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住宅をリフォームするというのは、抜本的な効果がある。かなりお金がかかるので、誰にでもお勧めするというわけではないのだが、参考になるだろう。

リフォーム例1
朝日新聞では、高断熱住宅を推奨するシリーズ記事の一環で、リフォームした事例を報道している。一部抜粋して紹介しよう。
住宅設備会社で働く城田俊男さん(72)は2022年11月、安中市にある実家を改修した。
壁や床には厚さ約10センチ、天井には約20センチの断熱材を入れた。
「見た目より、性能を優先しました」。外は5度以下でも、パネルヒーター1カ所で、居間もトイレも、室温は約23度で一定しているという。
築55年以上がたつ。断熱や気密のことはほとんど考えられていない、典型的な日本の住宅だ。
選んだのが「区画断熱」だ。
延べ約140平方メートルのうち1階の65平方メートルを区切って、住宅性能を高めることにした。改修費用は約700万円。天井や床、玄関、出窓などは壊さずに、内側で気密性と断熱性を上げた。
( → (気候危機と住まい 適温で暮らしたい:2)断熱化、健康と家計への投資:朝日新聞 )
記事の趣旨はわかるが、費用が 700万円というのは、コスパが悪い感じがする。本人は 72歳で、住宅は築 55年。あと 15年しか使わない(以後は介護施設へ)という感じだと、年間 50万円ぐらいの費用になる。ちょっともったいない感じだ。
まあ、お金があるのなら、お金をかけてもいいだろう。どうせ余った金は冥土にはもっていけない。生きているうちに、快適な暮らしをすることに意味がある。
とはいえ、700万円をポンと出せる余裕のある老人ばかりではあるまい。
どうせなら、エアコンをガンガン使い放題にした方が、費用は安上がりだろう。居室が3室あったとして、3室でエアコンをガンガン使い放題にしても、年に 50万円にはならない。また、洗面所やトイレにセラミックヒーターを設置すれば、そこでも暖房はできる。
700万円もかけなくても、そこそこの効果は出せるので、上記のリフォーム例は、あまりコスパがよくないという感じがする。
※ なお、同じ記事の後半では、43歳で新築した例が示されている。「断熱や太陽光のための追加費用は約 300万円で、総工費の1割程度を占めた」とのことだ。これは、コスパがいい。費用は少なめだし、利用期間も 60年以上ありそうだ。年間 5万円で済む。これで圧倒的に高断熱の住宅ができて、快適になるのだから、コスパは抜群だと言えるだろう。節約した電気代で回収するのも容易だ。
※ 要するに、老人のやるリフォームと、中年のやる新築とでは、コスパに大差が生じるということだ。
リフォーム例2
別のリフォーム例もある。朝日新聞の記者自身がやっているリフォームだが、個人住宅ではなく、別荘みたいなものだ。しかも大勢の人に開放しているそうだ。みんなで楽しみながらリフォームしているらしい。
八ケ岳の南麓(なんろく)に築40年の空き家を手に入れ、この5年、エコハウスに変身させるリノベーションに取り組み、これまで記事でも紹介してきた。
エコハウスをつくる過程を原則公開し、要所要所でワークショップを開いたことで、プロアマまじってのべ200人以上がエコハウスづくりに参加した。
家の床や壁、天井にいたるまで、家全体を覆うように断熱材を入れた(床180ミリ、壁120〜255ミリ、天井360ミリ)。断熱だけではすきま風がたくさん入り、熱はどんどん逃げ出してしまう。そこで気密性能を高める工事も施した。
次に窓の防御を徹底した。
冬の間、約5割の熱は窓から逃げていくという。言い換えれば、暑さ寒さが出入りする最大の弱点が窓といえる。ほくほくは基本的に3重ガラスで守りをかためている。ガラスだけでなく「枠」にも注目した。日本で多用されるアルミサッシは暑さ寒さを最も通しやすい素材の一つなので、熱を逃しにくい木製や樹脂のサッシを使った。
36畳のほくほくの冷暖房を担うのは6畳用のエアコン1台で、電気が足りないときは、薪ストーブで暖を取る
( → (あったかい家つくってみました 適温で暮らしたい:上)環境に心に「ほくほく」継続中:朝日新聞 )
太陽熱温水器も使っているそうだ。
太陽熱温水器というと、かつては農村の屋根で多く見られたけれど、いまや廃れてしまったイメージがあった。だが取材してみると、太陽光発電では太陽の力をエネルギーにする変換効率が15〜20%のところ、太陽熱温水器は40〜60%と高く、価格も安い。
( → 再エネ100%の家へ、攻めのアイテム続々 薪ストーブに魅せられて:朝日新聞 )
太陽熱温水器については、本サイトも推奨したことがある。
→ 屋根に太陽光パネルを載せるな: Open ブログ
→ 太陽熱温水器の話題 5件: Open ブログ
リフォーム例3
冒頭の例(例1)では、家の内部で大がかりな工事をしていた。これではコスパが悪い。むしろ家の外側に断熱材を付ける方がコスパはいいだろう……と思っていたら、「団地の建物を丸ごと断熱材で包む」という外断熱の例が取り上げられていた。
千葉市郊外にある花見川団地は、1960年代に入居が始まったUR都市機構の巨大団地だ。
2021年4月以降、建物のコンクリート全体を分厚い6センチの断熱材で包み込む外断熱工事が進んでいる。
小山さんの棟は21年9月に工事が終わった。冬場はホットカーペットとガスストーブが欠かせなかったというが、工事後は電気代が月5千円ほど安く、ガス代もそれほどかからなくなった。寒さが本格的になった昨年末以降も、ガスストーブは朝夕1時間ずつつける程度で済んでいる。
( → (気候危機と住まい 適温で暮らしたい:3)団地丸ごと包み、みんなで快適:朝日新聞 )
これは団地の例だが、普通の個人住宅でも同様のことはできる。私の家もそうだ。もともとは普通の木造住宅で、外壁も木材だったが、かなり前に、外断熱の断熱材を全面に張り巡らした。厚さはあまり厚くないので、断熱効果は格段に上がったというほどではないが、表面が木材から金属に変わったことで、耐候性が大幅に向上して、家の寿命が大幅に伸びた。また、防火性も向上した。(延焼しにくくなった。)
外断熱は、建物を丸ごと覆う必要があるので、部屋ごとの断熱工事にはならない。かなり大がかりになる。その点に留意すれば、コスパのいい方法だと言えるだろう。
リフォーム例4
ドイツの事例も報道された。老朽化した団地が改修されたそうだ。
外壁や屋根は外断熱が強化され、窓や扉はトリプルガラスの樹脂サッシに換えられていった。
家の性能が増すと、エネルギー消費は激減して以前の半分になり、住民の光熱費負担は大幅に軽減された。
( → (気候危機と住まい 適温で暮らしたい:5)街を再生、ドイツの公営住宅改修:朝日新聞 )
ここでも外断熱が効果的だ、という話がある。
[ 補足1 ]
外断熱をするときには、注意するべきことがある。こうだ。
「北側の断熱材を厚くするといい」
これはどうしてかというと、北側は北風を受けるので、風の強い日には建物の北側が特に強く冷えるからだ。だから、どうせならば北側の断熱材を厚くすると、断熱効果が高まる。
では、夏はどうか? 夏の対策には、南側の断熱材を厚くするといいか? いや、違う。日光そのものを遮るため(南側の壁に日光が当たらないようにするため)に、軒を大きくするといい。
同時に、屋根裏の断熱材を厚くするといい。夏の日射しは、南から来るのではなく、上から来るからだ。
[ 補足2 ]
リフォームの例1では「築55年の中古住宅では、リフォームをしてもコスパが悪い」と述べた。
では、かわりにどうすればいいのか? リフォームを諦めればいいのか? 現状のまま寒い家で暮らし続ければいいのか? しかし、それでは健康を害してしまう。あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「築55年の中古住宅は、住むのを諦めて、売却する。かわりに、築 30〜40年の中古住宅を購入して、それをリフォームする」
これならば、リフォームをしたあとで、あと 25〜35年ぐらいは使えるだろう。リフォームが無駄にならない。その分、1年あたりのコストは下がる。資産価値も上がる。
なお、これと同様のことをしたのが、リフォームの例2だ。築40年の家を購入した。住人も高齢者ではない。かなり長く使えるので、コスパは悪くない。田舎の築40年の家なら、かなり安く買えただろうから、決して悪い選択ではない。
[ 付記1 ]
ゼロエネルギーハウス(ZEH(ゼッチ))というものも話題になっている。高断熱住宅と太陽光発電を利用することで、エネルギーの自給自足をする、という狙いだ。
これについては、前に何度か言及したことがあるが、私はあまり良く評価していない。
→ ゼロエネルギーハウス(ZEH): Open ブログ
→ 省エネ住宅への補助金: Open ブログ
→ 鉄骨住宅は省エネでない: Open ブログ
[ 付記2 ]
例1では、「新築ならば断熱工事のコスパはいい」という話をした。だが、新築であっても、鉄骨住宅は断熱性が悪くて、コスパがいいとは言いがたい。断熱性を考える限り、鉄骨住宅は避けた方がいい。この件は、前に述べた。
→ 鉄骨住宅は省エネでない: Open ブログ
※ 東京都は、屋根に太陽光を義務づけるより、鉄骨住宅を禁止する方が、ずっと効果があるんだけどね。
[ 付記3 ]
例4の記事では、最後に東京都の話が記してある。
日本でも、東京都が25年度から、新築建物に太陽光パネルの設置を原則として義務づけることになった。都内では、温室効果ガス排出量は建物関連からが約7割を占める。50年までに住宅の7割が建て替えられるとみられ、義務化の意味は大きい。
太陽光パネルの話をしているが、これは断熱の話とは全然関係ないだろ。記者は無関係の話をしているが、これだから環境至上主義者は困りものだ。
そもそも、太陽光パネルを設置するなら、東京都に設置する必要はない。田舎に設置すればいい。1月5日に述べたとおり。
→ 屋上に太陽電池か緑化か: Open ブログ
[ 付記4 ]
ついでに、太陽光発電の話をしておこう。
実を言うと、政府はメガソーラーの設置を抑制するようになった。太陽光発電の電力の買い取り価格を大幅に引き下げたことで、事業がペイしなくなって、事業者によるメガソーラーの設置が急減しているそうだ。
「ため池密度」日本一の香川県で、農業用ため池に太陽光パネルを浮かべる「ため池発電」の新規参入が急激に落ち込んでいる。国の制度に基づき、ため池で発電した電気を電力会社が買い取っているが、再生エネルギー(再エネ)の普及で買い取り価格が下落。事業の「うまみ」が乏しくなってきたためだ。
( → ため池発電、曲がり角 買い取り価格下落、参入が急減 密度日本一の香川県:朝日新聞 )
1キロワット時10.5円 という低価格にすることで、メガソーラーの発電所の解説を抑制するようになった。ここでは「低価格の電力の購入を抑制する」という方針をとっている。(政府が。)
なのに東京都が住宅で太陽光パネルを設置するように推奨するというとき、17円/kWh という高価格で電力を買い上げる。
→ 2022年度(令和4年度)の太陽光発電の売電価格は?
つまり、安いメガソーラーの電力は買い取りを抑制して、高い個人住宅の電力は買い取りを促進するというわけだ。狂気の沙汰である。
そして、それにもかかわらず、「東京都の方針は素晴らしい」と持ち上げているのが、朝日新聞の記者だ。頭のネジがイカレているというしかない。
【 関連項目 】
このあと、さらに次項でも、続きとなる話がある。(予定)
※ 本項ではお金がいっぱいかかる話をしたが、次項ではもっと小額で済む話。部分的な改造計画。
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とはいえとりあえずは、DIYでできるような透明プラスチックの窓シールなどを発売してほしいですね。