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( ※ 本項の実際の掲載日は 2023-02-19 です。前項 の続きなので、この日付に起きます。)
「育児手当を払おう」と自治体がアピール合戦をしているそうだ。2023年2月17日の朝日新聞記事。
政府が「異次元の少子化対策」をうたう中、新年度予算で子育て支援策や少子化対策を打ち出す自治体が相次いでいる。祝い金やクーポン、出産助成金など様々で、家庭への直接給付が東京23区などで目立つ。今春の統一地方選を前に、自治体のアピール合戦の様相を呈している。
話題を呼んだのが、都が新年早々に打ち出した「月5千円給付」だ。1261億円を投じ、18歳以下へ所得制限なしで月5千円を給付する事業を予算案に盛り込んだ。小池百合子知事は「本来は国が取り組むべきことだが、待ったなしの状況を踏まえ、都独自の給付に踏み切る」と語った。
( → 入学祝い10万円、10キロ分のお米券… 子育て支援でアピール合戦:朝日新聞 )
東京都のこの政策のあとで、あちこちの自治体で似た政策が続出しているそうだ。
東京都新宿区の吉住健一区長は、小中学校に入学する児童生徒に支給する独自の祝い金創設に胸を張った。 「ランドセルや制服などで費用がかさむ」と、子どもの成長に合わせて支援するという。小学1年生に1人5万円、中学1年生に10万円を支給する。
江東区では、1人あたり3万円分の電子クーポンを配布する。目黒区では18歳以下の約3万9千人に1万円を給付し、新生児1人に2万円の祝い金を贈る。
文京区は都と同じ月5千円を、現在の児童手当では対象外となる高校生世代へ給付する。
→ 一覧表
それぞれの自治体は競って、サービス合戦をしている。そのこと自体は、「福祉政策」としては悪いことではなさそうだ。だが、それを「少子化対策」と見なすのは、完全な誤認である。
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なぜ誤認か? こんなことをいくらやっても少子化対策にはならないからだ。
実際、育児予算を増やしても、出生率が上がる効果はほんの少しでしかない、と過去の統計データから判明している。
児童手当による出産効果は、大いに期待されてきたのだが、過去の実証研究によると、その効果はかなり小さい。世界各国の事例を統計的に調べた実証研究でも、効果は限定的だ。「巨額の費用を投入しても、実際に出生率を上げる効果はとても小さい」(せいぜい出生率を 0.1 ぐらい増やす効果しかない)と判明している。
( → 少子化の原因 .1: Open ブログ )
では、どうすればいいのか? それを知るには、「なぜ少子化が起こったか?」という原因を探る必要がある。
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人々はこう考えた。
「少子化が起こるのは、人々が子供を産もうとしないからだ。人々が子供を産もうとしないのは、子育てをするための金銭的な不安があるからだ。ならば、子育てをするための金銭的な不安をなくすために、育児手当を出せばいい。そうすれば、少子化は解消するはずだ」
だが、これはまったくの勘違いだ。
正しくは、こうだ。
「少子化が起こるのは、人々が子供を産もうとしないからではない。既婚者を見れば、平均して子供を2人産んでいる。つまり、既婚者の出生率は低くない。なのに全体では出生率が低い。それは全体の結婚率が低いからだ」
出産する気があっても(金がなくて)出産できない……のではない。そもそも出産するための相手(配偶者)がいないのである。人は一人では出産できないのだ。このことが少子化の根源なのである。
とすれば、その対策は、出産費用を出すことではなく、結婚できるための所得を与えることだ。目先の数万円を出すことではなく、(長期的に)年収で数百万円も上げることだ。
このことは、先に述べたとおりだ。
「子供を産むためには、男と女の双方が必要だ。双方が子供を生むための行為をすることによって子供は生まれる」
換言すれば、こうだ。
「男や女が単独で子供を産むことはない。つまり、男と女が結びつく関係(結婚という関係)が、出産の前提となる」
この前提が満たされていないことが、少子化の原因なのだ。
※ 政府のこれまでの対策は、いずれも既婚者向けの対策だった。しかし、既婚者向けの対策をしても、効果はないのだ。なぜなら既婚者はどっちみち平均して子供二人をもつことになるからだ。
( → 少子化の原因 .2: Open ブログ )
上のことが真実だ。なのに政府や自治体は、その真実に気づかない。だから「育児手当を出せば少子化は解決する」と思い込む。だが、既婚者はもともと平均して2人の子供を産んでいるのだから、それ以上の多子多産を望んでも、効果は少ない。むしろ、独身者を結婚させることが、少子化の解決策なのだ。
なのに、そのことに気づかないまま、既婚者向けの予算ばかりを組む。これでは少子化対策があさっての方向を向いているというしかない。まったくの見当違いだ。
[ 付記1 ]
学歴や収入と出生率の相関性を調べた統計調査がある。
男性は高収入・高学歴であるほど、子供をもっている人の割合や子供が複数いる人の割合が大きいこともわかった。
( → 学歴・収入高い男性ほど、子供をもつ割合が高い…東大調査 | リセマム )
高収入・高学歴であるほど、子供をもっている人の割合や子供が複数いる人の割合が大きいそうだ。それは、どうしてか? 高学歴ほどセックス回数が旺盛だからか?
違う。高学歴・高収入ほど結婚率が高いからだ。換言すれば、低学歴・低収入ほど結婚率が低いからだ。特に、非正規労働者はそうだ。この件は、先に述べたとおりだ。
→ 少子化の対策 .2(企業責任): Open ブログ
[ 付記2 ]
別の点もある。日本では、子育てをすると大幅な減収となるが、これは世界のなかで日本だけだ、という話。
→ 子どもを産むと年収が7割も減る…世界が反面教師にする日本の「子育て罰」
出産した家庭は大幅に損をするわけだ。これだと、第二子・第三子を産む余力がなくなるだろう。
ともあれ、こういう馬鹿げた制度があると、自治体が年に数万円程度の給付金を出したところで、「焼け石に水」ぐらいの効果しかない。なぜなら、企業が「年に数百万円の減収」という罰を、出産した女性に科するからだ。冒頭の自治体の方針がいかに無駄なことをしているかがわかるだろう。
では、どうすればいいか? もちろん、企業による「子育てをすると大幅な減収」という制度を禁止すればいい。そのためには、法制度で禁止するのではなく、経済的な誘導策で導けばいい。……この点は、先に述べたとおりだ。
→ 少子化の対策 .3(企業改革): Open ブログ
結局、なすべきことはすでにきちんと示されている。(前項までのシリーズで。)
少子化対策として、何をなすべきかは、すでに判明している。ただし、そのことを実現することができていない。……そこに、日本の残念さがあるね。「自分で自分の首を絞めつつある」とわかっていても、なおかつそれを止められない、という愚かさだ。
その愚かさが「見当違いの育児手当」という政策に現れている。それはただの無駄金だと気づいていない。