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迎撃ミサイル
迎撃ミサイルについて政府が正しく認識するようになった。飽和攻撃や、不規則軌道のミサイルに対して、迎撃ミサイルは無効になる、という認識。
実務者協議の出席者によると、政府側から現状のミサイル迎撃体制では、変則軌道のミサイルや一度に多数発射する「飽和攻撃」などを防ぐのは困難という説明を改めて受けた。
( → 敵基地攻撃能力の保有を自公が実質合意 日本の防衛政策、大きな転換:朝日新聞 )
政府がこのような認識をするというのは初耳だったので、新聞検索をしてみたところ、次の記事が見つかった。(2022年6月5日)
北朝鮮が5日朝、複数の弾道ミサイルを発射したことを受け、岸信夫防衛相は同日、記者団に対して、少なくとも6発の弾道ミサイルを三つの地域から発射したと発表した。岸氏は「短時間で3カ所以上から極めて多い発数の発射は異例。断固として許容できない」と話した。
岸氏は「過去の事例を踏まえれば、(同時に多数発射する)飽和攻撃などに必要な連続発射能力の向上といった狙いがある可能性がある」と話した。
( → 岸防衛相「短時間で3カ所以上からの発射は異例」 北朝鮮ミサイル:朝日新聞 )
さらに古くは、朝日野解説記事が見つかる。
Q でも、本当に高速で飛んでくるミサイルを撃ち落とせるの?
A ある政府関係者は「真剣白羽取り」にたとえていて、すべて受け止めることは難しいと話しています。さらに、一斉に大量のミサイルが発射される「飽和攻撃」や、変則的な軌道を描くミサイルの攻撃を受けた場合、撃ち落とすのはさらに難しくなると言われています。
Q だから、敵基地攻撃能力を持とうということになっているんだね。
( → 自民党が提言する「反撃能力」とは何か 必要な装備は?攻撃対象は?:朝日新聞 )
「真剣白羽取り」(正しくは白刃)と誤記するのはご愛敬だが、このあたりは本項で記した比喩と同じだ。
→ 敵基地攻撃能力の是非: Open ブログ
→ 反撃能力(敵基地攻撃能力) .2: Open ブログ
ともあれ、変則起動ミサイルや飽和攻撃に対して、迎撃ミサイルが無効だ……という本サイトの長年の主張を、政府もようやく理解するようになったのは、慶賀するべきことだ。
ちなみに、本サイトが飽和攻撃の話をしたのは、2012年のことだ。
軍事的には、迎撃ミサイルは最初から無意味である。それは「飽和攻撃」という概念で説明される。
( → 迎撃ミサイルは有効か?: Open ブログ )
ここで説明されているように、「迎撃ミサイルを配備しても無駄だ。そのことは飽和攻撃という概念でわかる」と、2012年の時点で指摘している。
そのことをようやく、政府も理解するようになったらしい。本サイトから 10年も遅れているが。それでも、理解するようになったのは、慶賀するべきことだ。
防衛費拡大
迎撃ミサイルは無効だと判明したのだから、迎撃ミサイルを配備するのはやめることになるはずだ……と考えるのが常識的判断だろう。
ところが岸田首相は、「防衛費拡大」(5割増)という方針の下で、迎撃ミサイルを配備するのを実行するつもりでいる。
2023〜27年度の5年間の防衛費が総額約43兆円にふくらむ。岸田文雄首相が防衛省の主張に寄った裁定を下した。現在の1.5倍超に増える予算を何に使うのか。
防衛省は当初、48兆円を要求し、財務省は30兆円台前半を主張。12月に入り40兆〜43兆円の幅で調整が続いていたが、自民党の後押しで43兆円で決着した。首相周辺は「首相の政治決断だった」と語り、防衛省に軍配を上げたと明かす。
「予算増の号令に乗って、事業を詰め込んだ」(財務省関係者)と政府内で疑問符がつくものも含まれている。
「総合ミサイル防空能力」は、陸海空のあらゆる兵器を連携させてミサイル攻撃を防ぐもので、防衛省は米国と連携して「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」との計画を掲げる。海上自衛隊のイージス艦8隻に加えて、「イージス・システム搭載艦」2隻の建造も予定する。政府が20年に配備を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム(イージス・アショア)に代わるものだが、2隻で計1兆円との試算もあり、防衛省内にさえ「費用が膨らみすぎ」との声がある。
( → 規模ありきの防衛費43兆円、細目の説明なく「膨らみすぎ」との声も:朝日新聞 )
「イージス・システム搭載艦を建造して、2隻で計1兆円」とのことだ。つまり、「無効だ」とわかっているものを、あえて配備するわけだ。1兆円もかけて。
まったくもって、頭がおかしい。これではまるで、詐欺に引っかかっているとわかっていて、あえて詐欺師に金を差し出すようなものだ。ちょうど、統一教会の信者みたいに。

飽和攻撃によって迎撃ミサイルは無効になる、という事実を認識できるようになったのは偉いが、そう認識しながら、その無効なものをあえて配備するというのは、頭がイカレているとしか思えない。
「 飽和攻撃によって迎撃ミサイルは無効になるので → 敵基地攻撃能力が必要です」
と認識するのは、妥当である。しかし、
「 飽和攻撃によって迎撃ミサイルは無効になるが → 迎撃ミサイルを配備します」
と判断するのは、狂気の沙汰だ。日本の防衛省と政府は、狂人だらけであることになる。呆れる。(自己矛盾というか、二枚舌というか。……)
[ 付記 ]
岸田首相の「防衛費拡大」という方針について、コメントしておこう。
防衛費の拡大の理由は、
「ロシアが戦争を仕掛けたりして、戦争の危機が高まったから、防衛費を高めよう」
という発想だろう。その発想は、わからなくもない。
しかしこれが現実に効果を持つかというと、疑問符が付く。なぜなら、現在、ロシアの国力は大幅に衰えているし、軍備力も大幅に消耗しているからだ。
半年ぐらいして、ロシアが兵器を使い果たして、ウクライナ戦争が終わったなら、そのときには、こうなる。
・ ロシアは兵器を使い尽くした
・ 日本は兵器を大幅に増加
こうなると、兵器を拡充しても、まったくの無駄となる。ありもしない仮想敵国と戦うために、過剰な軍備を大幅に備えることになる。
これではまるで、ありもしない怪物に向かって突進する、ドン・キホーテだ。(風車を怪物と見間違える。)
風車に向かうドン・キホーテ

出典:Wikipedia
※ 倒錯的という点では、イージス艦の配備と似ている。
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どうせやるなら、ロシア軍の弱体化を図るために、今すぐウクライナに兵器を贈ることだろう。そうしてロシア軍を壊滅させれば、あとあとになってロシアに対抗する軍備を大幅増にする必要もない。
ロシアが強くなったあとで、ロシアに対抗して数十兆円を積み上げるというのは、無駄なことだ。それより今すぐ、ロシア軍をたたくべきだ。弱り目に祟り目、というふうに。
そのためには、今すぐウクライナに軍備を贈ればいい。ウクライナはそれを求めている。また欧米諸国も軍備を贈っている。ならば日本も軍備を贈るべきなのだ。そうしてロシア軍を壊滅させるべきなのだ。そうすれば、あとになって何十兆円もかけずに済むのだ。(戦争の危機がなくなるので。)
※ なのに、ウクライナ戦争のときに、やるべきこともやらないで、これを利用して軍備の大幅増を狙うというのは、火事場泥棒みたいなものだ。他国の不幸を利用して、自分だけが我利を得ようとするからだ。(あるいは、焼け太りみたいなものか。どっちにしても、せこすぎる。)
【 関連サイト 】
→ ロシアはあとどれだけ戦えるのか? ロシア軍東部軍管区における予備保管装備の衛星画像分析|ユーリィ・イズムィコ
→ ロシア軍事侵攻「この冬の戦闘は激化する」専門家の最新分析 | NHK
> 今すぐロシアに兵器を送ることだろう。
送り先は「ウクライナ」ですよね?
※ 「送る」も「贈る」にしました。
の次に来るリンク(本サイト内の参考記事)のリンクが誤っていたので、修正しました。