2022年11月12日

◆ 国策の半導体会社

 国策の半導体会社が誕生した。Rapidus(ラピダス)という。では、これは成功するだろうか? 

 ──

 次の報道がある。
 トヨタ自動車やNTTなどの大手企業8社が出資する新会社「Rapidus(ラピダス)」は11日、2027年に次世代半導体の生産開始をめざすと発表した。政府は新会社に700億円の補助金を出す。
 新会社の名称はラテン語で「速い」を意味する。トヨタとNTTのほか、キオクシア(旧東芝メモリ)、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、NEC、三菱UFJ銀行が計73億円を出資。社長には、米半導体大手ウエスタンデジタルの日本法人トップを務めた小池淳義氏が就いた。小池氏は会見で「5年後に最先端のファウンドリー(受託生産会社)を日本で実現し、世界のものづくりをリードする」と強調。試作段階でかかる費用も合わせて量産には5兆円規模の資金が必要になるとの見通しも示した。
 新会社は、半導体産業の再興をめざす経済産業省の肝いりで設立された。経産省は11日、まずは700億円の補助金を出して設備の導入などを支援すると明らかにした。ほかにも、東大や産業技術総合研究所、米IBMなど日米の企業や研究機関が参加する共同研究開発拠点を年内に立ち上げることも表明。ここにラピダスも参加する。産官学が連携して次世代半導体の量産に向けた技術を確立し、生産をラピダスが請け負う構想だ。
( → 次世代半導体、27年に生産開始めざす トヨタやNTT参加の新会社:朝日新聞

 ■新会社への出資企業
 キオクシア=旧東芝メモリ 10億円
 ソニーグループ      10億円
 ソフトバンク       10億円
 デンソー         10億円
 トヨタ自動車       10億円
 NEC          10億円
 NTT          10億円
 三菱UFJ銀行        3億円
( → 日の丸半導体、官民温度差 経産省、補助金700億円:朝日新聞

 報道によると、「民間会社ができて、そこに政府が補助金を出す」ということになっているが、これは事実を偽っている。「果汁 10% の飲料」を「果汁たっぷりのジュースです」と偽るようなものだ。詐欺に近い。
 では、正しくは? 「国が 700億円を出して、民間が 73億円を出すので、国の出す金が約9割であり、実質的には国策会社だ」ということだ。民間では株式の5割を握れば、(完全に)親会社と子会社の関係になるのだから、9割も金を出せば、ほぼ純然たる国策会社と言ってもいいぐらいだ。
 ところがどういうわけか、政府はその金を「出資」にはしないで「補助金」にしてしまう。血税の浪費というしかない。どうせなら「出資」にするべきなのに、その金をタダでくれてやろうというのだから、呆れるしかない。
 こんなデタラメをやろうとするのだから、出自からして、まともな計画性も何もないメチャクチャな「ボッタクリ」(国の金を食いつぶすこと)であるのは、明白だろう。
 そもそも、まともな計画であれば、事前に計画が検討されているはずだが、今回は、いきなり情報が出て、「すでに決まりました」という体だ。これはもう、五輪組織委における電通の公金泥棒と同じで、ほとんど犯罪に近い行為だろう。
 MRJ のときには、事前に計画が出て、その後に最終決定したようだが、今回はそういうこともなく、いきなり 700億円の補助金が公表された。相当に汚い裏事情があるはずだ。

 ※ まともな方式ならば、政府の出す金は総額の半額以下になるし、金を出す方式は補助金でなく出資になるはずだ。そうしなかったという点で、相当に汚いね。

 ──────

 さて。そういう過去の話は別として、将来的な見通しを考えよう。この会社は、将来、成功するだろうか? つまり、上記で見通しているようなことは実現するだろうか?

 世間には懐疑的な見方もある。
 「日本の半導体産業は、世界レベルから大幅に劣っており、もはや米国に追いつけないだけでなく、中国や韓国にも追いつけない。遠く遅れているので、今さらいくら努力しても、追いつく見込みはない」
 というふうに。

 だが、ここで私の判断を言うなら、こうなる。
 「理論的な可能性だけで言うなら、日本の企業も中間に追いつく可能性はある。半導体露光装置は、キヤノンもニコンも撤退して、ASML だけとなっているが、この ASML の半導体露光装置を使いこなせるかどうかで、ライバルに対抗できるかどうかが決まる。この点では、台湾の TSMC が圧倒的に優れているが、日本の企業も、うまく工夫すれば、TSMC に次ぐぐらいの能力を得て、世界市場でシェアを得ることも可能だろう」
 これは、理論的な可能性だ。「可能性がまったくない」ということはなく、日本企業も戦いに参入するぐらいの技術力はあるだろう。だから、「ここに日本企業を参入させたい」という経産省の方針は、それ自体は間違っているとは言えない。

 だが、理論的な可能性はともかく、現実的にはそれは可能だろうか? そこで考えると、それを可能とするためには、絶対的に必要な条件がある。こうだ。
 「非常に優秀な経営者がいて、会社全体を技術的にリードする」
 これは、たとえば、次のような例が当てはまる。
  ・ ジョブズのいるアップル
  ・ ゲイツのいるマイクロソフト
  ・ 孫正義のいるソフトバンク
  ・ イーロン・マスクのいるテスラ


 これらの例では、非常に優秀な経営者がいて、会社全体をリードした。そういう絶対的な経営者がいれば、今回の国策会社も成功するだろう。
 では、現実にはどうか? 社長と会長は、ともに 70歳以上のジジイである。とっくに引退しているべき年齢だ。(誕生年は、1952年、1949年)
 こんなジジイがリーダーになっているという点で、最初から失敗は目に見えている、と言えるだろう。
 ま、それなりに立派な経歴はあるので、大失敗はしないだろうが、競争の激しい市場のなかでは、世界の巨人と伍して戦うのはとうてい無理で、かろうじてそこそこ戦えるというぐらいにしかなるまい。
 あまり大きな赤字を出さないうちに撤退するのであれば、国と民間の出した 773億円を無駄にするぐらいで済むだろう。
 ただし、本格的に事業を展開するとなれば、話は別だ。
 今回のプロジェクトも、次世代半導体の量産化を始めるまでに5兆円の規模の資金が必要となるという。
( → 日の丸半導体、官民温度差 経産省、補助金700億円:朝日新聞

 5兆円の規模の資金を投入して、失敗したら、大変だ。773億円の 100倍近い規模の金になる。こうなる前に、さっさと事業を手じまいするのが、最善と言えるかもしれない。
 MRJ の失敗では、三菱重工が破綻しかけるぐらいで済むのだが、今回のプロジェクトで失敗したら、国全体の屋台骨が揺らぎかねない。無謀なギャンブルはやめてもらいたいものだ。



 【 補説 】
 悪口ばかりを言っても、聞いた官僚は腹を立てるだろう。
 「そんなに批判をするなら、おまえが代案を出せ。ちゃんとした経営というものを教えてくれ」
 と。それに対して、
 「私は経営者じゃないから、経営のことはわかりません。私に聞かないで」
 と逃げ出すこともできるが、そいつはカッコ悪い。みっともない。尻尾を巻いて逃げるのも同然だ。
 「尻尾を巻いて逃げるぐらいなら、偉そうなことを言うな。頭を剃って、お詫びしろ」
 と批判されそうだ。ま、それもごもっとも。

 そこで私なりに答えると……
 本来ならば、ジョブズ、ゲイツ、イーロン・マスク級の優秀な経営者を引っ張ってくるべきだ。しかし、そんな優秀な経営者がいたとしても、日本のゴミ会社なんかに来てくれるわけがない。自分で起業しているだろう。だから、その手は使えない。……困った。どうする?
 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。以下の通り。

 ──

 (1) 高給

 何よりも大切なのは、人材である。優秀な社員である。それを、出資した会社や、既存の民間会社から、引き抜くべきだ。そのためには、高給をはずむべきだ。額はおおむね、現在のトヨタの給料の1割高ぐらい。普通の一流会社に比べれば、2〜5割ぐらいのアップになる。このくらいの高給をはずめば、国内で最優秀の人材を集めることができる。それが何よりも重要だ。(賃金コストを下げるよりも、賃金コストを上げるべきだ。機械に 5兆円も払うくらいなら、まともな人材に金を払うべきだ。その方が安上がり。)

 (2) 人材抜擢

 優秀な人材をたくさん集めたら、あとはそのなかで、経営を任せるに足るエリートを選抜することが必要だ。高齢の偉ぶった重役なんかは必要ない。会社を正しい方向に導くことのできる人物を抜擢するべきだ。具体的には、ジョブズ、ゲイツ、マスク、という人物を念頭に置いて、それに匹敵することは無理でも、その 10分の1ぐらいの能力のある人物を探し出すべきだ。
 では、そのためには、どうすればいいか? 社内で電子掲示板を使って、経営会議を開けばいい。2ちゃんねるや、スラドみたいなものだ。そこで議論を交わす。
 「この問題ではどういう方針を取るべきか」
 について、掲示板上で議論を交わす。
 そうすると、議論をリードする超優秀な人物が現れて、目立つようになる。そういう人物こそが、リーダーとなる人物だ。議論をリードする人物が、会社のリーダーになれるのだ。
 この際、最終的な結論で「正しい結論を出した人物」だけが優遇されるわけではない。次善の案や対抗となる案を出した人物も、十分に優遇される。さまざまな意見を引き出すことこそ、会社にとっては有益だからだ。
 ともあれ、こうして、優秀な人材を次々と抜擢して、経営会議に参画させれば、会社は正しい方向に進むだろうし、経営の速度も速くなるだろう。

 (3) 初代経営者

 初代経営者の仕事は、以上のような組織を作ることだ。彼は、自分自身では、会社の方針を決めることはない。したがって、技術的な専門知識も必要ない。半導体のことなど、何も理解していなくていい。
 ただし、組織を作ることの能力は必要だ。彼は、自分が正しい経営判断をするのではない。正しい経営判断をするのは、彼でなく、組織である。そして、その組織を作り上げることこそが、彼の仕事なのである。
 そして、彼がその仕事をなし終えたとき、組織は十分に形成されているので、彼は退任する。彼が仕事に成功したとき、彼は不要になるのである。

 (4) 政府・出資者

 政府や出資者がなすべきことは、上記のような初代経営者を招くことだ。
 これに似た例はある。JAL を再建した稲盛和夫だ。彼は、自分自身がトップダウンで経営判断をしたのではなく、組織がまともに機能するように組織を改善した。自分自身は航空会社の専門知識などは何もなかったが、組織を改善する知識はたっぷりとあった。
 こういう経営者を招くことこそ大切だ、と理解することが、政府・出資者にとって必要なことだ。

 逆に、
 「半導体の会社だから、半導体の会社を経営した経験のある、専門的な経営者に任せればいい」
 というような発想を取る限り、このプロジェクトは失敗が目に見えている、と言えるだろう。
 ひとことで言えば、「ジジイの出番じゃない」と言える。

 ※ もはや、高齢衰退国家の象徴となる、認知症プロジェクトだと言えるね。血税 5兆円を捨てるつもりかも。MRJ の大失敗でも、まだ懲りない。

 ※  ロシアではプーチンが国を導き、中国では習近平が国を導いている。いずれも高齢者が国を導いている。政府の威力が強い。それを見て、経産省は「素晴らしい威力だ」と感嘆して、「だったら日本も、プーチンと習近平のような高齢者を招けば、同じように国を導けるぞ」と思ったのだろう。……下記の動画を見ればわかる。



 【 関連動画 】









posted by 管理人 at 23:43 | Comment(0) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
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