2022年12月07日

◆ PK 戦で勝つには (W杯)

 クロアチア戦もそうだが、またしても PK 戦で負けた。どうすれば PK 戦で勝てるか?

 ── 

 日本は W杯で PK 戦になると、負けてばかりだ。これはどうしてか? 

 運か技術か


 「 PK 戦はただの運だ」
 と見なす人もいる。
 日本代表監督を務めたイビチャ・オシムさん(故人)はPK戦が好きではなかった。「くじ引きみたいなもの」と控室に戻ってしまうほどだった。
 「PK戦は運」。サッカー界では定説のように言われる。はたして、そうなのか。
( → 破れぬ関門、無情のPK戦 クロアチア1―1日本 サッカーW杯カタール大会:朝日新聞

 私としては「運だけではない。技術力の差が大きく影響する」と答えよう。その詳細は、以下の通り。

 インサイドキック 1


 日本はインサイドキックを多用した。しかし、インサイドキックとインステップキック(普通のキック)では、ボールの速さで大差が付く。
 実際、日本代表のキックは相手 GK に止められることが多かった。一方、クロアチアのキックは、たとえ方向を読まれても、日本の GK の手の先を越えてゴールに飛び込んだ。なぜか? ボールが圧倒的に速くて、GK は追いつけないからだ。
 要するに、方向を読まれようが読まれまいが、高速シュートをゴールの隅に打ち込めば、相手 GK は原理的に阻止できないのである。それはウサギとカメのような関係であり、カメは決してウサギに追いつけないのだ。のろまな GK は原理的には追いつけるはずがないのである。
 なのに、日本のボールは次々と止められた。なぜか? インサイドキックを多用したからだ。すばやいウサギであることを選択せず、のろまなカメであることを選択したからだ。日本がカメを選択した以上、相手のカメに追いつかれるのは当然なのだ。
 インサイドキックを選んだという時点で、速度で負けていたことになる。

 シュート力


 では、インサイドキックのかわりに、インステップキックで蹴れば、それで足りるか? いや、そうとは言えない。インステップキックで蹴るにしても、威力が不十分ならば、インサイドキックと大差がないからだ。
 実は、このことは、日本選手の弱点でもある。日本選手は、まともなミドルシュートを蹴れる選手が少ない。前にも述べたが、本田と堂安ぐらいしかいない。
 一方、韓国の選手だと、このくらいの強力なミドルシュートを蹴れる選手がたくさんいた。彼らはミドルシュートで得点することが多かった。「ミドルシュートを蹴ることが大切だ」という意識の点で、日本選手とは大差があった。換言すれば、ミドルシュートを蹴る練習や技術取得にも大差があった。

 特に大切なのは、「体を斜めにして蹴る」ということだ。このことについては、先に別項で解説した。
  → W杯・こぼれ話(2022): Open ブログ


douan.jpg
出典:朝日新聞


 なお、レバンドフスキ、ネイマール、エムバペといった名手だと、「上体はきちんと立てたままで、足だけを斜めに傾けて、キックする」というふうにする。堂安は軸足も傾いていて、体制が不安定だが、名手だと、もうちょっと安定した姿勢で蹴ることができる。
 堂安が上図のシュートを蹴ったときは、進むコースを制御しきれなくて、ボールはゴールポストの中央付近に向かっていた。コースミスだ。それでも高速シュートだから、GK の手をはじいて、ボールはゴールに飛び込んだ。
 一方、仮に名手が同じ場面でシュートしたら、ボールはゴールポストの隅に飛び込んだだろう。それというのも、進むコースを制御できるからだ。姿勢が安定していれば、ボールの進むコースも制御できる。
 堂安は、ボールの威力は十分だが、ボールの制御が十分ではない。その双方を身に付けたときに、超一流の座に着けるだろう。
 なお、堂安以外の日本選手は、まともなミドルシュートを蹴けない(足を斜めにしてキックすることができない)ので、堂安に比べるとはるか下の位置にいることになる。だからこそ、PK 戦ではインサイドキックばかりを多用するのだ。
(比喩的に言えば、MT車を運転する技能がないので、AT車の運転をするが、それだと性能が劣るので、レースでは負けてばかりになる……というようなものだ。技量未熟。)

 インサイドキック 2


 インサイドキックには、別の難点もある。コースを読まれやすい、ということだ。
 右足で蹴る場合、インサイドキックは原理的に左方向には強く蹴れるが、右の方向には強く蹴れない。そこで、どちらにも蹴ることができるように、真後ろからボールに近づくのではなく、後ろ左からボールに近づこうとする。これによって、ゴールポストの右側にも、インサイドキックで蹴ることができるようになる。
 しかし、ゴールポストの右側にも、インサイドキックで蹴ることができるとはいえ、その場合には、シュートしたボールの速度は遅くなる。それでは GK に阻止されやすい。だから、実際には、ゴールポストの左側に蹴ることが多い。
 つまり、今回、日本選手がインサイドキックで蹴ると決めた時点で、ボールは左側に向かうことが多くなる、と予想できた。そして、実際、そういうことが多かった。2本目の三笘と、4本目の吉田は、いずれもインサイドキックで左側に蹴ったので、ボールを読まれて、あっさり阻止された。
 1本目の南野は、インサイドキックで右側に蹴ったが、そのときは真後ろから蹴るどころか、あまりにも左側に寄りすぎて進んでいったので、右側を狙っているのが見え見えだった。これも容易に予想が付いたので、GK に察知されて、あっさりと阻止された。

 結局、日本の蹴った4本のうちの3本は阻止された。普通に蹴れば阻止されない(成功率 100% になる)のに比べると、あまりにもひどい成功率(25%)だった。
  → 破れぬ関門、無情のPK戦 クロアチア1―1日本 サッカーW杯カタール大会:朝日新聞

 フェイント


 日本の4本のうち、唯一の成功は、3本目の浅野のキックだった。これはインサイドキックかどうか、わかりにくい。(下図)


asano1.jpg


asano2.jpg


 ただし、背面から撮った画像を見ると、インサイドキックであることが判明する。(足の動きが高速なので、画像は不鮮明だが、インサイドキックであることはわかる。


asano4b.jpg


 なお、静止画では不明だが、浅野がキックする直前に、浅野はちょっと不自然な動きをした。GK の方から見ると、浅野がゴールの左側(GKからみて右側)に蹴ろうとしているような動きがあるのだ。この動きを見て、GK は「こっちに蹴ろうとしているな」と予測して、GK の右手側に飛んだようにも見える。
 もし浅野の不自然な動きが意図的なものだとすれば、浅野はフェイントをかけたことになる。このようなフェイントは、とても有効なものだ。GK を誤誘導するからだ。

 実際にフェイントをかけたのかどうかは、ちょっとはっきりしないのだが、フェイントをかけるというのは、PK では非常に有効な方法となる。そこまで演技のできる人は少ないのだが。

 ちなみに、ブラジルー韓国戦の例がある。
   → https://x.gd/RdSQ6
 ここでは、ブラジルの4点目をシュートした選手が、フェイントっぽいキックをした。足は真後ろから正面に蹴った。だから GK はボールが正面に飛んでくると予想していた。ところが、足は正面に進んだのに、蹴られたボールは左の方に飛んでいったのだ。ほとんど物理法則に反する飛び方だ。
 どうしてこうなったかというと、足で蹴ったときに、足の面を傾けて、傾いた斜面でボールを蹴ったからだ。(インサイドキックで。) こういうふうに斜面で蹴ると、足は正面に進んでも、ボールは斜めに飛んでいく。
 そして、こういうのはフェイントの一種であるから、GK はボールの動きを予想できない。かくて、あっという間にゴールとなった。

 ※ こういうのは超絶的な技巧を必要とするので、並みの選手はちょっと真似できない。ブラジルの技巧的な選手だからこそできた、とも言える。
 

 見極め


 上の動画で、ブラジルの2点目に着目しよう。
 ネイマールが PK を蹴るのだが、キックの直前に動きを止めて、GKが左右のどちらに飛んだかを確認してから、逆側に蹴っている。これなら確実に、GK の逆方向に蹴れるので、成功率は 100% となる。
 レバンドフスキも、PK のときには、同様の仕方で蹴っている。
 日本でも、遠藤保仁が同様の仕方で蹴っている。ただし、蹴り方は軽い蹴り方なので、そこが独自だが。(そのせいで「コロコロ」と呼ばれる。)

 遠藤の PK 成功率は、88% だ。蹴り方が軽いせいで、途中で止められることもあるようだ。ネイマールやレバンドフスキのように強く蹴れば、成功率は 100%になるだろう。
 日本がめざすべきは、そういう蹴り方だ。(といっても、演技力が必要なので、誰にもできるとは限らないが。)




 PK 戦にかわる決着方法


 ついでだが、番外として、PK 戦にかわる決着方法を提出しておこう。PK戦というのは、運まかせの面が強いので、あまり公正な決着方法ではない。もっといい方法はないか? そこで、次の二つの方法が考えられる。
  ・ GK なしで延長戦を戦い、サドンデス方式で決着を付ける。
  ・ ゴールポストにボールが当たった回数の多い方が勝ち。


 後者は、「もうちょっとでゴールできた」という残念賞みたいなものに、0.1点ぐらいを与える、ということだ。通常は、その半端な点数が影響することはないのだが、同点になった場合に限って、その半端な点数が生きる、ということになる。

 なお、その回数をカウントするのは、「跳ね返ったボールがフィールド内に戻った」場合に限るべきだ。「ボールがポストに当たってから外に出た」場合には、その分をカウントしない。
  ※ 誤審を防ぐため。

 美人の日本人ファン


 浅野の PK を見守る女性サポーター。


asano6.jpg

asano5.jpg


 撮影したカメラマンは、スタンドにいる美人を必死に探して、美人を見つけようとしていたようだ。美人を見つけて給料をもらえる、という楽しいお仕事。

posted by 管理人 at 23:33 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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