2022年12月30日

◆ SNS の誹謗中傷の対策

 SNS の誹謗中傷があふれている。これに対策するには、どうすればいいか?

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 SNS の誹謗中傷があふれている。最近でも、次のツイートが話題になった。


 裁判に訴えて、誹謗中傷をした人から和解金を得たそうだ。なのに、その本人に向かって、さらに誹謗中傷をする人が出てくるそうだ。
 これはつまり、「誹謗中傷をした人を裁判で訴えて、和解金を得る」という手法がまともに機能していない、ということを意味する。

 では、どうするべきか? 論理的には、次の二通りが考えられる。
  ・ 裁判における賠償金を大幅に引き上げる。
  ・ 民事でなく刑事で訴える。


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 ここで、参考になる事例がある。女子プロレスラー・タレントである木村花さんが、SNS の誹謗中傷を受けて自殺した、という事例だ。





 事件の解説は下記にある。
  → 木村花 - Wikipedia

 誹謗中傷を受けたというが、本人にはまったく落ち度がない。女子プロレスラー・タレントであることから、番組内で粗暴な態度をとって、大げさにふるまうようにと、番組スタッフから指示を得ていた。特に、暴力をふるえと指示されていた。それでもプロレスラーなので、さすがに暴力は振るえないと思って、帽子をはたくだけにした。ところがそれを見た視聴者は、番組が「やらせ」であるとは理解できないまま、「粗暴な女だ」というふう批判が殺到させた。それを受けた本人は、あまりにも執拗な誹謗中傷を受けて、精神が崩れて、自殺してしまった。

 ここで、遺族はテレビ局を裁判で訴えた。
  → 「テラハ問題」木村花さん母、フジテレビなどに約1億4000万円の賠償求め提訴| TBS NEWS DIG

 一方、刑事でも訴えたが、きわめて軽い刑罰しか下されなかった。人を死なせたのに、罰金 9,000円だけである。
 侮辱罪での公訴時効は1年である。
 2021年3月30日、東京区検は大阪府の男性を略式起訴した。
 同年4月5日、警視庁は福井県の男性を悪質な書き込みを繰り返したとして書類送検した。任意の調べに対し容疑を認め、「申し訳ないことをした」などと話しているという。
 2件とも東京簡裁は科料9,000円の略式命令を出した。侮辱罪の法定刑は30日未満の拘留または1万円未満の科料で、軽犯罪法違反と同じであるため、捜査関係者からも「時代に合っていない。匿名の中傷は罰則強化が必要だ」との声が上がっている。
( → 木村花 - Wikipedia

 もともと懲役や禁固は設定されておらず、「30日未満の拘留または1万円未満の科料」にしかならない。人を死なせてもこの程度なのだから、きわめて甘すぎると言える。

 ──

 では、どうするべきか? 

 (1) 賠償金

 賠償金の額を上げる……というのが一案だが、これは難しい。賠償金の額は、法律では規定されておらず、裁判によって相場が形成される。その額は、日本では伝統的に安価な額になっている。この流れを変えることは容易ではない。

 ※ 交通事故の例にならえば、「判決ではなく和解を促す」という方針が有効だ。和解を促すためには、「和解すれば刑事罰を減刑する」という方針が必要だ。そのためには、あらかじめ刑事罰を高めに設定しておくことが必要だ。つまり、次の (2) だ。

 (2) 刑事罰

 刑事罰で処分する、というのが最も妥当だろう。特に、名前を公表して、社会的制裁を与えるのが有効だ。顔写真が出て、テレビや新聞で報道されるようになれば、一罰百戒の効果が出て、同様のことをする人は出なくなるだろう。
 ただし、そのためには、報道するだけの価値があることが必要だ。つまり、軽罪でなく重罪であることが必要だ。「相手を死に至らせた場合」に至ったなら、懲役3年ぐらい(執行猶予なし)が妥当であろう。法定刑は懲役5年でもいい。(過失致死罪のように、侮辱致死罪のような刑罰を設定する。)
 相手を死に至らせなくても、かなりの重罪に設定するべきだろう。といかく、「逮捕して、名前入りでテレビ・新聞で報道する」ということが必要だ。直接の懲役刑よりも、社会的制裁を下すことが必要だ。
 これは、見せしめふうである。そして、見せしめの効果こそ、同じような類似犯罪を抑制する効果をもたらすのだ。
 従って、このような方針で刑法を改定することが必要だろう。

 ※ 他に、(1) の補足箇所で述べたように、「和解を促す」という効果もある。(刑事罰による効果)

 ──

 さらに、別案もある。もっと効率的な方法だ。
 現状では、民事や刑事において、裁判所がネット業者に「アカウントの開示」を命令する。だが、こんなふうに裁判所に手続きを求めるのでは、あまりにも面倒臭い。冒頭の医師・小説家(有名人)のように、金のある人ならば金と手間を惜しまないだろうが、たいていの人は金も手間もない。いちいち裁判に訴えることはできない。となると、たいていの人は泣き寝入りするしかない。それでは困る。

 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「司法に頼らずに、行政府が介入して、誹謗中傷をやめさせる」


 ここで、行政府というのは、警察部内における「誹謗中傷の担当局」であってもいい。だが、それだと各県ごとの対応となるので、専門部局はきわめて小さな組織になってしまう。それでは十分に対処できない。(年間取扱件数が1件ぐらいになったら、担当人員もほとんどいないことになる。)
 そこで、警察のかわりに、デジタル庁あたりに専門部局を設定すればいいだろう。(国の組織として、SNS の誹謗中傷の対策をする部局となる。)

 この組織には、裁判所の「アカウントの開示命令」と同様の権限を持たせるといい。つまり、次のことだ。
 「この組織には、司法的な裁定の権限を持たせる。被害者の言い分を聞いて、その言い分が妥当であると裁定したならば、ネット業者に対して、アカウントの開示を命令することができる」(その権限を法的に持つ。)


 この場合、「アカウントの開示を命令する」という点では、既存の裁判所と同じ機能をもつことになる。(新しい法律の裏付けによる。)
 ただし、この際、費用は行政府が全面的に負う。被害者の側は、裁判の費用を負担する必要がない。単に行政府に届け出をするだけでよく、費用負担は必要ない。……こうして、誰もが(金を払わなくても)自らの法的権利を守ってもらえる。

 現状では、高額の裁判費用を払える人だけが、自らの法的権利を守ってもらえる。しかし、それでは一般人は、自らの法的権利を守ってもらえない。それではまずい。だからこそ、上記のような新提案をするわけだ。
 困ったときの Openブログの案として。

  ※ この案を実現するには、新規立法を必要とする。



 [ 付記1 ]
 「現状では、高額の裁判費用を払える人だけが、自らの法的権利を守ってもらえる」
 と述べた。その一例は、下記にある。
  → はあちゅうさんとの名誉毀損をめぐる高裁判決のお知らせ - トイアンナのぐだぐだ

 トイアンナという女性が、はあちゅうという女性について評したところ、「名誉毀損だ」と言われて、訴訟を起こされた。その裁判の結果は、全面勝利で、「名誉毀損ではない」と判決が下った。しかし、出費は多かったそうだ。
 本件でかなりの弁護士費用を負担することになりました(訴訟は、たとえ勝訴しても弁護士費用を相手方が負担してくれるものではありません)

 弁護士費用は、安く見ても数十万円で、現実的には百万円を超えそうだ。それだけの負担を強いられたわけだ。(名誉毀損を訴えた方ではなく、訴えられた方だが、嘘みたいな名分で訴えられたというメチャクチャのせいで。)

 こういう事例でも、いちいち裁判なんかを起こさないで、中立的な行政機関が裁定を下せば、双方が訴訟費用なしで済んだはずだ。

 現状:
はあちゅう・トイアンナの双方が、弁護士を立てて、多額の訴訟費用を払う。儲けたのは弁護士だけ。

 新規:
はあちゅう が訴えたあとで、はあちゅう・トイアンナの双方が、それぞれ別個に行政機関で釈明して、上申書を出す。行政機関は、それぞれの言い分を聞いた上で、裁定を下す。費用は、原告側が数万円程度の費用を払うだけでいい。行政機関は、賠償金の額を下すこともできるし、アカウントの開示を命じることもできる。行政機関の裁定に不満がある場合には、裁判所に訴えることもできる。だが、原則、裁判所は、行政機関の裁定を尊重するべきだと、法律で規定しておく。(よほどのことがない限りは、くつがえらない、ということ。) 

 [ 付記2 ]
 SNS会社の責任も追及するべきだろう。不当な誹謗中傷が続く発言者に対しては、そのアカウントを停止するように、SNS会社に要求できる。(被害者が。)
 その要求を受けて、アカウント停止をすれば、問題ない。一方、アカウント停止をしない場合には、SNS会社も共同正犯であるとして、SNS会社にも賠償金を請求できるようにするといい。
 こうすると、SNS会社は賠償金を支払いたくないので、加害者に対してアカウント停止をするようになる。これで問題は解決する。

 現状では、「加害者のアカウントを停止すると、加害者に訴えられる」という懸念から、SNS会社は(加害者の)アカウント停止に消極的であるようだ。だが、現実には、ツイッター社は今ではしばしばアカウントの停止をやっているようだ。「イーロン・マスクの気に入らないアカウントは停止する」というふうに。
 こんな恣意的な運用で、アカウントの停止をしているのだから、「加害者のアカウントの停止」ぐらいは、簡単にできるだろう。
 これならば、司法も行政府も介入しないで、簡単に誹謗中傷を止めることができる。

 [ 付記3 ]
 SNS会社が(加害者の)アカウントを停止する……という方針には、見本がある。はてなブックマークの、はてな社がそうだ。誹謗中傷をする加害者に対して、アカウントの停止や部分停止を含む、何らかの処罰(削除や公開停止など)をする、という方針を決めた。
  → ブックマーク一覧ページに対するブックマークコメントでの批判 - Hatena Policies

 実を言うと、はてなブックマークでは、SNS を通じた会員間のトラブルで、殺人事件が起こった……という経緯がある。
  → Hagexさん刺殺事件、『低能先生』と呼ばれた男に懲役18年

 こういう経緯があるので、はてな社は誹謗中傷には敏感であるようだ。

 ともあれ、この事件からも明らかなように、誹謗中傷のトラブルからは、殺人事件に至ることすらある。「ただの口喧嘩さ」みたいに見なして、軽視していい事柄ではないのだ。人の命に関わる重大問題として、気合いを入れて対処するべき事柄だ。(木村花さんの事例もある。)
 

posted by 管理人 at 23:35 | Comment(4) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
趣旨には賛成なのですが、行状を「批判」された政治家が「誹謗中傷された」と主張して批判者の恫喝に使いそうな予感がします(今もその傾向がある)

Posted by アラ還オヤジ at 2022年12月31日 12:19
追記です

法制化にあたって「誹謗中傷」の定義や運用が政治家に有利に設定されるかもしれません
炎上案件が起きた時「これは誹謗中傷に該当する」とかが閣議決定されるかも
Posted by アラ還オヤジ at 2022年12月31日 12:50
 政治家への批判は、誹謗中傷には当たらず、言論の自由で守られています。すでに法制度で確立しているはずです。
 これがなかったら、独裁体制になるので、当然でしょう。中国じゃないんだから。
Posted by 管理人 at 2022年12月31日 12:58
管理人様コメントありがとうございます。
まさにその通りのはずなんですがそうとも思えない状況で危機感を持っています。
本年も鋭いご指摘よろしくお願いいたします。
Posted by アラ還オヤジ at 2023年01月01日 01:15
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