脱炭素化を目的として、水素を使う……という方法に関する話。
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前項の続き
まずは、前項の話の続き。
前項では、脱炭素化の3大問題を示したあとで、この3大問題を解決する方法として、次の方式を示した。
水素 + 炭酸ガス → 都市ガス
これは、メタネーションと呼ばれる方法だ。
さて。これを書いたのは昨晩だ。その後、一夜明けた今朝になって、起きた直後に、うつらうつらとした状態で、寝惚けた頭のうちに、突然、すばらしいヒラメキが生じた。こうだ。
「上の方式では、都市ガスができる。この都市ガスで、火力発電をすればいい。そうすれば、最初の石油・石炭が不要となる」
この場合、できた都市ガスで火力発電ができるから、都市ガスを使って無限循環ができる。永久機関みたいだ。真の永久機関とは違って、水素ガスを使うのだが、とにかく、水素ガスを使うだけだから、炭酸ガスの排出はゼロ。つまり、炭酸ガスの排出を「半減」させるのではなく、「全減」させることができる。しかも、他の二つの問題も解決できる。3大問題を一挙に解決できる。これぞ、すばらしいアイデアだ。すごい。天才的だ! 寝惚け眼の頭でこそ、天才的なアイデアが思い浮かぶのだ!
こう思ったあとで、顔を洗って、ご飯を食べた。その後、改めて考え直した。すると、そのアイデアには、重大な欠陥があると判明した。こうだ。
「そんなことをするくらいなら、最初から水素ガスで発電する方がマシである。水素ガスで発電すれば、いちいち二酸化炭素を水素で還元する手間(メタネーション)が不要だ。その分、無駄な工程がないので、効率も高い。水素ガス発電で済むことなのに、余計な手間をかけるのは、ただの無駄だ」
結局、そのアイデアはナンセンスだと判明したわけだ。しょぼーん。

朝の寝惚け眼の頭で考えても、「下手な考え、休むに似たり」となってしまうわけだ。
では、そのアイデアのどこが問題だったのか?
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このアイデアでは、都市ガスを作ったあとで、都市ガスで発電する。この場合、せっかく都市ガスを作ったのだが、その都市ガスを自分で食ってしまう。これでは、最終目的としての都市ガスを生産できないことになる。
そもそも、前項の方法は、何のためにあったか? 都市ガスによる炭酸ガスの排出を減らすためだ。(つまり、LNG を地中から採掘するのを減らすためだ。)ならば、炭酸ガスを排出しないで、都市ガスを作ればいい。それならば、前項のように、炭酸ガスを(あまり)排出しないで都市ガスを作れる。
ところが、上記の新アイデアでは、都市ガスを作ることができない。(作った都市ガスを自己消費してしまうからだ。)これでは、意味がない。
また、かわりに「最初から水素ガスで発電する」という方法もあるが、この方法でも、電力だけなら作れるが、都市ガスを作ることはできない。
そのどちらの方法でも、都市ガスを作ることはできない。だから、都市ガスの炭酸ガスを減らすことができない。どっちも無効である。
まあ、水素で発電することは、それはそれでやって良いが、都市ガスを生産する効果はないので、前項の話には無関係である。それとこれとは別だ、というふうになる。
では、(真の目的である)「都市ガスによる炭酸ガスの削減」のためには、どうすればいいか? 「半減」でなく、「全減」にするには、どうすればいいか? その方法を考えよう。
炭酸ガス「全減」の方法
前項で示した方法は、「半減」の方法だった。つまり、一つの炭素使用によって、「発電」と「都市ガス生産」の双方を同時にやってしまう、という方法だった。これはこれで効果があるが、炭素仕様があるので、炭酸ガスの排出をゼロにすることはできない。
では、炭酸ガスの排出をゼロにするには、どうすればいいか?
その方法は、すでに前項の最後に示しておいた。こうだ。
水素を生産するとしたら、水素のまま利用するしかないようだ。となると、その方法は、燃料電池と、水素式の火力発電だろう。
ここでは、「燃料電池」と「水素式の火力発電」という二つの方式を示した。
この二つについて、順順に説明しよう。(先後は逆順で)
(1) 水素式の火力発電
水素式の火力発電は、それはそれで可能だ。すでに本項の前半で述べた方法でもある。……ただしこの方法は、電力会社の役割だ。電力会社が勝手に「水素発電」を推進すればいいのであって、一般人は関係がない。いちいち考えなくてもいいだろう。
- 現実に「水素発電」を実現するには、海外で発生させた水素を輸入する手間がかかる。それにはコスト面でかなりの手間がかかるので、実現するのは 2040年以後のこととなるだろう。あと 17年以上は、「太陽光発電の低コスト化」や、「水素運搬の低コスト化」など技術発達を待つしかない。その日が来るまでは、コスト面でライバルに太刀打ちができない。特に、国内の太陽光発電は、「送電だけで電力を運べる」という圧倒的なアドバンテージがあるので、この方式にはなかなか勝てそうにない。国内の太陽光発電や風力発電が飽和するまでは、海外からの水素の輸入の出番はない。
(2) 燃料電池
燃料電池という方式もある。水素によるエネルギー供給の方式としては、これが本命だろう。(炭酸ガスの排出は皆無だ。)
燃料電池というと、燃料電池車が有名だが、ここで言う燃料電池とは、自動車用の燃料電池のことではない。家庭向けの地上設置型になった燃料電池だ。
これは、一種の発電機であるが、ただの発電機ではない。燃料電池車では排出される(オシッコになる)水を、有効利用する。なぜなら、その水は温度が高いので、熱源として利用できるからだ。
この意味で、(家庭用の)燃料電池は、単なる発電機ではなく、「熱電併給」となるコジェネである。その分、発電効率はとても高くなる。
普通の火力発電は、旧型の石油式で 40%ぐらいで、新型の石油式で 50% ぐらいで、最新型の LNG 式や複合方式で 64% ぐらいだ。一方、熱電併給のコジェネとしての燃料電池は、75〜80% という高効率を誇る。
→ コジェネについて|電力・ガス|資源エネルギー庁
さて。熱電併給のコジェネとは、どういうことか? こうだ。
「燃料電池としては、水素で発電する。同時に、副産物としてできた温水を、風呂や暖房に使う」
温水をそのまま風呂や料理に使うのは、毎日使える。
一方、温水を熱源として利用して、家庭内の暖房に使えるのは、冬季のみだ。(春・夏・秋には、暖房は不要だ。)
この意味で、コジェネは「冬季には有効だが、春・夏・秋には有効でない」と言える。冬場には(暖房代としての)ガス代の節約ができるが、夏場には(暖房に使えないので)せっかくの温水が余ってしまう。せっかく熱が生じても、その熱をうまく暖房に使えないので、その熱を無駄に捨てることになる。これでは、効率の低下が生じて、ただの無駄となる。せっかく 75〜80% という高効率があっても、宝の持ち腐れだ。こんなことなら、単なる「水素式の火力発電」の方がいいだろう。
ただし、これに対する解決策もある。次の二通りだ。
(1) コジェネによる温水を、小規模のものにする。あるいは、一つのコジェネを、複数の家で共用する。このようにすれば、「夏場の風呂用の温水の利用量」を基準にして考えるので、もともと使用量の設定が少ない。だから、余ることはない。(その分、冬には暖房用の温水が大幅に不足するという難点があるが。)
(2) コジェネの稼働を冬場に限定して、夏場には少しだけしか使わない。たとえば、コジェネで 30kW の発電可能能力があるとして、夏場に稼働するのは2時間ぐらいだけにしておく。または、10kW で6時間ぐらいだけにしておく。能力全体のごく一部しか使わない。その分、温水の発生も少なくなる。だから、「大量の温水が余る」という無駄をなくせる。一方、冬場には、 30kW の発電を 24時間フル稼働して、大量の発電をして、できた電力を電力会社(東電など)に売る。一方、生じた大量の温水は、風呂と料理と暖房に使う。(温水式暖房で。)……この場合、冬季には水素だけで暖房ができるので、ガスを購入する必要はなくなる。その分、都市ガスの発生を「全減」にできる。(なお、料理用のガスも、IH調理器を使うことで、電気に置き換える。)
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以上のようにすれば、都市ガスの発生を「全減」にできるので、目的は達成できる。
ただし、この方法を実現するには、難点が一つある。次のことだ。
「燃料電池の稼働のために、水素ガスの配送が必要となる。そのためには、既存の都市ガスのガス管を使える。だが、都市ガスのガス管を水素用に転用すると、そのガス管で都市ガスを使えなくなる。(どちらか一方しか使えない。)だが、都市ガスから水素ガスへ、一挙に転換するのは無理だ」
ガス管に流すガスを、都市ガスから水素ガスに転換するというのは、大がかりすぎて、当分は無理だ。一挙に転換するのは無理なので、少しずつ水素ガスの濃度を上げるというやり方で、50年以上をかけて実施するしかないだろう。ただし、「ガスの混合濃度の変化に対応できる、自動調整式のガス調理器」という新型機械を導入すれば、案外、早く実現できるかもしれない。この新型機械を導入した家庭では、ガス管に流れるガスの混合比がどのような混合比であっても足りるからだ。
この方式を使えば、20年ぐらいをかけて、「都市ガスから水素ガスに転換する」ということも可能になりそうだ。
ともあれ、「都市ガスの炭酸ガスをなくす」ということは、長期的には「都市ガスを水素ガスに置き換える」という方式で、対処できるわけだ。ただし、そのためには、かなり長い時間を必要とする。特に、次の3条件が必要だ。
・ 国内の太陽光発電が飽和する。(これ以上パネルを設置できない。)
・ 海外の太陽光発電が大幅に低コストになる。(運搬コストをまかなえる。)
・ 上記の新型のガス機器(混合濃度対応)が十分に普及していること。
これらの条件が満たされるのは、2050年よりもあとのことになるだろう。その意味で、「半減でなく、全減をめざす」という目標の到達には、かなり長い時間がかかることになる。前にも述べたとおり。
[ 付記1 ]
2050年よりもかなり先( 2070年ごろ)には、炭酸ガスを使わないエネルギー源として、「核融合発電」が実現しているかもしれない。
NHKの サイエンスZero という番組では、核融合について、「技術的には 2040年ごろに実現する。コストを勘案しての実用化は今世紀後半になる」という予想があった。
→ NHKオンデマンド | サイエンスZERO 「人類の未来を救え!ここまで来た核融合発電」
[ 付記2 ]
コジェネの本質は、温水供給である。温水供給こそがコジェネの目的なのであって、発電は副次的産物にすぎない。
その意味で、コジェネは太陽光発電に取って代わるものではない。むしろ都市ガスに取って代わるものだ。
コジェネと太陽光発電は、排反的なものではない。むしろ相補的なものだ。太陽光発電は、夏に強く冬に弱い。コジェネは、冬に強く夏に弱い。双方は得意と不得意が補い合っている。とすれば、両方をともに設置するのが最適解となるだろう。