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知床の遊覧船(観光船)の事故から、24日で1周年になるので、これを回顧する記事が出ている。事故の再発を敷設ための規制も進んでいるそうだ。
各地で安全対策が進められている。国土交通省は具体的な項目を打ち出し、関連法の改正をめざす。
事故後、国交省は有識者による検討委員会を設置。昨年12月には66項目の再発防止策を発表した。
今年4月には小型旅客船の船底を区分けする「隔壁」について、水を通さない構造にすることも決めた。今回の対策を含む海上運送法の改正案が今国会に提出されており、今後、業者は様々な対策を求められることになりそうだ。
( → 知床事故1年、進む安全対策 座礁想定、船から避難訓練 国交省、更新制など66項目:朝日新聞 )
66項目の規制の詳細については、NHK の記事が詳しい。
→ 知床の事故を受け 国が旅客船の安全対策66項目取りまとめ|NHK
原文と思える資料は、下記だ。( PDF ) ★
→ 旅客船の総合的な安全・安心対策(案)
一方、船の関係者の証言が新たに出た。甲板のハッチが乞われていたのを事前に確認した。そのハッチから浸水したせいで、船は沈没したようだ。「壊したのを直しておけば良かった」と後悔しきりだそうだ。
事前に船の不具合に気づいていた男性が取材に応じた。男性は、浸水する直接の原因になったとされるハッチの不具合の修理をしなかったことを「悔やんでも、悔やみきれない」と言う。
男性は、運航シーズンを控えたカズワンの修理を手伝いにウトロ漁港に来た。
男性はカズワンの甲板に上がり、船首右側で作業していた。ふと、甲板にあるハッチが目に入った。船底への出入り口であるハッチのふたは閉まっていた。
中が気になって、ハッチのふたを開けようと、四隅のレバーに手を掛けた。引こうとしたが、固くてうまく動かなかった。
「なんかおかしいから、ここをちゃんと締めておけよ」。男性は、そばにいた甲板員に声を掛けた。
男性の指示を聞いた甲板員は「わかりました。やっておきます」と答えた。男性はその後、甲板員が実際に修理したかどうか確認しなかった。
( → ハッチ、あのとき直しておけば 「締めておけよ」声かけたが 不具合目撃の男性 知床事故、あす1年:朝日新聞 )
以上が、マスコミから得られる情報だ。
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一方、私が考える重要なポイントは、別にある。船の構造だ。この点は、事故の当初に指摘した。
この船はもともと瀬戸内海(という波の弱い内海)向けの船だった。それが、高さ3メートルの高波のある知床の外海で利用された。滅茶苦茶と言える。
出典:沿岸小型船舶とは? | 国交省
・ 船首楼への義務づけが、平水船では免除される。
・ 水密ハッチでなく、機関室口への風雨密だけでいい。(緩和)
つまり、人員への防水対策があるだけだ。構造上の強化というようなことは規定されていないようだ。たいして意味のない規定だと言える。
要するに、まともな強化の規定はない。
( → 知床の遊覧船の無線装備 .1: Open ブログ )
瀬戸内海のような平水では、荒波がない。だから平水用の船は、構造が安直にできている。水面から甲板までの距離も小さいし、甲板が波をかぶったときの対策も少ない。
太平洋や日本海のような外海では、荒波がある。だから外海用の船は、構造がしっかりできている。水面から甲板までの距離は大きいし、甲板が波をかぶったときの対策も十分だ。

知床の遊覧船はどうか? 上の写真を見ればわかるように、水面から甲板までの距離は小さい。ハッチもどうせ、たいしたハッチではあるまい。こういう平水用の船を外海で使うということがもともとダメなのだ。先の項目で述べた通り。
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では、今回の 66項目の規制に、「平水用の船を外海で使うことは禁止」という条項は、あるか? NHK の記事を見ても、ないらしいとわかる。
念のため、国交省の資料( ★ )を見ると、該当箇所は下記だ。

「平水用の船を外海で使うことは禁止」という条項は、ない。特に、「水面から甲板までの高さ」についての条項がない。この意味で、政府の規制は、全然ダメだ、と言える。それが私の判断だ。
【 追記 】
2023-04-23 の朝日新聞記事で、事故についての特集記事がある。長い記事だが、最後に有益な話がある。専門家の分析で、最後にこう論じている。
――最大の課題、教訓は何だと思われますか。
十分な知識がない、海の怖さを分かっていない人たちが旅客船事業をしていたことです。カズワンはもともと波の穏やかな瀬戸内を航行していた船で、知床の海を走るような構造ではなかった。あの日も、漁師たちが止めるのに出航してしまった。そのような営業をする会社の参入を許さないことが重要です。海上運送法の規制のもと、審査体制の厳格化は必要でしょう。
( → 教訓は )
本項と同じ指摘をしている。やはり、プロはちゃんと見抜いている。(政府は気づかないが。)
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なお、「初心者を船長にした」という難点も大きいな、と思っていたが、その点も、上記で指摘されている。「漁師たちが止めるのに出航してしまった。そのような営業をする会社の参入を許さないことが重要です」と。
もともとは経験豊富な船長がいたのだが、人件費節約のために、初心者を薄給で雇った。何でもかんでも、コンサルの指導に従って、人件費の節約(安全経費の手抜き)を最優先にした。こういう経営体制が根源だったと言える。
コンサルの件は、下記項目の [ 付記 ] で詳しく解説してある。
→ 知床の遊覧船の無線装備 .2: Open ブログ
⇒ 今回見直されたのは、「小型旅客船に対する検査方法」なので、船舶の構造≠ノついてではなく、あくまで検査≠フ部分のようでですね。
https://jci.go.jp/pdf/kensaminaoshi20220930.pdf
それで、筆者ご指摘の「喫水から甲板までの高さ」というパラメータ(設計値)は、調べましたところ、「乾舷」という専門用語があるようです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%BE%E8%88%B7
それで、この「乾舷」の大きさをいくら以上にするかということについては、「満載喫水線規則」という法令で、それぞれの船舶の航行区域の区分ごとに細かく定められているようですね。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=343M50000800033
それで、この規則の第七十九条の記載によると、平水区域を含む特定の水域のみを航行する船舶≠ノついては、この「乾舷」の規定は特別扱いのままで、筆者がご心配されているとおり、今回も見直しはないとみていいでしょう(この規則は平成28年10月1日に施行されたままなので)。
なお、関連の法令として「船舶構造規則」がありますが、こちらにも、限定近海船及び沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶≠ノついては、とくに「乾舷」に対する規定はないようです。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410M50000800016
ただし、この規則の第四十一条と第四十二条には、同区域を航行する船舶に対して「ハッチの水密性(甲板からの海水等の流入防止)」の規定として、風雨密とすることができるものでなければならない≠ニいう定性的な基準が設けられているので、今回の「検査方法の見直し」では、その部分を受けて内容を具体的にしたものと理解できるでしょう(こちらの規則のほうは、令和4年国土交通省令第四十一号による改正→令和5年1月1日施行となっていますので、条文のほうも整合するように見直されたのかもしれません)。
※ 船舶用語を間違えていました。