2023年01月29日

◆ なぜ京都と奈良は繁栄したか .4 (稲作)

 前項 の続きで、補足的な話。当時の稲作はどんなものだったか?

 ──

 奈良盆地や京都盆地では、都ができて文明が生じたが、その理由は、そこが稲作に適していたからだった。では、当時の稲作とはどんなものだったか?
 

 稲作の重要さ


 稲作が重要だったことについては、前項でも述べた。
 奈良に都ができたのはなぜか? そこに多くの人が定住できたとすれば、その理由は農耕である。特に、稲作である。
( → なぜ京都と奈良は繁栄したか .3: Open ブログ

 もっと詳しい話も見つかる。
 米は、人類を最も繁栄させた作物です。
単位面積当たりの収量、栄養価、害虫被害の少なさといった要因により最も多くの人を養うことができる穀物であり、稲の栽培は人類史において大変重要な発明だといえます。
( → お米と日本の歴史1 弥生時代の田園風景は何色だったのか | 株式会社ケツト科学研究所

 縄文晩期、北九州地方に伝来した水田・稲作技術は、その後、弥生時代になって急速に日本列島を東へと伝わり始めます。200〜300年の間に九州から近畿、東海地方へと急速に広まっていきました。
 さらに時が経って弥生時代中期になると、関東地方のみならず青森県(垂柳遺跡)でも水田が作られ、北海道をのぞく日本列島のかなりの範囲にわたり水田耕作が行われていたことが分かってきました。
( → 地方に伝来し

 文中の「垂柳遺跡」については、次の説明が見つかる。
 垂柳遺跡は……出土した遺物から紀元前3世紀、弥生時代中期の遺跡であることがわかった。弥生時代の水田跡は東北地方初の発見で、それまで多くの考古学者が東北地方には弥生文化が到達していなかったと考えていたことから、学会に衝撃がはしった。
( → 狩猟生活変えた「垂柳」=35 by 陸奥新報

 稲作の効果の説明。
 弥生時代以降における日本の人口増の一因は、稲作の広がりと言われています。弥生時代は、縄文時代に比べ約3倍もの人口増がありました。
 東日本ではさほど増加せず、九州四国中国地方では10〜20倍の増加があったようです。これは、稲作が西日本の気候に適しており、摂取カロリーのうち、米から摂れるカロリーに東西において差があったためという説があります。
 人々は田畑の近くに集落を作り、余剰米は高床式倉庫などに保存できたため暮らしは豊かになりました。同時に、持つ者と持たざる者が現れたこととなり、社会は複雑に形成されていきます。
( → お米と日本の歴史2 稲作がもたらした繁忙期と農閑期 | 株式会社ケツト科学研究所


 陸稲と水稲


 稲作には陸稲と水稲があるが、当時はどちらが用いられたのか? 
 最初は畑で陸稲(熱帯ジャポニカ種)を栽培し、水稲(温帯ジャポニカ種)の水田稲作は後に伝播してきたようです。
 
 水田稲作は、少なくとも弥生時代前期である2300年前には現在の青森県にまで伝わっていました。

 本州に田園風景が広がっていたはずですが、私たちの想像する黄金色の田園ではなかったようなのです。当時作られていた稲は野生種に近い「赤米」でした。
 そのため、弥生時代の実りある田園風景は、写真のような赤い景色が見られたことでしょう。

akamai2.jpg

( → お米と日本の歴史1?弥生時代の田園風景は何色だったのか | 株式会社ケツト科学研究所

 やがて古墳時代になると大和朝廷より国司が全国各地に派遣され、稲の耕作方法に加え灌漑設備の土木技術等を広め、国家権力を背景に水田稲作が広がりました。大阪府の狭山池など、この頃に造成されたため池が現在でも利用されている例が多数あります。同時期に全国の水田を区画整理し、班田収授法により国民に口分田を与えながら米での納税を義務付けるという制度を作りました。
つまり、米が貨幣となったのです。
( → お米と日本の歴史2?稲作がもたらした繁忙期と農閑期 | 株式会社ケツト科学研究所


 陸稲と水稲の違い


 陸稲と水稲はどう違うか?
 水稲の場合、直播と移植の両方の栽培方法があるが、陸稲では種籾を畑に直播するのみであり、移植栽培はない。陸稲では、水稲の移植栽培のように、苗の育成や田植えなどの手間のかかる作業を省けるという利点がある。
 (陸稲は)弱点としては、連作障害が発生しやすいほか、雑草が生えやすいので除草が大変なことがあげられる。
( → 陸稲 - Wikipedia

 陸稲では連作障害が発生しやすいし、雑草が生えやすい。水田だと、その両方がない。これが大きなメリットなので、水田が圧倒的に普及した。特に、アジアではそうだ。
 一方、アメリカでは飛行機でタネを撒くので、水田はあまり使われていないそうだ。米の品種は、水稲(ジャポニカ種の水稲)であるそうだが、田畑は、水田ではなく、水のない畑地であるそうだ。
(水を張れるところでは水田にしているそうだが、水を張れない土地が多くて、畑地が多いそうだ。ただし、種まきをする初期だけは、水が必要なので、水を張っているそうだ。しかしその水は6-7週で消えてしまうという。)
  → Yahoo!知恵袋

 田植えの困難


 水田の方が収量が多いのだから、アメリカでも水田にすればいいのに……と思いそうだが、水田にするには多大な人手が必要だ。機械化農業のアメリカには、そんな人手はない。
 アジアでも、現代では「田植機」や「コンバイン」が使われていて、機械化がかなり進んでいる。では、それらの機械がない昔は、どうしていたか?
 牛で田畑を耕すこともあったが、基本的にはすべて人力で、というのが昔の農業だった。「あ、そう」と思って片付けてしまう人が多いだろうが、このような人力の作業は大変な労力を必要とした。
 田植えなんて簡単だろう、と思う人が多いだろうが、とんでもない。私の体験を示そう。私のいた高校(筑波大付属駒場高校)は、前身(というより敷地)が駒場農学校であった。そこで授業では農学があり、その一環として、田植えの体験がある。下記のように。
  → 最難関の中高「筑駒」に根づく逞しさ 生まれる新たな農業への息吹

 これがまた、何ともきつかった。最初は何ともないが、1時間もずっと腰を屈めて田植えをしていると、腰が滅茶苦茶に痛くなる。年を食った老人だからではない。15〜16歳の高校1年生の話だ。こんな若者(というか少年)でさえ、1時間も田植えをすると、腰が痛くなってしまう。
 なのに、昔の農民は、1日に 10時間以上も田植えを続けた。それが何日も続いた。すごいですね。
 また、作業量にも、圧倒的な差があった。素人に比べて農民は、時間あたりで 10倍ぐらいの量を処理できる。また、素人は田植えをしても、列が乱れて左右にふらついてしまうが、農民は直線状に田植えをできる。
 また、稲刈りのときも同様だ。素人は手で鎌を振るので、手がすぐに疲れて、バテてしまうが、農民は腰を使って鎌を振り、どんどん稲を刈ることができて、いつまでも続く。
 というふうに、アマとプロでは、能力には月とスッポンの差がある。こういうことは、普通の解説書には書いてないが、体験してみると、すごい差がわかる。

 不耕起栽培


 水田では、雑草が育ちにくい。なぜかというと、水を張られていると、そこに空気がないので、地面から発芽しにくいからだ。一方、そこに苗を植えると、苗はすでに一定の高さがあって、苗は水面の上に出るから、苗は空気で光合成をして、育つことができる。
  ・ 稲の苗 …… 水面に出ているので、育つ。
  ・ 雑草  …… 水面下にあるので、育たない。

 こういう違いがあるので、雑草を防ぐことができる。

 なお、雑草が育つのを防ぐ方法として、別の方法もある。「土地を耕す」という方法だ。耕すことで、生えかけた雑草は地中に埋め込まれて、育ちにくくなる。一方、(一段高い)苗代をつくって、そこに種まきをすると、発芽した種は高いところにあって日照を浴びるので、日照を浴びる分、育ちやすい。反面、雑草は、苗代から出た作物の陰に入って、日照を浴びにくいので、育ちにくい。こうして、作物が育ちやすく、雑草は育ちにくくなるので、収量が増える。……これが「耕すことで収量を増やす」という農業だ。人類が歴史的に長らく用いてきた農業だ。

 ところが最近、「耕さない農業」(不耕起栽培)というものが注目を浴びている。これについてレポートした特集記事がある。
  → 耕さない農業:1 大地再生、ミミズが戻った:朝日新聞
  → 耕さない農業:2 除草剤なしの栽培法、探る:朝日新聞
  → 耕さない農業:3 多年草化、手かけぬ米作り:朝日新聞
  → 耕さない農業:4 農家、メリットでやる気に:朝日新聞
  → 耕さない農業:5 転換の輪、若い世代も育む:朝日新聞

 従来の「耕す農業」では、土地が固くなってしまうし、ミミズも育たない。一方、「耕さない農業」では、土地が柔らかくて、ミミズが育つ。作られた米は高品質で、おいしいので、倍の値段で売れる。また、雑草が少ないので低農薬で済むし、田植えを省略することもできるらしい。(一年草のはずの稲が多年草化して、古株から発芽するので、田植えをしないで済む。)
 いろいろと利点があるのだが、一方で、難点もある。管理が難しくて、きちんと管理しないと収量が激減する。場合によってはゼロ寸前まで収量が減ることもあるようだ。うまく行っている場合でも、収量は半減ぐらいになるようだ。(というのは、価格が倍であることから推測できる。価格が倍なのに、収量が半減でないとしたら、話がうますぎるので、そんなことはありえないとわかる。)
 今回の上記シリーズ記事では、難点もいくらか説明されていたので、参考になる。「うまいことだらけ」というわけでもないし、どちらかと言えば、かなり困難な農法であるようだ。普及の度合い・速度は遅遅としているそうだ。
 


 【 関連項目 】
 不耕起栽培については、前にも紹介した。「炭酸ガスの排出が激減する」という趣旨で。
  → 土壌に炭素を貯め込む: Open ブログ

 稲作については、米作(稲作)のおかげでアジアでは人口増加が起こった、という説明をしたことがある。
  → アジアの人口増と米作: Open ブログ
 一部抜粋。
 米は小麦よりも栄養価が高い。特に米はタンパク質が多めだ。小麦はタンパク質がまったく不足している。米だけで生きることはできなくもないが、小麦だけで生きることはできない。
 栽培法も違う。小麦は連作による痩せ・障害があるが、米は水田を使うことで、この問題を免れている。この点は重要だ。


 
posted by 管理人 at 23:32| Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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