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この問題は、需要の側で「電力が足りない」と騒ぐだけでなく、供給の側で「供給不足だ」とも理解するべきだ。
電力が供給不足だ、という点については、前に述べたことがある。
電力小売りの自由化で経営に余裕のなくなった大手電力が、運転にコストがかかる古い火力発電所を、相次ぎ休廃止していることも要因だ。経産省によると、この5年で廃止された石油火力は原発10基分(約1千万キロワット)になる。(朝日新聞)
古い火力発電所を運転すると、コストがかかる。だから古い発電所を廃棄して、新しい火力発電所に置き換えればいい。……そういう発想で、古い発電所をどんどん廃棄していったら、需要過大のときには供給が足りなくなってしまった、というわけだ。
いかにも馬鹿丸出しだが、こういう失敗を、えてして人はなしがちである。
( → 電力自由化で電力不足?: Open ブログ )
こういう状況がある。
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そのあとどうなったか? 電力新市場で、電力の市場価格が高騰したせいで、新電力の会社が次々と倒産・撤退しているそうだ。
→ 東北電力と東京瓦斯が共同出資した新電力会社シナジアパワーが破産
→ 電力小売事業の2割が継続断念 「撤退」は半年で倍増 急速に販売価格転嫁進むも薄氷の利益水準
電力の安定を狙って、電力新市場を創設したが、ウクライナ戦争による原油価格高騰の影響などもあって、市場の電力価格が高騰した。そのせいで、新電力の会社は赤字に耐えきれず、次々と撤退していく。電力新市場が、電力の安定に役立つどころか、かえって電力の安定を阻害するような効果(逆効果)が生じている。
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では、どうしてこうなったか? 電力新市場を創設したこと自体が問題だったのか? 違う。制度を逆用しようとする悪党がのさばることが理由だ。
その根源は「利益相反」だ。電力の売り手と買い手が、どちらも同じ会社となっている。そのせいで、電力の供給を絞ることで、価格を高騰させて、新電力の会社に高値で購入させる。つまり、価格操作だ。原理的には、独禁法違反の市場操作と同様だ。これによって、新電力の会社が大損した分、大手電力会社は不当利益を得ることができる。そういう仕組みになっているのだ。
そして、この問題を解決するには、「電力の売り手と買い手が、どちらも同じ会社となっている」という不当な体制を排除すればいい。それを「発送電の分離」という。つまり、電力の供給側(発電会社)と、電力の需要側(配電会社)とを、分離することだ。ところが、それを実現すると、大手電力会社は不当なボロ儲けができなくなる。だから、何としても、政府による「発送電の分離」の命令を阻止したい。そこで、自民党に工作して、「発送電の分離」の命令を阻止した。
その結果、電力の価格高騰が起こった。と同時に、冬の電力不足も起こることになった。そして、その尻拭いのために、節電ポイントを導入したり、電気料金の補助金を導入したりした。その金をもらった一般国民は、「金をもらえて嬉しい」と大喜び。しかしその金は、もともと自分たちの金だったのである。自分で自分に金を与えて、「金をもらった」とお大喜び。だが、その背後では、不当利益をむさぼった大手電力会社が、腹を抱えて大笑いしているのだ。
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この構造については、前にも説明したことがある。
現在の制度では、「電力需給逼迫で東電や関電がボロ儲けする」(市場価格高騰で暴利を得る)というふうになっている。電力需給逼迫 → 電力市場の価格が高騰する → 新電力会社は市場から買い取る電力価格が上昇して、大損する → その分、市場で電力を売る東電や関電はボロ儲けする
という仕組みだ。
要するに、「電力需給逼迫の対策をサボればサボるほど、いざというときには電力市場価格が暴騰して、東電や関電はタナボタでボロ儲けする」という仕組みがあるのだ。ここに根源的な問題がある。
→ 冬の電力需給が逼迫: Open ブログ
そして、それを改善するには、「発送電の分離」が必要だ。電力の市場価格が高騰すると、発電会社は暴利を得るが、送電会社はいくらか損をする。利益の相反がある。そこで、双方を分離すると、少なくとも送電会社の方は、電力の市場価格が高騰しなくなるように、努力をする。それは「需給調整契約の整備」である。これによって、需要を1〜2割程度は減少させることができるので、市場価格の高騰を防げる。
→ 電力安定供給には発送電分離: Open ブログ
ただし、現実には、それができていない。「発送電の分離」がなされていないからである。実は、名目的には「発送電の分離」はなされている。それぞれが別会社だからである。とはいえ、実質的には「発送電の分離」はなされていない。その別会社(発電会社と送電会社)というのが、いずれも東電の子会社であるからだ。これでは実質的にはどちらも東電であることには変わらない。まるで警察と泥棒が一体化されているようなものだ。
こういう滅茶苦茶な状況であることが、電力逼迫の根源であるわけだ。
( → 電力の不足への対策 )
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「発送電の分離」は、根源対策だが、今すぐ実施することは難しい。今すぐ実施する対策(電力不足への対策)は、何かないか? ある。それは、「需給調整契約」だ。
超短期的には、数時間程度の時間帯で節電する、という方法がある。それも、大規模な節電だ。それは「需給調整契約」というやつだ。つまり、電力が逼迫したときに、契約企業の電力使用を削減してもらうことだ。(通常、工場の生産停止を意味する。数時間の限定で。)
( → 電力の需給逼迫の解決策: Open ブログ )
実は、この制度はすでにある。だから、本来ならば、この制度のおかげで、電力不足などは起こるはずがないのだ。仮に電力不足が起こるとすれば、そのときには、契約した需要家が工場の停止などで、電力使用を止めてくれるからだ。かくて、電力不足は一挙に解決。めでたしめでたし。
ところが、実際には、そうならない。なぜか? 電力不足が解決すると、価格の異常高騰がなくなる。そうすると、大手電力会社は「濡れ手で粟」のボロ儲けができなくなる。だから、あえて「需給調整契約」の契約をサボって、意図的に電力不足を起こしているのだ。(ボロ儲けするために。)
ここで謎が生じる。
「需給調整契約がまともに機能していれば、電力市場の市場価格高騰などは起こらないはずだ。なぜなら、電力市場で超高価格の電力を購入するよりは、需給調整契約で企業に需要削減してもらうコストの方が、ずっと安上がりだからだ」
市場価格は 30倍にも高騰する。つまり、理屈の上ではありえないはずのことが実際には生じている。これは謎だ。どうしてこういうことが起こるのか?
たぶん、理由はこうだ。
需給調整契約には、利益相反がある。なぜなら、市場価格が高騰した方が、東京電量は儲かるからだ。需給逼迫が起こったとき、新電力や九州電力は、市場で電力を購入する必要があるので、損をする。一方、東京電量は(まだ余裕があるので)市場で電力を売却できる。とすれば、市場価格が高騰すればするほど、東京電量は(高値で売って)ボロ儲けできるのだ。東京電力は、需給調整契約を発動することで、需要を減らして、市場価格を下げることができる。しかし、市場価格が下がったら、東京電力はボロ儲けの機会をなくす。それはまずい。だから、需給調整契約を発動することはできても、発動しないのだ。
( → 電力の需給逼迫の解決策: Open ブログ )
電力不足を解決する方法はある。だが、発電会社と配電会社が同じであると、電力不足は解決しない方がボロ儲けできてしまう。だから意図的に電力不足を起こす。古い発電所を次々と廃止することで。
電力不足は、たまたま起こったのではなく、あえて意図的に起こしたものだ。そして、人々が苦しんでいる背後では、大手電力会社が「新電力市場でボロ儲けできた」と大喜びしているのである。
そのあと、タコが自分の足を食うようにして、国民は自分の金によって「節電ポイント」をもらう。そして「儲かった、儲かった」と大喜びするわけだ。

【 関連項目 】
→ 電力の不足への対策: Open ブログ
他に、文中でリンクしたいくつかの項目にも、関連情報があります。