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大阪のカジノの収支計画は、大幅な黒字だと示している。土地は、原価割れの低額で提供するので赤字になるが、IR 事業全体からの税収があるので、大幅な黒字になる……というふうに。だが、これはペテンだ。
なるほど、事業そのものを見れば、事業からの税収がある。法人税や、固定資産税や、従業員からの所得税・住民税など。これらの税収は莫大な額になる。だから、これらの税収を含めて考えれば、土地で少しぐらいの赤字を出しても、全体を見れば大幅な黒字になる……というわけだ。
なるほど、その主張自体は間違いではない。ただし、そこにはペテンがある。それは、「事業だけしか見ていない」ということだ。
ここで、比喩的に説明しよう。
あなたは両手を開いている。そして、左手では十円を失って、右手では十円を得た。差し引きすると、両者の損得は同額なので、あなたは損も得もしていない。
ここで詐欺師が登場する。左手の方は見えないようにして、右手の方だけを見えるようにする。すると、損をしたことが見えなくて、得をしたことだけが見える。すると詐欺師は言う。
「ほらね。得だけをして、損をしていないでしょう? あなたが見ている範囲では、ちゃんとそうなっています。だからまさしく、あなたは得だけをして、損をしていないんですよ。あなたはすごく儲かっています。だから、手数料として、私に1円をくださいね」
それを信じたあなたは、詐欺師に1円を支払った。
そういうことを繰り返しているうちに、あなたは有り金のすべてを詐欺師に奪われた。しかしあなたは不思議に思った。
「得をしているばかりなのに、どうして私は金をすべて失ったのだろう?」
と。
※ 見える部分のことしか考えていないからだよ、というのが陰の声。

それと同様のことが、大阪のカジノ収益計画にも当てはまる。
・ 右手(見える分)とは、夢洲の収益である。
・ 左手(見えない分)とは、夢洲以外の大阪の収益である。
確かに大阪では、夢洲の事業により、事業の法人税などが増えた。
しかしその分、夢洲以外の大阪の法人税は減ってしまうのだ。
・ 夢洲のホテルに客が来れば、その分、他地域のホテルでは客は減る。
・ 夢洲の国際会議場に客が来れば、その分、他地域の国際会議場では客は減る。
・ 夢洲のレストランに客が来れば、その分、他地域のレストランでは客は減る。
こうして、同じ大阪のなかで客の奪い合いが起こる。夢洲で客が増えれば、その分、大阪の他地域の客が減る。かくて、夢洲でいくら事業が増えて税収が増えても、その分、大阪の他地域で授業が減って税収が減るから、総額ではほとんど増収にならないのだ。
夢洲という右手では大幅な黒字になっても、大阪の他地域という左手ではその分、黒字が減ってしまう。かくて、大阪全体の総額では何も増えていないわけだ。
[ 付記1 ]
なぜ地域間で奪い合いが起こるかというと、全体の事業の総額は、全体の収入に制約されるからだ。要するに、大阪の消費者全体の収入額が一定である限り、どこかで支出が増えた分、かわりにどこかで支出を減らさなければならない。こうして、収入の制約によって、支出が制約されるから、どこかで増えた分、どこかが減ることになる。
比喩的に言えば、収入が 20万円に決まっている人は、どこかで支出を増やしたら、他のどこかで支出を減らすしかない。支出の総額は、収入の総額で制約される。「どこかで支出が増えたから、その分、支出の総額が増える」というようなことはないのだ。(大阪府はそのことに気づかない。)
[ 付記2 ]
同様のことは、いわゆる「経済効果」というものにも適用できる。
たとえば、「阪神が優勝すると、その経済効果は 1000億円の増収」というような試算がなされる。なるほど、それは正しいかもしれない。関連の祝いの支出も増えるだろう。だが、そこで支出が増えた分は、他のどこかで支出を減らさなくてはならない。とすれば、阪神優勝関連の業者は売上げが増えるが、他の分野の業者は売上げを減らすことになる。そして、大阪全体の経済規模は、何ら変わらないのである。なぜなら、大阪の消費者の支出の総額は、何ら変わらないからだ。
「阪神が優勝すると、その経済効果は 1000億円の増収」というような試算があったなら、「阪神が優勝すると、優勝に関係ない業界では、その経済効果は 1000億円の減収」というように考えるべきなのだ。(総額は変わらないので。右手で増えた分、左手では減る。)
[ 補足 ]
ついでだが、大阪でなく横浜の話をしよう。
横浜でも、IR をやろうという運動があった。ただし途中で挫折した。カジノ反対を公約にした人が市長に当選したからだ。(横浜市民は、大阪府民ほど、バカではないからだろう。)
ただ、本項で解説した話は、横浜には適用されない。なぜか? 横浜で IR をやったとした場合、ホテル・国際会議場・展示場・レストランなどに来る客は、横浜のなかで奪い合いをするのではなく、東京の客をぶんどることになるからだ。
したがって、横浜で客が増えた分、東京で客が減るとしても、横浜だけを見る限りは、横浜は損をしていないことになる。
もちろん、横浜と東京を一体化して、その全体を見れば、「横浜と東京」の全体は、何も得をしていないことになる。しかし、「横浜だけ」を見ることにすれば、「横浜が得して、その分、東京は損をする」ということは、横浜にとっては好都合なことになる。
だから、横浜の場合は、大阪とは事情が異なる。
とはいえ、横浜のようなことが成立するのは、あくまで横浜のような都市の場合だけだ。つまり、「隣の大都市に寄生する中都市」というような都市の場合だけだ。
一方、大阪は地域の主体であり、東京のようなものだ。とすれば、自分で何かを新たに始めても、それで食われてしまうのは自分自身だ、ということになる。だから、大阪が IR をしても、「他人の富を食い潰すことで得る利益」というのは、ろくに見込めないわけだ。
【 関連サイト 】
大阪の IR の収支計画がペテンであることについては、別の裏付けがある。前々項で示したが、次の黒塗り画像だ。
待て待て待て待て?松井市長。
— 大石あきこ 衆議院議員(れいわ新選組) (@oishiakiko) December 20, 2021
「しっかりソロバンはじい」たろと思って、IR(カジノ)の経済効果の元データをIR推進局に情報公開請求したら、こんな墨塗りで出てきたけど。
どないせえっちゅうねん? https://t.co/yEZxPCedZL pic.twitter.com/zJX10Chin5
IR の収支計画が正当なものであるなら、そのデータを公開できるはずだ。だが、公開しない。とすれば、これは「公開できない事情があるからだ」と推定できる。
普通に考えれば、「IR の収支計画は、ただの捏造の数字だった」(都合よく数字をこねあげただけのデタラメな数字だった)と見なすべきだろう。
つまり、「黒字になる」という結論があって、それに合わせて、数字を適当にこねあげただけだったのだ。前項で示した
・ 年間来場者数が USJ の1.2倍
・ 客単価がディズニーの 2.3倍
という甘過ぎる想定も、「最初に黒字予想を決めて、それに合わせてデータのつじつまを合わせただけだ」と考えれば、無理な数字が出た理由もわかる。
つまり、結論に合わせて、あとでデータを捏造しただけだったのだ。(だから黒塗りにする。)
【 関連項目 】
マカオはカジノで栄えているが、それは、マネーロンダリングのためである。そのことは、前に記したとおり。
マカオなどのカジノと日本のカジノは、まったく種類が異なる。どこが異なるかというと、マネーロンダリングの有無だ。
そもそも、マカオはどうしてあれほどにもカジノが栄えているのか? 人々がよほどギャンブル好きだからか? 大損してもなおかつ、莫大な金を投入するからか? 無尽蔵の金を投入して、ギャンブルをし続けているからか?
違う。彼らは単にマネーロンダリングのためにマカオを訪れているだけだ。だから、さっと来て、さっと帰ってしまう。ギャンブルそのものをやりに来たのではなく、マネーロンダリングをやりに来ただけだからだ。
( → カジノの皮算用: Open ブログ )
上の話をわかりやすく説明しよう。
マカオに来る客は、富豪ではない。中国で私腹を肥やしている悪徳役人が、自分のちょろまかした巨額の裏金を洗浄するために、部下をマカオに派遣する。その部下は、ギャンブルが好きで金を掛けているのではなく、資金を洗浄するために金を賭けている。
したがって、射幸心の強い博打(ルーレットなど)には金を投じない。かわりに、赤黒を決めるような博打(利得の倍率が2倍弱)に金を賭ける。たとえば、1億円を賭けて、2億円を得るかゼロになる、というような博打をする。それを 100回ほど繰り返すと、100億円の元金を賭けて、99億円の返戻金を受け取る。こうして 99億円の現金と領収証を受け取る。その双方を手にして、中国に戻る。
その後、悪徳役人は 99億円を表に出す。「これはマカオのギャンブルで儲けた金です。初めは 100万円ぐらいしか持っていかなかったのに、どんどんギャンブルで勝ち続けたので、100万円が 99億円に化けました。ほら、ここにはカジノの支払い証明もありますよ」と言い張る。
税務当局としては、「嘘つけ」と思うが、それを否定できない。「マカオに税務調査に行こう」と思っても、マカオは管轄外だし、カジノ会社は客の秘密情報を出さないから、どうしようもない。
かくて、悪徳役人は、マカオでマネーロンダリングに成功した。
ただし、これと同じことを、大阪が狙っても、それは成功しない。マネーロンダリングをするなら、マカオでやった方が手っ取り早いからだ。なのに、わざわざ大阪まで来てくれると思うのは、虫の良すぎる話だ。
そもそも、マカオで金を賭けているのが富豪だ、と思うのが勘違いだ。確かに富豪もいるが、主たる顧客は、富豪ではなく、富豪に雇われたマネーロンダリング担当者なのである。なのに、富豪向けのサービスをいくら増やしても、夢洲に落ちる金はたいして増えないのである。(まあ、少しは効果があるだろうけどね。)