国の状態だ。「女性差別が国を滅ぼす」ということは、韓国を見ればわかる。
※ この記事中にも、「高学歴の女性たちは、しばしば結婚や出産を機に労働力から脱落することを要求された」とある。韓国の状況もまた、日本と同様だ。つまり、日本の状況もまた、韓国と同様だ。
( → 立憲が育児女性を差別: Open ブログ )