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脱炭素化を推進しようとすると、発電や自動車の脱炭素のことばかりに着目しがちだ。
・ 火力発電を太陽光発電や風力発電に変える。
・ ガソリン車や HV車を EV に変える。
こういうことばかりが話題になっている。
だが、先に電気代とガス代のことを話題にしたことからも明らかなように、電気代の半分ぐらいの金を都市ガス代に払っているのが普通だ。とすれば、発電の脱炭素化だけをしてもダメであって、都市ガスの脱炭素化もするべきだ。この問題を見失ってはならない。
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実を言うと、上の問題を含めて、現状の脱炭素化には三つの問題がある。次のように。(★)
・ 都市ガスの脱炭素化ができない
・ 再生エネ発電だけでは電力量が不足する
・ 再生エネ発電だけでは電力供給が不安定だ
(1) 都市ガスの脱炭素化ができない
これは、すぐ上に述べた通り。人々は都市ガスの出す炭酸ガスのことを忘れている。
(2) 再生エネ発電だけでは電力不足となる
再生エネ発電の最大発電量は、思ったほど多くはない。日本の電力需要の全体をまかなえるほどではない。仮に日本の総面積の全体に太陽光パネルを敷き詰めるとしても、それでできる発電量は日本の電力需要の全体をまかなえるほどではない。現実には、利用可能な土地や屋根などを全部使ったと想定すると、日本全体の電力需要の 10%をまかなえるほどであるようだ。
→ 太陽光発電の資源量 - Wikipedia
日本の年間総発電量(約1064TWh)の約10%となる。
このほか、風力発電や水力発電などの全体を足しても、10% + 20% の合計 30% 程度だろう。甘く見ても、40% ぐらいだ。とうてい、日本の電力需要の全体をまかなえるほどではない。つまり、再生エネ発電だけでは電力不足となる。
- 《 加筆 》
「仮に日本の総面積の全体に太陽光パネルを敷き詰めるとしても、それでできる発電量は日本の電力需要の全体をまかなえるほどではない」
と上で述べたが、これはどうやら間違いであるようだ。
詳しくはコメント欄( 04月09日 17:55 )を参照。
(3) 再生エネ発電だけでは電力供給が不安定だ
再生エネ発電は、供給に変動がある。波のように増減するのだ。
風力発電は、比較的変動が少ないとはいえ、決して安定的な電力ではない。季節風による季節的な変動もあるし、日ごとに風の強弱による差がある。また、台風のように強風のときには、(羽根の破損を防ぐために)発電を止める必要もある。
太陽光発電は、もっと変動が大きい。
・ 昼間と夜の変動。(夜間は発電がゼロだ。朝夕も少ない。)
・ 天気による変動。(曇りや雨では大幅に少なくなる。)
・ 季節による変動。(冬にはかなり少なくなる。)
このような理由で、変動が生じる。このうち、昼夜の変動についてだけは、EV の充電池を使って緩和することができる。しかし、EV に蓄電できる分は、せいぜい数日分だけだ。梅雨で曇り空が続いたり、冬季に太陽光が弱まったり、冬季の日本海側で晴れ間が出なかったりすれば、たちまち発電量は激減する。これは EV の充電池では解決できない。
以上の (1)〜(3) のように、三つの大問題がある。困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
・ (海外の)太陽光発電で、水素を生産する。
・ 石炭や石油などで、火力発電をする。(炭酸ガスを排出する。)
・ 太陽光発電の水素と、火力発電による炭酸ガスで、都市ガスを生産する。
図で示すと、こうだ。
水素 + 炭酸ガス → 都市ガス
この方法を取ると、上記の三つの問題を、一挙に解決できる。
・ 火力発電をすることで、電力不足と電力の不安定さを解決できる。
・ 火力発電による炭酸ガスは、水素によって都市ガスに転化できる。
・ 都市ガスは、合成されたものだけを使うので、地下資源を採掘しない。
このようにして、先に示した三つの問題(★)を、一挙に解決できる。まるで魔法のように、大きな問題を三つ同時に解決できるのだ。
- ※ 水素の製造には、海外の太陽光発電を使うので、日本国内の「面積の不足」という制約から解放される。日本だけでは場所が足りないが、海外の場所を使えば、太陽光発電でエネルギーは得られるのだ。そのエネルギーを水素の形で輸入できる。
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ただし、この方法は、「完全な解決」ではない。なぜなら、火力発電のところで、石炭や石油などの化石燃料を使うからだ。この部分をゼロにしていないという意味で、炭酸ガスの排出はゼロになっていないので、「完全な解決」ではない。
しかしながら、火力発電と都市ガスという二つの箇所で排出された炭酸ガスを、一つの箇所で排出するだけで住ませている。その意味で、炭酸ガスの排出を半減させていると言える。(半減させる分のエネルギーは、水素を使っている。)
その意味で、「完全な解決」ではなく、「半分だけの解決」だと言える。しかし、半分だけの解決だとしても、それはとても大きな効果があると言えるだろう。ちなみに、現状では、太陽光発電であれ、EV であれ、それによる効果は全体の1割にもなっていない。そういう微小な効果に比べれば、「一挙に半減させる」という方法は、十分に意義のある方法だ。
特に、「二つの分野でそれぞれを半減させる」というのは、言い方を変えると、次のように言える。
・ 火力発電による炭酸ガス発生を前提とすれば、都市ガスの炭酸ガス発生量をゼロにできる。
・ 都市ガスによる炭酸ガス発生を前提とすれば、火力発電の炭酸ガス発生量をゼロにできる。
この二通りのいずれであっても、十分に大きな効果があると言える。
また、いずれにしても、先の三つの問題のうちの後者の二つ(再生エネ発電による電力量の不足と、再生エネ発電における電力の不安定さ)を、ともに解決できる。
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上で述べたように、この方法は「完全な解決」ではなく、「半分だけの解決」だ。では、それをどう評価するべきか? 次のように言えるだろう。
「半分だけの解決」は、今世紀半ばまでの方策としては有効だろう。現状よりも大きく改善させる効果があるからだ。
今世紀半ば以降(21世紀後半)では、「半分だけの解決」では物足りない。もっと大きな改善が必要だ。だが、そのころには、太陽光発電による水素生産が劇的に安価になっているはずなので、海外から水素を輸入することで、都市ガスを水素ガスに転換することが可能となるだろう。
その具体的な方法は、次項で述べることにする。
※ 以下は、読まなくてもいい。
[ 付記 ]
「再生エネ発電だけでは電力量が不足する」
という点については、本文中で簡単に説明した。( Wikipedia の記述も引用した。)
より詳しい話は、別項のコメント欄で、質問に答える形で説明した。その箇所を、下記に転載しよう。
産総研のHPによれば、ペロブスカイト太陽電池で達成できる最大効率は理論的に25%程度だそうです。
一方、Wikiによれば日本付近の最大照射強度は約1kW/平米なので、仮に25%効率の場合で地上面積38万k平米をかけた場合、9.5E11Wの発電量になります。
エネ庁のHPによれば、全国の2020年度電力需要は約1万TWhなので、時間平均では
1E4*1E12/3600=2.8E12
となり、需要が時間平均でも数倍多いようです。
どこか計算間違っているでしょうか。或いはEEZに太陽光パネル筏を並べるという想定でしょうか。
宜しくお願い致します。
Posted by 新道 at 2023年04月08日 06:51
> 需要が時間平均でも数倍多いようです。
興味深い計算をありがとうございました。これは考えたことがなかった。
だけど、大丈夫。理由は以下の通り。
再生エネ全体でまかなえばいいので、太陽光発電に限る必要はない。たとえば、風力発電も使える。その電力を EV に蓄電すれば、夜間の発電量を昼間に使える。
太陽電池はペロブスカイト太陽電池以外も使える。ペロブスカイト太陽電池は、従来は使いにくかった場所(窓や壁面や自動車ボディ)に設置するのに適しており、普通の場所にはシリコンでいい。
太陽熱温水器を使えば効率が 60% になる。
それでもまだ足りない分は、海外で太陽光発電で水素生産して、輸入すればいい。とはいえ、それは国内の再生エネ発電が上限に達したあとのことだ。2050年以後。そのころであれば、「海外からの水素輸入」が意義を持つ。そのころであれば、太陽光発電のコストは kWh あたり 1円ぐらいまで下がっていそうだ。水素生産もコスト的に成立するだろう。
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だけど、太陽光発電の発電量って、思ったより少ないんですね。九州ではすでに(一時的には)供給が需要を上回っている、というのは、どうなんだろう? 九州は人が少ない、ということで片付くのかな?
関西までは 60Hz で太陽光発電の電力でまかなえるが、関東はまかなえないのかもしれない。東北で太陽光発電の電力が余りそうな気もするが。
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参考のため、ネットで別の計算を探したところ、Wikipedia に記述があった。全国の面積をすべて利用するのでなく、可能な場所だけを利用した場合、需要の 10% をまかなえる計算だという。太陽光だけではそれが限界であるようだ。
→ https://x.gd/uV4Zs
風力発電の方は 424GW という値が得られた。
→ https://looop-denki.com/home/denkinavi/energy/powergeneration/percentageofpowergeneration/
ギガは E9 なので、0.424E12 となる。夜間の分を合わせて、1E12 ぐらいか。
水力や太陽熱温水器を合わせて、再生エネ全体でようやくトントンとなるぐらいかな。これだと足りないので、原子力発電が必要かも……とも思ったが、別にその必要はない。海外からの水素輸入で足りる。
世界レベルで見れば、太陽光発電の資源量は十分に足りている。
→ https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/about_pv/e_source/esource_2.html
太陽光発電で水素生産、という形で、将来的にはまかなえそうだ。30年ぐらい先の話になるが。
もっと先なら、核融合発電という手もある。
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なお、電力をまかなうことより、ガスをまかなうことの方が大切なので、その意味では、水素生産の必要性はもっと早まりそうだ。
上記では 2050年ごろを想定していたが、ガスをまかなうことを考えると、太陽光発電による水素生産(ガスがわり)は 2040年ごろには実現するかもしれない。
都市ガスを、LNG 由来でなく、水素由来にすることは、必要性が高くなりそうだ。
世間では、電気のことばかりを考えている人が多いが、ガスのことも忘れてはダメだね。
参考記事:
二酸化炭素と水素から都市ガスを生成 親炭素技術「メタネーション」とは
→ https://seikeidenron.jp/articles/19578
とはいえ、石炭や石油に由来する高濃度の二酸化炭素を使うのでは、二酸化炭素を削減する効果はない。化石燃料を使用するからだ。
空気中の二酸化炭素を利用できればいいが、あまりにも低濃度なので、これを固定する技術はない。次項を参照。
結局、都市ガスの脱炭素化は、技術的に解決方法が見つかっていないようだ。都市ガスに少しだけ水素を混ぜて、お茶を濁す、というぐらいでしかない。水素の生産では解決が付きそうにない。
水素を生産するとしたら、水素のまま利用するしかないようだ。となると、その方法は、燃料電池と、水素式の火力発電だろう。都市ガスを経由する方法は無理っぽい。
Posted by 管理人 at 2023年04月08日 09:18
( → 水素社会を推進するべきか? .1 : Open ブログ )
このコメントの最後では、「都市ガスを経由する方法は無理っぽい」と否定的に評価した。だが、その後、改めて突き詰めて考えると、「都市ガスを経由する方法」にも、うまい方法がある、と気づいたわけだ。その方法(アイデア)を本項で紹介した。
【 関連項目 】
炭酸ガスと水素から都市ガスを生成する、という方法は、炭酸ガスが高濃度である場合にのみ成立する。(火力発電の場合など。)
一方、空気中の炭酸ガスは低濃度なので、空気中の炭酸ガスを利用する(吸収する)ことは、工業的な方法では無理だ。その場合には、農業に頼るしかない。
このことは、前々項で説明した。
→ 炭酸ガスの吸収は農地で: Open ブログ
【 追記 】
都市ガスを作るときに、炭酸ガスと水素から都市ガスを作る、と述べた。
しかしこれに対しては、反論がありそうだ。「だったら、そんな面倒なことをしないで、最初から LNG を採掘する方が簡単では? それでも、炭酸ガスの発生量は同じだし」と。
だが、この方法では、都市ガスによる炭酸ガスの発生量は同じでも、三つの大問題のうちの2番目と3番目の問題が解決しない。都市ガスによる炭酸ガスの発生量以外の点で、大問題が二つ生じていることになる。(都市ガスでなく発電の部門で、炭酸ガスの発生量が大幅に増えている。)
本項で述べた方法(水素を使う方法)では、水素のエネルギーを使うので、その分だけ、炭酸ガスの削減効果はあるのだ。確実に。
「仮に〜〜。現実には……」
というふうに、対比させています。前件と後件とは別です。ゴッチャにしないでください。
(1)都市ガスの主成分はメタンです。確か80%位のはずです。メタン(CH4)を燃やすと2分子の水と1分子の炭酸ガスを出します。取り出せる熱量に比べて炭酸ガス放出割合が少ないので石油などと比べてクリーンと言えると思います。
(2)炭酸ガスと水素を反応させればメタンができますが、初めから水素だけを燃やしたら炭酸ガスは全く放出されません。炭酸ガスを減らすためにせっかくのクリーン燃料を浪費するのはばかげているのではないでしょうか。メタネーションの意味が分かりません。
炭酸ガスを減らすためだけなら、水素ガスをそのまま使ってもよさそうだ。だが、都市ガスの本来の目的は、熱量を得ることだ。それが問題となる。
重量あたりで比較するなら、軽い水素はメタンよりもずっと大きな熱量を持つ。
しかしながら、現実には都市ガスの配管の中を水素ガスを通すことになり、その場合には気体の分子数(モル数)あたりの熱量が意味を持つ。
その一覧表は下記の通り。
https://katakago.sakura.ne.jp/chem/fire/combustion_heat.html
水素は 284 で、メタンは 888 だから、メタンは水素の 3.12 倍の熱量を持つ。
都市ガスを水素ガスにした場合、熱量が大幅減になる。
たとえば、風呂はそれまで 30分間で沸かせていたとすると、水素ガスでは95分間ぐらいかかることになる。
ガスコンロでは、最大の強火にしても、これまでの中火や弱火ぐらいにしかならない。
ガス瞬間湯沸かし器では、最強にしても熱い湯は出てこず、ぬるま湯しか出てこない。
ガス暖房機では、寒い日には、火力が弱すぎて、ブルブル震えることになる。
あらゆる面で、熱量不足の弊害が生じる。大混乱だ。そんなデメリットを避けるために、メタネーションがある。社会の全体が大迷惑を被るかわりに、中央の一箇所だけでちょっとだけ工程をかける。それだけで済む。
これが人類の知恵というものだ。
教訓。
炭酸ガス削減という目先の目的にとらわれすぎると、熱量を得るという本来の目的を見失ってしまう。
ご指摘ありがとうございます。
Wikipedia の原文に当たってみましたが、そちらのご指摘の通りで、誤りはないと思えます。日本全体の太陽光発電の潜在量(発電可能量)が、日本の電力需要をはるかに上回るというのは、前にも試算したことがあります。
また、Wikipedia の記述の「戸建て住宅の発電量」が 45 GWp に対して全体が 102 GWp というのは少なすぎる(莫大な耕作放棄地におけるメガソーラーが考慮されていない)という点で、102 GWp というのは信頼できない数値です。耕作放棄地におけるメガソーラーを実施すれば、大量の太陽光発電を実現できるはずで、発電量の不足は解決できるはずです。
となると、最初のコメントの数値(新道さんの試算)が間違っていたことになります。
では、その試算のどこが間違っていたのか? 私にはちょっとわかりません。こういう細かな数字の試算をするというのは、私には苦手な分野なんです。昔から計算するのは嫌い。計算ミスはちょいちょいやる。(小学生のころからだ。)
読者のどなたか、計算の問題点を、指摘してみてくださいませんか?
コストの面と二酸化炭素削減の面と、メリットが最大になる点を探ればより効果的になりそうです。
距離よりも、液化してからガスに戻すことで、莫大なエネルギーロスが発生するので、そっちの方が重要になるでしょう。
LNG の冷熱を有効利用できればいいのだが、今は無駄に捨てているようです。
一方、船舶による運搬コストは非常に低い。石油やガソリン(税抜き)は、ミネラルウォーターみたいな安い価格で売られている。つまり、中東から運んだとしても、国内のトラック運輸よりも安いくらいの運送コストとなっていることになる。 果物ジュースも、国内産より海外産の方が圧倒的に安い。
金額面の「コスト」だけではなくて、それに伴って排出される二酸化炭素量の計算もしないと「脱炭素化」に寄与すると言えないのでは。
瞬時発電量は、
1 kW * 0.25 * 380000 * E6
=1* E3 * 0.25 * 380000 * E6 = 95000 * E3 * E6 = 95000 * E9
95000 TW
これは、9.5 * E13 Wです、2桁違うようです。
年間需要量が1万TWhなら、
瞬時はこれを1年の時間数で割る、すなわち 365 *24 = 8760 で割る、
10000 / 8760 =1.14
1.14 TW
この比率ということは、国土全部で発電なら、発電のピーク時には平均需要の十万倍くらいになりそうです。
実は需要は986.95TWhくらいで、ここでも1桁違います(なので百万倍くらいということになりそう)。
「2020年のそれは986.95TWh」
https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00001/00080/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AF10%E5%B9%B4%E3%81%A7%E6%B6%88%E8%B2%BB%E9%9B%BB%E5%8A%9B%E9%87%8F%E3%81%8C12%EF%BC%85%E6%B8%9B%E5%B0%91&text=IEA%EF%BC%88International%20Energy%20Agency%E3%80%81%E5%9B%BD%E9%9A%9B,12%EF%BC%85%EF%BC%89%E3%82%82%E6%B8%9B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82
ただ実際は、発電のピーク時は僅かな時間に留まるので、この1桁下くらいになると思われます。