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非正規労働者は補助金の対象外
前項では、補助金の対象者を「40歳以下の労働者」に限定した。この範囲からはずれる労働者については、企業がいくら雇用しても、企業が補助金をもらえることはない。
同様に、「非正規労働者」については、企業がいくら雇用しても、企業が補助金をもらえることはない。そういうふうに制度設計するべきだ。(つまり、補助金の対象者を「正規労働者」に限定するべきだ。)
前項のコメント欄に、次の趣旨の見解が寄せられた。
「やたらと企業に圧力が加わるなら、企業は賃下げのために、非正規労働者・派遣労働者を増やして、正規労働者を減らす。そうして賃金コストを下げる。それでいいのか?」
しかし、すぐ上に述べたように、非正規労働者・派遣労働者を増やしても、補助金の対象とはならないのだ。
非正規労働者は罰金の対象
さらに言えば、「補助金の対象とはならない」だけでなく、「罰金の対象となる」ように、制度設計するべきだろう。なぜか? 非正規雇用については、「社会保険料の半額負担」という雇用者責任を免除されており、一種の「ただ乗り」状態にあるからだ。泥棒みたいなものである。この件については、先にも言及した。
非正規雇用が増えることには、別の理由もある。非正規雇用が国の制度で優遇されているのだ。具体的には、「社会保険料の雇用者負担の免除」という形だ。
正規職員ならば、「社会保険料の雇用者負担(半額)」が義務づけられている。健康保険・失業保険・年金料金……といった社会保険の保険料は、労働者の自己負担分と同額の雇用者負担額が義務づけられている。これは「隠れた給料」とも言える。ところが、正規職員については雇用者負担(半額)が義務づけられているのに、非正規職員についてはそれが免除されていることが多い。
( → 負担 )
こういうこと(泥棒みたいなこと)をする雇用者には、相応の負担金を払ってもらうべきだ。社会保険料で「月4万円の負担を免れる」ということであれば、「月4万円の罰金を払う」というふうにするといいだろう。
130万円の壁・106万円の壁
社会保険料の負担については、「130万円の壁・106万円の壁がある」と先に示した。
→ 少子化の対策 .2(企業責任): Open ブログ
つまり、一点限度額を超えると、社会保険料の負担が生じる。雇用者だけでなく被雇用者にも負担が生じる。そのせいで、労働者は所得が一定限度以下に収まるように、労働時間数を減らしている、という状況がある。
→ 130万円の壁、首相「見直す」 衆院予算委:朝日新聞
このような問題があるので、この問題も同時に解決するといいだろう。具体的には、どうするか? 「130万円の壁・106万円の壁を撤廃する(または限度額を大幅に引き下げる)」というのも、一案だ。
ただし、この問題の根源は、別にある。先にも(上記別項で)示したように、次のグラフだ。

出典:Twitter
見ればわかるように、「低所得者では、社会保険料の負担が極端に多い」という状況がある。そのせいで、「税の累進制」がまるで働いていない。年収 100万円から年収 1000万円まで、負担率は 28% で、一定である。所得が少なくとも多くとも、負担率は同様なのだ。「税の累進制」がまるで働いていない。
いや、もっと状況は悪い。高所得者は、高額の「厚生年金」を受け取れるので、払った社会保険料のうちのかなりの多くの部分を、引退後に受け取れる。あとで還元があるわけだ。
一方、低所得者は、「国民年金」を受け取るか、低額の「厚生年金」を受け取るだけなので、引退後に受け取れる額はわずかだ。つまり、還元がろくにないわけだ。
この分を勘案すると、「税の累進制」がないどころか、「税の逆進制」があることになる。低所得者ほど、(実質的な)税の負担率が高くなっているわけだ。
なるほど、住民税と所得税だけを見れば、「低所得者が優遇される累進制」が働いていると見えるのだが、社会保険料を含めて考えれば、「低所得者が冷遇される逆進性」が働いていることになる。……ここに、物事の本質がある。
とすれば、低所得の非正規労働者(年収 130万円以下のパートタイマーを含む)については、このような雇用形態をなるべく排除することが必要だ。
そのためには、「130万円の壁の撤廃」だけでなく、他の方策も必要だ。「企業への罰金」もまた、その一種だ。
社会保険料の減免
だが、もっと好ましいのは、「社会保険料の負担」を、(労使ともに)減免することだ。現状では、低所得者においては、所得税・住民税・消費税の負担が極端に低くて、社会保険料の負担が極端に多い。こういう状況を改めて、低所得者の社会保険料の負担を大幅に引き下げるべきだ。(労使ともに。)
では、その財源は? 常識的には、こう言える。
「高所得者の所得税・住民税を引き上げる」
とくに日本においては、次の方策が有効だ。
「高所得者向けの減税策である分離課税を廃止する」
これによって「配当所得への税率 15%」という金持ち優遇がなくなり、金持ちは金持ち相応に税負担をするようになる。
ただし、以上の方策は、「金持ちのための政党」である自民党の方針には合致しない。国民はたいてい「自分は金持ちだ」と錯覚して、「金持ちを優遇する自民党」というのを支持する。だから、上記のような「常識的な政策」は実現しにくい。
そこで、最も現実的な(実現可能な)政策は、こうだ。
「消費税を大幅に引き上げて、その分、社会保険料を引き下げる」
たとえば、消費税を 10% から 20% に引き上げる。(年収 300万円なら、約 30万円の増税となる。年収 500万円なら、約 50万円の増税となる。)
そのかわり、社会保険料を一律で、年に 40万円ほど減額する。
すると、次のようになる。
・ 年収 300万円 …… 30万円の増税、40万円の減額 → 10万円の得
・ 年収 400万円 …… 40万円の増税、40万円の減額 → 損得はない
・ 年収 500万円 …… 50万円の増税、40万円の減額 → 10万円の損
・ 年収 900万円 …… 90万円の増税、40万円の減額 → 50万円の損
※ 夫が 400万円、妻が 300万円なら、個別に計算すればいい。
このように、低所得者ほど得をして、高所得者ほど損をする。かくて、「税の逆進性」という問題は解消する。
同時に、「非正規雇用をする雇用者が優遇される」という現状の難点も解消する。社会保険料の負担が激減すれば、その半額に当たる雇用者負担も激減するので、「非正規雇用に対する免除」があってもなくても、大差がなくなるからだ。(あるいは、雇用者負担の分を、全額廃止してもいい。その分は、消費税の増税でまかなえばいい。)
※ 低所得者層では、社会保険料の負担がもともと少ないので、「社会保険料を 40万円ほど減額する」ということの恩恵を受けにくい。たとえば、年 20万円の負担なら、「40万円ほど減額」の枠を使い切れない。この問題を解決するには、「社会保険料の減額」でなく、「一律に 40万円の給付」にすればいいだろう。どっちみち、同じことだし。事務作業は、かえって簡単かもしれない。
※ 金持ちはどうか? 上記の計算では、「所得の全額が消費に回る」と仮定したが、現実には、金持ちほど貯蓄の割合が増えるので、「所得の全額が消費に回る」という仮定は成立しない。その分、金持ちの消費税負担額は少なめになる。しかし、その割合は多くないので、別途、補正を入れるだけでいい。「社会保険料の減免額を所得別に調整する」という形の補正だ。
※ 「130万円の壁」に関連して言うと、「配偶者控除」は廃止していいだろう。それは「妻が無職の高所得者を優遇する」という制度だから、もともと不要な制度だ。これを廃止した分は、児童手当(定額支給)に振り替えればいいだろう。
※ なお、高所得者については増税するが、育児中の高所得者には「児童手当ての支給」で、実質的には補填することになる。すでに子育てを終えた高所得者には、純然たる増税になるが、育児中の高所得者なら、新たにお金をもらえるようになるので、特に大損するわけではない。
※ 実は、「消費税を増税して、社会保険料を引き下げる」という方針は、民主党の小川淳也も言っている。その意味では、彼の主張は十分に妥当性がある。ただし彼は、「消費税を増税」だけを強調して、「社会保険料を引き下げる」ことを強調しない。だから一般人から「ただの増税政策だ」と誤認されて、大反発を食らっている。「税を上げる分だけ、社会保険料を引き下げる」と言えばいいのに、そう言わない。そこが、政治家として未熟なところだ。「自分がどう言うと、どう誤解されるか」ということに頭が及ばないわけだ。
女性差別の禁止
雇用の面では、日本には女性差別の傾向がある。この点は国際的な統計で判明している。

出典:男女間賃金格差の国際比較(財務省)
そこで、この格差を是正するために、女性の雇用を促進する(雇用する企業を助成する)といいだろう。「子持ち女性は特に優遇する」としてもいい。
このようにすると、女性販売員の追いスーパー、デパートなどは、補助金を多くもらえそうだ。
ただし、対象は正社員に限定するべきだ。非正規労働者は、女性であっても、補助金の対象外だ。その点では、本項冒頭に述べたことは、ここでも適用される。
※ スーパーでパートのおばちゃんの雇用がいくら多くても、これらのパートを雇用するスーパーは、特に補助金はもらえないわけだ。(むしろ非正規社員が多いことで、いくらか罰金の対象になる。)
※ デパートで正規雇用されている女性労働者は、きちんと補助金の対象になる。1階の化粧品売場にいる美容部員(ビューティーアドバイザー)も同様だろう。(メーカーからの出向が多そうだが。)
ギグワーカー
ギグワーカも、非正規労働者と同様の問題がある。
→ 少子化の対策 .2(企業責任): Open ブログ
これについては、どうするべきか?
実は、ギグワーカーについては、欧州で対策が進んでいる。「正規労働者と同様に扱うべし」という方向で。
→ ギグワーカー保護へ法案 EU、従業員と同等に|あなたの静岡新聞
→ 欧州委が「ギグワーカー」保護法案発表、「従業員」の認定基準を明示 | FBC
→ 「ギグワーカーを守れ」 動き出す欧州 デジタル時代の法整備めざす:朝日新聞
だから、この方向性で対策すれば、問題は解消するだろう。
ただ、日本政府(というか自民党)が及び腰で、ろくに対策しようとしないのが、難点となっている。
野党や連合もサボっている。「目の付けどころが悪いでしょ」「気が抜けているでしょ」みたいな感じだ。
対策の限界
ここまでに対策をいろいろと述べきた。話を終えるに当たって、最後に逆の話をしよう。こうだ。
「いろいろと対策案を述べてきたが、この対策案には限界がある」
つまり、あれこれと対策の仕方を述べてきたが、そのすべてをやれば少子化の問題が完全解決する、というわけではない。次の事実があるからだ。
「非正規社員の給料を上げれば、状況はいくらか改善するが、あらゆる点で万事解決するわけでもない」
特に、次の事実がある。
「金がない若者は、結婚したくても結婚できないが、一方、金があっても結婚しない(できない)中高年も多い」
つまり、「金ですべてが解決」というわけには行かないのだ。金以外にも、結婚できない要因がある。年齢的な面で。……そのことは、下記記事に示されている。
45-54歳の生涯未婚者数で正規と非正規を比べてみれば、圧倒的に正規雇用の未婚者が多い。それも最大のボリューム層は年収500万円以上の層である。
非正規の未婚率が高いのは間違いないのだが、生涯未婚者として存在する数は、非正規31万人に対して、正規は109万人と3倍規模になる。
( → 「非正規だから結婚できない」と言われる一方で、「正社員でも年収500万以上でも生涯未婚の男」問題(荒川和久) )
本項では冒頭から、「非正規社員の撲滅」という方針を掲げてきたが、たとえその目的が実現しても、「結婚できないままだ」という男は残る。なぜなら、「正社員でも年収500万以上でも生涯未婚の男」というのが、たくさんいるからだ。
では、この問題をどう解決したいが、解決できるのか? 困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ ……と言いたいところだが、こんな無理難題を解決する方法など、あるわけがない。
「そうか。さすがの Open ブログもお手上げか。音を上げたか。ごめんなさいと謝るのか」
と思う読者もいるだろうが、さにあらず。実は、こう言える。
「この問題は、解決できないというより、解決する必要がない。あえて解決するために努力しなくてもいいのである」
そう聞くと、「そんな馬鹿な!」と思う読者が多いだろうが、馬鹿な話ではない。これは真実だ。なぜなら、次の事実があるからだ。
「グラフでは、高収入なのに結婚しない(できない) 45〜54歳の男というのが示されているが、これらの男は、結婚しなくてもいいのだ。なぜなら、 45〜54歳の男は、もともと出産能力が低いので、子供を産めないからだ」
つまり、これらの男は、結婚しようがしまいが、少子化問題には何ら寄与しないのである。「結婚率が上昇すれば、出産率も上昇する」と言えるのは、あくまで 40歳以下の男女に限られる。45歳以上の男女は、結婚しようがしまいが、どっちみち話の対象外なのである。
だから、こうした中高年の男女の結婚率が上がろうが上がるまいが、そんなことはどうでもいいのだ。この問題は、解決してもしなくても、どうでもいいのだ。だから、「解決しないので困りました」というふうにはならない。
だから、Open ブログは「ごめんなさい。できません」と頭を下げなくても、大丈夫なのだ。えっへん。 (^^)v
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《 オマケ 》
上の回答を聞くと、読者は落胆しそうだ。
「はぐらかしやがったな。せっかく Open ブログに期待したのに、言い逃れみたいで、がっかりだ。結婚できないで困っている中高年の男を、すげなく見捨てるのか? 人の優しさというものがないのか?」
ううむ。そう言われると、反論できませんね。たしかに、「子供を産むかどうか」ということ(国家的戦略の観点)だけでなく、「人として幸福に暮らせるかどうか」という観点(個人の幸福の観点)も大事だ。
そこで、新たに考え直したすえに、うまい名案を出そう。こうだ。
「金はあるけど結婚できないでいる中高年の男が、うまく結婚できる方法がある。また、生殖能力をなくしていても、子供を得る方法がある。それは、結婚と子供を同時に手に入れることだ。つまり、子持ちのシングルマザーと結婚することだ」
どうです。これなら、結婚と子供を同時に手に入れることができる。しかも、相手の女性は、かなり若い女性を選ぶことができる。通常なら、自分と同年輩の相手を選ぶしかないが、シングルマザーを相手にするなら、かなり若い女性を選ぶこともできる。(金さえあれば、という条件で。)
一説によると、年収が 100万円上がるごとに、年齢差を1歳増やせるらしい。女の年収が 400万円だとして、男が年収 1000万円なら、6歳下の女性と結婚できることになる。ここに、「子持ち」という条件が加わると、さらに5〜10歳ぐらいの年齢差を追加できそうだ。45歳で年収 1000万円の男なら、11〜16歳下(つまり26〜31歳のシングルマザーと結婚できそうだ。)
この場合、「女性が可哀想だ」と思うかもしれないが、そんなことはない。シングルマザーは、経済的に困窮している人が多いのだから、年収 1000万円の男と結婚できれば、ハッピーになれる。また、夫となる男性に生殖能力がないとしても、すでに自分には子供が一人か二人いるのだから、新たに子供を産めなくても問題ないのだ。つまり、子供のいない女性なら、中高年の男と結婚することは悲惨だが、すでに子供のいる女性なら、中高年の男(種なしの男)と結婚することはちっとも問題ではないのだ。……かくて、両者は win- win の関係となる。めでたし、めでたし。

やっぱり、困ったときの Openブログ。
※ ただし高齢男性が結婚するためには、貯金をたっぷりと貯めておきましょう。貯金がたっぷりあれば、その通帳を見せることで、結婚してもらえます。……金めあての女性と。
[ 付記 ]
蛇足だが、昔は「見合い」という制度があった。今はかわりに「婚活アプリ」というのがある。
この両者のどっちがいいかは、何とも言えない。だが、現状での問題は、そこにあるのではなく、「非正規なので金がない」というところに、問題があるはずだ。だから、本項での話をすることになる。
そのまた前提は、「非正規のせいで結婚率が低い」ということだ。この件は、先に詳しく述べたとおり。
→ 少子化の対策 .2(企業責任): Open ブログ
※ 以下は細かな話なので、読まなくてもいい。
[ 余談 ]
「 N分N乗」という方式が話題になることもある。子持ちの家庭が、子なしの家庭に比べて、税制上で有利になる……という課税方式だ。
だが、これは良い方法ではない。この方式で得をするのは、もともと税率が高い層、つまり、金持ち層だけだ。一方、低所得者層は、もともと税率が高くないので、この方式を採用しても、恩恵はほとんどない。
仮に今の税率のままN分N乗方式をあてはめた場合、最低税率の5%の税率の人にとっては、Nで割っても税率は5%よりは下がらず、その後にNを再びかけるので税額は変わらないことになる。
一方、現状で高い税率が適用されている高所得者にとっては、低い税率に変わる可能性が高く、その分減税幅も大きくなる。
( → 所得税のN分N乗方式、「異次元の少子化対策」の切り札なるか?:朝日新聞 )
結局、これは、「金持ち層に限って何倍もの恩恵を得られる」という方式であるわけだ。
だが、このような方式が有効であるためには、次のことが必要だ。
「金持ちは低所得者層に比べて、何倍もの子供を産む。庶民は2人ぐらいの子供を産むが、金持ちは 10人も 20人も子供を産む」
こんなことはありえない。金持ちも低所得者も、産む子供の数はほとんど同じだ。だとしたら、「金持ちだけに何倍もの金を給付する」ということを意味する方式は、ナンセンスなのだ。
かくて、「 N分N乗」という方式には、否定的な評価を下せる。
※ シリーズはこれで完了です。(全7回)