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Amazon は商品の配送で、自前の宅配便を整備している。だが、それに応じてくれる個人配送業者(ギグワーカー)が足りないので、これをもっと増やそうと努めている。「個人の起業を支援する」という形で。
ネット通販大手のアマゾンジャパンは、運送会社を起業したい人向けに新たな取り組みを発表しました。
具体的には、未経験者でも起業できるよう、事務手続きに関するアドバイスを行う弁護士事務所を紹介したり、倉庫での荷物の積み込みや、配送ルートの選定といったノウハウを提供したりします。
( → 深刻な人手不足改善 アマゾンジャパン 運送分野の起業支援へ | NHK | 働き方改革 )
このような個人事業を大会社がネットで管理するというのは、実質的には(起業の管理下の)労働者でありながら、形態的には個人会社であるということで、脱法的な雇用形態であると言える。
これは問題だということで、欧州では法的に制限しようという方向にある。ところが、日本政府は腰が重い。自民党はもともと「企業優先・労働者虐待」という政党だから、どうしても労働者保護には向かわないのだ。
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この件については、「労働者を搾取するのはけしからん」というような批判がある。
→ はてなブックマーク
だが、この問題の本質は、そこにはない。仮に「搾取」だけだとしたら、そんな搾取をする業態に多くの応募者が押しよせるはずがない。ではなぜ、虐待されるとわかっていながら、人々は Amazon の募集に応募するのか? そこに謎がある。
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その謎に答えよう。理由はこうだ。
「ギグワーカーは、失業保険や健康保険も不十分で、年金に至ってはごく小額の国民年金しかない。十分な保険や年金のある正規労働者と比べると、圧倒的に不利である。しかし、不利である分、保険料や年金料を払わないで済む。会社負担の分に相当する額も現金でもらえる。だから見かけ上、現時点での手取りが多いので、給料が高いと思い込む」
高額の保険料や年金料を払わないで済むので、現時点での手取りは多い。しかし、いざ失業したり病気になったり子供を産んだりすれば、(正規労働者ならば)もらえるはずの保険料をもらえない。また、老後には少額の年金しかもらえない。「なんで少額の年金しかもらえないんだ」とブーブー文句を言っても、仕方ない。もともと高い年金料を払っていないのだから、高い年金をもらえるはずがないのだ。
これをひとことで言えば「朝三暮四」である。「目先の金がほしい」と言って、目先の金ばかりをもらっていたら、あとで金をもらえなくなって、結局は大損した……というふうになる。
これがつまりは、「ギグワーカーになりたがる人が多い」という理由だ。猿と同じで、目先の金に目がくらんで、将来の金が減ることを理解できないのである。
逆に言えば、Amazonは猿たちをだまして、詐欺的な手法で、金儲けをしているのである。「猿が餓死したけりゃ、勝手に餓死させろ。自分たちがそれを選んだんだから、勝手にさせろ」とうそぶいて、金儲けをするわけだ。
風急にして 天高く 猿嘯くこと哀し。
渚清く 沙白くして 鳥飛び廻る。
※ 杜甫 「登高」
[ 付記1 ]
子供を産むと、育休を取って、高額の育休給付金をもらえる。しかしこれは、正規労働者であることが条件だ。非正規労働者やギグワーカー(フリーランス)は、育休給付金をもらえない。
雇用保険に加入する正社員らは、育児休業をとり始めて6カ月間までは育休前の賃金の67%を、その後は子どもが原則1歳になるまで50%を育休給付として受け取れる。所得税や社会保険料も免除され、手取りの賃金では育休前の8割程度がカバーされている。
一方、雇用保険に入っていない自営業者やフリーランスらはこうした育児中の給付がない。雇用保険の加入には「所定労働時間が週20時間以上」などの要件があり、対象外の非正規労働者も多い。
( → 自営業や非正規らに「育休給付金」 制度創設へ検討本格化 首相表明:朝日新聞 )
こういう状況なので、記事では「これらの人々にも給付金をもらえるようにする」という政治改革が紹介されている。だが、そのような政治改革をすれば、当然ながら、非正規労働者やギグワーカーから保険料を徴収することになる。すると、目先の手取額が減ってしまう。こうなると、お馬鹿な猿たちは、「目先の手取額が減るのはイヤだ。キッキー」と不平の声を上げるだろう。「 50円徴収されてから、100円をもらえるようにするんだって? それじゃ、目先では 50円の損だ。絶対反対! キッキー!」と喚くだろう。

Stable Diffusion による生成画像
[ 付記2 ]
Amazonは、いったん高値の単価でギグワーカーと契約したあとで、途中で単価を大幅に切り下げる……という詐欺的なことをやっている。新規に契約した人は、最初のうちは「単価が高い」と喜んでいられるが、何カ月かたつと、単価を大幅に切り下げられて、「この単価ではもはや生活が成り立たない!」と悲鳴を上げることになる。
こういう詐欺的な手法については、前にも言及したことがある。
Amazon は方針を改定した。配達の数量は3倍になったのに、払う料金総額は同じとなった。結果的に1個あたりの単価は3分の1になった。ガソリン代などの経費が多くかかることも考えると、3分の1以下になったとも言える。ざっと見て、170円から 60円にまで下がった。これは、ヤマト運輸や佐川急便の 140円 よりも大幅に安い。
結局、最初は高値で契約したあとで、途中で安値に切り替える、という詐欺的な手法を採ったわけだ。
( → Amazon 宅配の違法労働: Open ブログ )
[ 余談 ]
じゃあ、どうすればいいか? 前にも述べたが、ギグワーカーなんかにならないで、クロネコヤマトの従業員になればいい。保険にも入れるし、厚生年金にも入れる。給料もかなり高給をもらえる。
なお、目先の手取額では、ギグワーカーよりも低いだろう。それでも生涯所得では、ギグワーカーよりも上になる。なぜなら政府のお金で、将来は厚生年金をたっぷりともらえるからだ。
※ クロネコヤマトの配達員は、若い女性が増えてきたね。小柄な体で荷物を持って、よく頑張っているな、と感心する。