2023年03月05日

◆ 諫早湾干拓の最高裁判決

 諫早湾干拓について最高裁判決があったが、嘘八百だらけの判決だ。
 
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 諫早湾干拓について最高裁判決があった。
 長崎県の国営諫早湾干拓事業をめぐり、堤防排水門の開門を命じた確定判決の「無力化」を国が求めた訴訟の上告審で、最高裁第三小法廷(長嶺安政裁判長)は、1日付の決定で、漁業者側の上告を棄却した。漁業への悪影響は軽減したとして無力化を認めた二審・福岡高裁判決が確定した。
 第三小法廷は「上告理由にあたる憲法違反などがない」とだけ述べ、ほかに判断理由は示さなかった。
( → 諫早、非開門で決着 最高裁、司法判断を統一 国の勝訴確定 閉め切りから26年:朝日新聞

 「漁業への悪影響は軽減した」というのが判決理由だが、これは嘘八百だ。
 漁業者らが求める有明海再生の道筋も見えていない。
 漁業者の絶望感は強い。
 有明海のノリ養殖は赤潮の被害が続く。最も被害の大きい佐賀県西南部は今季大打撃を受けた。太良町の漁師大鋸武浩さん(53)は「前季は売り上げが50万円だけ。今季はゼロ。これでどうやって生きていけというのか。望みも何もない」。国の「有明海再生策」はどれもうまくいかず、まだやっていない諫早湾の潮受け堤防の開門調査が「唯一の望み」だったという。決定を聞いて「もうノリ養殖はやめた」と思った。
 堤防閉め切り後、収入源だった二枚貝のタイラギがほとんどとれなくなった。一緒に漁をしていた息子は陸に上がり、漁協の組合員は21年までの7年で4分の1ほど減ったという。
( → 諫早、残る禍根 漁業者、国の対応に怒り「望み消えた」:朝日新聞

 漁業被害については、記事では軽く言及しているだけだが、現実にはひどいものだ。魚介類の被害もひどいが、とりわけ海苔の減産がひどい。
 わが国のノリ養殖生産枚数および生産額は、2005 年以降、それぞれ 70〜100 億枚及び 680〜970 億円程度で推移しているが、そのうち、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県の 4 県で、生産枚数の 54%、生産額の 55%を占めている。このように、有明海は、国内最大のノリ養殖の生産地であることから、有明海におけるノリ養殖の生産は、わが国のノリ養殖やノリの流通などに多大な影響を及ぼすことになる。
( → 海苔の生産 :環境省

 海苔の減産は、枚数の減産というよりは、「色落ちの発生」による低品質化で、大幅減収となる……という被害が発生している。詳しくは下記。
  → 有明海:ノリ養殖の現状(PDF) (2頁、18頁)

 ──

 以上では簡単に触れただけだが、もっと詳しい統一的な説明はないか? ある。実は本サイトで、前に詳しく言及したことがある。
  → 諫早湾の開門の高裁判決: Open ブログ
  → 諫早湾の干拓事業: Open ブログ

 詳しい事情は、とっくに説明済みなのだ。そちらを読んでほしい。
  ※ 1番目の項目は、諫早湾の状況の概説。
    2番目の項目は、どうしてこうなったか、という説明。


 結局、今回の最高裁判決は、次のことを意味する。
 「最高裁は、政府の尻拭いをするためなら、嘘八百の理屈を並べて、汚い政府のケツを舐める。黒を白と言いくるめる。地獄の状況を天国と言いくるめる。こうして政府の失政を擁護する」
 まったく、ひどいものだ。プーチンや習近平にへいつくばる奴隷役人みたいなものだ。それが現状の最高裁だ。
 
 ──

 なお、この判決は、日本国民の生活に大きく影響する。日本で最大の海苔の産地である有明海が、なかば「死の海」のようになってしまうせいで、日本の海苔の生産量が激減するからだ。
 昨年同期と比べると、売上枚数は3分の1に落ち込んだ一方、平均単価は2倍を超す高値がつき、全体の売上額では上回った。
 赤潮と栄養塩不足に悩まされ記録的な不作となっている今季だが、1月末の降雨で色落ちなどの被害は回復してきた。ただ、赤潮は依然残っており、県有明海漁協では「いつまた色落ちするかと、気が抜けない」と警戒を続けている。
 今回の売上枚数は1億1500万枚。前年同期の2億9100万枚を大きく下回った。一方で売上額は38億2千万円と、前年同期の37億6千万円より増えた。
 全国的なノリ不作で品不足が続いていることから、参加した商社にとっては商品確保が最重要課題で、全般的に高値が付いた。
( → 品薄、単価高騰 漁協は「予断許さぬ」 冷凍網ノリ2回目の入札会:朝日新聞

 生産量は大幅減だが、そのせいで価格が上昇したので、売上額はかえって増えたそうだ。「それなら問題ないな」と思いそうだが、さにあらず。生産者は困らないだろうが、消費者は非常に困る。枚数が大幅減で、価格が大幅アップなら、消費者にとっては踏んだり蹴ったりだ。
 赤潮の異常発生による有明海産海苔の狂乱相場は、2月3日に行われた佐賀第5回入札の平均価格33円をピークに、いくらか落ち着きを取り戻しつつある。ただ、33円は昨年同期の平均13円と比べても2.5倍、ピークアウトした17日の平均も23円と高止まりの状態が続く。狂乱相場下、玉の確保に奔走した海苔商社だが、今度は末端での小売価格をどうするかという難題が待ち受けている。
 全国の海苔生産の6割を占める有明海の記録的な不作により、22年度海苔漁期の全国生産量は45億枚程度になるというのが大方の見立て。
 ざっくり65億枚と言われているこれまでの生産量より20億枚少なく(3割減)品質も悪い。それでも売るものがなければ商売にならないと、海苔商社は高値を承知で札を入れてきたが、原価をそのまま反映した売価ならスーパーの売れ筋、全形10枚入り400円が700〜800円となり、3つ切り30枚入り358円が600〜700円という現実離れした店頭価格になる。
( → 海苔 異次元の規格と価格に 相場高騰反映した店頭売価 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)

 最高裁判決のおかげで、そのうち海苔は「滅多に食べられない高級品」になりかねない。
 また、見た目も色落ちしたまずそうな海苔になりそうだ。


iro-oti.jpg
色落ちした海苔(有明海)


 日本の食文化を破壊する最高裁。



 [ 付記 ]
 有明海が日本一の海苔の産地であることには、理由がある。
 有明海は、佐賀県・福岡県・長崎県・熊本県の4県で囲まれた面積約1,700km2、平均水深20mの九州最大の海です。
日本の海の中でも干満の大きさ・流入河川の多さ・塩分濃度の変化・濁った海域・日本最大の干潟・独自の生物相などを特徴としています。
( → 有明海ってどんな海?|有明海のこと|みんなの有明海|特定非営利活動法人 有明海再生機構

有明海はなぜ満ち引きの差が大きいのですか

有明海の場合は、細長い海の形が外海である東シナ海の干満の影響を受けて、日本一といわれる干満差になっていて、最大で約6mもの干満差があるんだよ。
( → 有明海キッズページ 潟っ子 有明海 【みんなの質問】 / キッズサイトTOP / 佐賀県

 日本一の干満差と遠浅の干潟という、のりの産地としてはこの上ない条件がそろう場所。全国トップの生産量を誇るのもうなずけます。
( → 全型のり 有明海産 のりもも オンラインストア

 遠浅だと、海苔の養殖棚を設置しやすい。 → 画像
 干満差があると、海水が滞留せずに(外海の水と)交換されるので、常に新鮮な海水が与えられて、汚染されることがない。
 ところが、河口堰があると、河口堰の内側が淡水となり、水が交換されずに汚染されてしまう。
 汚染された調整池の水やヘドロによって漁業被害が出ることが懸念された。
( → 諫早湾干拓事業 - Wikipedia

 諫早湾の閉め切り以降、湾を含む有明海では漁獲量の大幅減少やノリの変色など深刻な被害がつづいています。調整池の水質汚染対策や有明海の再生などに多額の公費投入も続いています。

 ◇有明海再生事業費   (2016年度まで)  498億円
 ◇調整池の水質保全費  (2015年度まで)  352億円
( → 宝の海をとりもどそう JAWAN(日本湿地ネットワーク)

 水門を閉めると、それで得られる農業利益よりも、それで失う漁業損失の方が、圧倒的に巨額になり、政府の補償費も莫大になる。大損をするのに、政府のメンツ(過去の失敗を認めないこと)のためだけで、莫大な金を垂れ流し続ける。狂気の沙汰だ。
 それを支持するのが最高裁だ。



 【 関連動画 】






 【 関連サイト 】
  → 海苔が消化できるのは日本人だけって本当?
  → 外国人「日本の海苔が美味しすぎてたまらないんだけど!!」
  → アフリカ人が味つき海苔を食べてみた - YouTube(動画)
 
posted by 管理人 at 23:52 | Comment(8) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 [ 付記 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年03月06日 09:20
諫早湾干拓の最高裁判決について「2010年に出た開門命令の高裁判決に対して上告しなかった菅直人首相(当時)が悪いんだ、菅が問題を混乱させた」というネットの書き込みが時々見られますが、それについてはどう思いますか?

※当時の民主党政権内でも開門反対派はいたそうです(筆頭は西岡武夫)。
Posted by アイス at 2023年03月06日 21:57
 「2010年に出た開門命令の高裁判決に対して上告しなかった菅直人首相(当時)が悪いんだ、菅が問題を混乱させた」
 というのはネトウヨの反応なので、それを 180度ひっくりかえせばいい。菅直人首相が正しいことをしたのであり、それに逆らった以後の自民党首相はすべて悪の権化だった。理由は本項および前出項目で示したとおり。
 ※ 本項を読めばわかるでしょ。いちいち解説なしでも。


 まあ、歴代の自民党がずっと悪の組織だったから、そのなかで紅一点みたいに、正義が混じり込むと、「問題を混乱させた」と思うんでしょうね。
 時代劇の悪人組織みたいだな。
Posted by 管理人 at 2023年03月06日 22:33
 スーパーで海苔を買いに行った。
 有明海産は滅茶苦茶に価格が上がっている。貴重品みたいに馬鹿高値が付いている。
 高くて買えないので、仕方なく大衆品(低級品)を買った。これも値上がりしそうなので、買いだめしておいた。
Posted by 管理人 at 2023年03月06日 22:39
>まあ、歴代の自民党がずっと悪の組織だったから、そのなかで紅一点みたいに、正義が混じり込むと、「問題を混乱させた」と思うんでしょうね。
>時代劇の悪人組織みたいだな。

例えが変かもしれませんが、東西冷戦を終結に導いたゴルバチョフがロシアでは「ソビエト連邦を崩壊させ国を混乱させた」と言われているようなものですか?
Posted by アイス at 2023年03月06日 22:50
 まあ、そうかもね。
 頭が洗脳されているネトウヨにとっては、正義が悪に見える、ということはありがちだ。
 トランプが「ウクライナ支援をやめる」と言っているのを、アメリカのネトウヨが支持しているのに似ている。彼らにとっては、ウクライナ支援をする人々(正義)が悪に見える。
 

 → トランプ氏「最優先でウクライナ支援停止する」 大統領への返り咲きに自信
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000290212.html
Posted by 管理人 at 2023年03月06日 23:34
>トランプが「ウクライナ支援をやめる」と言っているのを、アメリカのネトウヨが支持しているのに似ている。彼らにとっては、ウクライナ支援をする人々が悪に見える。

これは興味深い話ですね。
日本だとTwitterを見ている限り、ネトウヨというか右派は、参政党支持者だとウクライナ支援反対が目立ちますが、自民党主流派?支持者だとウクライナ支援に賛成か、特に否定的ではない傾向です。
逆に左派は、れいわ新選組支持者だとウクライナ支援に反対か消極的、立憲民主党支持者だとウクライナ支援に否定的ではなく賛成の傾向です。
Posted by アイス at 2023年03月06日 23:54
 門の閉め切りで湾が死ぬ……というメカニズムが解明された。以下、記事の引用。

 ──

 川からの栄養塩がそこに流れ込んでいることに気づいた。「植物プランクトンのえさになる栄養塩が豊富なところに光が当たれば、プランクトンが増殖し赤潮になる。これがノリの色落ちを引き起こした」
 なぜここで対流が起きないのか。
 有明海奥部では、国内有数の干満差から生じる反時計回りの潮の流れが知られていた。諫早湾干拓事業による97年の閉め切りで、上げ潮時に諫早湾内に流れ込む潮流が減った。その分、西側から有明海奥部へと流れ込むようになり、結果的に反時計回りの潮の流れは弱まった。
 筑後川などから流れ込む高濃度の栄養塩が外海に押し出されずに滞留し、赤潮の頻発につながった。赤潮プランクトンは死ぬと海底で酸素を使って分解される。それが付近の貧酸素化を招き、貝や魚も激減した。
 堤さんら一部の研究者や漁業者は、不漁の原因が諫早湾の閉め切りにあると指摘し、潮受け堤防の開門調査を求めてきた。

  https://digital.asahi.com/articles/DA3S15673702.html
Posted by 管理人 at 2023年06月28日 20:45
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