2023年02月24日

◆ EV とサバの産業衰退

 日本の EV 産業の衰退と、日本のサバ産業の衰退は、どちらも似ている。

 ──

 どこが似ているかというと、どちらも政府の駄目政策が原因で、産業全体が衰退していく……という点だ。MRJ は、三菱重工の衰退だけで済んだが、EV とサバは、産業全体が衰退していく。

 EV 産業の衰退


 日本の EV 産業は衰退している。かつては日産自動車のリーフが世界でもトップクラスの販売台数を誇っていたが、今では日本企業はランキングの圏外だ。


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出典:EVsmartブログ


 EV普及率でも、日本「0.9%」イギリス「11.8%」という差がある。(2022年)
  → EV普及率、日本「0.9%」イギリス「11.8%」 埋めがたい格差はなぜ生まれたのか?

 日本の数値が惨憺たるありさまなのとは対比的に、各国の数値は高い。(2023年)
 イギリスのEV普及率:20.8%
 フランスのEV普及率:20.2%
 ドイツのEV普及率:24.7%
 スウェーデンのEV普及率:51.9%
 ノルウェーのEV普及率:88%
( → 【2023最新】日本の電気自動車(EV)の普及率は?最新データで解説します!

 では、どうしてこれほどにも大差が付いてしまったのか? 日本企業がことさら無能だったからか? あるいは、日本政府の EV優遇策が劣っていたからか?

 ──

 「日本企業がことさら無能だった」という点は、日産自動車については当てはまらない。日産自動車のアリアは、世界でもトップレベルにある。(ただし生産は順調ではない。生産には問題があるようだ。)
 一方、他の会社は、全然ダメだ。トヨタとホンダは、EV で大きく出遅れてしまった。(燃料電池車に熱中していたせいだ。) また、マツダ、スバル、スズキといった会社は、企業規模の小ささもあって、まともに EV 開発をしてこなかった。今やトヨタの軍門に降っているが、そのトヨタ自体が出遅れているので、どうしようもないようだ。(前々項を参照)
 だが、企業の無能さだけが原因ではない。政府の方針も大きな理由だ。

 政府の方針はどうか? 
 実を言うと、日本の EV 優遇策は、世界各国と比べても、そんなに見劣りはしない。十分に多額の補助金を出している。
 違いは何かというと、ガソリン車の優遇だ。欧米では、ガソリン車を冷遇している。「炭酸ガスを多く排出する自動車会社には、多額の課徴金をかける」という形で。
  → 日本の温室効果ガス政策: Open ブログ
  → 欧州排ガス規制 CAFE: Open ブログ
 一方、日本政府は、ガソリン車を冷遇するどころか、逆に、多額の優遇措置を取っている。「 HV 車に対する優遇」という形で。
 端的に言えば、欧州では HV 車を売ると、「炭酸ガスを排出している」という理由で、10万円か 20万円ぐらいを徴収されるのだが、日本では逆に、「他のガソリン車よりも燃費がいいから」という理由で、10万円か 20万円ぐらいの「税の減免」を受けるのだ。(額は、うろ覚えだ。違っていたら、ごめんね。)
  → ハイブリッド車の 税金は「減税制度や優遇・免除」が受けられる!

 ともあれ、以上のような差がある。HV 車と EV 車の比較では、欧米では EV が圧倒的に優遇されているのに、日本では EV 車の優遇の幅が少ない。だから、欧米では EV 車の比率がどんどん高まるのに、日本では EV 車の比率がろくに高まらない。
 換言すれば、こうだ。
 「欧米では EV 推進政策を取っているのに、日本では EV 推進政策よりも HV 推進政策に熱中している」
 この違いゆえに、日本では EV 比率が低いのだ。この件は、前にも述べたとおり。
 今の日本は EV への転換が圧倒的に出遅れている。次世代の EV への転換で圧倒的に出遅れており、テスラや、中国・韓国メーカーの後塵を拝している。
 
 では、どうしてこうなったか? 次の差による。
  ・ 欧米では、自動車への炭酸ガス規制をして、EV 転換を促した。
  ・ 日本では、自動車への炭酸ガス規制をしないので、EV 転換を促しにくい。


 欧米では、炭酸ガスの排出の多い自動車へ莫大な課徴金をかける制度を導入して、否応なしに EV への転換を促している。政府がメーカーの尻をひっぱたたく。このことで、欧米では EV の技術開発がどんどん進んだ。
 日本では、(国内の自動車メーカーの反対があるので)、炭酸ガスの排出の多い自動車へ莫大な課徴金をかける制度を導入しない。そのおかげでメーカーは「助かった」と喜んでいる。しかし、尻をひっぱたかれずに喜んでいるので、ちっとも勉強をしないで遊んでいる。「うれしいな、うれしいな、尻をひっぱたかれないよ。遊んで楽をしよう」と浮かれている。こうして、EV 開発の勉強をサボったせいで、EV の開発力が衰えた。かつてはテスラに次ぐ世界2位を誇った日産は、今では世界 10位以下に転落したし、トヨタやホンダはランキングにすら掲載されずに、はるか後塵を拝している。
 結局 日本は、「利益重視」「経済成長重視」を目指していたら、結果的には、「利益や経済成長を失った」という結果になったのだ。めざしていたものとは正反対の結果に至ることになったのだ
( → グリーン・ニューディール: Open ブログ

 関連する話題を述べた項目もある。
  → 日本企業が衰退したわけ: Open ブログ
  → 欧州車の EV 比率が高いわけ: Open ブログ

 ここでは、次の構造がある。
 「HV 車を売りたいので、HV 車の優遇措置をください」という業界の要望を受けて、政府は HV 車の優遇措置を取った。その結果、HV車はとてもよく売れたが、そのかわり、EV 車は売れなくなった。そのせいで、「 EV 化の推進」という世界的な潮流に、大きく乗り遅れた。業界の身勝手な要求を素直に受け入れたせいで、業界そのものが沈没していった。
 一方、欧米では、政府が業界に厳しい方針を取った。EV 開発の遅れている企業には多額の罰金を徴収することにした。すると、各企業は生き残ろうとして、必死になって EV を開発した。政府の厳しい方針のおかげで、しごかれた企業は強靱になり、荒波に生き残る力を備えるようになった。

 ひとことで言えば、「甘やかされて駄目になった(スポイルされた)日本企業」と、「しごかれて強靱になった欧米企業」という差だ。甘いママのおっぱいを吸うだけしか能がない日本企業は、甘やかされた末に、世界の市場では落伍するしかなかった、ということだ。
 政府の甘さが、日本企業をスポイルしたわけだ。

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 サバ産業の衰退


 サバが不漁だ。価格が高騰しているし、サバ缶は生産中止になった。
 記録的な不漁を受けて、サバ缶の価格が上昇し、大手水産食品会社は出荷を一時停止したと発表しました。
 水産食品会社・ 極洋は今月3日出荷分から、記録的な不漁などを理由に、サバの缶詰のうち、28品の出荷を一時停止したと発表しました。
 店で販売されているサバ缶は、1シーズン前に製造されたもののみで、今シーズンのサバ缶が全くといっていいほど入荷していないというのです。
 石巻魚市場 佐々木茂樹・代表取締役社長
 「大きさがかなり小さいものしかとれなくて、加工用に回せるような中型・大型のサバが極端に少なかったです」
 「今季多いサイズ」と「本来のサイズ」を比べると、その差は歴然です。今シーズンは、小さいサバが多いというのです。
( → “サバ缶ショック”出荷一時停止も 記録的な不漁…産地での深刻な悩みも




 小さなサバが多いということだが、これは次の問題がある。
 日本とノルウェーのサバの輸出価格を比較するとよくわかります。2013年のサバの輸出統計を見てみますと、ノルウェーが24.3万トン 約475億円 平均単価 キロ約195円。一方で日本は11.2万トン 119億円、問題の単価はキロ106円とノルウェーの約半分。
 日本海でも「ローソク」と表現される子どものサバが餌用に漁獲されて境港などで水揚げされています。ノルウェーでは、30cm以下のサバを食用以外で漁獲することができません。
 サバを餌にしてはいけないとは言いませんが、大きく成長して旬である秋の良い時期に漁獲すれば価格が上がる魚を、わざわざ小さくて価格が安い時期でも獲ってしまう。しかも産卵できるまで成長する前に獲る。これでは資源は持続的(サステイナブル・前回参照)にはなりませんし、将来性もないことは誰でも気づくはずです。
( → 加工処理しきれない大量のサバを漁獲してしまう日本 資源管理も地方創生の機会も台無しに  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)

 日本では、サバは小さくて安い。ノルウェーでは、サバは大きくて高い。だから、日本では長時間労働で低所得だ。ノルウェーでは、短時間労働で高所得だ。
 では、その違いは、どこから来たか? サバが違うからか? いや、漁業の仕方が違うからだ。
  ・ ノルウェーでは、大きな魚だけを獲り、小さな魚は獲らない。
  ・ 日本では、小さな魚まで根こそぎ獲り尽くす。

 結果的に、ノルウェーでは大きな魚をたくさん獲れるようになるが、日本では(子供が育つ前に取り尽くすので)大きな魚は残っていないことになる。これはいわば「種芋まで食ってしまうので、翌年の芋を育てられない」というような状況だ。愚の骨頂と言える。記事にはこうある。
 これまで日本の資源管理制度を世界中の関係者に、サバを例にして説明してきました。様々な反響がありましたが、アイスランドでは、驚きのあまり同じ内容をマスコミに話して欲しいと言われ新聞記事になったこともありました。
 また、ノルウェーの漁業関係者に、正直に日本の管理をどう思うか聞いたことがあります。その答えは「stupid(愚か)」というものでした。

 朝三暮四という言葉がある。今現在のことを考えるばかりで、先のことまで考えることのできない猿を皮肉ったものだ。こういう猿よりもっと愚かなのが、日本の水産業者だと言える。
 そして、その愚かさを放置しているのが、日本の水産行政だ。つまり、政府だ。民がどれほど愚かであろうと、その愚かさを是正するのが、政府の仕事だろう。なのに、政府は民の愚かさを放置する。そのせいで、漁民は「多忙貧乏」というありさまになる。
 それだけではない。水産資源の枯渇を通じて、国民全体に大損をさせる。「サバ缶がない」「サバ缶が高騰する」という形で。
 政府が馬鹿だと、国民全体にとんでもない被害が生じるのだ。

 EV とサバ


 以上で、EV とサバという二つの例を見た。そのいずれにおいても、同じ原理が見て取れる。こうだ。
 「業者は目先の損得を考えるばかりだ。今日の損得を考えるばかりで、明日の損得を考えない。そのせいで、長期的には衰退していくばかりだ。EV しかり。サバ産業しかり。……こうして産業はどんどん衰退していく。
 そして、それを是正するどころか、いっそう推進しているのが、日本政府だ。政府が亡国政策をとっているから、産業がどんどん衰退していくのだ」

 愚かな民と、愚かな政府。その二重奏で( or 二重唱で)、産業はどんどん衰退していく。
 その自滅政策(自殺政策)の端的な例が、MRJ なのだろう。MRJ の例は、ただの極端な例外ではない。日本全体のダメダメ構造の一例にすぎないのだ。目に見える氷山の下には、9割の巨大な氷塊がある。それと同様だ。目立つ MRJ の失敗の下には、その何倍もの量の失敗がひそんでいるのだ


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 [ 付記1 ]
 日本の自動車産業が、これほどにも EV で出遅れたことには、別の理由もある。

 (1) 政府が燃料電池車を大々的に推進していた。(元はと言えば朝日新聞が推進していて、それを政府が鵜呑みにした。)
 で、そういう政府の方針に従ったのが、トヨタとホンダだ。自動車専門家よりも素人政府の方針を信じて、燃料電池車の開発に邁進した。ここでは、「馬鹿な政府のせいで、自動車産業が迷走した」という歴史的事実がある。

 (2) ついでに言えば、本サイトでは、「燃料電池車は駄目だ。EV にしろ」と何度も口を酸っぱくして、私が重ねて警告してきた。( 2006年ごろからずっとだ。)
  → サイト内検索(時間順)
 だが、それを聞くこともなく、トヨタとホンダは燃料電池車に邁進した。その結果が、現状だ。

 なお、私の過去記事は「泉の波立ち」にもある。そこから二つ抜粋しよう。
ニュースと感想  (7月25日)[2005年]
 燃料電池というのは、まだまだ先のことになりそうだ。「普及価格の十倍」になるのさえ、あと十年ぐらいはかかりそうだ、という見込みだからだ。……遠い夢の夢。

 さて。その一方で、面白い技術がある。「ハイブリッド車に充電して、電気自動車にする」というアイデアだ。
 究極のクリーン自動車は、燃料電池車ではなくて、電気自動車(充電式自動車)である。それは「ハイブリッド車」という形で実用化するのが、最も実用的だ。普段は電気とモーターで走り、急加速をするときだけガソリンエンジンを使う。……この方が、燃料電池車よりも、ずっと実用化が早い。燃料電池車と違って、私たちが生きているうちに実用化する可能性が高い。
( → 泉の波立ち

 このアイデアは、現在のノート・ハイブリッドと同じではないのだが、ちょっと似たところがある。18年も前( EV がまったく実用化されていない段階)のアイデアとしては、興味深いだろう。

[ 付記2 ]
 日本の EV 普及率が低いことには、別の理由もある。
  ・ 充電所数がとても少ない。
  ・ 充電所の電圧が低すぎる。

 これは、国策の問題のようでもあるが、EV 産業の問題であるとも言える。官民そろって、ダメダメであるわけだ。

 ※ 上記の二つの問題については、別項で論じた。

 [ 付記3 ]
 トヨタの前社長は、EV について否定的だった。
 「 EV が普及しても、発電に火力発電が多いと、炭酸ガス排出をするので、EV 化はあまり効果がない」
 というものだ。その趣旨自体は正しい。だが、そこから得られる結論は、「火力発電を減らせ。再生エネ発電を増やせ」となるはずだ。それが正論というものだ。
 なのにトヨタ社長は、「 EV を増やしても意味がない。だから EV よりもガソリン車を大切にしよう」と結論する。論理の方向が狂っていると言える。

 ついでだが、日本は石炭火力発電の建設に肯定的だ。
 世界のCO2排出量の約3割を占めるのが石炭火力だ。グテーレス国連事務総長らは「石炭火力の早期廃止」をことあるごとに訴える。
 だが、日本の姿勢は、世界と大きなズレがある。日本は現状、発電電力量の3割を石炭火力に頼っており、発電からの排出量の 55%を占める。
 政府は旧式の非効率な石炭火力は段階的に廃止し、30年度には発電電力量に占める比率を 19%に減らすとしているが、主要7カ国(G7)で唯一石炭火力発電所をつくり続けている。
( → 石炭火力、危機意識薄い日本 横須賀の発電所計画、地裁が「適法」判決:朝日新聞

 火力発電所からの炭酸ガスの排出を抑制しようとしない。そういう政府の方針を見たら、トヨタの前社長は、(その持論ゆえに)石炭発電に反対するべきだろう。なのに、反対しない。逆に、EV 否定論や、水素自動車に入れ込む始末だ。……頭がイカレている証拠だと言えよう。(辞任しただけマシだが。)

posted by 管理人 at 23:59 | Comment(0) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
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