2022年12月22日

◆ 敵基地攻撃能力とミサイル防衛

 敵基地攻撃能力には抑止力がないと言われる。ウクライナはミサイル防衛網でうまく対処できると言う。どちらも誤りだ。

 ──

 敵基地攻撃能力の抑止力


 敵基地攻撃能力には抑止力がないと言われる。たとえば、朝日新聞の社説が疑問符を付けている。
 政府は相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」になるというが、専門家の間にも懐疑的な見方がある。
( → (社説)安保政策の大転換 「平和構築」欠く力への傾斜:朝日新聞

 一方、米国の専門家は、抑止力があると言うが、留保を付けている。
 日米の安保政策に詳しい米ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員:
 トマホークは日本の抑止力の強化に役立つでしょう。ただ、実効性には疑問もあります。作戦で効果を発揮するには、多くの数が必要です。標的を識別し、精密に攻撃するためには衛星などの能力も必要ですが、日本にはありません。
( → 米専門家も驚く日本の急変化 トマホーク購入は「象徴的意味」か:朝日新聞

 二つの意見は逆だが、どちらも間違っている。正しくはこうだ。
 「敵基地攻撃能力は、それによって相手陣営の基地を攻撃すること自体に意義があるのではない。敵を攻撃すると見せかけて、敵のミサイルを引きつけることに意義がある」
 これは、迎撃ミサイルの役割と同じだ。迎撃ミサイルは、自分の方から敵ミサイルを探して、敵ミサイルに命中する。敵基地攻撃能力のミサイルは、敵の方からこちらのミサイルを捜して、こちらのミサイルに命中する。その役割は、どちらも同じである。(敵ミサイルの破壊)
 なお、意義は同じだが、コストが異なる。迎撃ミサイルは、非常に高度な技術を必要とするので、コストが馬鹿高い。日本のイージスシステムは、1兆円もかかる。陸上イージスの改定案だと、2兆円近くにもなりそうだ。それでいて、効果はきわめて限定的だ。敵が飽和攻撃でイージスシステムを襲ったら、2兆円のイージスシステムは一挙にゴミ屑になる。2兆円がゴミ屑になってしまうのだ。あまりにも脆弱であり、あまりにも無駄である。ドブに2兆円を捨てるのも同然だ。(ただし2兆円を受注する米国軍事産業だけはボロ儲けできる。)
 一方、敵基地攻撃能力ならば、圧倒的にコストが低い。当面は 1000〜2000億円もあれば、1000発程度のミサイルを配備できる。(巡航ミサイルのトマホークは1発3億円だが、巡航ミサイルでない弾道ミサイルならば、ずっと安い。また、国産の固体ロケット技術を使って、ミサイルを国産にすることもできる。)

 というわけで、敵基地攻撃能力は、「敵のミサイルを引きつける」という能力がある。これが敵基地攻撃能力の意義だ。相手を傷つけるというよりは、相手を傷つけると見せかけて、自らが傷ついて、それによって国民を守ることが主眼だ。これを間違えてはならない。
 敵基地攻撃能力があると、敵にとっては、日本のミサイルが最大限の攻撃目標となる。ゆえに、敵ミサイルがそこにどんどん引き寄せられてくるのだ。ちょうど、夜の蛾を引き寄せる誘蛾灯のように。
 しかも、そのコストは、ミサイル防衛網(イージスシステム)に比べて、格安である。そのことで、防衛費を抑制する効果もある。

 なお、「敵基地攻撃能力は専守防衛に反するから、けしからん」というような主張(朝日新聞がしばしば掲載する)に従えば、敵基地攻撃能力にかわって、ミサイル防衛網(イージスシステム)を配備することになる。それならば専守防衛になるからだ。しかし、そんなことをすれば、「莫大な金をかけて、効果はろくにない」という巨額の浪費をすることになる。2兆円をドブに捨てることになる。
 軍事知識が欠落していると、高い理想をめざしたあげく、現実には足で踏みはずして転んでしまうのである。愚の骨頂。

 ※ ちなみに、朝日新聞の社説は「専守防衛」の墨守を主張するが、その理由は何も述べていない。軍事的に効果があるというような論拠は何も示していない。単に「従来の方針だから転じてはいけない」という守旧主義で唱えるだけだ。これはまあ、専守防衛には何の論拠もないことを、自分でも認めているに等しいだろう。
  → (社説)「敵基地攻撃」合意へ 専守防衛の空洞化は許せぬ:朝日新聞

 ※ 「攻撃は最大の防御」という言葉もある。敵が銃を向けてきたときには、その銃を持つ手を攻撃することが、最大の防御なのだ。 一方、銃弾が発射されたあとで、その銃弾をつかむためには、スーパーマンになることが必要だ。( → 別項





 ウクライナにパトリオット


 ウクライナは「ミサイル防衛網でうまく対処できる」と言っている。というのは、本日記事によると、米国がウクライナにパトリオットを1基だけ供与して、これに大喜びしているからだ。
 ウクライナのゼレンスキー大統領が21日、米ワシントンを訪問し、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談した。
 首脳会談に先立ち、米国政府はこの日、高性能の地対空ミサイル「パトリオット」1基を含む18億5千万ドル(2450億円)の追加軍事支援を発表した。
 パトリオットは米軍が持つ最高の防空システムとされ、巡航ミサイルや弾道ミサイル、航空機やドローン(無人機)を迎撃できる。従来の防空システムより射程が長く、高高度の攻撃に対応でき、ウクライナの重要インフラを狙ったロシアの攻撃への対抗手段として期待されている。
 ゼレンスキー氏は、米国の追加支援について「良いニュースを持ち帰れる」と語り、感謝を述べた。特にパトリオットについては「我々の防衛力を大きく強化し、安全な空域をつくるために重要だ。テロ国家とそのテロ攻撃による我々のエネルギー部門、国民、インフラへの攻撃を阻止できる唯一の方法だ」と高く評価した。
( → 米ウクライナ首脳会談、侵攻後初 バイデン氏「必要な限り、尽力」 ゼレンスキー氏「良いニュース」:朝日新聞

 ゼレンスキー大統領はパトリオットを「攻撃を阻止できる唯一の方法だ」と高く評価している。だが、これは誤りだ。

 (1) ウクライナはすでに、(パトリオットなしで)ロシアのミサイルを撃墜している、と公表している。(ロシア製の防空ミサイルがある。)
 ウクライナ軍司令官は、重要インフラに向けて発射された76発のミサイルのうち60発を防空ミサイルで撃墜したと述べた。
( → ウクライナ各地にミサイル、少なくとも3人死亡 全国で緊急停電 | ロイター

 ドイツ製の対空戦車もある。
 ドイツからウクライナに供与されたゲパルト対空戦車が撃墜戦果を上げました。実戦でゲパルトの迎撃戦闘の様子がはっきりと分かる形で撮影されたのはこの映像が史上初になります。1965年に開発開始して1973年に配備開始された50年前の設計の兵器が遂に初めて戦場で活躍しています。
( → ゲパルト対空戦車がウクライナで撃墜戦果(JSF)

 (2) パトリオットミサイルはあまりにも高価であり、そんなもので敵の安価なミサイルを撃墜しても、意味がない。1億円のミサイルを撃墜するために、5億円の迎撃ミサイルを命中させるのでは、やればやるほど損してしまう。

 (3) 相手兵器がミサイルでなく、安価なドローンであることもある。その場合には、5000万円以下のものを5億円の迎撃ミサイルで撃墜することになり、ますます損する度合いがひどい。迎撃ミサイルを使えば使うほど、大損してしまう。ナンセンスだ。
 ※ 5000万円以下と述べたが、500万円程度であるようだ。コメント欄を参照。

 ※ ドローンというのは、よくあるローター式のもの(玩具みたいなもの)ではなく、下記のようなもの(飛行機型のもの)だ。




 ──

 というわけで、ウクライナがパトリオットのような迎撃ミサイルを使うのは、愚の骨頂なのである。むしろ、どちらかと言えば、中長距離ミサイルを使って、ロシアの軍事施設をミサイルで破壊するべきだ。ロシアの都市を攻撃するのは問題があるとしても、ロシアの軍事施設を攻撃するのは何ら問題がない。それこそ(敵都市でなく)敵基地攻撃能力だ。
 そして、ウクライナがそのような能力をもてば、ロシアとしては、ウクライナのミサイル基地こそが、最大の攻撃目標となる。それゆえ、ロシアのミサイルを(誘蛾灯のように)引きつけることができるから、パトリオットのような高額なミサイルを配備する必要はなくなるのだ。
 これこそが賢明な方針だと言える。(金をドブに捨てる愚行の逆だ。)

posted by 管理人 at 23:17 | Comment(2) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今朝の新聞にはイラン製のドローンはパトリオット一基の100分の1くらいの値段だと書いてあります。500万円位でしょうか。
Posted by よく見ています at 2022年12月23日 09:24
> 米戦略国際問題研究所(CSIS)の専門家は、パトリオットの迎撃ミサイル1発の値段はロシアが使うイラン製ドローン1機の100倍すると指摘。ドローンに使うのは現実的ではないとの見方を示す。
 → https://digital.asahi.com/articles/ASQDQ75MVQDQUHBI02Z.html
Posted by 管理人 at 2022年12月23日 10:47
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