2023年02月05日

◆ 少子化の原因 .1

 少子化の原因と対策を考える。
 本項と次項では、原因を考える。対策は、次々項で。(全7回のシリーズ)
 
 ──

 少子化という問題


 少子化というのは非情に大きな問題である。
 近年、日本が経済大国の座から転落したということで、「日本の没落」ということが話題になっている。その理由はというと、「日本の経済体質の悪化」がしばしば指摘されるが、現実には日本経済が赤字化しているわけではないし、経済体質が極端に悪化したというほどでもない。主たる要因は、少子化であると言えそうだ。
 実際、先進諸国が GDP を伸ばしているさなかで、日本だけが GDP のゼロ成長が続いているが、その理由は明らかに少子化であろう。
 経済において、生産性が1%向上しても、生産人口の増加率がマイナス1%ならば、差し引きして、GDP 成長率は0%になる。これが、日本がゼロ成長を続けている理由だろう。
 下手をすれば、少子化がひどくなるせいで、 GDP 成長率がマイナス値にさえなりかねない。それはやばい。国家崩壊の危険さえ考えられる。そういう問題があるわけだ。
 その意味で、少子化は日本の直面する大問題だと言える。

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 児童手当


 少子化の問題があるということは、政治家も理解している。そこで、政治の現状を見よう。政治は少子化という問題に、どう対処しようとしているか?  
 まず掲げられるのは、児童手当だ。(民主党政権の「子供手当」の復活とも言える。)

 (1) 東京都の児童手当

 東京都は独自財源で、都民に児童手当を支給することを決めた。国の制度とは違って、所得制限がない。これは好評をもって迎えられた。
  → 東京都、18歳以下に月5000円給付へ 所得制限設けず:東京新聞
 ただしこれは、金がありあまっている東京都だからこそ、できる政策だ。東京五輪に回す無駄遣いの金が不要になったので、その金で児童手当を増やすつもりのようだ。(五輪がなければ、もっと早くできたのだが。)
 いずれにせよ、こんなことができるのは、大都市の本社から金を召し上げるという特権をもつ東京都だけができることだ。他の 46道府県では実行できない。

 (2) 国の児童手当拡充

 東京都の方針が好評で迎えられたのを見て、国もそれを真似する方針を打ち出した。「所得制限なし」という方向で、児童手当を拡充するつもりらしい。ただし詳細は未定である。(例によって羊頭狗肉になりかねない。)
 なお、岸田首相が優先するのは、
   防衛費 > 財政再建 > 社会保障

 の順である。つまり、少子化対策は、かなり下だ。あまり当てにしない方がよさそうだ。

 児童手当の限界


 児童手当を増やすことは、良い政策であるように見える。なるほど、良し悪しで言うなら、確かに「良い」と言える。特に、所得再配分や福祉の意味では、「良い」と言っていい。一方、肝心の少子化対策の効果はというと、疑問符が付く。
 児童手当による出産効果は、大いに期待されてきたのだが、過去の実証研究によると、その効果はかなり小さい。世界各国の事例を統計的に調べた実証研究でも、効果は限定的だ。「巨額の費用を投入しても、実際に出生率を上げる効果はとても小さい」(せいぜい出生率を 0.1 ぐらい増やす効果しかない)と判明している。
 つまり、児童手当が少子化を改善する効果は、ほとんどないのだ。児童手当は、すでに生まれた子供を育てるためには有効だが、それは福祉として有効であるという意味にすぎない。このあと新たに子供を増やす効果(出産を促す効果)はとても小さいのだ。
 「金がないから、産む子供の数を減らす」というのは、いかにもありそうな話だが、現実にはそういうことはないらしい。実を言えば話は逆で、金銭的には貧しかった昔の方が出生率はずっと高くて、金銭的には恵まれている近年の方が出生率は低い。金銭と出生率の関係は、かなり弱いのだ。
( ※ ちなみに、世界最貧国と言われるスーダンでは、出生率が非常に高い。大陸別でも、最も貧しいアフリカが、最も出生率が高い。貧しければ貧しいほど、出生率は高いのだ。日本でも昔から「貧乏人の子だくさん」と言われている。その意味では、全国民を貧困化させる方が、少子化対策には有効かもしれない。……冗談半分だが。)

 保育所は? 


 児童手当が無効ならば、かわりにどうするか? すぐに思いつくのは、「保育所充実」だ。では、そうするべきか?
 なるほど、それも重要だろう。だが、その効果は意外にもかなり小さい。ほとんど効果はゼロに近い。そのことは統計的に明らかだ。
 12年に政権を取り戻した自民党は、当時の安倍晋三首相の下、消費税率引き上げの財源を活用し、保育園を増やすサービスの拡充に力点を置いた。
 「17年度までに待機児童ゼロを目指す」。13年4月、安倍首相は待機児童問題を踏まえ表明。少子化対策とともに、出産や育児による女性の離職を防いで活躍できるようにするのを政権の「成長戦略の中核」とした。15年に「希望出生率1.8」を目標に掲げた。同年からの現物給付の伸びは安倍政権が保育園整備に注力した時期と重なる。
 たしかに保育園は増え、待機児童は減った。安倍首相の方針を受けた「待機児童解消加速化プラン」を始めた13年と、現在の保育園の整備計画「新子育て安心プラン」が始まった21年を比べると、全国の保育園などの定員は229万人分から302万人分へと1.3倍に。待機児童数は2万3千人から5千人台へと4分の1程度まで減った。
 19年には消費税率の10%引き上げ時に幼稚園や保育園を無償化。3歳以上の保育料はかからなくなった。
 子育て家庭を中心にした「家族」向けの予算は着実に増加した。90年度に約1兆5千億円だったのが、30年後の20年度は10兆円を超え、7倍近くに増えた。
( → 30年…少子化対策、見えぬ効果 予算増の転機3度、10兆円超に 子育て家庭へ、手薄な現金支援:朝日新聞

 安倍政権の下で、保育所の数は大幅に増えたし、子育て予算も大幅に増えた。では、その結果、どうなったか? 出生率は改善したか? いや、ほとんど改善しなかった。「悪化が止まった」(底打ちした)という程度であって、明白な「改善」の効果はなかった。


出生率(〜 2019年)

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出典:厚労省


出生率(〜 2021年)

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出典:出生率1.30 日本経済新聞


 巨額の金の限界


 結局、巨額の金を投入しても、少子化対策としては無効だったのだ。何兆円もの児童手当を投入しても、何兆円もの保育所予算を投入しても、その金はほとんど無駄に垂れ流されるだけであって、少子化を改善する効果はなかったのだ。つまり、「金をかければいい」というものではないのだ。
 では、なぜか? なぜ金が無駄になるのか? 

 それは、金を出したときの狙いがマトはずれだからだ。「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」というが、これはこの場には当てはまらない。なぜなら、もともと少数のマトしか狙っていないからだ。「児童手当」「保育所拡充」という2つのマトだけは狙ったが、そのマトはいずれもマト外れであるマトだった。「当たり」でなく「ハズレ」のマトだった。そんなものを狙っているという時点で、大失敗だったのだ。(そこをいくら当てても、景品はもらえない。)
 つまり、国の政策は「数撃ちゃ」に当てはまらないのだ。二つのマトを狙って、二つのタマを発射しただけだから、それではマト外れなままとなるのだ。

 では、国の政策は、どうがどう駄目なのか? どういうふうにマト外れなのか? 換言すれば、国が狙うべき「正しいマト」とは何なのか? ……それが問題となる。
 この点は、次項で説明しよう。「少子化の原因」というテーマで。


posted by 管理人 at 23:53 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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