2022年12月17日

◆ 酪農の問題には放牧で

 酪農家が飼料価格高騰で困っている。では、どうすればいいか? 放牧という方法がある。

 ──

 酪農家が飼料価格高騰で困っているそうだ。
 酪農家が窮地に立たされている。ウクライナ情勢や円安の影響で牛の飼料価格の高騰に拍車がかかっているためだ。
 業界からは「大量離農」の可能性もささやかれる。生乳の生産量が大幅に減り、いずれ牛乳の価格が高騰する恐れがある。
( → 窮地の酪農家、音声で苦境配信 エサ代高騰「大量離農ある」:朝日新聞

 これで将来は牛乳がなくなる、と騒いでいる。
 配合飼料の原料の9割ほどが輸入だ。農林水産省の資料によると、9月の配合飼料価格(全畜種加重平均)は1トンあたり約10万円で、2年前の5割増で高止まり状態。輸入牧草の価格も高騰している。酪農家の場合、コストの4割前後は飼料代とされ打撃は大きい。
 東大大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)の話  酪農は危機的状況にある。搾れば搾るほど赤字がかさみ、年内もつかどうかわからない酪農家がものすごい数になる。このままでは、相当な数がやめてしまい、牛乳が飲めなくなる状況が近づいてくる。

 しかし、市場原理に従うなら、供給が減れば、市場価格は上昇して、うまく均衡するはずだ。現状で、牛乳の市場価格が低くて、酪農家が赤字になるというのであれば、供給が過剰であることになる。ならば、供給はありあまっているのであって、少しぐらい酪農家が減っても大丈夫だろう。「牛乳がなくなる」などと騒ぐ必要はないはずだ。
 上の最後の話で、「相当な数がやめてしまい」というのは妥当だろうが、そこから得られる結論は「乳価が上がる」ということであって、「牛乳が飲めなくなる」などということではないはずだ。仮に牛乳の生産が必要量の1割減になるとしても、それで飲めなくなる分は、1割だけであって、残りの9割は確保されていることになる。「全部が飲めなくなる」というような危機状態になるはずがないのだ。「ちょっと飲み足りなくなる」というふうになるだけだ。
 さらに言えば、牛乳なんてものは、いくらでも輸入可能なのである。LL牛乳や脱脂粉乳の形にすれば、いくらでも輸入できる。大騒ぎするようなことは必要ないのだ。上の専門家の話は、やたらと危機を煽って、人騒がせなだけだ。

 そもそも、牛乳の生産量はピーク時から2割弱ぐらい減りつつある。
  → 直近年では731.4万トン…日本国内の生乳生産量の推移

 だが、これは別に、困ったことではない。日本の 64際以下の人口は、同程度、減っているからだ。
  → 我が国の人口について(厚生労働省)
 
 (高齢者以外の)人口が減って、同程度、牛乳の生産量が減ったとしても、それは自然なことであって、別に、騒ぐほどのことではないのだ。今後も、人口と牛乳生産量は、ともに減り続けるだろうが、それにともなって酪農家も退出していけばいいだけだ。こういうことはあくまで自然な流れなので、いちいち騒ぐほどのことではないのだ。




 ただし、それとは別に、日本の酪農経営の問題点を指摘しておこう。次の問題がある。
 「日本の乳価は、ニュージーランドの3倍、欧州の2倍ぐらいで、非常に高価である」

 朝日の記事では、「酪農家が困っているなら、政府は多額の金を出して援助せよ」というふうに結論している。しかし、日本の酪農家はもともと他国の何倍もの金をもらっているのだ。ここでさらに政府から金を援助してもらおうというのは、筋違いだ。

 ではなぜ、日本の乳価は馬鹿高いのに、酪農家は儲からないのか? それは、高コストな酪農経営をしているからだ。コストに占める飼料価格が馬鹿高いので、どうしても高コストになってしまうのだ。

 では、外国ではどうしているか? 飼料価格をゼロ同然で済ませている。かわりに、牧草を食べさせている。つまり、次の差だ。
  ・ 日本 …… 牛舎で飼育して、飼料を食べさせる (高コスト)
  ・ 外国 …… 牧場で放牧して、牧草を食べさせる (低コスト)

 これではまったく勝負にならない。日本式が儲からないのは当然だ。

 では、どうすればいいか? そこで、困ったときの Openブログ……と言いたいところだが、私が言うまでもなく、すでに解決策は示されている。こうだ。
 「日本でも放牧をすればいい」

 具体的な例は、下記で紹介されている。
  → 「放牧」は低コストな酪農システム ポイントは「収入」より「支出」
  → “儲かる酪農は丸森町に倣え” 売上3000万円を支える生産者の結束力と地域一体の取り組み

 とはいえ、現状では、放牧をしている酪農家は、多数派ではない。
  → 放牧状況の調査(農水省)
 放牧をしている酪農家の多くが北海道や九州であることを考えると、本州では放牧をしている酪農家はかなり少ないと言えるだろう。
 そこで、本州でももっと放牧をするように推進するといいだろう。これが本サイトの結論となる。

 なお、放牧をする場所は、次のような場所だ。
 「穀物生産には適さない、起伏のある土地」
 典型的な例は、阿蘇の放牧地だ。起伏のある広大な土地があるとわかる。
  → https://x.gd/mLLvj ( Google 画像一覧 )

 阿蘇の場合には、起伏はあるが、山面のような傾斜地はない。その意味では、恵まれた土地だと言える。
 一方、そこそこの傾斜地も利用可能ではある。牛は傾斜地で過ごすこともできるからだ。もちろん放牧することも可能だ。その意味では、かなりの中山間地域も利用可能だろう。これだと、本州のかなりの面積が利用可能となりそうだ。

 ただ、日本という国は、本州のとんでもない田舎の小さな盆地にさえ、人家がかなりたくさん乱立している。「こんなド田舎にどうして人家がいっぱいあるんだ」と思うようなところにまで、人家がたくさんある。水田があると、そこには人が住み着いてしまうようだ。
 その意味では、「広大な放牧地に牛を放牧させる」というようなことは、日本では難しいかもしれない。
 その一方で、耕作放棄地はかなり多くの面積がある。こうした耕作放棄地(特に傾斜地)でなら、放牧も可能だろう。

( ※ とはいえ、どうせ耕作放棄地を使うのなら、太陽光発電の方がずっと高収益で、社会的にも有益なんだけどね。)



 【 関連サイト 】

 放牧をするならば、牧草が重要となる。その話。
  → 【放牧農家必見】牧草おすすめ3選!(種類、選び方から管理方法まで解説)



 【 関連動画 】










 【 関連項目 】

 前にも似た話を記したことがある。
  → 日本の牛乳はなぜ高い?: Open ブログ

 日本でも放牧をするべきなのだが、放牧が進まないことには理由がある。それは飼料購買の利権だ……という話。
 
posted by 管理人 at 21:15 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
乳牛の放牧は搾乳の問題があり難しそう。肉牛の場合、牛は穀物飼料に比べ低カロリーな草をたべて運動もするので、肉質がC1級にしかならず、安くしか売れない。需要も少ない。
それでも放牧で頑張っている農家を「ポツンと一軒家」で紹介していた。以下がそのurl
https://kakaku.com/tv/channel=10/programID=86907/episodeID=1607707/
これを見るとビジネスで放牧に取り組む難しさがわかる。
Posted by ダイナミックDNS at 2022年12月18日 12:06
 放牧といっても、音楽を流せば、夕方には牛舎に帰ってくるので、特に問題はなさそうです。ニュージーランドではちゃんと放牧を成功させているんだし。

 肉牛はまた別の話。乳牛のオスが飼料で飼育されているが、これは乳牛ではないので、乳価には影響しない。
 本項はあくまで乳価と乳牛の話です。肉牛は対象外。

> 「ポツンと一軒家」で紹介していた

 それがうまく行かないのは、肉牛を放牧で育てているから。肉牛を放牧で育てるのは、やりすぎだ。そんなことは、日本ではお薦めしていません。(よほどの大規模でないと無理だ。)

Posted by 管理人 at 2022年12月18日 12:41
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