イーロン・マスクはツイッター社を買収して失敗した。その話の、こぼれ話。
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肝心な話は前項で示したが、そこでは取りこぼした話をしよう。
当初の目的
イーロン・マスクは何のためにツイッター社を買収したか? 彼自身は、当初、崇高な理念を掲げていた。
Twitterを買収するのは、「暴力に訴えることなく、幅広い信条について健全に議論できる共通のデジタル広場を持つことは文明の未来にとって重要」と説明しました。
人類のためでありお金もうけのためではないとマスク氏は述べています。
( → イーロン・マスク氏、Twitter買収の理由を語る 「文明の未来に重要」 - ねとらぼ )
いかにも立派なことを述べていた。本心かどうかは定かでないが、少なくとも彼自身も、そういう気持ちはかなりあったと推察される。
買収後
買収後に実際にやったことは、何か? まずは「自由な言論の場の形成」ということで、トランプのアカウントを復活させようとした。
しかしトランプというのは、暴力によって議会制民主主義を破壊しようとした張本人であり、半民主主義的な独裁体質の人物だ。それを推進しようというのだから、「自由な言論の場の形成」とは真逆である。
そのあと、NYtimes の記者を追放しようともした。これも「自由な言論の場の形成」とは真逆である。
さらには、「人類のためでありお金もうけのためではない」と言ったくせに、次々と有料化の方針を打ち出す。口で言っていたことと、実際にやっていることが、真逆である。
こうしてマスクの欺瞞性がはっきりとしてきた。
人員の大幅な削減
そしていよいよ本丸だ。人員の半減という大ナタを振るうようになった。
そして、その理由は何かと言えば、前項で述べたとおり。つまり、ツイッターの買収資金の借金という、自分自身の借金を、ツイッター社に支払わせようとしたのだ。
「おれの借金を負う会社を、ツイッター社と合併させれば、おれの借金をツイッター社に付け替えることができる。借金のツケ回しだ。これで2兆円がボロ儲け」
こういうクソみたいな理屈で、2兆円を奪おうとした。そのために従業員から2兆円分の富を奪おうとした。そこで、ツイッター社の社員を半減しようとしたのである。
コストカット経営
マスクは「赤字が出た! 黒字にしないと!」と思った。そこで手を付けたのが、人員削減である。その目的は、コストカットだ。
「経営者がまずやることは、コストカットだ」
というのは、日本では長らく主流となった方式だ。
バブル破裂の直後(1990年〜)には、「リストラ」という名称で次々と人員削減がなされていった。(解雇や希望退職など)
日産自動車のゴーン登場(1999年)のあとは、ゴーンの手法を真似て、「コストカット」という手法が大々的にとられるようになった。その手法の主要部分は、「下請けへの部品価格の値下げ強要」であったが、同時に、「賃金の抑制」も含意されることが多かった。さらには(後年の日産では)「投資の抑制」までも含まれるようになった。
このようなコストカット経営は、日産自動車だけでなく、多くの工業会社に波及した。特に電器産業では顕著で、日産と同様に、部品値下げの強要・人員削減・投資削減がなされた。さらには、研究開発費の抑制までもなされるようになった。最大の影響は、技術者の賃金の切り下げで、電機産業には優秀な技術者があまり入ってこなくなった。(かわりにIT系の新興会社に人材が流入するようになった。ソシャゲなどのゲーム会社にも人材が流入するようになった。)
そして、これらの日本企業と同様に、マスクもまた「人員の大幅削減」という手法に手を付けたのである。
コストカット経営の結果
日本企業はコストカット経営をしたが、その結果はどうなったか? 大幅な黒字化か? いや、その逆だった。
嚆矢となった日産自動車は、ゴーンが新車開発の開発費を惜しんで、金をケチった。そのせいで、モデルチェンジがなくなり、新型車が出なくなり、モデルは古いモデルばかりとなった。スカイライン、エルグランド、フェアレディなど、10年ぐらいモデルチェンジなしの車が続出した。そのせいで、車は売れなくなり、販売台数は大幅に減り、値引きが増えて、利益率は大幅に低下した。会社の収益はどんどん悪化していった。コストだけはどんどんカットしていったが、それ以上に売上げが減って収益が悪化した。一時は大幅赤字を出して、株価は急落した。
( ※ モデルチェンジは皆無だったわけではなく、対米輸出モデルや中国の元知性さんモデルの一部では、モデルチェンジがなされた。しかしそれらは日本には導入されなかったので、日本では販売台数が減り、収益性もひどく悪化した。)
日産だけでなく、日本の電器会社も同様だった。収益が悪化しただけでなく、市場のシェアもどんどん失っていった。バブル期のころには日本の家電会社は世界を制覇していたが、その座はすでに韓国や中国の会社に譲ってしまった。日本の電器会社は大幅に没落した。それというのも、賃金カットで人材の質を切り下げ、研究開発費のカットで技術水準も低下したからだ。確かにコストは低下したが、それ以上に売上げが減って収益が悪化した。
そして、これらの日本企業と同様に、マスクもまた「人員の大幅削減によるコストカット」を目論んだ。その結果、確かにコストは低下したが、それ以上に売上げが減って収益が悪化した。前項でも述べたように、次の結果となった。(再掲)
主な収入源としている広告も激減した。デジタルマーケティング会社パスマティックスによると、今月17日の時点でツイッターの大手広告主100社のうち、72社がツイッターへの広告出稿を見合わせている。
( → 米ツイッター、また従業員解雇 イーロン・マスク氏の下で削減続く - CNN )
コストを減らせば、製品の質が低下するので、売上げが減少し、収益が悪化する。……これは日本企業がたどってきた道だ。それと同じことを、マスクもまた Twitter でやっている。
マスクはせめて、失敗した日本企業を教訓とするべきだった。つまり、「コストカットや人員削減をすると、かえって大損をしてしまう」という事実を知るべきだった。他山の石。人のフリ見て、わがフリ直せ。そういうふうにするべきだった。
ならば、今度は(未来の)日本企業が、マスクのツイッター社の買収と失敗を見て、教訓とするべきだろう。「マスクのようにやたらと人員削減によるコストカットをすると、かえって収益が悪化してしまうのだ」と。他山の石。人のフリ見て、わがフリ直せ。そういうふうにするべきなのだ。
※ マスクを見て、「ざまあみろ」と思うよりは、教訓とするべきなのだ。転ばぬ先の杖。
マスクの反省
マスクも部分的には自分の失敗を認めて反省しているようだ。特に、テスラ株の売却については反省しているようだ。
前項ではこう述べた。
テスラ株は今年に入って、暴落した。マスクの財産は約 50兆円から半減した。どうしてこうなったか? ツイッター社の株式の売却資金を得るために、テスラ株を市場で大量売却したからだ。4兆円ものテスラ株を売却すれば、テスラ株が暴落するのは当然だ。
ここでは、マスクは4兆円の手持ち資金を得たが、同時に、テスラ株の暴落を通じて、総資産の大幅減少( 50兆円からの半減)を招いたわけだ。あまりにも馬鹿げたことをやった、と言えるだろう。
( → E.マスクの壮大な勘違い: Open ブログ )
これで反省したらしく、その後、次のように表明した。(12月22日)
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、今後2年間はテスラ株を売る予定はないと表明した。マスク氏は今年これまでにテスラ株を約400億ドル(約5兆3000億円)相当売却し、売却益の大半をツイッター買収資金に充てている。
( → イーロン・マスク氏、今後2年間はテスラ株売らないと表明 - Bloomberg )
株を4兆円分売れば、4兆円の現金を手に入れるが、テスラ株が暴落して、手持ちの資産は 50兆円から半減してしまう。差し引きすると、4兆円を得るために 27兆円を失ったことになる。……これが、彼がツイッター社買収のためにやったことだ。愚の骨頂。
それを反省したので、「もうテスラ株を売るつもりはない」(株価を暴落させるようなことはしない)と表明したわけだ。
いくらかは反省することができたようだ。(ただし、「反省します」と言って自分の失敗を認めるところまでは行かないところが、どうにも依怙地だが。)
[ 付記1 ]
マスクが(ツイッター買収で)やったことは、すべてが大失敗だった。では、どうすれば失敗しないで済んだだろうか?
何よりもの失敗は、テスラ株の売却で大幅な株価低下を招いたことだ。だから、テスラ株の売却をしなければよかった。どうせ売却するにしても、少しずつ少量を売却するだけにして、売却量を減らせば良かった。
そのためには、Twitter 社の買収を延期すれば良かった。たとえば、1年延期にする。違約金を求めて提訴されそうだが、買収しないのでなく、1年延期するだけだ、とすれば良かった。どうせ裁判をすれば1年ぐらいはかかるのだから、余計な法定費用をかけずに済むために、1年後の買収で合意しておけば良かった。(そのために買収価格に色を付けてもいい。たとえば3%高で買収する、というふうに。)
こうして買収時期を延期すれば、テスラ株が暴落しないで済む。同じ量のテスラ株を売却するにしても、安い時期に売らずに、高い時期に売ることができる。すると、テスラ株の売却代金は、4兆円でなく、7兆円ぐらいになる。この7兆円があれば、テスラ株の買収費用6兆円をまかなえる。ならば、2兆円の借金を負うこともないし、年間 2000億円の利払いを強いられることもない。
つまり、ツイッター社の買収の時期を1年遅らせれば、2兆円の借金を負うことがなかったので、無理な人員削減をする必要もなかった。従来通りのツイッターを維持できて、現在のような破滅的な事態を招く改革を実施しないで済んだ。何も問題は起こらなかっただろう。
なのに、そうしなかったから、マスクは破滅的な道を選んでしまったのだ。
せめて、困ったときの Openブログに頼めば、うまい案を見出せただろうに。
( ※ なお、借金の額は、正確には約 1.7兆円だが、概算で2兆円と記した。)
《 加筆 》
どうせ2兆円を借金するにしても、せめて 27兆円のテスラ株を担保として差し出せば良かった。そうすれば低利で借りることができたのに。
[ 付記2 ]
マスクは、そんなに金がほしくてコストカットをしたいのであれば、テスラ社でコストカットをすればいいのだ。特に、テスラ社で人員カットや賃金カットをすればいいのだ。テスラ社の給与水準は業界トップで、米国企業全体でもトップクラスだ。だから、そこから大幅に給与を下げれば、大幅にコストカットができる。ちょうど、日本企業がやったように。
だが、その結果はどうなるか? 優秀な人材が来なくなり、技術水準は一挙に低下して、製品の質が大幅に悪化するだろう。コストは下がっても、製品が売れなくなり、利益率は大幅に下がるだろう。現在は利益率が 17% で、トヨタの8倍の利益率だが、そこから一挙に転落して、日産のような赤字構造になるだろう。コストカットに邁進した日産がそうなったように。
テスラにせよ、ネットフリックスにせよ、大躍進した企業は、コストカットとは逆に、最高の賃金を払ってきた。最高の賃金を払うことで、最高の製品を生み出し、最高利利益率を獲得してきた。
マスクが今 Twitter 社でやろうとしていることは、それとは正反対のことだ。自分自身がこれまで(テスラ社で)やって来た方針とは正反対のことを、 Twitter 社でやろうとする。自分で自分を裏切っているとも言える。
コストカットをしたいのであれば、テスラ社でコストカットをすればいい、という話。
→ https://digital.asahi.com/articles/DA3S15512037.html
テーマはほとんど同じだが、内容は通り一遍で、誰もが思っているような話ばかりだ。
Twitterの運転資金、買収資金のためにテスラのコストカットに得た資金を流用なんてすればテスラの株主が許さないでしょうね。そんなことできっこないからイーロンマスクは個人所有のテスラ株を売って資金を捻出しているのです。
そんなことは誰も言っていませんよ。どこで妄想したの?
テスラ社の利益を上げるために、大幅にコストカットして、収益増をめざせばいい、と言っている。ただしその結果は逆に収益減になるだろう、と言っている。目的と結果の相反。あくまでテスラの株主だけの話。 Twitter 社は関係ない。
だからTwitter社が無関係ではあり得ない。
管理人さんがいうようにイーロンマスクの個人的な理由でテスラ社から金を絞り出すなんて行動はそもそもテスラ社が株式会社であるかぎりではCEOといえど不可能で、そもそも議論する意味がないんです。
だから現実には自分が持つテスラ株を売らざるを得なくなっているんです。
今後はもう売らない、と言っているでしょ。本人が。
あなたの話は根本的に狂っている。