──
トヨタの社長が EV を否定する主張をしている。
火力発電の多い国では、火力発電で炭酸ガスを排出するから、 EV 化を推進しても効果が少ない……という主張。
EVで使用する蓄電池の生産には多くの電力が必要であり、その電力が火力発電由来の場合、生産時にかなりの二酸化炭素を排出する。日本は火力発電の割合が75%と非常に高いため、自動車の電動化だけでは二酸化炭素の排出削減につながらないのです。
( → 「よく誤解されるんですよ」トヨタ自動車・豊田章男社長が明かす“カーボンニュートラルとEV”への本音 | 文春オンライン )
なるほど、ここで述べていることは、理屈としては間違っていない。しかし、そこから得られる結論は、トヨタ社長の期待する「EV化を遅らせること」ではない。では何かというと、「カーボン・プライシング」だ。「製造時の炭酸ガス排出に課税すること」だ。
具体的には、次のことを意味する。
「欧州に比べて、日本では火力発電の比率が高い。ゆえに日本で生産する製品(自動車を含む)には、炭素排出の分、余計に課税する。日本製品には、相応の課税をする」
つまり、「日本から欧州に輸出する自動車には課税する(炭素税をかける)」ということだ。この課税は、欧州で製造される自動車にはかからないのに、日本で製造される自動車にはかかる。その分、日本から輸出する分は損をする。
そして、そのような制度を推進しているということで、トヨタの社長は自分で自分の首を絞めている。
「日本では火力発電の比率が高いんです。だから日本で生産した自動車は好ましくないので、どんどん課税されるべきです。トヨタ車にはどんどん課税しましょう」
と主張しているわけだ。まさしく、自分で自分の首を絞めている。

ちなみに、トヨタは英国における自動車生産から撤退する方針を示唆している。
→ トヨタ、英政府に現地生産の撤退“警告”、HV販売禁止で抑止策
英国内で生産していれば、炭素税の課税を免れるのに、日本から輸出すれば、炭素税の課税をまともに浴びる。そして、その炭素税の課税率をどんどん上げてもらうために、「火力発電所は炭酸ガスをいっぱい出すので、駄目ですよ」と声を上げているわけだ。
とすれば欧州は、「なるほど。よくわかった。では、日本から輸出するトヨタ車には、たっぷりと課税してやろう」と思うだろう。一方、日産は、「うちは英国工場で生産するから、課税を免れるね」と一安心するだろう。
【 追記 】
トヨタは欧州で「 HV 販売禁止」を阻止しようとしているが、それは無理というものだ。今さら止められるはずがない。
それよりは PHV 販売禁止を阻止するべきだ。これは止められる。特に、寒冷地では PHV は有効だからだ。前にも論じたとおり。
→ 寒冷地の EV の炭素排出量: Open ブログ
→ PHV の復権・復活: Open ブログ
PHV は、名前からしても、HV の一種だとも言える。だからトヨタとしては、HV の禁止を止めるより、PHV の禁止を止めるように努めた方がいい。
ただし、PHV に向いている HV は、トヨタ方式の HV ではなく、日産の e-POWER のようなシリーズ式 HV だ。そこがトヨタにとっては頭の痛いところだろう。一方、日産は、自分では PHV を作ろうとしないで、三菱に任せきりだ。「 e-POWER は PHV 化に向いている」と理解できない。頭が悪くて、機会損失をしている。……そういう阿呆だから、EV 化でもテスラに負けてしまったんだけどね。
経営者が、技術のことを理解できない文系の人だと、どうしようもないね。
※ 内田誠社長は、同志社大学神学部卒。豊田章男社長は、慶應義塾大学法学部卒。イーロン・マスクは、経済学と物理学の双方の学士を取っている。( Wikipedia )