2022年12月02日

◆ W杯 スペイン戦(2022)

 日本が勝利。2−1。日本の勝因は何か?

 ── 

 勝因


 ここで「日本の勝因はこれこれです」と長所を並べたりしたら、見た読者は文句を言いたくなるだろう。
 「どの口が言っているんだよ。このまえは『日本の敗因はこれこれです』と言ったばかりだろ。負けたときは短所を並べて、勝ったときには長所を並べるのでは、ご都合主義が過ぎる。もっと統一的に述べろ。同じ原理で勝因と敗因をともに説明しろ」
 というふうに。
 なるほど、それもごもっとも。そこで以下では統一的に説明しよう。ただし初めは、別の話題から。

 意外性


 日本の勝敗はどうだったか? ドイツとスペインを相手にしたときには、強すぎる相手に負けそうだと思えたのに、意外にも勝ってしまった。コスタリカを相手にしたときには、弱すぎる相手に勝ちそうだと思えたのに、意外にも負けてしまった。どちらも意外な結果となった。それはどうしてか?
 強者には勝ち、弱者には負ける。それは、「強きを挫き、弱きを助ける」みたいだ。まるで正義のヒーローみたいだ。いや、漫画みたいだ。では、それはどうしてか? 
 「強者を相手にしたときには死に物狂いでプレーしたが、弱者を相手にしたときには気を抜いた。つまり、気の緩みがあった。だから、そうなった」
 と解説する人もいる。気の持ち方で説明するわけだ。
 しかしそれはいかにも素人判断というものだ。プロがそんな甘ちゃんな方針を取るはずがない。実際、選手も、コスタリカ戦では厳しい戦いになると予想して、「気を緩めるな」とたがいに鼓舞しあっていた。なのに、このありさまだ。
 つまり、コスタリカ戦では、気を抜いたからではなく、実力に従って、負けるべくして負けたのである。その点では、先に解説したとおりだ。
  → W杯 コスタリカ戦(2022): Open ブログ

 戦法


 では、具体的には、どうしてそういう結果になったのか? スペインとドイツには勝って、コスタリカには負けたのは、どうしてか? 気の持ち方以外に、何が原因だったのか?
 それについては、戦法の点から説明が付く。次のことだ。
 「ドイツとスペインを相手にしたときには、守備を固めてから、カウンターアタックで電光石火のごとくゴールを決めた。コスタリカを相手にしたときは、その逆だった。日本が攻め続けたが、守備を固めたコスタリカから、カウンターアタックを食って、電光石火のごとくゴールを決められた」

 以上のことは、得点を見ても説明が付く。
 コスタリカ以外には、次のような得点だった。
  ・ 日本−スペイン  2:1
  ・ 日本−ドイツ   2:1
  ・ ドイツ−スペイン 1:1

 この3試合を見ると、ちゃんと釣り合っている。この3カ国だけを見る限りは、点数と強弱はきれいに比例関係にあると見ていい。(1位が日本で、スペインとドイツが同率で追う。)
 しかし、ここにコスタリカが入ると、順序が入り乱れてしまう。なぜか?

 日本がコスタリカに負けたのは、相手のカウンターアタックを食ったからだ。日本は、スペインやドイツを相手にしたときとは逆に、攻める一方となった。だが、それは日本にとって不得意な戦法だった。(アジアではそういう試合が多かったが、やはりうまく行かなかった。) だから、スペインやドイツを相手にしたときの方法が使えなかった。
 コスタリカがスペインやドイツと戦ったときには、スペインやドイツは弱小国を強引に攻める方法に習熟していた。強力なシュート力でコスタリカを攻め続けた。そこには、日本にない攻撃力があった。
 というわけで、コスタリカを相手にしたときには、強いはずの日本がうまく行かなくて、モタモタしている間にカウンターアタックを食ってしまった。

 結局、「カウンターアタック」という言葉を使うと、戦術面からすべてはきれいに説明が付く。つまり、単純に「強い > 弱い」という直線的な順序関係が成立しなくて、グー・チョキ・パーのような三すくみ状態が成立してしまうのだ。これが今回の奇妙な強弱関係の原理である。

 ※ 逆に言えば、日本がコスタリカに勝つ方法もわかる。「日本が一方的に攻める」という不得意な戦法をとらなければ良かった。相手が守備固めをするなら、日本も守備固めをすれば良かった。相手がカウンターアタック狙いなら、日本もカウンターアタック狙いにすれば良かった。その結果、双方が守備固めばかりをして、どちらも無得点になる可能性が高いが、それでも負けるよりはマシだった。ともあれ、日本はコスタリカ相手にも、カウンターアタック戦法をとるべきだったのだ。そうしなかったのは、戦法のミスだと言えよう。

 守備 


 日本はスペインとドイツを相手にして、守備が非常に良かった。このことは、今回の試合の評価として、あちこちで称賛されているところだ。ドイツ戦では、前半の4バックで失敗したが、後半の3バックで成功した。スペイン戦では、きれいな5バック(5・4・1)という配置を取ったが、これがとてもうまく機能した。日本の守備力が非常に高かったことは、意外性もあるが、高く称賛されていいところだ。
 また、このような配置をあえて選択したことについては、監督の手腕が優れていたと称賛されていいだろう。
 そして、このような守備力があるがゆえに、カウンターアタックが有効であった、とも言える。
 日本の守備力の高さと、カウンターアタックが有効であることは、表裏一体だとも言える。

 用兵・交替


 監督の用兵もうまく行ったと言えるだろう。

 第1に、三笘と堂安を後半に出したのは、卓抜だった。たいていの人は「三笘と堂安を(優れているがゆえに)先発で出せ」と注文していたが、そうしなかったのが卓抜だった。この二人を後半に出したので、敵の選手が疲れている状態であったのを、いきなり切り裂いた。かくて電光石火のごとく、たちまちにして2点をもぎとった。この二人はジョーカーだったが、ジョーカーを出すタイミングが最適だった。だからこそ、最高のタイミングで2点をもぎとった。とても優れた用兵だったと言える。(用兵 ≒ 選手交代・起用法)
 
 第2に、遠藤のかわりに田中を用いたのは、結果的には良かった。ただし、これは監督の用兵によって決まったのではなく、遠藤のケガによって決まった。
 MF遠藤航(29)=シュツットガルト=は、コスタリカ戦で右膝を痛めて一度も全体練習に合流しなかったものの、後半42分から電撃¥o場。
 11月27日のコスタリカ戦で右膝を痛め、その日夜に病院へ。28日はホテルで療養し、29日、そして前日の30日も全体練習には加わらなかった。
( → 遠藤航、電撃¥o場の舞台裏語る - サンスポ

 遠藤がケガをしたおかげで、田中が出場した。その田中のゴールのおかげで、日本は勝利した。
 もし遠藤がケガをしていなかったなら、田中は出場しなかったので、このゴールはなかった。とすると、1ー1で終わっていたので、日本は1勝1敗1分けとなる。スペインは1勝2分けで、首位。ドイツは、日本と同じく1勝1敗1分けだが、コスタリカ戦で2点差勝ちをしているので、得失点差で日本を上回り、2位通過。日本は得失点差でドイツを下回り、3位通過。かくて日本は1次リーグ敗退となるはずだった。
 そうならなかったのは、遠藤がケガをしたからだ。これぞケガの功名。おかげで、監督の用兵ミスを取り消して、田中が出場することになったので、日本は首位通過となった。
 お馬鹿な監督を、遠藤のケガという幸運が、尻拭いしてくれたのだ。(運命の女神による勝利。)



 以上では戦術面から解説したが、以下では個人技の面から解説しよう。

 田中


 個人技では田中の貢献度が非常に大きかった。(これは、すぐ上に述べた話とも重なるが。)
 これについては、先に述べたコスタリカ戦の講評を参考にしてほしい。
  → W杯 コスタリカ戦(2022): Open ブログ

 ここで述べたように、日本代表に欠けているのは、「組織的なサッカー」である。ところが、スペイン戦の2点目では、日本はまさしく「組織的なサッカー」を実行できていた。
  ・ 堂安がゴール前にスルーパスを通した。
  ・ それを反対側で前田と三笘が受け止めようとした。
  ・ 前田は追いつかなかったが、三笘はギリギリで追いついた。
  ・ そのセンタリングを、田中が受け止めて、ゴールした。

 三笘がゴール前に送ったボールに飛び込んだのは田中。「なぜあそこに走り込んでいたのかわからないけど」と三笘は振り返るが、田中は右足ふとももで押し込み、この日の追加点とした。
 気持ちで押し込んだのでは、との問いに、きっぱりこう言いきった。
 「いや、気持ちじゃないですね、別に。ずっとやってきたので、あそこに入っていくのは。まあ、うまく結果を残せたのはよかったかなと思います」
 あくまで練習とこれまでの経験の結実であることに胸を張った。
( → 三笘薫と田中碧、以心伝心のスーパーゴール。「なぜあそこに走り込んでいたのか…」 web Sportiva

 「なぜあそこに走り込んでいたのか」というが、それは不思議でも何でもない。三笘がドリブルでサイドに切り込んだら、FW はゴール前に飛び込む……というのは、「組織的サッカー」の基本原理だ。中核的な原理だとも言える。だから、田中のプレーはセオリー通りなのだ。(田中は FW でなくボランチだが。)
 なのに、三笘は「なぜあそこに走り込んでいたのかわからないけど」という。それは監督が「組織的サッカー」の基本原理を教えていないからだ。一方、田中はそのセオリーを知っていた。あるいは、無意識的に体で覚えていた。だから、いるべきときに、いるべきところにいたのだ。
 意識しているかどうかはともかく、堂安・三笘・田中という三人は、「組織的なサッカー」というものを理解していた。そして、それを実行した。だから、セオリー通りに、2点目のゴールを決めたのだ。(田中のかわりに遠藤が出場していたら、そうはならなかっただろうが。)

 ちなみに、「組織的サッカー」をまったく身に付けていない選手がいる。コスタリカ戦で言えば、遠藤航がそうだった。彼は、他の選手がゴール前に殺到しているときに、自分は棒立ちしていた。
 今回のスペイン戦でも、同様だった選手がいる。

 試合の動画は
  → 日本 - スペイン|ハイライト (実況なし)
 ここから画像を取ると:


spain1.jpg


spain2.jpg


 1枚目の図は、右上の堂安からゴール前にスルーパスが出たところだ。
 2枚目の図は、その直後だ。
 左の 9番(三笘)と、25番(前田)が、左方に駆け出している。この二人は、組織的なサッカーができている。一方、右側にいる 15番(鎌田)と 14番(伊東)は、棒立ちしている。この二人は、組織的なサッカーができていない。一方、17番(田中)は、前田と三笘の動きを見て、ゆっくりゴール前に近づこうとする。急いでゴール前に近づくと、オフサイドになってしまうから、味方二人の動きを見ながら、最適のタイミングでゴール前に接近する。
 結局、「組織的なサッカー」ができていたのは、堂安・前田・三笘・田中だった。鎌田と伊東は、それができていなかった。また、遠藤は、もし出場していたら、やはりできていなかっただろう。(そして日本の2点目のゴールはなかっただろう。)

 日本がこの試合で勝利できたのは、遠藤がケガをしてくれたおかげだったのだ。遠藤こそが陰のヒーローだったとも言える。(皮肉だけどね。)

 浅野


 組織的なサッカーという点では、浅野もまたちゃんと理解できていた。ドイツ戦でのゴールはその例だ。スペイン戦でも、そうだった。

 試合の動画は
  → 第3戦 - 日本 vs スペイン 試合ハイライト| ABEMA

 ここから画像を取ると:


spain3.jpg

 
 左サイドの三笘がドリブルで電光石火のごとく敵陣を切り裂いてから、センタリングのスルーパスを通した。それに浅野が追いついて、シュートする寸前となっている。
 この直後、浅野はシュートしたが、シュートはハズレた。仮に、もっと技量のある人がいたら、すぐにはシュートしないで、もう少しドリブルしてから、シュートしただろう。そしてゴールを決めただろう。たとえば、メッシならばそうしただろう。
 しかし、浅野はあまりにも技術が未熟だった。センタリングをしたボールを受け止めて、それでまともにシュートする技量はなかった。だから、シュートしたボールはゴールを大きくハズレた。
 とはいえ、浅野は「組織的なサッカー」というものを理解していた。サイドを切り裂いた三笘のドリブルを見て、将来のセンタリングを予想して、急いで駆け出した。それができたのは、浅野だけだ。他の選手はそれができなかった。
 組織的なサッカーをきちんと理解している攻撃的選手は、浅野だけだったのだ。(そしてその浅野は、シュート技術が不足していた。)

 三笘


 この試合で圧倒的な巧者ぶりを発揮したのは、三笘だった。特にドリブルで切り裂く能力はすごかった。上記の浅野へのパスもそうだったが、もっと前に、後半2分 30秒の時点でも、左サイドをドリブルで切り裂いて、中央にセンタリングのボールを上げた。


spain4.jpg


 しかし、いかんせん、このときはまだ浅野がいなかった。三笘がセンタリングをしても、センターでボールを受け止めてくれる人がいなかった。かくてボールは無人の空間をさまようことになった。
 「組織的なサッカー」を理解している選手がいないと、せっかくの三笘の素晴らしいプレーも、ただの宝の持ち腐れになってしまうのだ。猫に小判。

 ※ それというのも、監督が「組織的なサッカー」を理解していないせいだが。

 堂安


 日本代表チームは、「組織的なサッカー」を理解していない前近代的なチームである。ではなぜ、スペイン戦で勝ってしまったのか? それには理由がある。
 一つは、監督は「組織的なサッカー」を理解していないとしても、選手には「組織的なサッカー」を理解している選手が少しだけいたからだ。堂安・三笘・田中・浅野といった選手である。この4人のおかげで、点の半分は取れた。
 では、残りの半分は? 堂安の個人力のおかげだ。
 特に、スペイン戦の1点目は、鳥肌ものだった。あまりにも素晴らしいミドルシュートだった。これほどのミドルシュートを打てる選手が日本にいたということは驚きだ。


 このようなミドルシュートを打てる選手は、かつて日本にいたか? いた。本田がそうだ。








 堂安のミドルシュートを見たとき、「本田以来だな」と思った。
 今の日本代表には、本田も香川もいない、と前に述べた。
  → W杯 ドイツ戦(2022): Open ブログ

 だが、前言を撤回せねばならないようだ。
  ・ 本田のかわりには、堂安がいる。
  ・ 香川のかわりには、三笘がいる。

 この二人が、前任者と同レベルになるかどうかはまだわからないが、それに近いレベルに届く可能性はありそうだ。この二人には、大きく期待したい。おそらく、ヘボな監督の尻拭いをしてくれそうだ。



 [ 付記 ]
 
(ジョーカーである)「三笘と堂安を後半に出したのは、卓抜だった」と先に述べた。この起用法は、「相手を疲れさせたあとで、一挙に逆襲する」というものであるので、「カウンターアタック」と発想が似ている。その意味で、「時間的なカウンターアタック」と呼べなくもない。
 この手法は、森保監督の卓抜なところだと評価していいだろう。

 ※ ただし、どうせなら、前半戦の終了間際の方が、より効果的かもしれない。相手が疲れ切っているところだからだ。
 


 [ 余談 ]
 「本サイトは、コスタリカ戦の講評ではクソミソにけなしたが、予想はハズレたな」
 と批判する人がいるかもしれない。だが、予想はハズレていない。
 どういうわけか、ドイツとスペインは引き分けてしまった。ドイツのパワーがスペインには相性が良くて上回ったか。グーチョキパーみたいな関係かも。だったら日本もスペインに勝機があるかも。
( → W杯 コスタリカ戦(2022): Open ブログ

 と述べている。ズバリ的中というほどではないが、日本の勝利の可能性を示している点で、少なくともハズレではない。(正確に言えば、予想はしていないんだけどね。コスタリカ戦の事後分析をしているだけで、スペイン戦の事前予想をしているわけではない。)

 ※ 次の「クロアチア戦(およびその次のブラジル戦)の予想をしろ」という人もいそうだが、私は予想をしているわけじゃないので、お間違えなく。強いて言うなら、「強者に対しては、守備を固めてカウンターアタックを狙うので、善戦しそうだ」とまでは言える。スコアや勝敗については、何も言えません。



 [ 参考 ]
 ちなみに、日本が組織的なサッカーをしていた時代もある。2012年にフランスに 1ー0 で勝った試合だ。複数人が連携して、怒濤のごとくゴールに殺到した。





 何と5人の選手が一挙にゴール前に殺到して、フランスの守備陣を切り裂いた。三笘が5人いるようなものだ。今の森保ジャパンでは決して見られないような、素晴らしい組織的連携だ。

 ※ 監督はザッケローニ。試合は公式戦ではなく、強化試合(非公式戦)。
 


 【 関連項目 】

 次項に続きがあります。
  → W杯 スペイン戦・つづき: Open ブログ
 
posted by 管理人 at 23:58| Comment(1) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
サッカーの記事は非常に面白いので
続編期待
Posted by RZH298 at 2022年12月03日 20:11
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