2022年10月23日

◆ 敵基地攻撃能力の評価

 敵基地攻撃能力(反撃能力)の特集記事があった。それを紹介して、あらためて考察する。

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 朝日新聞で、敵基地攻撃能力(反撃能力)の特集記事があった。
  → 日本の防衛「盾」から「矛」へ? 米との役割分担、変化の兆し:朝日新聞
  → 迎撃「困難」、攻撃能力踏み込む 北朝鮮・中国、高度化するミサイル:朝日新聞
  → 日米が上空に向けたミサイル砲身 敵基地攻撃能力が変える「矛と盾」:朝日新聞
  → 敵基地攻撃能力、保有の是非は 「中国に認識させれば抑止力に」:朝日新聞
  → 半世紀で変わった敵基地攻撃の「前提」 いま問われる9条の歯止め:朝日新聞

 詳しくは各記事を読んでもらうこととして、要点を列挙すれば、次の通り。
  ・ 北朝鮮のミサイルが高度化している。もはや日本は迎撃が困難だ。
  ・ そこでミサイル迎撃のかわりに、敵基地攻撃能力が必要だ。
  ・ 既存のミサイルは射程が短くて、北朝鮮に届くには足りない。
  ・ そこでミサイルの射程を長距離化する。射程 1千キロ超へ。(記事
  ・ 事後的に反撃して敵を殲滅する能力こそが抑止力だ、という見解も。
  ・ だが、中国を殲滅することなど不可能だ、という反論も。
  ・ 米国ならば中国を殲滅することも可能なので、その一翼は担える。


 いろいろと話がとっちらかっている感じだ。結果的にはどういう対処策をとるべきかは、わからない感じだ。まとまりが付かないまま、とりあえずあれこれと攻撃力を高めよう、という方針らしい。記事タイトルでは「盾よりも矛を」というふうに表現している。(防御よりも攻撃を、という意味。)
 しかしながら、攻撃力を高めるにしても、それも中途半端なものであるにすぎない。日本がいくらミサイルをたくさん配備したところで、それで北朝鮮のミサイルを止めることなどはできない。ミサイルが発射される前に全弾を破壊するということなど、とうてい不可能だ。「敵基地攻撃能力で防衛力を高める」というような方針は、妄想または画餅の域を超えない。
 では一体、日本を守るためには、どうしたらいいのか? また、北朝鮮だけでなく中国からも攻撃を受ける危険があるが、その攻撃を止めるために、敵基地攻撃力など役立つと言えるのか? どうも無理っぽいが。
 結局、記事では、どうしたらいいのかわからないまま、あれこれ列挙したあげく、「あれも駄目、これも駄目」という結論になって、どうにも判断が付かないこととなった。何をしたらいいのかよくわからないまま、とにかく「防御は無理だから攻撃力だけを高めよう」というふうに、オタオタしているだけだ。
 まったくもって、ひどい状況だ。困った。どうする?

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 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。以下の通り。

 (1) 北朝鮮1

 北朝鮮からの先制攻撃などはありえない。だから北朝鮮の先制攻撃を心配する必要はまったくない。この件は先に述べた通り。
  → 北朝鮮のミサイルは怖くない: Open ブログ

 (2) 北朝鮮2

 なぜ北朝鮮からの先制攻撃がないか? もし北朝鮮が先制攻撃をしたなら、米軍と韓国軍が反撃して殲滅するからである。(前述の通り。)
 したがって北朝鮮からの先制攻撃を抑止するためには、日本による敵基地攻撃能力などは無意味であり、米軍と韓国軍による殲滅(航空機と戦車による侵略と占領)こそが有効となる。
 だが、このこと(侵略と占領)は、日本は憲法上の理由で関与できない。だから、このことについては日本は何もできない。
 もし何らかの関与をしたいのであれば、日本の航空機と戦車を、韓国と米国に供与する条約を、あらかじめ結んでおくといい。そうすれば、日本の武器で、北朝鮮を侵略・占領することが可能となるので、これが先制攻撃への抑止力として働く。

 (3) 中国1

 中国とはどうか? 中国と戦争をすることはありえそうか?
 いや、中国との二国間戦争はありえない。もし戦争が起これば、日米安保によって米国が自動的に参戦するので、米国と中国との戦争に発展する。
 そして、その場合には、米中有戦争において、日本は補助的役割をするだけで済む。日本が単独であれこれと悩む必要はない。すべては米国の意向しだいとなる。
 そもそも、中国に対して敵基地攻撃能力をもつとしたら、射程 2000km のミサイルを開発することが必要だ。それは、射程 1000km のミサイルを開発中の日本には、まだまだ先の話であり、今のところは議論をしても無意味だ。ありもしない兵器を配備しようとしても、意味がない。
 なお、中国との間では、射程 1000km のミサイルでも、上海ぐらいには届く。しかし、上海だけを破壊しても、そんなことにはほとんど意味はない。
 というか、ミサイルというのは、戦争ではあまり大きな意味を持たないのだ。ミサイルというのは、とても高価なので、それで破壊するべき対象は、戦艦や弾薬庫のような、大きくて高価な目標に限られる。ロシアみたいに民間ビルを破壊しても、何の意味もない。(自分の貴重な武器を損耗することの弊害の方が大きい。)
 中国との戦いでは、敵基地攻撃能力としてのミサイルを持つことなど、ほとんど意味はないと言える。どうせなら、F-35 の大量配備でもする方が、はるかにまともだと言える。(中国の航空戦力は優秀なので、F-35 の大量配備は十分に有効だ。北朝鮮との戦いでは、F-35 があっても、宝の持ち腐れになるだけだが、中国が相手なら、F-35 はとても有効だ。ミサイルなんかを用意するより、ずっとマシだ。)

 (4) 中国2

 実を言うと、北朝鮮が先制攻撃をすることがありえないように、中国が先制攻撃をすることもありえない。なぜなら、中国の産業は、その基盤を日本が支えているからだ。中国は、半導体産業や EV 産業が盛んだとはいえ、その生産財となる基本物資を自国では生産できていない。基本的な化学材料を生産することもできていない。このことは、次の広告からもわかる。


chemi-gass.jpg


 本日の朝日新聞に、化学産業の会社の全面広告がある。いくつかの会社がスペースを分担して、展示会のような広告を掲載している。そのうちの一つが、上記の広告だ。
 ここで示されているように、情報機器の生産のための基本的な生産物資を、日本企業が生産している。上記以外でも、たとえばシリコンウエハーは、日本企業が世界1位と2位を占めており、両社で世界シェアの 53% を占めている。
  → シリコンウエハ業界の世界市場シェアの分析 | ディールラボ
 こういう状況で、中国が日本と戦争をしたら、これらの生産物資をすべて輸入できなくなり、中国の半導体産業が壊滅してしまう。それは自分で自分の頭に銃弾を撃ち込むような自殺行為だ。そんな馬鹿なことをするはずがない。
 それでも、万一の場合(中国の発狂)に備えたい……というのであれば、話は別となる。(下記)

 (5) 結論

 結局、どうすればいいか? 現実には、北朝鮮も中国も日本を先制攻撃してくる可能性は皆無に等しい。(いずれも自殺行為だからだ。)それでも万一の場合に備えたいというのであれば、どうするべきか?
 原理的には、防衛力を高めるために、軍事力全般を向上させればいい。とはいえ、そのための費用は限られている。GDP 比で防衛費を倍増にすることなど、とうてい無理だ。困った。どうする?
 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「費用負担を挙げずに、軍事力を上げるとすれば、そのための方針はただ一つ。コスパの向上だ」
 つまり、コスパのいい軍事力向上をすればいい。

 ただし、実は、この方針は本サイトの独自見解ではない。前に財務省が提案したことがある。
  → 財務省の提案
 ただしこれは、「防衛力削減をめざすものだ」と誤解されて、軍事オタクから罵声を浴びた。
  → 「戦車よりジャベリンがコスパ高める」財務省、防衛省に指摘するも大炎上
 しかしこれは軍事オタクの誤解にすぎない。財務省は単に「コスパを良くしろ」というふうに述べてるだけなのだが、それを「防衛費削減」と誤解・誤読されただけなのだ。この件は前に解説した。
  → 防衛力増強に反対するオタク: Open ブログ

 ──

 では、コスパを上げるには、具体的にはどうすればいいか? 次の三つだ。

 第1に、コスパの悪い兵器は採用しない。具体的には、オスプレイや陸上イージスは、コスパがひどく悪い(ろくに軍事的効果がないのに莫大な金食うという無駄の極みである)ので、こういう駄目兵器は採用しない。

 第2に、なるべくコスパの良い兵器を採用する。(当り前だ。)この点では、航空機の導入が有力だが、F-35 の導入や、日英共同開発の次期戦闘機などは、順調になされている。一方で、無人機(ドローン)の開発は、大幅に遅れている。イランよりも圧倒的に劣っている状況だ。ここに着目して、この分野の開発を急ぐべきなのだが、防衛省はまともに考えていない。お馬鹿さんだね。


中国のドローン
china-drone.jpg
出典:読売新聞



 第3に、「一点重視主義」を取らずに、小物もきちんと購入する。たとえば、「銃を購入するが弾薬を買わない」というような馬鹿げた方針を捨てる。「そんな馬鹿なことはしないだろ」と思うだろうが、現実には、そういう馬鹿げた方針が横行している。この件は、下記記事が参考になる。
  → 防衛費5兆円増でも…自衛隊員から「財務省に殺される」という悲鳴が上がる現実 | デイリー新潮
 この記事ではどういうわけか、馬鹿げた方針の責任を財務省に押しつけているが、それは責任転嫁というものだろう。ちゃんと弾薬の予算請求をしないで、オスプレイのような目立つ大型兵器ばかりを予算請求していたのは、当の防衛省だ。責任を財務省に押しつけて悪口を言うのは、お門違いというものだ。
 なお、同種の話は、他にもある。
  → 陸自隊員の銃装備が「お寒い限り」と断言できる訳 | 東洋経済
 ただ、この件では、いくらか改善の方針が取られている。
  → 自衛隊の火薬量産へ 国が工場建設、弾薬不足に備え: 日本経済新聞
 一方で、医療用の携行救急品という点では、ひどい状況であるそうだ。
  → 戦傷者は「想定外」という、自衛隊の平和ボケ | 東洋経済
  → 自衛官の「命の値段」は、米軍用犬以下なのか | 東洋経済
 ロシアでは(戦争で備品を使い果たしたせいで)兵士の備品が貧弱すぎる、と話題になった。だが、日本の自衛隊は、戦争で備品を使い果たしたわけでもないのに、すでに備品が貧弱になっているわけだ。(最初からだ。)……これではまともに戦争もできないだろう。日本の自衛隊は、最初から今のロシア軍のように「備品不足」に陥っているのである。「銃はあっても弾丸はない」「戦闘機はあっても格納庫がない」というふうに。
 どうも日本の自衛隊の備品は、米国から購入して米国の軍事産業を振興することが目的であるらしくて、購入した兵器が実際に稼働できるかどうかは考慮されていない(というか無視されている)という状況であるようだ。
 こういう馬鹿げた状況であるから、財務省は「コスパを考えろ」と指摘しているのだが、それを「防衛費の削減を要求している」と誤読して、財務省の指摘に反発して、相も変わらずコスパの悪い無駄兵器ばかりを使っているのが、日本の自衛隊だ。(軍事オタクもそれを支持している。)
 まったく、頭の悪い馬鹿というのは、どうしようもない。「日本の軍事力を高めよう」という善意ゆえに、かえって日本の軍事力を弱体化する。愚か者というのは、そういうものだ。数字の計算がまともにできないのだろう。軍オタというものはそういうものなのだろうがね。



 【 追記 】
 すぐ上に述べたこと(第3に、「一点重視主義」を取らずに、小物もきちんと購入する)について、参考となる情報がある。2022-10-26 の記事。
 《 防衛装備品、維持費が購入費の最大5倍弱 コスト管理甘く運用支障も 》
 防衛省が指定する航空機などの重点装備品の費用を朝日新聞が調べたところ、16品目中12品目で廃棄前までにかかる維持費が購入費を上回り、最新鋭機では最大5倍近くにのぼっていた。
 現場では膨らむ維持費の予算を十分に確保できず、同じ装備品から部品を取り出して使い回すなど、急場をしのぐ事例も出ている。
 新たな購入ばかりに目がいくと、その後にかかる維持費に対応できず運用に支障をきたす恐れがある。
 膨らむコストに予算が追いつかず、一部の航空機では部品不足が深刻となっている。同じ装備品から特定の部品を取り出して使い回す「共食い」整備が常態化。防衛省関係者によると、未稼働の装備品のうち、5割ほどが修理に必要な部品や予算がないことが原因だという。
 財務省幹部は、住宅購入にたとえて、防衛装備品をこう表現する。「3千万円の家を買うときに、維持費を入れると1億円かかるという感覚が必要だ。防衛省は新しい装備品をほしがりがちだが、防衛費には限りがある。購入後の維持費にもっと気を配るべきだ」
( → 朝日新聞

 本文中でも述べたが、本体購入費ばかりに目をとらわれて、維持費を無視しているのは、財務省ではなく、防衛省だ。そういう愚かな「一点豪華主義」を批判して、「コスパを考えろ」と指摘しているのが、財務省だ。
 財務省がせっかく日本の軍事力向上の方法を教えてくれている。なのに防衛省は、それを無視して、「最新兵器がほしいんだ。そのための維持費はどうでもいい」と考えながら、最新兵器をどんどん未稼働状態に追い込んでいるわけだ。ロシアも真っ青の間抜けぶりだ。戦争が始まれば、「動かない最新兵器」ばかりが山積みにされて、あっさり負けかねない。
 防衛省は、「今のロシアの負けっぷりは、現状の自衛隊の状況そのものだ」と思った方がいい。
 また、防衛省の言い分ばかりを信じて、財務省の方針を批判するような軍事オタクは、「自分はただの兵器マニアにすぎない。軍事力のことはどうでもいいし、戦争の勝敗もどうでもいい。単に兵器を楽しんでいればいいだけのオタクにすぎない」と自認するべきだ。(どこの誰のことかは言わないけどね。)



 [ 付記 ]
 財務省の提案 から、一部を抜粋しよう。参考のために。


zaimu-boei.gif




 [ 余談 ]
 「ドクターヘリの普及には、パイロットの養成が必要なので、自衛隊でパイロットを養成するといい。退職者を民間に斡旋してもいい」という話がある。国会質問。
  → 第183回国会 衆議院 予算委員会第一分科会-2号 | 公明党衆議院議員 古屋範子Website

 ※ 敵基地攻撃とは関係ない話だけどね。自衛隊の話ではある。
 


 【 関連項目 】
 自衛隊の馬鹿さ加減の典型は、「島嶼防衛」ばかりを念頭に置いていることだ。たとえば下記記事。
  → 【独自】海自潜水艦に 1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討 : 読売新聞

 しかし現実には、中国は島嶼部を攻撃することなど、ありえない。自衛隊が本土から島嶼部に出向いて、本州防衛が手抜きされた(お留守になった)あとで、本州を直接たたく。いわば陽動作戦だ。下記項目で詳しく解説した。
  → 済州島という盲点: Open ブログ

 これを読めば、自衛隊の間抜けぶりが、よくわかるだろう。「頭隠して尻隠さず」に似ているが、もっとひどい。陽動作戦にたぶらかされて、馬鹿丸出しになって、圧倒的な作戦負け。ほとんど笑い話のレベルだ。

 ※ そもそも日本の離島を奪って、日本と戦争をしたら、中国の半導体産業が崩壊する。だから、そんな戦争をすることなどはあり得ない。あり得るとしたら、離島だけでなく、日本全体を占領することだ。それならば、中国にもメリットはあるので、あり得なくもない。……心配するなら、そっちの方だろう。

posted by 管理人 at 23:22 | Comment(2) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 後半(最後よりはかなり前)に、 【 追記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2022年10月26日 10:02
 本項の「第3に」の話について、補強する情報が出た。以下、転載。

 ──

《 弾薬、部品不足が深刻化 防衛省、継戦能力に危機感 》

  防衛省が、ミサイルを含む弾薬や航空機などの部品不足に危機感を募らせている。
 岸田文雄首相は今月6日の衆院本会議で、「自衛隊の継戦能力、装備品の可動数は必ずしも十分ではない。十分な数量の弾薬の確保や装備品の可動数の増加が重要だ」と認めた。
 防衛省は21日、ミサイル防衛(MD)で使う迎撃ミサイルの保有数が必要と試算する数量の約6割しか確保できていないと公表。
 同省幹部は「新しい装備品の購入を優先し、弾薬などの手当ては後手後手だった」と認める。
 航空機などの部品不足も深刻だ。可動しない機体から部品を取り外し、他の機体に転用する「共食い整備」が行われており、2021年度は約3400件に上る。
 自民党の国防族からは「計画的な予算配分を怠ってきた防衛省の責任は大きい」と厳しい指摘も出ている。 
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2022103000271
Posted by 管理人 at 2022年10月31日 11:12
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