2023年04月10日

◆ 水素社会は来るか? 

 政府は水素社会を推進しているが、水素社会は本当に来るだろうか?

 ── 

 政府は水素社会を推進している。先に述べたとおり。
  → 水素社会を推進するべきか? .1: Open ブログ

 この項目では、政府の方針を評価した上で、「水素社会をめざすのはダメだ」と断じたが、「近い将来はともかく、遠い将来では水素社会はあるだろう」というふうに述べた。その時期は「2050年以後」とも述べた。

 その後、「炭酸ガスを水素で還元して都市ガスを作る」という方法(ネタネーション)によって、「半分だけの水素社会」というものを、過渡的な段階として考慮した。これは 2040年ごろの実現が可能だろうとも見込んだ。

 以上が、これまでに述べた話だ。

 ──

 以上の話を得た上で、改めて問い直そう。
 「水素社会は来るか?」
 この問いに対して、改めて答えると、次のようになる。

 (1) 都市ガス

 水素は都市ガスのかわりになるか? その問いには、「将来的にはイエス」と言える。ただしそのためにはかなり大がかりな社会変革(新型のガス機器の普及)などが必要であり、数十年をかけた社会転換となる。容易ではない。
 一方、過渡的には、「水素によって都市ガスを生産する」という方式も可能だ。この方式は、社会変革を必要としないので、実現は容易である。ただし、水素を使うにしても、都市ガスにおける炭酸ガスの排出をなくすことはできない(半減させるだけである)ので、効果もまた半分でしかない。

 (2) 火力発電

 水素は火力発電の燃料になるか? その問いには、「将来的にはイエス」と言える。ただしそれが実現するためには、水素生産が大幅に低コストになる必要がある。あるいは、海外から十分に水素を輸入できる必要がある。そのいずれも実現していない状況では、水素生産をする前に電力を直接使う方が手っ取り早いので、水素発電の出番はない。
 ただし、水素で都市ガスを生産する過程では、(炭素を燃やす)火力発電と水素を併用することもできる。ここでは、火力発電と水素との併用がある。(水素で発電するわけではないが。)……こういう形でなら、半分ぐらいの「水素社会」は実現可能だ。

 (3) 水素自動車

 水素自動車(燃料電池車)は、可能か? 大型トラックやバスならば、可能だろう。普通の EV だと、電池があまりにも重くなりすぎるからだ。(あまりにも重いと、道路が傷むので、道路の都合で制限がかかる。あるいは、車両重量が重すぎると、積載可能重量が減ってしまう。本体が重すぎると、荷物が減ってしまう。)
 一方、(大型車でなく)小型の乗用車では、燃料電池車は、ほぼ無理だろう。仮に技術的に可能になったとしても、エネルギー効率が悪いからだ。燃料電池そのものの効率は良いのだが、水素の生産でエネルギーを大幅にロスしてしまうからだ。(液化の過程で大幅に熱をロスする。)

 ※ 豊田章男は、自分が注力した燃料電池車の実現を切望しているようだが、燃料電池車というのはもはや時代遅れなのである。政府は豊田章男の思惑に乗せられて、「水素社会の実現」を目論んでいるようだが、まず無理だと理解するべきだ。
 ※ 豊田章男でなくトヨタはどうか? 新社長は、特に水素や燃料電池車にこだわっているわけではないようだ。その意味で、トヨタはセーフかな。豊田章男が辞任したことで、トヨタは助かったと言えそうだ。とはいえ、EV では大幅な出遅れ感が否めない。
 トヨタは新車販売全体では世界首位でも、EVでは大きく出遅れる。調査会社マークラインズによると、メーカー別のEVの販売台数は米テスラ、中国BYD、米GMグループが上位を占め、トヨタは世界28位の約2万台。テスラの60分の1以下の数字だ。
 4月1日に就任した佐藤社長らが……出遅れが指摘されるEVへの取り組みの説明に時間を割いた。
 ただ、社長交代を発表した直後に開いた2月の会見で「EVファーストの発想で事業のあり方を大きく変えていく」と宣言した佐藤氏は、この日の会見では「EVファースト」とは口にしなかった。
( → 市場急拡大、態勢構築急ぐ トヨタ、EVで新戦略:朝日新聞




 [ 付記 ]
 水素社会の実現には、水素の生産が必要だ。その水素は、どうやって得るか? 原則としては、国外の太陽光発電で水素を作るが、国内の太陽光発電でも部分的には可能だろう。理由は下記。
 国内の太陽光発電というと、「需要の範囲内でのみ太陽光発電をする」という発想が普通だ。この場合、供給不足を補うバックアップとして火力発電が必要となる。
 だが、(電力の)需要を上回る量を供給してもいいのだ。過剰に発電してもいいのだ。その際、需要を上回る分(余る電力)については、その電力で水素生産をすればいい。
 この場合、余剰電力の吸収装置として、「水素生産の設備」があることになる。そのときの電力価格は、ゼロになるので、ごく安価に水素を生産することができる。設備はフル稼働にはならないが、原料となる電力が低コストなので、国内生産でも採算に乗りそうだ。
 さらに言えば、電力価格を「ゼロ」どころか「マイナス」にする、という方策もある。別項のコメント欄で、その方式が紹介されていた。
電力が余っているときにはその程度に応じて「使ってくれたらカネを上げるよ」というマイナス料金にします。対象は地域熱供給事業者です。事業者はその電力でヒートポンプを動かして巨大な蓄熱槽を加熱しておきます。そして熱需要者(家庭や企業など)に熱を供給して稼ぎます。電力が余っていない時には、普通に料金を払って電力を買って蓄熱します。余剰電力は地中に放出なんかしないで、有効利用は可能です。
……という説明を、デンマーク大使館の日本人職員がかなり詳しく公開してくれています。
(ただし、水素云々とは関係なくなりますが)

      Posted by けろ at 2023年04月10日 20:14

( → 水素社会を推進するべきか? .1: Open ブログ [コメント欄])

posted by 管理人 at 22:58 | Comment(0) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
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