2023年01月30日

◆ マイナカードと保険証

 マイナンバーカードを健康保険証のかわりに使おう、という政府方針がある。だが、難点が多い。
 
 ──
 
 朝日新聞の記事がある。
 政府は2024年秋に現在の健康保険証を廃止して、マイナンバーカードへの一本化をめざすが、現場では混乱も起きている。
 原則すべての医療機関で4月からマイナンバーカードを保険証としても使えるようにする――。同省は昨年5月、医療機関に対し今年3月末までのシステム導入を義務づけた。
 (一方、)約8700の医療機関のうち65%が「保険証廃止」に反対した。
 「システムエラーが多数報告されるなど、医師らの不安は大きい」
 政府は健康保険証を「マイナ保険証」に切り替えない人への対応について、いまだ明確に示していない。
 カードに対しては、「個人情報が筒抜けにならないか」「常に持ち歩くのは危ないのでは」と不安視する声は根強い。
 常に持ち歩く身分証でありながら、他人にむやみに見せてはいけないマイナンバーが裏面に記載され、「何となく怖くて使いづらいものになってしまった」
 もう一つ、不安の種となっているのが、カード裏面にあるICチップだ。
 ICチップには電子証明書が搭載され、オンラインでの本人確認に使う。
 カード普及のため、政府は利便性を高めようと民間サービスでの活用も進める。証券口座開設や携帯電話のレンタル契約などで電子証明書を使ったり、コンサートやイベントのチケット購入で、高額転売を防止するのに使ったりすることを想定する。
 政府は「セキュリティーは万全」と強調する。
 しかし、「マイナンバーカードありき」の姿勢は、リスクが大きいと指摘する声がある。
 マイナポータルへのログインは、カードと4桁のパスワードがあればできてしまう。
 「システムの入り口をすべてマイナンバーカードにするのは実印を常に持ち歩く発想に近い」と、警鐘を鳴らす。
( → マイナ保険証、医師ら不安 24年秋に一本化、政府はめざすが システム導入進まず「エラー多数報告」:朝日新聞

 以上が報道だが、これに対して、私の体験を記そう。
 記事中にも書いてあるが、12月以降、診療報酬が改定されて、健康保険証での受診は料金がアップした。マイナンバーカードを保険証のかわりにする方が、料金が安くなる。そこで、私はマイナンバーカードを保険証のかわりにして受診した。すると、どうなったか?

 (1) 普及率
 普及率は高くない、と記事中に記してあるが、私の体験も同様だった。歯科医院に行ったときには、マイナンバーカードでOKだったが、内科医院に行ったときには、マイナンバーカードは不可だった。(非対応)
 「こんなこともあろうかと」と思って、保険証も持っていったから、大丈夫だったけどね。マイナンバーカードだけだったら、すごすごと引き返すところだった。

 (2) システム・エラー
 歯科医院に行ったときには、マイナンバーカードでOKだったが、マイナンバーカードを機械に入れると、システムエラーが起こって、不作動となった。担当者が電話をかけて、5分間ぐらい長々と相談を続けたあとで、システムを再起動したらしくて、ようやく正常稼働した。
 上記記事には「システムエラーが多数報告される」とあるが、まさしく私の身の上にも起こったわけだ。

 ※ マイナポイントの手続きのため、郵便局のパソコンを使ったときも、パソコンがシステムエラーを起こしていた。再起動したら、正常化したが。……国のやる国民サービスでは、どれもこれも、システムエラーが標準機能として備わっているようだ。(皮肉)

 (3) 顔認証
 歯医者では、健康保険証のかわりとして、マイナンバーカードを差し出した。しかし、これは健康保険証のかわりにはならなかった。健康保険証ならば、差し出すだけでOKだが、マイナンバーカードだと、差し出すだけでOKとはならない。その後に、本人認証の手続きが義務づけられる。余計な手間がかかるわけだ。面倒臭い。
 本人認証の手続きには、顔認証と暗証番号とのどちらかを選択できる。そこで、顔認証を選んだが、これがまた面倒だ。カメラの位置が低いので、顔の位置を下げるために、なかばしゃがむような感じにして、腰を低くしないといけない。不自然な姿勢になる。腰が痛くなる感じだ。また、すぐに認証してくれるわけでもないので、頭の位置を変えたりして、面倒な動きを強いられる。マスクを取ったり、メガネをはずしたり、余計な手間もかかる。
 これは、券を手渡すだけで済む健康保険証に比べて、圧倒的に面倒臭い。マイナカードは「健康保険証のかわり」になっていない。「健康保険証よりも圧倒的に不便」となっている。

 (4) 暗証番号
 「だったら暗証番号を使えばいい」と思う人も多いだろう。なるほど、それも一案だ。しかし、暗証番号はたったの4桁だ。
 また、後ろからの覗いている人がいれば、丸見えだ。液晶は、視野角の狭い液晶なので、60度ぐらい(片側 30度ぐらい)の範囲内にいれば、背後からでも覗き見ることができる。液晶はかなり垂直に近く立っているので、離れた位置の後方からでも覗き見ることができる。


myna-card2.jpg
出典:パナソニック


 こういう状況では、暗証番号がバレバレなので、後ろに他人がいるような病院では、怖くて使う気になれない。
 そもそも健康保険証ならば、情報漏洩の危険性は何もないのに、わざわざ病院で暗証番号を入力させて、暗証番号が漏れる危険を無闇やたらと増やすなんて、狂気の沙汰だと言えるだろう。あまりにも馬鹿げている。
( ※ 実印を持ち歩くよりも、もっと危険だ。こんなふうにバレバレの形で入力をさせるなんて、「パスワードを公開します」と言っているようなものだ。無駄に漏洩の機会を増やしている。狂気的な方式。)

 (5) 利便性と必要性
 利便性の点では、暗証番号を入力するのは面倒だ。番号の秘匿性のためにも、暗証を番号を入力したくない。その一方で、本人確認のためには、暗証番号や顔認証が必要だ。さもないと、カードを悪用されかねない。特に、(記事中にもあるように)「証券口座開設や携帯電話のレンタル契約などで電子証明書を使ったり、コンサートやイベントのチケット……」という用途では、他人による悪用を防ぐために、本人確認が必要だ。
 つまり、利便性・秘匿性と、必要性とは、たがいに排反的だ。あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?

 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「民間利用の場合には、他人が盗用すると、本人に実害が及ぶ。ゆえに、本人確認を省略することはできない。一方、健康保険証の場合には、他人が盗用しても、本人に実害が及ばない。だから、健康保険証の場合には、本人確認を省略してもいいのだ」
 たとえば、どこかの他人があなたのマイナンバーを盗用して、病院を受診したとしよう。その場合、あなたに金銭的損害は何も発生しない。損害をこうむるのは、無保険者に健康保険を悪用された国である。損をするのは国であって、あなたではないのだ。あなたは何も損害を受けないのだ。
 一方、国はどうかというと、国も損害を受けることはほとんどない。
  ・ 盗んだマイナンバーカードを使っても、顔が顔写真と異なるので、他人は使えない。(窓口の人が見て、すぐにわかる。)
  ・ 顔写真を偽造することはできるが、ICチップを偽造することはできないので、偽造は不可能だ。

 以上の二点があるので、現行の保険証に比べて、はるかに強力な偽造対策ができる。
 また、そもそも1回だけの多額利用でなく、多数回の少額利用なので、足が付きやすくて、犯罪者にとっては危険度が非常に高い。バレたらすぐに逮捕される。こんなものを病院の受診のために悪用しようとする人はほとんどいないだろう。(仮にいるとすれば、犯罪者だが、犯罪者なら、刑務所に入れば自動的に無料で治療してもらえるので、その方がお得だ。)

 というわけで、「病院で本人確認をする」というのは、まったく不要なのである。チケット販売などなら、「悪用されると困る」という理由で、本人にとっても本人確認のメリットがある。だが、病院の受診では、「悪用されると困る」ということはないので、本人にとっては本人確認のメリットがないのだ。(悪用されて困るのは国であって、本人ではないからだ。)
 このくらいのことで、本人がいちいち窓口で余計な手間をする必要があるのは、あまりにも馬鹿げている。
 マイナンバーカードを健康保険証のかわりに使えるようにするのなら、まさしく健康保険証のかわりとなるようにするべきだ。つまり、本人確認なしで済むようにするべきだ。
 本人確認は、窓口の人が顔写真と本人とを見て、同一人物だと確認すればいい。それで十分だ。患者本人に負担をかける必要はないのだ。
 特にお年寄りだと、機械の操作は難しいかもしれない。お年寄りのためにも、余計な操作を要求しないシステムであるべきだ。
 現状では、国の都合で、国民に余計な負担をかけている。あまりにもエゴイスティックなシステムであると言える。

 《 加筆 》
 そもそも日本国内に、健保の無保険者なんて、ほとんどいない。「他人の金を盗もう」とする人ならば、日本中の全国民が犯罪者の予備軍と言えるが、「他人の保険証を悪用しよう」とする人なんてのは、ほとんどいないも同然と言えるぐらい少ない。また、無保険者が少しいるとしても、そういう人はたいていは「他人の保険証を悪用しよう」とは思わないものだ。(バレると困る事情があるので。たとえば逃亡中の殺人犯など。)
 というわけで、健保の窓口での本人確認など、まったく必要のない無駄手間なのである。国民に迷惑をかけることしか意味がない、とも言える。愚の骨頂だ。

 計算してもわかる。「無保険者による健康保険証の悪用」というのは、(顔写真ありのカードの場合には)、せいぜい年間 1000万円程度だろう。一方、顔写真の照合や暗証番号の照合のためには、システム維持費が年間 10億〜 100億円ぐらいかかりそうだ。つまり、1000万円を節約するために、数十億円を浪費する、というわけだ。本末転倒だね。この制度は、計算もできない阿呆がやっているとしか思えない。



 [ 付記 ]
 本サイトで数年前から何度か提案していた「電子処方箋」が、ようやく実現する運びとなった。
医療機関や薬局で使う処方箋(せん)をデジタル化した「電子処方箋」の運用が26日、全国で始まった。データ上で過去の処方薬を確認することができるうえ、悪影響が出る飲み合わせや、重複処方を避けやすくなることも期待される。ただ、準備が整っているのは全医療機関・薬局の約0.1%未満に限られ、さらなる普及には時間がかかりそうだ。
( → 電子処方箋が運用開始 まずは全国154カ所の医療機関・薬局から:朝日新聞

 0.1%未満ということなので、実質的にはゼロ同然だ。道なお険し、というところか。「千里の道も一歩から」みたいな感じかな。あまりにも情けない。
 防衛費には莫大な金をかけるが、国民の健康のためには徹底してケチる、という方針だね。



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posted by 管理人 at 23:40 | Comment(0) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
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