──
対策の方針
少子化の対策としては、何をするべきか? それについて考えるために、これまでの各項を振り返ろう。
(1) 児童手当や保育所充実は効果が薄い。
(2) 結婚したあとで金を出すより、結婚率を上げるべきだ。
(3) 育休中には、個人が努力するより、企業が体制整備するべきだ。
以上を踏まえた上で、以下では新たに対策を提案しよう。
根源(阻害要因)
まずは、根源を探ろう。
国は通常、児童手当や保育所充実によって、個人に出産を促す。だが、それは方針を間違えている。個人は、出産をしたがらないのではない。出産したくても出産できないのだ。つまり意欲がないのではなく、阻害要因があるのだ。その阻害要因を除去することが大切だ。
児童手当ては、馬の前に人参をぶら下げる政策だ。だが、これは無効だ。そんなことをしても、阻害要因はそのまま残るからだ。(阻害要因の除去には役立たない。)
保育所の充実は、阻害要因の除去には役立つ。だが、それはあくまでも出産後の事後的な手助けであって、出産そのものを促進する効果はない。
では、阻害要因とは何か? それは、こうだ。
「企業が結婚や出産を、自社の利益向上には役立たないものとして、冷遇すること」
簡単に言えば、企業が労働者に望むのは、「自社の利益のために貢献する奴隷」なのである。朝から晩まで馬車馬のように働いて、自社の利益のために貢献する。そういう献身的な奴隷こそが、企業の求めるものだ。
そして、その観点からすると、結婚や出産というのは邪魔なものでしかない。結婚は出産に至る道なので、いわばイエローカードだ。そしていざ出産をしたら、育休などで奴隷がサボるようになるので、奴隷が奴隷として貢献しなくなる。それは企業にとって最悪だ。だからなるべく奴隷を解雇したがる。もし解雇できないとしたら、育休のあとで復帰することになるが、そのときには戦闘力が落ちている。そこで、それを理由として、閑職に配置換えした上で、退職に追い込む。
こうして企業は労働者の結婚や出産を徹底的に排除したがる。特に、その労働者が女性であれば、なるべく退職に追い込む。
企業には、以上のような体質がある。そして、これは、企業にとっては「自社の利益を向上させようとする当然の方策」であるのだが、同時に、国全体にとっては「国民の少子化を通じて国全体を縮小させる亡国方針」となっている。
つまり、企業が自社の利益を拡大しようとすればするほど、国全体としてはどんどん状況が悪化していくことになる。そのことで企業自身も「経済規模の縮小」による、量的・質的な悪影響を及ぼされる。各企業が、自社利益を得ようとすればするほど、結果的には全体として、各企業は損をすることになる。……これは、「合成の誤謬」という状況だ。(「自由放任で最適化される」という「神の見えざる手」とは正反対だ。)
※ こういう理解は、マクロ経済学的な解釈によって、可能となる。
非正規労働
企業が労働者を奴隷化するというのは、具体的にはどういうことか? その例は「非正規労働」という形で見られる。
実際、非正規労働者は(正規雇用者に比べて)結婚率が低い、ということは判明している。たとえば、下記の記事がある。
パートやアルバイトの男性で配偶者がいる割合は正規雇用の4分の1程度といった非正規雇用
( → 30年…少子化対策、見えぬ効果 予算増の転機3度、10兆円超に 子育て家庭へ、手薄な現金支援:朝日新聞 )
これは記事中の一文だが、具体的なデータもある。
(1) 20代男性に対する追跡調査の結果。
男性は正規社員の2割強が結婚しているのに対し、非正規では7.6%しかいない。
( → 正規社員より非正規社員の方が恋愛や結婚をするのは厳しい(不破雷蔵) )
(2) 結婚率の調査
結婚率は男性では非正規社員と正規社員で倍も違う。
— 長妻昭 すべての人に「居場所」と「出番」のある社会 (@nagatsumaakira) January 31, 2023
【本日の予算委配布資料】 pic.twitter.com/KcX6344em1

非正規労働者と結婚
非正規労働者と結婚の関係については、本サイトの過去記事もある。
「結婚しているかどうかは、結婚したいかどうかで決まるのではなく、結婚できるかどうかで決まる。結婚できる人は、結婚したくなったら、さっさと結婚する。結婚できない人は、結婚したくても、結婚できないままである。
そして、結婚できない人というのは、(病気などのせいで特別に条件が悪い人を除けば)単に所得が少ない人のことである。日本では非正規労働者の給料が極端に低いので、所得不足で結婚できない中高年が多い。
──
外国では非正規雇用の方が所得は高い。
一方、日本ではどうかというと、次の通り。
非正規雇用(派遣社員・アルバイト・契約社員)の生涯年収は9,053万円
正社員サラリーマンの生涯年収は1億4,177万円
これほどにも所得差があるのだ。
( → なぜ日本人男性は不幸なのか?: Open ブログ )
次の過去記事もある。
少子化の原因は、保育所不足だ、と思われている。だから政府は、保育所を増やそうとしたり、育休制度を整備しようとする。マスコミもその方針を唱えている。 しかし事実は違う。
では、少子化の原因は、何なのか? 真犯人は、何なのか?
> 50歳時点の未婚率は上昇を続け、2015年には男性で23.37%、女性で14.06%を占める。背景に、低賃金の非正規雇用の広がりがあると指摘されてきた。非正規雇用者の数は2090万人(20年)と、この30年で2.4倍近くに増え、労働者全体の4割近くに達する。
ともあれ、 50歳の時点では、男性で23.37%が未婚である。ほぼ同数の女性が独身である。つまり、結婚していない人の数が、それほどにも多いのだ。そのことが、少子化の原因であるとわかる。
ではなぜ、人々は結婚しないのか? その理由も、上記の記事に記してある。それは、経済的な困窮である。「自分一人でも食べていくのがやっとだ」という人が多いので、「結婚なんてとうてい無理」というふうになるのだ。
このような貧困の理由は、「正社員になれないこと」「非正規社員であること」である。
では、正社員になればいいか? そうしたいのは山々だが、そうはうまく行かない。社会の構造が、正社員数を極度に絞っているからだ。
つまり、非正規社員が多いのは、個人の責任ではなく、社会的な構造が理由なのだ。
( → 少子化の原因は意外にも……: Open ブログ )
ギグワーカー
問題があるのは、非正規労働者だけではない。近年になって増えてきたギグワーカーも同様だ。具体的には、ウーバー・イーツの出前自転車労働者や、Amazon の宅配を引き受ける個人労働者だ。
彼らは労働者としての仕事をしているのだが、法的な扱いは個人事業者なので、労働者としての権利を与えられないでいる。
これも非正規労働者と同様の問題がある。いわば企業にとって「使い捨て」にされるからだ。
→ ギグワーカーとは? 意味、企業・労働者のメリット - カオナビ人事用語集
ギグワーカーは、労働者としての権利が守られていない。そこで欧米では、ギグワーカーという雇用形態が規制される傾向がある。(企業の好き勝手を規制して、労働者の権利を守るわけだ。)
ところが日本では、この面での規制や法制化は進んでいない。「労働者よりも企業を優先する」という日本政府の方針が、こんなところにも現れているわけだ。
→ 急増する配達員 欧米では守る動き 日本政府は企業利益を優先:東京新聞
非正規が増えるわけ
非正規労働者やギグワーカーは、一種の奴隷のような扱いをされていて、待遇は悪い。だったら、そんなところでは働かなければよさそうなものだ。なのに現実には、あえて非正規労働者やギグワーカーとして働きたがる人が多い。まるであえて奴隷になろうとするようなものだし、あるいは、あえて自殺したがるようなものだ。どうしてこういうことが起こるのか?
それは、謎に思えるが、理由はある。次の二点だ。
(1) 正規雇用の減少
正規雇用の総数が減少しているので、正規雇用してもらいたくても、そこからあぶれてしまう人が多い。すぐ上の引用部でも、こう述べた。(再掲)
このような貧困の理由は、「正社員になれないこと」「非正規社員であること」である。
では、正社員になればいいか? そうしたいのは山々だが、そうはうまく行かない。社会の構造が、正社員数を極度に絞っているからだ。
特に、公務員ではこれは顕著だ。
《 自治体職員、3人に1人が非正規 自治労が実態調査 》
自治労が実施した地方自治体職員の勤務実態調査で、非正規職員が全体の33.1%を占め、2008年の前回調査に比べ上昇したことが29日、分かった。
( → 読売新聞 2012年10月29日 )
( → なぜ昔の人は結婚できたか?: Open ブログ )
これは 2012年のデータだが、その後、さらに状況は悪化している。
《 手取り14万円の劣悪な待遇…非正規化進む地方公務員、15年で1.5倍に 》
地方公務員の非正規化が進んでいる。非正規公務員は15年で1.5倍に増加。
都内の放課後児童クラブで働く女性(48)は……手取り月14万円、年収は200万円に満たない。「現場を担うのは非正規やパート。行政がこの待遇で仕事をやれる人に甘えている」と憤る。
非正規公務員の生活は厳しい。はむねっとの調査によると、女性の非正規のうち3割は家計を支える「主たる生計維持者」にもかかわらず、年収が250万円未満の割合が7割に上る。
( → 「公共サービス持続困難に」:東京新聞 )
公務員でさえ、このありさまだ。一例で言うと、図書館の司書は、正規職員が次々と削減されて、非正規職員に置き換えられている。そうやって給料をどんどん引き下げているわけだ。
民間もまた同様にひどいと知られている。
ともあれ、こういうふうに、正規職員の枠がどんどん減っているので、好むと好まざるとにかかわらず、「就職先は非正規の口しかない」というような事態が長く続いているわけだ。(特に不況期にはそうだった。)
(2) 非正規雇用の優遇
非正規雇用が増えることには、別の理由もある。非正規雇用が国の制度で優遇されているのだ。具体的には、「社会保険料の雇用者負担の免除」という形だ。
正規職員ならば、「社会保険料の雇用者負担(半額)」が義務づけられている。健康保険・失業保険・年金料金……といった社会保険の保険料は、労働者の自己負担分と同額の雇用者負担額が義務づけられている。これは「隠れた給料」とも言える。ところが、正規職員については雇用者負担(半額)が義務づけられているのに、非正規職員についてはそれが免除されていることが多い。
特に、その人が「被雇用者」でなく「個人事業主」と見なされている場合には、企業の側からの雇用者負担(半額)がない。
また、被雇用者であっても、年収が少ない場合には、(本人も雇用者も)「社会保険料の負担」が免除される。
130万円の壁は、配偶者に扶養されている人の年収が130万円を超えると、扶養から外れる基準。この基準以上の年収があると、自ら医療や年金の保険料を納めないといけない。
このほか、パートなどで働く人の年収が106万円を超すと、健康保険や厚生年金に入ることになる「106万円の壁」も。配偶者の扶養に入っていた人は、新たに保険料負担が生じる。
( → 130万円の壁、首相「見直す」 衆院予算委:朝日新聞 )
こういうふうに、個人事業者や低所得者の社会保険料の負担が免除される。そのことは、特に企業にとっては有利である。そういう形で、国が個人事業者や低所得者という形態を(企業に対して)優遇・促進しているわけだ。
要するに、企業が労働者を奴隷化することを、国が優遇・促進しているわけだ。だからこそ、国民はどんどん奴隷化していって、そのせいで、「奴隷状態ゆえに結婚できない」というありさまになるわけだ。
結局、国民が結婚できずに少子化社会になるのは、そういう社会を国があえてめざしているからなのだ。「企業を優遇して、国民を奴隷化する」という形で。
ここに着目しないと、話の本質は見えてこない。
[ 付記 ]
社会保険料の負担は、所得税や住民税よりも、はるかに大きい。特に、低所得者ではそうだ。所得税や住民税の負担はほぼゼロに近くて、負担のほとんどすべては社会保険料だ、と言える。次のグラフを参照。

出典:Twitter
この負担が免除されるので、非正規雇用をする企業はとても有利になるわけだ。(というか、国がそういう方針を取っている。国が「少子化促進」という政策を取っているわけだ。)
※ 「ではどうしたらいいのか?」という肝心の話は、次項に記します。
本項で記す予定でしたが、話が長くなったので、翌日に回します。
非正規の増加は、非正規でも十分できる仕事しか残っていない事が原因です。ITやAIでこの傾向はますます増えていくでしょう。熟練や創造性が必要な仕事に関われる人はさらに減っていくでしょう。これについても社会構造の変化が必要ですが、どうしたらよいかは私にはわかりません。
> 外国では非正規雇用の方が所得は高い。
高卒でつく仕事、非正規がやっている仕事は実は重要です。道路、橋といったインフラを整備する仕事はAIに任せられるものではありません。少子化が進むと朽ちている橋、トンネル、ボコボコの道路を直す人がいなくなります。
同じようなことが他の産業にもあるでしょう。
高卒でも結婚して子どもをもうけるだけの収入があれば、向いていない層が大学に行かなないようになるでしょう。早く社会に出れば、早く結婚したいと思い、晩婚化も抑えられるでしょう。
そのための対策は、「高卒の賃金を上げること」ではなくて、「Fラン大卒の賃金を下げること」でしょう。そして、それはすでに実現されている。
なのに、Fラン大に入りたがる人が多い。また、政府はFラン大に入る人に多額の奨学金を投入することを決めた。(安倍政権)……こういう倒錯がある。むしろ、Fラン大をつぶすべきでしょう。
ただしそれで(大量にいる)非正規の問題が解決するわけではない。
非正規の解決には、本項と次項で述べている。
高卒は、別に対処しなくていい。高卒でも正規職員になって立派に給料をもらっている人は多い。別に高卒だと子供を産まないわけではない。もしかしたら高卒の方が大卒よりも出生率は高いかもしれない。
と思って調べたら、次の調査結果があった。
→ https://x.gd/Wqeaw
→ 晩婚化も「女性の結婚ピークは26歳」という現実
https://toyokeizai.net/articles/-/396167