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石炭発電を全廃せよ、と英国などが要求している。朝日新聞が報じている。
ここ数年のG7で、日本は気候変動対策の「抵抗勢力」となる場面が目立つ。昨年は石炭火力の全廃方針案に反対。「35年までに電力の大部分を脱炭素化する」との合意にとどまった。日本は発電の3分の2以上を化石燃料に頼るからだ。石炭火力の全廃については、今年も英国などが時期の明示を求めている。カナダのギルボー環境・気候変動相は「石炭への依存をなくすことを議論している。カナダは完全に同意する」と話す。
( → 脱炭素、G7足並みそろうか 環境相会合、きょうから札幌で:朝日新聞 2023年4月15日 )
毎日新聞も報じている。
4月に札幌市で開かれる主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合を前に、議長国の日本が提示した共同声明原案に欧米勢が反発している。二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電所の全廃時期に踏み込んでいないことに批判が集まっており、協議難航は必至だ。
( → 日本の共同声明原案、他のG7が反発 石炭火力の全廃時期示さず | 毎日新聞 2023/3/14 1 )
最終的には、こうなった。
主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合は16日、共同声明を採択し、閉幕した。天然ガスを含む化石燃料の段階的廃止を加速させると明記した。一方、石炭火力の廃止年限や自動車部門での目標では、日本政府の消極的な姿勢もあり、大きな進展はなかった。
石炭火力の廃止年限では、昨年に続き英国などが「2030年に廃止」を主張したが、日本が反対し、今回も年限を示すことが見送られた。
( → 化石燃料「廃止を加速」 石炭火力・車、日本は消極的 G7環境相会合、共同声明採択:朝日新聞 )
ついでだが、1年前の記事ではこうだった。
主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が26〜27日、ベルリンで開かれ、G7各国内で、排出削減対策のない石炭火力発電所を「段階的に廃止」するとの共同声明を発表した。期限は明示していない。
石炭火力は温室効果ガスの最大の排出源の一つだ。G7では昨年も、石炭火力の廃止が提案されたが、日本の反対などで盛り込まれなかった。今回も、議長国のドイツは「30年までの段階的廃止」を盛り込むことを提案したが、日本の反対もあり削除された。日本は、排出量の多い旧式の発電所を減らす方針は示しているが、全廃は見通せない。
( → 石炭火力を「段階的に廃止」、G7が共同声明 期限は明示せず:朝日新聞 )
欧州は石炭火力発電を全廃したい意向が強いが、日本はそれに反対する。日本は、値段の安い石炭に依存する率が高いということもあるが、特に北海道電力では石炭に大きく依存しているので石炭から脱却しがたい、という事情がある。この件は、前に「電源構成」のグラフ付きで説明した。
→ 寒冷地の EV の炭素排出量: Open ブログ

以上の話だけを知ると、日本が遅れているように見える。だが、ロシアのウクライナ侵攻のあとでは、ドイツは原発停止にともなって、石炭火力発電の比率が急増している。口では「石炭廃止」を唱えても、手は「石炭火力発電を増やす」という方向で動いているのだ。
→ 脱炭素優等生のドイツで電力の3分の1が石炭火力に
もちろん、英国やドイツ以外の欧州諸国もまた似たよう事情である。ロシア産 LNG が来ないせいで、石炭の使用量が増えているようだ。
これらの国が「石炭廃止」を唱えるのは、言行不一致に近い。
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では、欧州諸国でなく日本が正しいのか? いや、そんなことはない。「石炭発電をろくに減らさない」という日本の方針を取れば、地球温暖化の阻止が困難となる。ただでさえ地球温暖化のせいで、果物ジュースの値段が倍増になったりしているのに、このままもっとひどくなると、気象災害のせいで農産物価格がどんどん上昇しかねない。果物ジュースは4倍、10倍、というふうに値上がりしかねない。
かくて、欧州諸国の方針もダメだし、日本の方針もダメだ。あっちもこっちもダメだ。いったい、どうすればいい? まったく困った。
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「石炭発電を、全廃するのでなく、休止する。普段は設備を休止しておく。稼働率をできる限りゼロに近づける。このことで、実質的には石炭発電の全廃と同じことにする。
一方で、戦争のような場合(万一の場合)になったなら、そのときには、休止している石炭発電を稼働して、止まった LNG などの発電のバックアップとして作動させる。このことで、実質的には石炭発電の存続と同じことにする」
つまり、次の二本立てだ。
・ 平常時には、全廃と同じ。(休止状態)
・ 緊急時には、存続と同じ。(稼働状態)
こうして、双方のいいところだけを取るわけだ。「いいとこ取り」と言える。それが上記の方法(原則休止という方法)である。
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なお、この発想の原理は「ボトルネックをなくす」ということだ。次の書籍に詳しい。(前にも何度か紹介した。)
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ここでは、「部分最適化と全体最適化」という概念が出る。バックアップ電源というものは、非常用のものだから、普段の使用量はほとんどない。そんなものについては、一時的なコスト(金銭や環境負担)は、あまり考慮しなくてもいいのだ。どうせ一時的な現象なので、そこで問題となる量は少ないからだ。それよりは、生産(ここでは発電量のこと)が止まることで、全体(ここでは国のこと)が大きな被害を受けることになる、という問題の方がずっと重要だ。
金銭や環境負担という一部において部分最適化を狙うと、国全体の大被害を避けるという全体最適化ができなくなってしまう。それではダメなのだ。小さな損得に目を奪われるあまり、大きな損失をもたらすようではダメなのだ。
環境保護意識が強いと、そういう全体を見失いがちだ。「木を見て森を見ず」というふうに。
※ なお、これを理解できないようであれば、英国や欧州は、(将来と言わずに)今すぐ石炭発電を減らすべきだ。ウクライナ危機で LGP や石油が不足して価格高騰しているときに、石炭発電を減らせば、ただでさえ馬鹿高い電気代が、途方もない価格に上昇するだろう。あちこちで停電も起こって、ブラックアウトが起こって、産業が麻痺するかもしれない。そのとき初めて、「今までは木を見て森を見ずだった」と理解できるだろう。つまり、「全体最適化とは何か」を理解できるだろう。
あなたの考えは木を見て森を見ず。
まあ、そうですね。それでいい。
発電設備だけでなく、原料である石炭の心配もしろ、という趣旨でしょうが、上記方針で大丈夫。これで数十年は持つ。設備が錆びるまでには時間がかかるからだ。数十年だけなら、オイルでメンテすれば足りる。
別に、本項の方針を永遠に実施しろ、という趣旨ではない。数十年だけ実施すれば十分だ。
数十年もたって設備が朽ちるころになれば、すでに再生エネが大規模に普及しているから、大丈夫。それまでに、経過措置の役割は十分に果たせる。
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ただし、正確に言えば、次のようになる。
「発電用以外の石炭は、今後もずっと掘り続ける。特に製鉄用の石炭だ。また、一部では暖房用の石炭も掘り続ける」
「それにともなう炭酸ガスの排出は、製鉄所では炭酸ガスの吸収という方法で解決できる」
後者については、別項で説明済み。
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