2023年04月20日

◆ マイナカード推進の逆進

 マイナンバーカードの導入にともなって、健康保険証を廃止する方針がある。これには批判が強い。

 ──

 朝日新聞が報じている。
 現行の健康保険証の廃止などを盛り込んだマイナンバー法など関連法改正案が14日、衆院本会議で審議入りした。政府はマイナンバーカードの利用拡大に向けてマイナ保険証への一本化をめざすが、2024年秋の保険証廃止に対しては懸念の声が高まっている。
 政府側は改めてマイナカード取得のメリットを強調した。カードを取得しない人には「本人の申請に基づき(被保険者であることの)資格確認書を発行する」(加藤勝信厚生労働相)という従来の説明を繰り返した。
 保険証が廃止されれば、利用者はマイナ保険証の利用申し込みか、資格確認書の取得を申請することになる。資格確認書には1年ごとの更新が必要になる。
 アンケートによると、現状では大半のケースで利用者の保険証を施設が管理していた。寝たきりなど本人の申請が難しい場合、家族か施設が代理で申請しなければ、保険の適用を受けられない「無保険者」扱いになる懸念がある。職員の負担などから、代理申請に「対応できない」と回答した施設は9割超に上った。
( → 保険証廃止、根強い懸念 マイナ一本化へ審議入り:朝日新聞

 健康保険証をマイナンバーカードで代替する……という方針は、原理的にはわかる。
 しかし現実には、マイナンバーカードの取得率は 100% ではない。
  → マイナンバーカード、23年2月末日時点の交付率は63.5%
  → マイナンバーカード申請率70%突破 交付開始から約7年で | TBS

 現時点で3割前後の人々がマイナンバーカードを取得していないわけだ。これらの人々を健康保険から切り捨てたら、(医療の)国民皆保険が崩壊する。国民へのサービスが大幅に低下してしまう。それはまずい。
 そこで政府は「健康保険証のかわりに、資格確認書を発行する」と言っているが、そんなことをしても、無駄な手間がかかるだけだし、漏れる人が多数生じてしまう。だったら、従来通りの健康保険証をそのまま維持した方がマシだ。
 だから、国民の利益を考えるなら、「健康保険証を当面は併用する」ということがベストだ。

 しかし、それが続くと、「健康保険証からマイナンバーカードへ」という移行がなかなか進まなくなる。それでは政府のメンツが立たない。
 かくて、「国民の便益か、政府のメンツか」という対立が生じる。そのあとの結論は、こうだ。
  ・ 野党 …… 国民の便益を優先する
  ・ 与党 …… 政府のメンツを優先する

 かくて今日のように、「わざわざ不便な資格確認書を強要する」という方針が出たわけだ。
 とはいえ、現実には、マイナンバーカードを取得していない人が多い。それというのも、「取得したくない」からではなくて、「取得できない人」が多いからだ。特に、老人には多い。下記のように。
  ・ 痴呆なので、政府の告知を理解できない。
  ・ 寝たきりなので、役所に出向けない。
  ・ 車椅子 なので、役所に行くのが大変だ。
  ・ ものぐさなので、役所に行くのが億劫だ。


 これらの人々は、「取得するのをイヤがっている」というよりは、「取得することができない」という状況だ。なのに、政府はこれらの人々への対策を怠っている。
 「マイナンバーを交付するために役所にわざわざ出向け」
 と命令して、それを強制する。だが、そんな面倒なことを強制しても、こぼれてしまう人がいるわけだ。

 ──

 そこで、この問題を解消するために、次の対策が出た。
 「マイナンバーの本人確認を、郵便局でもできるようにする。わざわざ市役所まで出向かなくてもいいようにする」

 だが、この方針には、法改正が必要だそうだ。たかが事務手続きのために法改正が必要だというのだから、呆れはてる。そして、その法改正がまだできていないので、現状ではそのことが不可能だ。
 松本剛明総務相は15日、マイナンバーカードの交付に必要な本人確認を郵便局でできるよう2023年の通常国会で法改正をめざすと表明した。
( → マイナンバーカードの申請、郵便局で本人確認 23年に法改正 - 日本経済新聞

 「でも法改正が進めばできるよね」
 と思うかもしれないが、さにあらず。
 寝たきり老人は、郵便局に出向くこともできない。痴呆老人も、同様だ。これらの人々に対応するには、「確認者が本人のところまで出向く」ということが必要だ。これはいわば、医療における「往診」のようなものだ。ここまでやらないと、100% のマイナンバー交付はできないだろう。
 しかし、「往診」みたいなことまでやると、莫大な費用と手間がかかる。実現はかなり困難だ。現実的には、まず実現不可能だと言える。
 結局、あちらが立てば、こちらが立たず。どっちにしても、うまく行かない。
 困った。どうする?


thumbnail_my_number_card.jpg


 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。といっても、新たに出すまでもない。実は、その案は、前に記してある。
 「以上のすべての手続きを省略する。いきなりマイナンバーカードを各人に書留で送付する」(顔写真はなしで、文字だけ。)

 これなら、自宅で書留便を受け取るだけだ。すごく簡単である。これ以上ないぐらい、簡単だ。かくて、問題は解決。おしまい。
( → マイナンバーカードの普及: Open ブログ

 これで話は済むはずだが、上の話には続きがある。こうだ。
 以上の方法では、本人確認の手続きがなされていない。従って、悪用される可能性もある。そこで、次の措置が必要となる。
 「上記の方法で得られたマイナンバーカードは、身分証明書としての機能を有しない。単に行政手続きを受けるときの便利カードとしての機能を有するだけだ

 これはいわば、健康保険証と同じ扱いだ。窓口でカードを出すと、社会保障サービスを受けることができるが、それだけであって、身分証明書としての機能を有しない。

 しかし、それで十分なのだ。マイナンバーカードの主要目的は、身分証明書としての機能(住民基本台帳カードとしての機能)ではないからだ。単に、各種の社会保障番号を統一することだけである。だから、上記のように「健康保険証のかわり」という機能だけで十分なのだ。

 ともあれ、これによって、健康保険証としての機能をもつカードを各人が保有するようになる。しかも、「マイナンバーの普及」という政府のメンツも立つ。
 この案は、比喩的に言えば、「形式的にはマイナンバーカードだが、実質的には健康保険証である」というような感じだ。

 ──

 なお、次の疑問が生じるかもしれない。
 「顔写真なしのマイナンバーカードなんて、使途が限定されるし、便利さも足りない。あまり普及させるべきではない」

 なるほど、その懸念はもっともだ。だが、心配の必要はない。
 第1に、マイナンバーカードを申請しないような人は、もともと老人が多いので、健康保険証以外の使途がないも同然だ。たとえば、「マイナンバーカードを使って、パソコンで申請する」というような用途には、使わない。政府がいくらデジタル用途の便利さを訴えても、そんなデジタル用途は、老人には無縁なのだ。マイナンバーカードの利便性は、もともと意味がない。
 第2に、マイナンバーカードを申請しないような人は、もともと老人が多いので、時間がたつとみんな死んでしまって消滅する。現時点では「顔写真なしのマイナンバーカード」を所有する寝たきり老人が多いとしても、それらの寝たきり老人は、どんどん死んでしまって、最終的にはいなくなる。だから、過渡的措置として、「顔写真なしのマイナンバーカード」を当面は認めたとしても、将来的にはなくなってしまうので、別に問題はないのだ。(中年以下の意人は、マイナンバーカードを取得しているので。)

 以上のポイントは、「マイナンバーカードを申請しないような人は、もともと老人が多い」ということだ。だから、老人対策として、「顔写真なしのマイナンバーカード」を当面は認めれば、それで済むのだ。

 なお、それでも済まないような人も、一部には残るだろう。たとえば、こうだ。
 「筋ジストロフィー症で、外出ができずに寝たきりになっている若年患者」
 こういう人々は、残される。だが、そういう人々は、ごく少数なので、「往診」のように、確認者が出向けばいい。対象の人数がごく少数ならば、その手間と費用も何とかなるはずだ。

 かくて、問題はすべて解決する。

 ──

 逆に言えば、現状は、物事をかえって複雑化してしまっている。
 特に、「確認書の交付」というのは、最悪だ。「顔写真なしのマイナンバーカード」を交付すればいいのに、それとはまったく違うものを交付する。これでは、マイナンバーを推進するどころか、かえって阻害すると言えるだろう。
 その意味で、現行制度は、「マイナンバー制度の推進を逆進させる」と言える。



 [ 付記 ]
 朝日の記事では、次の指摘もある。
 調査にあたった連合会の担当者は「医療の質の向上と言いながら、何の証明書も持たない実質『無保険者』を生み、最低限の医療へのアクセスに影響しかねない」と懸念する。

 また、利便性については、こう記している。
 政府はマイナ保険証の利用によって「医療の質の向上」につながると説明する。たとえば通院時に顔認証で自動受付できたり、薬剤の処方歴を病院が迅速に確認できたりする。

 しかし、このような利便性は、寝たきり老人にとっては何の意味もない。
 さらに言えば、「通院時に顔認証で自動受付できたり」というのは、利便性ではない。政府自身は利便性のつもりで言っているようだが、こんなものは健康保険証よりも不便になっている。健康保険証ならば、(患者は)提出するだけでよく、顔認証の手間がないからだ。マイナ保険証は、「顔認証で自動受付」という手間が余計にかかるだけ、(患者にとっては)かえって不便なのだ。

 ※ ただし病院にとっては、それは利便性だと言える。コード入力の手間を省けるからだ。しかしそれは病院にとっての話であって、患者にとっては何の益もない。不便なだけだ。

 ※ この不便さについては、下記で詳しく説明した。
   → マイナカードと保険証: Open ブログ
 
posted by 管理人 at 23:00 | Comment(0) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
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