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出典:農林水産省
朝日新聞が報じている。
昨年6月に施行された改正食品衛生法で、漬物の製造販売が許可制になり、衛生的な製造施設などの整備が求められるようになった。経過措置が終わる2024年6月の完全実施まで約1年半。自家製の漬物を販売してきた農家の中には、改正法への対応を断念して廃業する人も出てきている。
保存食である漬物はこれまで、多くの都道府県で条例に基づく届け出をすれば販売できた。これに対し、改正法では工場などの衛生的な施設を備えていることを要件とする「営業許可制」に変わった。
( → いぶりがっこ生産農家3割「撤退」も 法改正で伝統的漬物が危機:朝日新聞 )
ここは秋田特産の漬物「いぶりがっこ」の名産地の一つ。煙でいぶした大根をぬかに漬けた保存食だ。雪のため屋外に干せない大根を家のいろりの上に干したのが始まりと言われる。冬になると外部との交通が閉ざされる集落で、食料を確保するための知恵だった。
この集落では、広子さんを含む約100戸の農家が畑で取れた大根を数日間いぶし、それをぬかに数カ月漬けて「我が家の味」に仕立てる。
昨年施行された改正法で、漬物の製造販売に許可が必要になった。漬物を作る農家は、手で蛇口に触れない水道を設けるなど衛生的な施設の整備が求められた。また、国際的な衛生管理の手法であるHACCP(ハサップ)に沿って衛生管理の実施状況を日々記録し、保存する必要がある。
( → 規制強化、揺れる漬物文化 いぶりがっこ、相次ぐ「撤退」:朝日新聞 )
たかが農家の漬物に、どうして HACCP(ハサップ)という高度な衛生設備を要求するようになったか? それは、かつて浅漬けの食中毒があったので、規制強化をする方針が取られたからだ。かくて、専門の衛生施設を建設義務化することになった。
では、それは必要な規制だったか? いや、必要性はなかった。浅漬けは塩分濃度が低いので雑菌が繁殖するが、いぶりがっこは塩分濃度が高いので雑菌は繁殖しない。だから、漬物の規制は何も必要なかったのだ。何もしなくてよかったのである。規制されるべきは浅漬けであって、漬物ではないからだ。
ところが、ここで行政の都合が出てくる。
「ターゲットは浅漬けだった」。当時の厚生労働省幹部は話す。
なぜ漬物全般が対象になったのだろうか。
厚労省の法改正当時の担当者は、塩で漬ける期間や塩分濃度といった点で「浅漬けと浅漬け以外を区別するか線引きが難しい」と明かす。
検討会の委員だった食品コンサルタント会社の加藤光夫社長は「浅漬けは通常の漬物とは違う。議論の中でもそう主張した」と振り返る。
( → 浅漬けが招いた8人死亡食中毒 規制強化、揺れる漬物文化:朝日新聞 )
「浅漬けは通常の漬物とは違う」という指摘が出たのに、厚労省はそれを無視した。「薄い塩味と濃い塩味とは全然違う」ということなのだが、「その区別がしにくい」ということで、一律禁止にすることにした。
要するに、「私は馬鹿だから区別が付きません。私には区別が付かないので、一律に禁止します。一律に禁止すれば、食中毒は起こらないので、厚労省はお咎めを受けないで済みますからね」という役人根性だ。保身主義とも言える。
呆れる。役人の無能と保身主義のせいで、一国の漬物産業のうち、小規模業者は全廃の危機にあるわけだ。メチャクチャである。
この件の原理を言うと、「とばっちり」と言える。どこかで誰かが、ずさんな違法行為をする。そこで、それに合わせて、過剰な規制強化がなされる。その際、政府が無能なせいで、ちょうどぴったりな規制にはならず、やたらと過剰な規制となる。そのせいで、当の規制対象とは関係のない、単に隣接しているだけの関連業界がとばっちりを受ける。……こういう例は、他にもありそうだ。
役人がアホだと、国民が被害を受ける。せめて自民党が、関連業界の陳情を受けて、馬鹿げた規制を緩和するようにできればいいのだが。
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江戸の敵を 長崎で討つ。
役人の無能を 産業の廃止で補う。
いぶりがっこは、いびりっこ される。
[ 付記 ]
この件は、朝日の特報であるようだ。十分に報道価値のある調査報道だ。こういう丹念が報道は、新聞がなくなると、消えてしまうかもしれない。そのせいで社会は悪化しそうだ。
インターネットが普及すると、有料のニュースは減ってしまうので、社会の問題点を指摘するマスコミも減ってしまいそうだ。代わりにゴミみたいなツイッター上のフェイクニュースが増えることになる。真実は減り、嘘は増える。それがネット時代の情報体制だ。素晴らしき暗黒社会。
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体裁だけ繕ったように見せかけたけれども、中身は未だグダグダです。でも世間の興味関心が薄れたので以後は放置です。
たぶん、いくらでもあるんでしょうね。こういうこと。