2022年12月10日

◆ 核の冬で全員餓死?

 核戦争が起こると、核の冬による気象異常で、日本人のほぼ全員が餓死するだろう……という試算が出た。

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 朝日新聞の記事から。
 核戦争後に起きるとされる「核の冬」による食料不足で、最悪の場合、世界で50億人以上が餓死する可能性があるとする試算を、米国などの研究チームが発表した。核爆発による直接の被害を避けられても、その後の気候変動による影響は地球規模に及び、人類は壊滅的な打撃を受けるという。
 食料自給率の低い日本への影響は特に深刻だと警告している。
 国際取引が止まれば2年後に人口の約6割にあたる7千万人が餓死するという。食料自給率の高い国では、この条件では餓死者が出ない国も多く、日本だけで世界全体の約3割を占めることになる。
 さらに、米ロ戦が起きた場合は、日本の人口のほぼすべてが餓死するという結果だ。
( → 核戦争後の「核の冬」 食料不足で世界の50億人犠牲、日本では…:朝日新聞デジタル

 「家畜用飼料を流用すれば大丈夫だろ」という気もしたが、そうではないそうだ。
 食料の輸出入が続けば餓死者は減るが、各国で家畜用飼料を流用したり、生ゴミが出ない状態まで食物を有効活用したりしても、犠牲者の数は大きくは変わらなかった。

 よく考えれば、その通り。日本の家畜用飼料は、もともと国産ではなく海外に依存している。「国際取引が止まれば」という前提で試算すれば、どっちみち(海外産の)家畜用飼料を流用することはできない。だから、家畜用飼料を流用しても結果は変わらない。国内自給だけが重要だ。

 では、自給率の低い日本ではみんな死ぬしかないのか? いや、実際には、サツマイモを育てる、という手がある。米や麦も、休耕田や耕作放棄地で新たに耕作すれば、自給率を高めることはできる。現在の自給率がそのまま将来の自給率になるわけではない。日本では野菜の生産は十分になされているから、野菜を穀類に変えるだけで、カロリー面では十分に間に合いそうだ。(備蓄もあるし。)

 ──

 だが、そういう話は、二の次だ。この記事で一番大事なことは、次のことだ。
 「核戦争が起こることが前提となっているのに、核戦争で死ぬことはありえない、という想定になっている」

 現実には、そんなことはない。核戦争になったら、人々は餓死する前に、核爆発そのものによって死ぬ。広島原爆は 14万人ぐらいが年内に死んだ。現在の核兵器は、広島型原爆に換算して、50万個分だ。
(総量が 7000メガトン。 → https://x.gd/3aRCy 。広島型原爆に換算するのは → https://x.gd/kO1uk )
 14万人×50万=700億 なので、地球の総人口 80億人を9回絶滅させるだけの爆発量があることになる。

 現実には、都市部の人口が主に死ぬのであって、田舎の人口はかなり生き残るだろう。それでも、米国の人口の9割ぐらいは死ぬはずだ。ちなみに、パレートの法則に従えば、「2割の領域に8割の人口が集積している」はずだから、人口の8割ぐらいは(核戦争の第一撃ぐらいで)あっさりと死んでしまうことになる。

 ちなみに、「オブビリオン」という SF 映画がある。トム・クルーズ主演。核戦争後の、人類がほぼ絶滅して、ごく少数だけが生き残った世界を描く。





 これが「核戦争後」の真実だ。人類は、「核の冬」の異常気象によって餓死するのではなく、その前に核爆発によって死ぬのである。
 なのに米国人は、「核爆弾なんて、ただの大きな爆弾だろ。冷蔵庫に隠れていれば、生き残ることができるさ」と思い込む。




 放射能を遮断する鉛でできた冷蔵庫に入り込んで難を逃れようとするインディ。爆発で冷蔵庫は宙を舞い、落下する。冷蔵庫から外に出たインディは無傷だった。
( → 冷蔵庫に隠れて核爆発から助かるインディ - 「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」の名シーン|映画スクエア

 鉛を使うのは、うまいアイデアのように見える。だが、鉛で阻止できるのは、ガンマ線などの放射線だけだ。中性子線を阻止するには、分厚いコンクリートや水などが必要となる。鉛では足りない。
中性子 …… 鉄や鉛などを突き抜けるほど大きい。厚いコンクリートや水などの水素の多い物質で止まる。
( → 3-1 放射線ってなに?/茨城県

 なお、鉛でできた冷蔵庫など、現実には存在しない。したがって、冷蔵庫に隠れても、たいていの人はみんな死んでしまう。都市部の住民はみんな死んでしまって、農村部にいる人だけが生き残る。

 結局、米国・ロシアの人口の9割が核爆発で死ぬ。欧州と日本も巻き添えを食って半分ぐらいが死ぬ。中国はケース・バイ・ケース。他のアジア・アフリカの諸国は核爆発による死を免れそうだ。世界人口は 80億人から 70億人に減る感じかな。
 その一方で、食料生産は半減ぐらいになるだろう。(農民の数はほとんど変わらないまま、日照量の低下と気温低下が起こるので、標準量に比べて食料生産は半減となる。)
 人口は 70億人で、食料生産は 40億人分。ゆえに、食料はかなり減る。だが、家畜用飼料を流用するとか、野菜生産を穀物生産に切り替えるとか、サツマイモを植えるとか、備蓄を使うとか、さまざまな手立てをすれば、一人あたりでは現在の2割減ぐらいで済みそうだ。そのくらいだったら、痩せることはあっても、餓死するほどのことはないだろう。かえって肥満防止で健康になれるかもしれない。

 ところが、アメリカ人は「核戦争が起こっても、冷蔵庫に隠れていれば生き残れる」と思うので、「アメリカ人は生き残れるが、日本人はみんな餓死する」という試算を立てる。

 そいつは超楽観主義というものだ。甘すぎる。


genbaneko.gif


 話は逆だ。日本人は生き残るとしても、アメリカ人の大部分は核爆発で死ぬんだよ。そもそも、そのために核兵器はあるんだろ。何のために核兵器があるのかを、アメリカ人は考えろ。

posted by 管理人 at 23:00 | Comment(0) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
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