2022年12月03日

◆ W杯 スペイン戦・つづき

 ( 前項 の続き )
 スペインの組織的なサッカーを封じることができたのは、なぜか? 

 ──

 前項は攻撃の話。本項は守備の話。

 前項(まで)では、組織的なサッカーの話をした。「日本は組織的なサッカーができていないのに、スペインは組織的なサッカーができていた」とも示した。
 だが、そうだとすると、次の疑問が浮かぶ。
 「組織的なサッカーができていない日本が勝って、組織的なサッカーができているスペインが負けたのは、どうしてだ? 説明が付かないぞ。話が矛盾しているだろ」
 と。
 なるほど。それもごもっとも。そこで、改めて説明しよう。

 ──

 簡単に結論を言えば、こうなる。
 (i) 前項で述べた組織的なサッカーというのは、攻撃面の話に限られた。攻撃面では、日本は組織的なサッカーができていないが、スペインは組織的なサッカーができていた。その意味で、スペインの攻撃力の方が上回っていた。実際、シュートの本数から見ても、スペインの方が圧倒的に上回っていた。このことは、ドイツ戦にも当てはまる。スペインもドイツも、日本を上回る攻撃力を持っていた。
 (ii) 一方で、これまでは述べてこなかったが、守備力も考えるべきだ。守備力という点では、日本は非常に優れていた。スペインやドイツを上回る守備力があった。この守備力によって、敵の攻撃力を封じて、日本は試合に勝利することができた。


 要するに、日本がスペインやドイツに勝利できたのは、攻撃力で上回っていたからではなく、攻撃力では劣っても守備力で上回っていたからなのだ。そして、守備力で上回っていたのは、森保監督の守備戦術が優れていたからだ、と言える。実際、この意味では、森保監督は名監督だと言える。守備力の面では、歴代最高の監督だろう。この点があまりにも傑出しているがゆえに、攻撃面ではヘボ監督でも、総合的には名監督だと言える。(次期監督への続投が決まったようだが、それにも異論はない。)
 森保監督は、選手時代には守備の選手として名手であり、日本代表にも若くして出場した。そういう経歴からしても、守備面では傑出した戦術を持っていたようだ。その戦術が具体的にどうであるかは、私には理解できないところも多いのだが、拙い理解力ながらも、私の理解していることを記そう。

 ──

 (1) 日本の守備力

 日本の守備力はとても良かった。相手の圧倒的な攻勢を浴びて、一方的な守勢であったにもかかわらず、ドイツ戦でもスペイン戦でも前半を1失点でしのいだ。あれほど圧倒的な攻撃を受けたら、コスタリカのように多大な失点となっても不思議はないのだが、1失点だけでしのいだ。たいしたものである。
 なお、数字でもこのことは判明している。シュートの本数でも、ボール保持率でも、日本は大幅に劣勢だった。いろいろと報道されているとおり。

 (2) 守備側が有利

 ただし、サッカーというものは、原則として守備側が有利になる。
 このことは、経験上からも明らかだ。守備側が徹底的に守備固めをすると、攻撃側は得点できないことが多い。実際、徹底的に守備固めをしたコスタリカを相手に、日本は1点も得点できなかった。また、イタリアでは、ガチガチに守備を固めた戦術を「カテナチオ」と呼んで、この戦術を好んで取ることが多かった。

 経験だけでなく理論上でも、守備側が有利に立つことを説明できる。というのは、守備側には GK がいるからだ。しかも GK は手を使うこともできる。手を使えることだけで、GK 1人で選手3人分ぐらいの働きをすることができる。一方、攻撃側の GK は自陣に引きこもっているので、攻撃に加わることはできない。
 この意味で、守備側には選手が 3人ほど多いのと同様の効果がある。したがって、原理的にどうしても守備側が有利なのだ。これはサッカーの特性である。

 (3) コスタリカとの違い

 上の (2) で述べたように、本来ならば、守備側が有利となるはずだ。ところが現実には、コスタリカはスペイン戦で7失点し、ドイツ戦では4失点した。守備の側が有利であるはずなのに、現実には守備をズタズタにされた。つまり、(2) の理屈通りには行かなかった。では、それはどうしてか? 

 まず、日本とコスタリカの共通点を言うと、どちらも5バックの布陣を取った、ということが言える。また、5バックで最終ラインを上げて、オフサイドトラップを仕掛けた、ということも言える。こういうふうに、DF の戦術を見る限りは、日本とコスタリカはそっくりだ。なのに結果は大幅に異なっていた。コスタリカは大量失点し、日本は最少失点(1点)だけで済んだ。では、その違いは何か?

 試合を見ると、コスタリカは守備陣をズタズタにされていた。5バックの最終ラインを上げたが、その最終ラインの裏に相手 FW や MF が飛び込んだ。それをコスタリカの DF が追いかけても、後の祭り。シュートを打たれて、失点するしかなかった。
 ここでは、最終ラインを上げてオフサイドトラップをしかけても、その裏を掻かれてしまうわけだ。いかにも間抜けふうである。守備が機能していなかったとも言える。

 日本はどうだったか? そういうことはなかった。最終ラインが5バックだというところは同じだが、最終ラインの裏に飛び出されることはなかった。つまり、ゴール前へのアシストとなるようなボールを打たせなかった。シュート以前のアシストを未然に防いだわけだ。
 ここでは、最終ラインの前にいる選手の守備力が高かったことになる。彼ら( FW や MF )が高い位置で、相手選手を圧迫した[プレスをかけた]ので、相手選手を最終ラインに近づけなかったのだ。相手選手は最終ラインに近づくことができなかったので、アシストとなるボールを打つこともできなかった。
 こういう FW や MF の守備力の高さが、コスタリカとの決定的な違いだった。

 (4) 副作用

 だが、日本のこの戦術は、守備力を高めるのには有効だが、副作用もあった。FW や MF が前線で守備のために獅子奮迅の働きをするので、FW や MF が疲れてしまうのだ。実際、前半戦の働きで、FW の前田はクタクタになっていたし、久保や長友もかなり疲れていたようだ。だからこの3人は交代させられた。(久保は後半1分に堂安へ。長友は後半1分に三笘へ。前田は後半 17分に浅野へ。)
 逆に言えば、途中で交代することを前提とした上で、FW や MF に過度な働きを要求することができた。それによって高い守備力を備えることができた。……これが森保監督の特徴的な戦術となった。そして、それが可能となったのは、今回の W杯から「交代枠が3人から5人に増えたこと」なのだ。
 サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で1試合に交代できる選手数は、従来より2人増えて最大5人となる。
 新型コロナウイルスの影響で2020年、各国・地域のリーグで中断や延期が相次いだ。再開後の過密日程を考慮し、競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)は同年5月、交代枠を一時的に3人から5人に増やす特例措置を認めた。
 これを採用した欧州などのリーグと同様に、Jリーグも新型コロナによる約4カ月の中断が明けた同6月の再開時から、交代枠5人制を導入した。
 各地で定着してきたことからIFABは今年6月、5人交代枠をルールとして恒久化。W杯カタール大会でも適用されることになった。フレッシュな選手を多く投入できることから、終盤までアグレッシブな展開が期待され、思い切った戦術変更も可能になる。
( → 1試合の交代は最大5人 新型コロナで新ルールに カタールW杯 | 毎日新聞

 交代枠の変更により、前半と後半で別の選手を使えるようになった。その分、出場時間が半分となった選手は、(疲れを気にせずに)獅子奮迅の働きをすることができるようになった。……このようなルール変更をうまく利用したのが、森保監督の戦術だったのだ。他の国は、ルール変更にうまく適応できなかったのだが、森保監督はうまく適応した。そのことで、「前線の選手が守備のために獅子奮迅の働きをする」という戦術をとれた。
 ここに日本の勝因があったのだ。

 (5) 満点ではない

 では、森保監督の戦術が優れていたとすれば、守備面では満点の評価を付けてもいいだろうか? いや、そうでもない。細かく見ると、小さな欠点が見つかる。
 朝日新聞記事に、岡田武史・元日本代表監督の見解がある。
 ゲームのポイントは前半30分過ぎの変化にあった。
 そこまでは前へプレスに出ていけないし、何点取られるんだろう、と思ってしまうような展開だった。
 ところが、相手の配球役のブスケツやセンターバックに対して、急に田中や守田が出ていくようになり、谷口や板倉が前に出て相手MFを捕まえるようになった。
 ベンチの指示なのか、選手がピッチで解決したのかはわからない。
 が、あれで行けると感じたはずだ。ああいう守備をされたら、スペインでもそう簡単には崩せない。
( → 岡田武史

 FW や MF が相手選手にプレスをかけるようになった(圧迫するようになった)のは、最初からではなく、前半 30分からだ、と指摘している。
 とすると、(4) で述べた優れた戦術も、最初からなされていたわけではなく、前半 30分からなされていただけだ、となる。
 で、その戦術変更は、監督の指示によるものか、選手の自発性によるものかは、判明していないようだ。……ま、どっちにしても、最初から指示してはいなかったという点で、満点にはならない。(それまでに前半 10分の時点で、スペインにゴールされて失点しているという点でも、満点にはならない。)

 全体としてみれば、森保監督の守備戦術は大いに成功しているのだが、細かいところを見ると、難点もいくらかは見つかるわけだ。

 ──

 試合全体を見て、総評を言えば、こうなる。
 「日本は、組織的なサッカーという点で、攻撃面ではろくにできていなかったが、守備面ではうまくできていた。組織的な攻撃はできていなかったが、組織的な守備はできていた。全体としては、組織的な守備がとてもよく機能したので、好成績を上げることができた。守備の人としての森保監督の面目躍如というところだろう」

 この意味で、森保監督の続投に異論はないのだが、攻撃面でアドバイスできるようなコーチが補佐すると、もっとよくなるだろう。



 【 関連動画 】

 日本・スペイン戦のダイジェスト。






posted by 管理人 at 23:46 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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