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政府は防衛費倍増計画を立てた。朝日新聞は「5年間の総額で5割増」と報じているが、「5年後には倍増となる」という読売新聞の報道の方が妥当だ。前にも述べたとおり。
→ ソ連崩壊の真相: Open ブログ (末尾)

この倍増計画の初年度である来年度予算では、防衛費を(10割増の5分の1にあたる)2割増にして、その金で高価な巡航ミサイルであるトマホークを購入すると決めた。
政府は、2023年度予算案の防衛費を過去最大の約6兆8千億円(米軍再編経費を含む)とする方針を固めた。国家安全保障戦略に明記する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に向け、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費2113億円を計上。
22年度当初の防衛費は過去最大の約5兆4千億円で、1.2倍超に膨らむ。
( → 来年度の防衛費、6・8兆円 過去最大、トマホークに2千億円:東京新聞 TOKYO Web )
防衛省が米国製の巡航ミサイル「トマホーク」について、2027年度までをメドに最大500発の購入を検討していることがわかった。
複数の日米両政府関係者が明らかにした。
( → トマホーク最大500発購入へ、反撃能力の準備加速…8年前に購入の英は65発190億円 : 読売新聞オンライン )
これに対して、朝日新聞が批判的に論じている。
日米の安保政策に詳しい小谷哲男・明海大教授はトマホーク導入の効果を認めつつ、「当面は水上艦から発射することがメインになるが、航空優勢がとれない状態だと相手の爆撃機の攻撃圏内に(トマホーク搭載艦が)接近するのは難しく、運用面での課題は残る」と指摘する。
さらに、「艦艇の発射装置の数は限られており、従来の艦対空ミサイルなど防空能力に割り当てていた発射装置を、従来のミサイルに代えて、トマホークに割り振る必要がある」とし、防空能力の低下を懸念する。
( → トマホーク導入で変わる日米の「矛と盾」 防空能力低下の懸念も:朝日新聞 )
批判するのはいいが、あまりにも見当違いすぎて、片腹痛い。「当面は水上艦から発射することがメインになる」というが、どこと戦うつもりなんだ? 中国やロシアにトマホークを飛ばすつもりなのか? しかし中国やロシアはあまりにも広大すぎて、そんなところにトマホークを 500発ぐらい撃っても、ハチが馬を一刺ししたぐらいの痛みしか与えられない。ほとんど意味がない。
トマホークが意味を持つとしたら、北朝鮮を相手にしたときだけだ。だが、北朝鮮を相手にするなら、ミサイルの射程は 800km もあれば足りる。

現実には、トマホークの射程は、2500km もある。
形式 射程
AGM-109H/K 2,500km
BGM-109G 2,500km
( → トマホーク (ミサイル) - Wikipedia )
射程が 2500km もあるのだから、日本のどこからでも北朝鮮の全土を射程内に収めることができる。したがって水上艦からトマホークを発射することはないのだ。陸上から発射するだけで十分に足りるのだ。ゆえに、朝日新聞の識者の批判は見当違いである。
( ※ そもそも、軍事専門家でなく安保政策の専門家の出番ではない。)
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では、陸上発射のトマホークにすればいいかというと、そうでもない。
そもそも、トマホーク(巡航ミサイル)が必要なのは、弾道ミサイルでは敵に迎撃されてしまうことがあるので、それを避けるためだ。換言すれば、敵にミサイル防衛網があることが前提だ。その上で、敵のミサイル防衛網をかいくぐるために、巡航ミサイルを使う。
ところが、北朝鮮にはミサイル防衛網なんてものはない。戦闘機すらろくにない。
朝鮮人民軍は、陸軍が主力であり、空軍はそれを補佐する体制にある。
MiG-29といった比較的新しい作戦機も少数保有するが、軍用機の近代化が経済制裁により進まず、いずれも冷戦期に開発・運用された旧ソ連製・アメリカ製・中国製機しか保有していない
( → 朝鮮人民軍空軍 - Wikipedia )
こんな状態である。戦闘機すらろくになくて、ましてミサイル防衛網なんて夢のまた夢である。なのに、日本の自衛隊は、「北朝鮮のミサイル防衛網をかいくぐるため」という目的で、高価な巡航ミサイルを配備しようとする。頭のネジがイカレているとしか思えない。馬鹿か?
日本が北朝鮮を相手に「敵基地攻撃能力」をもつのであれば、高価な巡航ミサイルを配備必要はない。安価な弾道ミサイルを配備すれば十分だ。そして、その目的は、敵基地を攻撃すること自体ではない。敵基地を攻撃すると見せかけて、敵の弾道ミサイルを引きつけること(そして日本の重要施設を敵ミサイルの攻撃目標から外すこと)である。前に述べたとおり。
敵基地攻撃能力は、「敵のミサイルを引きつける」という能力がある。これが敵基地攻撃能力の意義だ。相手を傷つけるというよりは、相手を傷つけると見せかけて、自らが傷ついて、それによって国民を守ることが主眼だ。これを間違えてはならない。
敵基地攻撃能力があると、敵にとっては、日本のミサイルが最大限の攻撃目標となる。ゆえに、敵ミサイルがそこにどんどん引き寄せられてくるのだ。ちょうど、夜の蛾を引き寄せる誘蛾灯のように。
しかも、そのコストは、ミサイル防衛網(イージスシステム)に比べて、格安である。そのことで、防衛費を抑制する効果もある。
( → 敵基地攻撃能力とミサイル防衛: Open ブログ )
こういう目的のために配備するのであるから、高価なトマホークを配備する必要はないのだ。安価な弾道ミサイルを配備するだけで十分なのだ。どうせ同じ金額をかけるにしても、安価な弾道ミサイルにすれば、数量は何倍にも増やすことができる。そのことの方が重要だ。
現状のように「高価なトマホークを購入する」というのは、米国の軍需産業を喜ばすことしか、意味はない。日本の防衛能力を高めるためには、かえって有害だと言える。(弾道ミサイルを選ばないので。)
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なお、「トマホークは 40年前のポンコツだ」という批判もある。
→ 40年前開発のトマホークでは日本は守れない、これだけの理由 本末転倒の防衛予算増額はむしろ日本の防衛力を削ぐ結果にも(1/5) | JBpress (ジェイビープレス)
[ 付記 ]
ついでだが、政府は来年度予算で、「イージスシステムの配備」も費用を計上した。
地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備断念を受けて新造する「イージス・システム搭載艦」に部品取得費2208億円を計上した。
( → <独自>トマホークに2113億円 防衛省予算判明 - 産経ニュース )
「イージス・アショア」の配備断念を受けて新造する「イージス・システム搭載艦」というのが、ゴミであることについては、前にも述べた。(飽和攻撃で無効化する、など。)
→ イージス艦へのミサイル攻撃: Open ブログ
→ 北朝鮮のミサイルに対抗するには: Open ブログ
→ 迎撃ミサイルと防衛費拡大: Open ブログ
こんなゴミに 2208億円を計上する(今後の配備費も会わせると数兆円になる)のだから、呆れるしかない。トマホークに2113億円という無駄が、かわいく見えてくるほどだ。
岸田内閣の防衛費倍増という計画は、金額的にはものすごい出費になるのだが、それによって高まる防衛力は、ろくにない……というふうになる。馬鹿丸出し。というか、無駄ばかり。喜ぶのは米国の軍事産業ばかり。
トマホークの最新型はブロック5で回避プログラムも付いていますが単価は言われてる額の倍な上に輸出許可がまず出ません。輸出用に購入出来るのは仰るとおりの40年前のモーター付き有翼爆弾でありレーダーと連動した高射砲が有れば確実に落とされます。北が装備するシルカの改良型の30mm弾なら調整弾片が当たるだけで落とせます。
万が一比較的新しいトマホークが買えてもFMSで更にキルスイッチ付きで一発撃つ為にも米軍の許可が必要になるでしょう。それが気に入らなくてお隣の上下半島国みたいにブラックボックスを割ったら最早日本の民度は後進国と見做されます。
そうなればF35の整備拠点も撤収になります。
日本の食の変化か有鉤条虫に脳が喰われた人が多いですな。