2023年05月07日

◆ ユーグレナもどき

 ユーグレナの改良版と言えそうな、新たな藻類が開発された。これは有望か? ユーグレナの二の舞か?

 ──

 ユーグレナ(ミドリムシ)は、バイオ燃料として有望だと見込まれたが、コストが滅茶苦茶に高い(原油の 100倍)だ。
 ユーグレナのコストは 10倍だ、と記したが、実は 100倍だ、と後日に判明した。(2018年)
( → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ

 これでは、実用化からは程遠い。2016年には「2020年までに実用化する」と言っていたが、現実には、高コストの試験プラントができているだけで、コストの壁はとうてい解決できずにいる。
 その理由は何か? 精製コストが滅茶苦茶に高いことだ。いくらオイル分を生産しても、それが細胞内に含まれていて、外部に取り出しにくいので、抽出・精製のためのコストが滅茶苦茶に高くなる。だから生産コストは原油の 100倍になる。
 このことは、2016年に私が指摘した。
 「ミドリムシでバイオ燃料」
 というとき、人々は
 「ミドリムシをタンクで増やす生産方法を改善すれば実現化する」
 と思う。しかし、そうではない。そんなことをいくら改善しても、実現化はしない。なぜなら、
 「ミドリムシから油分を取り出す」
 という精製過程で、ものすごいエネルギーが必要となるからだ。


plant-s.jpg


 それは、
 「不純なものから純粋なものを取り出す」
 ということのエネルギーであり、エントロピー減少のためのエネルギーなのである。
  → リサイクルとエントロピー  【 重要 】

 エントロピー減少のためには、エネルギーを要する。熱機関では、カルノーサイクル(理想機関)の熱効率の上限があるように、決して熱効率 100%というものはできない。たとえ状況が理想的であっても、絶対的に生じる無駄(ロス)というものがある。それと同様に、エントロピー減少のためには、多大なエネルギーが必要となる。このためにかかるコストは、どうしようもない。
 したがって、原理的に、ミドリムシから油分を取り出すことは不可能なのだ。(取り出す油分よりも、精製のために必要な油分の方が多くなるから。)

 これがつまり、「ミドリムシからバイオ燃料を取ることは不可能だ」ということの原理だ。
( → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ

 ここでは「取り出す油分よりも、精製のために必要な油分の方が多くなる」と述べた。そのことが、最近の記事でも指摘されている。下記記事だ。
これまでは、できた油成分は細胞内に閉じ込められていた。培養した微細藻類を回収して乾燥させ、有機溶媒に溶かして抽出する必要があった。藻類の再利用はできず、抽出などの製造のエネルギーが、藻類が作るエネルギーより大きいという欠点があった。
( → 油成分放出の藻類、開発 抽出不要、何度も可能 大成建設など:朝日新聞

 この記事では、ユーグレナに代わる新たな藻類が提唱された。これはユーグレナと違って、油成分が細胞の外に出るので、油の抽出・精製のためのコストが大幅に向上するそうだ。
 1日あたり、乾燥した藻類1グラムで31ミリグラムのFFAを直接回収できた。この手法は再生産をさせることも可能で、廃棄物も減らせる。
 ただ、従来の手法では、藻類1グラムあたりの1日の生産量は10〜120ミリグラムとされる。今回の手法の生産性は、トップレベルとは言えない。メンバーの一人、大成建設技術センターの山本哲史さんは「2025年までに今の3倍強に生産性を上げるとともに、大規模で連続生産できるシステムを確立するための研究開発を進めたい」と意気込む。

 では、これは有望か? 

 ──

 その問いには、こう答えよう。
 「もともと効率がゼロ同然(またはマイナス)であったものが、多少は向上したからといって、やはりゼロ同然であることには変わらない。まったく無意味だ」
 と。
 その理由は、こうだ。(前に述べたとおり。)
 ユーグレナの生産には、(ユーグレナが食べる)原料として、微細藻類を使う。この微細藻類のエネルギー効率は、一般の農業のエネルギー効率と同様である。(少し上回るかも。)
 しかし、それを直接使うのでなく、「ユーグレナが食べてからバイオ燃料に変換する」という形で処理すると、エネルギー効率がかなり下がる。
 一般に、動物が食物を食べて自らの肉体にする効率はかなり低い。微生物の場合には、ひょっとしたら高い効率で栄養分を蓄積できるかもしれないが、そうだとしても、せいぜい 10%だろう。つまり、10% 以下。
 最初の 1〜2%に、この 10%以下を掛けると、総合効率は 0.1% 以下と見なせる。

 ──

 ま、上の話からわかるように、
 「太陽光 → ユーグレナ」

 ではなくて、
 「太陽光 → 微細藻類 → ユーグレナ」

 という経路をたどるので、エネルギー変換効率は 0.1%以下でしかない。
 しかも、得たエネルギーの大部分は、
 「微細藻類を1箇所に集荷するため」
 に使用されてしまって、残るエネルギーはごくわずかとなる。(あるいはエネルギー的に赤字となる。)
( → ユーグレナのエネルギー効率: Open ブログ

 ユーグレナのエネルギー変換効率はゼロ同然だ。それがいくらか改善したとしても、やはりゼロ同然なのだから、たいして意味はないのだ。
 太陽光エネルギーの変換効率:
  ・ 植物は 0.3 % 程度
  ・ 人工光合成は 7% 程度
  ・ 太陽電池は 20% 程度( 50% も可能)

( → 脱炭素化にバイオ燃料は不適: Open ブログ

 一方、太陽光発電は、20%ぐらいの効率がある。この高効率に比べれば、ユーグレナやその代替品の出番などは、まったくないのだ。



 [ 付記 ]
 一方、工業的な方法による「人工光合成」というものがある。これは、効率の点では太陽光発電よりもいくらか劣るのだが、「生産物である水素を貯蔵することができる」という美点があるので、その点では(保存できない電気を生産する)太陽光発電にはない長所があることになる。これはかなり有望だ。
  → 人工光合成とユーグレナ: Open ブログ

posted by 管理人 at 23:23 | Comment(2) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
人工光合成研究は1970年の石油ショックのころから2000年ごろまで世界の多くの研究者が手掛けていました。もちろんNEDOや文科省のプロジェクトも走りました。スイスローザンヌ大学の教授が先行していました。でもどうしても(太陽電池+水の電気分解)の効率に勝てなかったので現在は主流ではありません。別サイトで引用されている三菱化学の研究は多分東大の某先生の主導で進められているものです。現在の最先端であることは確かですが、何か革新的な発見があったというよりは、現在の化学や技術を最適化したものという印象を持っています。(太陽電池+水の電気分解)に勝てたらよいですね。
Posted by よく見ています at 2023年05月08日 10:32
> (太陽電池+水の電気分解)の効率に勝てなかった

 水の電気分解は、通常の人工光合成よりも効率が高いので、有望です。通常の人工光合成は、それに劣る。ただし、水の電気分解は「広義の人工光合成」ととらえることもできる。

 ……という話を、前に別項で書きました。
  
 ※ 本文の末の別項リンクに書いてある。


 
Posted by 管理人 at 2023年05月08日 20:15
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