2022年11月05日

◆ 医療人員の一時的派遣

 コロナのようなパンデミックが起こったときに、大規模な病院に医療人員を派遣したいが、それがうまく行かないそうだ。

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 コロナのようなパンデミックが起こったときに、大規模な病院では、病床の数は増えたが、感染症医や看護師などの医療人員が不足しているそうだ。仏作って魂入れず。これでは何の意味もない。そこで、医療人員を派遣する仕組みを作りたいが、うまく行かないそうだ。
 次のパンデミックに備えるための感染症法などの改正案が4日、衆院厚生労働委員会で可決された。地域の中核を担う病院に病床確保、発熱外来設置などを義務付ける内容だが、コロナ禍が続く医療現場からは「ベッドの確保を義務付けても、それを動かす人が足りない」などと今後の課題を指摘する声もあがった。
 **医師は「改正案は病床など『ハコ』を用意する話にとどまり、それを動かすための人材の確保について具体策がない」と指摘する。
 同センターは……介助できる看護師が足りず、職員の感染による欠勤も相次いだ。
 即効性のある解決策はないのが実態だ。
 全医療機関の9割強を占める民間(約10万施設)の協力は任意のままだ。

( → ベッド足りても看護師は? 改正感染症法、中核病院に病床義務:朝日新聞

 今回の改正では、全ての医療機関に都道府県との協議に応じることが義務づけられる。
 「自治体側が手間をかければ協力する医療機関は増えるはず」とみる。
 「できません」と答えてきた医療機関に「やってみようか」と思わせられるか。行政側の手腕が問われることになる。
( → 「人材確保に具体策なし」 感染症法改正案可決も、現場医師の懸念は:朝日新聞

 人員不足の解消のために、お役所の調整に期待する、ということらしい。しかし、そんなことをお役所がやるというのは、共産主義の発想そのものであり、失敗するのは確実だ。そもそもそんな能力すらないはずだ。(役所が人あまりだというのは昔の認識だ。今は役所はどこも人手不足であり、大半が非正規雇用の臨時職員だ。そんな状況で、残った少数の正職員が、急増した新規業務を担えるはずがない。)
 というわけで、まともな解決策はないままだ。困った。どうする?

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 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。まず、基本はこうだ。
 「人員配置の最適配分というのは、資源の最適配分を調整する方法を用いればいい。つまり、市場原理だ。これによって自動的に市場で最適化される。それは分散的な調整だ。誰かが中央で調整するという共産主義的な発想は必要ない」

 その上で、次のことが必要だ。
 「原則として市場原理で済むのに、それがうまく機能しないとしたら、余計な阻害物があるからだ。その阻害物を排除することが、政府や自治体の役割だ」
 つまり、「水は高きから低きに流れる」という原理があるのに、その原理がうまく機能しないとしたら、流れを阻害するような邪魔物があることになる。その邪魔物を排除することが公的機関の役割だ。

 では、その視点で見直すと、どうなるか? 現状を新たに見直すと、次のことがわかる。
 「医療人員の最適配分という市場原理で済むはずなのに、それがうまく行かないようにしている、阻害物がある。それは政府や自治体そのものである。つまり、自分自身である」

 つまり、「犯人は誰か? 犯人を逮捕せよ!」と思ったら、その犯人は自分自身であった……ということだ。だから今までずっと犯人が見つからなかったのだ。これが名探偵の示す真相だ。 


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 具体的にはこうだ。
 「なぜ病床は増えたのに、医療人員は足りないか? それは、政府がそうするように制度設計をしたからだ。つまり、コロナの感染対策として、政府は制度を組んだが、その制度は、病床に金を出すものであって、人間に金を出すものではなかったのだ」

 コロナ対策の制度とは、病床に金を出すものだった。制度は全国ほぼ一律だが、対応は各県に任されているので、情報は県ごとに出ている。たとえば、栃木県ではこうだ。


区分 特定機能病院等※一般
ICU436,000円/床・日301,000円/床・日
HCU211,000円/床・日211,000円/床・日
療養病床16,000円/床・日16,000円/床・日
その他74,000円/床・日71,000円/床・日

出典:栃木県


 こういうふうに、病床に金を払うことになっている。とすれば、経営者の方針としては、最適の方針はこうだ。
 「病床だけを配置して、人員は配置しない。そうすれば、莫大な補助金だけをもらえて、経費を掛けずに済むので、ボロ儲けできる」

 この件は、「尾身会長の病院でも、空きベッドが多い」というふうに批判されたこともある。
 尾身茂会長が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)傘下の東京都内の5つの公的病院で、183床ある新型コロナウイルス患者用の病床が30〜50%も使われていない。
 5病院のコロナ専用病床183床のうち、30%(8月29日現在)が空床であることがわかった。
 「コロナ病床の確保で多額の補助金をもらっていながら、受け入れに消極的な姿勢は批判されてもしかるべきではないか」
 「病床確保支援事業」では新型コロナ専用のベッド1床につき1日7万1千円の補助金が出る。ベッドは使われなくても補助金が出るため、東京蒲田医療センターでは使われていない約40床に対して、単純計算で、1日284万円、1か月で約8500万円が支払われることになる。
( → 【独自】コロナ病床30〜50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金「ぼったくり」 | AERA dot. (アエラドット)

 この記事は尾身会長をことさら批判しているが、実は、このように空きベッドが多いのは、尾身会長の病院に限ったことではなく、どこの病院でも同じことだ。AERA の指摘したことは間違いではないが、どうせ書くなら、「尾身会長の病院ではこうだ」と書くのではなく、「日本中の病院はみんなそうだ」と書くべきだった。(その意味では不正確だ。)

 ともあれ、上の記事からも明らかなように、ほとんどの病院は「病床だけはそろえているが、医療人員は足りない」というふうになっている。そして、その原因は、「病床に金を出すだけで、医療人員には金を出さない」という制度設計にある。
 だから、その制度設計に従って、病院の側は「病床だけはそろえているが、医療人員はそろえない」というふうにしている。
 とすれば、人員不足の原因は、そういう制度設計をした政府そのものにある。つまり、「犯人は政府自身であった」ということになる。

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 そこで、政府としては、現状を解決するために、次の方針を出した。
 「空き病床が多い病院には、補助金を減額する」
  → コロナ患者受け入れに消極的で、経営状況が良好な病院は病床確保料を減額

 だが、このような方針は、「失敗の根本原理を見直さないまま、穴を取り繕おうとしている」というだけの弥縫策だ。こんなことでは本質的な解決はできない。
 では、本質的な解決とは? それは、こうだ。
 「病床に補助金を出す、という施設優先の方針を廃止する」
 何でもかんでも施設に金を出そうという自民党的な公共事業の発想をやめるべきだ。かわりに、サービスに金を出すという本質的な発想を取るべきだ。つまり、こうだ。
 「コロナ患者を受け入れた病院に対して、受け入れた患者数に応じた診療費を払う」
 つまり、普通の健保と同じことをやればいい。何ら奇をてらう必要はないのだ。医療に対して医療保険の金を払うという、ごく当たり前のことをやればいいのだ。そうすれば、その金によって、病床を維持することもできるし、医療人員を維持することもできる。当たり前のことを当り前にやるだけでいい。医療の常識に従うだけでいいのだ。

 なのに、今回のコロナ対策では、そうしなかった。「医療に金を出す」という方針を取らずに、「施設に金を出す」という異常な方針を取った。そこで、その異常な方針に従って、「施設をそろえるが、人員はそろえない」という結果になった。これは、起こるべくして起こった結果だ。

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 先にも述べたように、資源の最適配分をするには、市場原理に従うのが最善だ。それで自動的に最適配分がなされる。なのに現実には、政府が余計なことをして、「施設にだけ金を出す」という異常なことをやり出した。だから、その異常な制度設計に従って、「施設だけが増える」(空きベッドばかりが増える)という異常な現実が生じた。
 政府自身が阻害物となって、正常な資源配分を邪魔していたのである。そこに気づかないで、「どうしたらいいんだろう? うまく行かない原因はどこにあるんだろう? 犯人は誰だろう?」なんて考えているから、いつまでたっても真相に気づかないのだ。「犯人は自分自身だ」という真相に。

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 さて。以上を踏まえた上で、具体的な対処は、どうすればいいだろうか? 
 政府は「大規模な病院に医療人員を派遣したいが、それがうまく行かない」と悩んでいる。だが、ここでは、その問題の立て方自体が誤っている。大規模な病院に人員を派遣するのが正解ではない。正しい流れを作るのが正解ではない。「水は低きに(自動的に)流れる」という制度を設計することが必要だ。それは、こうだ。
 「人員の不足している病院に、医療人員が一時的に流れ込むように、流れを良くする制度を作ればいい」
 
 現状では、この流れが詰まっているので、この流れをよくするように、政府が阻害物を除去すればいいわけだ。具体的には、こうだ。
  ・ 基本的には、短期の職場異動を促す。
  ・ コロナ病院では、一時的な高給で人員を釣る。
  ・ 派遣元病院では、一時的な人員削減を受け入れる。


 細かく説明しよう。

 (1) 短期の職場異動

 コロナの職場異動は、短期的な職場異動だ。パンデミックのときだけ(1〜3カ月だけ)、職場を異動して、それが過ぎたら、元の職場に戻る。そいうことを原則として、そのための制度設計をする。
 特に大切なのは、「継続的な職場異動ではない」ということだ。明白な転職ではなく、あくまで短期的な職場異動だ。それを前提として、普通の転職とは別の制度設計をする必要がある。
 ただし移動はあくまでも、医療従事者本人の自発的意思によるべきだ。その点では、普通の転職と同様な自発性に従うべきだ。

 (2) 一時的な高給

 病床でなくサービスに対価が支払われるようになれば、サービスを増やすために、医療人員を高給で釣ることが進むだろう。
 たとえば、空きベッドがあれば、空きベッドの維持費だけが莫大にかかって、収入はゼロになる。こうなると病院は大損だから、必死で医療人員を掻き集める。そのために、現状の数倍の高給を払うようになるだろう。それでいいのだ。
 こうして市場原理に従って、自動的に空きベッドは解消する。空きベッドを優遇する現行制度とは逆に、空きベッドを冷遇する制度となるからだ。正しい制度設計をすれば、自動的に問題は解消する。

 (3) 派遣元病院

 派遣元病院では、看護師や医師がいなくなって、一時的に困ったことになりそうだ。だが、大丈夫。コロナの流行期には、普通の病院では患者が激減する。看護師や医師がいなくなっても、困ったことにはならないのだ。むしろ、遊休している人員への人件費の支払いがなくなるから、病院としては、かえってお得だ。(赤字が発生しないで済む。)
 その点を説明すれば、問題はなくなるだろう。(ただの休職扱いで済む。)
 ただ、社会保険料の会社負担分などの問題はあるかもしれないので、派遣元病院にも、何らかの補助金を出すというのも、悪いことではなさそうだ。
 
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 以上のように細かな調整をすることで、制度は具体的にうまく働くようになるだろう。そして、その本質は、「物事を根源的に考える」ということだ。

posted by 管理人 at 10:18 | Comment(0) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
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